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Entry 2020/03/08
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映画『君の誕生日』感想レビューと評価。韓国セウォル号沈没事件で大切な人を失った家族の歩み|OAFF大阪アジアン映画祭2020見聞録1

  • Writer :
  • 黒井猫

第15回大阪アジアン映画祭上映作品『君の誕生日』

2014年4月16日、セウォル号沈没事件──残された私たちが迎える、君がいない、君の“誕生日”。

大阪アジアン映画祭の特集企画《祝・韓国映画101周年:社会史の光と影を記録する》にて上映された韓国映画『君の誕生日』。セウォル号沈没事件で大切な人を失った家族の喪失感と歩みを正面から描いた作品です。

イ・ジョンオン監督の長編デビュー作であり、日本でもシネマート新宿、シネマート心斎橋ほかにて2020年11月27日(金)より全国順次ロードショーが決まっています。

【連載コラム】『OAFF大阪アジアン映画祭2020見聞録』記事一覧はこちら

映画『君の誕生日』の作品情報


(C) 2019 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & NOWFILM & REDPETER FILM & PINEHOUSEFILM. All Rights Reserved.

【日本公開】
2020年(韓国映画)

【原題】
Birthday

【脚本・監督】
イ・ジョンオン

【キャスト】
ソル・ギョング、チョン・ドヨン、キム・ボミン、ユン・チャニョン、キム・スジン、イ・ボンリョン

【作品概要】
イ・ジョンオン監督の長編デビュー作『君の誕生日』は、監督自身がボランティア活動を通じて、長い期間、遺族と接する中で生まれた作品です。忘れられない傷を持つ全ての心に寄り添う、慰めと共感、記憶を紡ぐ感動作となっています。

『ペパーミント・キャンディー』『オアシス』のソル・ギョングと『シークレット・サンシャイン』『ハウスメイド』のチョン・ドヨンという韓国映画界を代表する演技派の2人が、『私にも妻がいたらいいのに』以来18年ぶりに共演し、夫婦役を演じています。

脚本は本作で監督も務めたイ・ジョンオン、撮影はチョ・ヨンギュ、編集はシン・ミンギョン、音楽はイ・ジェジンが務めています。

イ・ジョンオン監督プロフィール

『ペパーミント・キャンディー』『オアシス』『シークレット・サンシャイン』をはじめ世界の映画界を魅了する巨匠イ・チャンドン監督のもとで演出部として経験を積んだ新鋭イ・ジョンオン監督。監督自身がボランティア活動を通じて長い期間、遺族と接する中で生まれた本作は韓国全土が悲しみに包まれた2014年4月16日、修学旅行中の高校生ら300人以上が犠牲となったセウォル号沈没事故を初めて正面から取り上げた作品です。

映画の持つ強い力を信じる映画人として、数々の短編作品で細やかな演出を行い、『春』ではドイツ内の最も権威のある映画祭ハンブルグ国際短編映画祭に招かれています。本作がイ・ジョンオン監督の長編デビュー作となります。

映画『君の誕生日』のあらすじ

2014年4月16日、セウォル号沈没事件が起こります。この世を先に去った息子スホへの恋しさを抱きながら生きる父ジョンイル(ソル・ギョング)と母スンナム(チョン・ドヨン)。

やがて、1年にたった1日だけのスホの誕生日が近づいてきます。スンナムは主役不在の誕生日は息子がいない現実を認めるようで怖くてたまりません。一方、ある事情により息子が亡くなった日に父親としての役目を果たせなかったジョンイルは、家族に対して罪悪感を抱えたまま、あの日から2年後に韓国に戻ってきます。

彼にとって全てが見慣れない現実の中、家族と一緒にスホの誕生日を迎えますが……。

映画『君の誕生日』の感想と評価


(C) 2019 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & NOWFILM & REDPETER FILM & PINEHOUSEFILM. All Rights Reserved.

大きな悲しみを受け止めるための“共感・共有”

映画『君の誕生日』は事故や災害により大切な人を失った家族を描いた作品であると同時に、一縷の光を与え、救いの手を差し伸べてくれる作品でした。

セウォル号沈没事件とは、2014年4月16日に大韓民国の大型旅客船「セウォル」が全羅南道珍島郡の観梅島沖海上で転覆・沈没した事故です。事故時のセウォルには修学旅行中の檀園高等学校の生徒325人と引率の教員14人のほか、一般客108人、乗務員29人の計476人が乗船しており、乗員・乗客の死者299人、行方不明者5人、捜索作業員の死者8人というその凄惨さは今もなお人々の心を苦しめています。

その事故で息子を失った夫婦を本作では描いています。本作の登場人物の父ジョンイルは海外で働いていたため、息子スホがこの世を去った日に家族のそばにいられなかったことを後悔している一方で、前に進もうとしています。しかし、母スンナムはスホの死を受け入れることができず、その事実から逃避するため一日中仕事を入れ、考えないようにしています。戻ってきたジョンイルのせいではないと分かっていても訳もなく悔しくてなかなか心を開くことができませんでした。

イ・ジョンオン監督はそんな二人の姿を、感情が昂りそれが発露される場面ではハンディカムを用いて観客の感情を登場人物に共感させるように撮影。さらに“ある物”を通じてスホの存在を明示することで、夫婦二人が事件の傷を受け入れ、前へ進めるように物語を描いていきます。それは、監督からの「閉じこもるのではなく事件を受け入れて進まなければならない」「大人であっても声を上げて泣いてもいいんだよ」という励ましのメッセージに聞こえました。

また、この映画では“共感・共有”ということが一つのキーワードになっています。一つの大きな悲しみを一人で受け止めるのではなく、様々な人と共有することが大切だと教えられました。本作は韓国で起こったセウォル号沈没事件を物語の背景として描いていますが、震災や災害・事故など、突然の理不尽により大切な人を失ったすべての方々にこそ観て欲しい作品でした。そしてこの作品が傷を癒すためのきっかけになれば幸いです。

演技派二人の共演

(C) 2019 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & NOWFILM & REDPETER FILM & PINEHOUSEFILM. All Rights Reserved.

芸術的な作品から娯楽作品において幅広い役柄をこなし、役によって徹底的な体作りをすることから「カメレオン俳優」と呼ばれ、大韓民国映画大賞・最優秀主演男優賞や大鐘賞映画祭・主演男優賞を受賞しているソル・ギョング。カンヌ国際映画祭女優賞や大韓民国映画大賞女優主演賞、青龍映画賞で女優主演賞をはじめとする数々の映画賞を受賞し、演技派として知られているチョン・ドヨン。数多くの映画賞を受賞している演技派の両者が本作でも素晴らしい演技を披露しています。

ソル・ギョングは家族に対する申し訳ない気持ちと切なさが共存する父親の複雑な心境を感性豊かに繊細な演技で完璧に表現し、観客の深い共感を得るものになっていましたし、そしてチョン・ドヨンは母親役を誰もが認める熱い感性で演じ、観客の心を揺さぶるものになっていました。

特にソル・ギョングの空港での場面、何気ない日常での一コマに娘・イェソルに見せる笑顔など、自然ながらも決めるところは決める演技。チョン・ドヨンの喪失感からくる空虚な顔や泣き顔など、どこか危ういながらもイェソルのためしっかりしなきゃという母親の演技。大事な子供を亡くした喪失感と切ない愛を抱きながら生きる遺族の姿を演じた両者には、目が釘付けになりました。

そんな両者の素晴らしい演技により、本作は重く辛く、苦しいテーマながら、最後の彼らの温かい涙と前へ進む希望に心救われ、観賞後は心晴れる気持ちになりました。

まとめ

(C) 2019 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & NOWFILM & REDPETER FILM & PINEHOUSEFILM. All Rights Reserved.

イ・ジョンオン監督がボランティア活動を通じて、遺族と接する中でセウォル号沈没事件で大切な人を失った家族の喪失感と歩みを正面から描いた映画『君の誕生日』は、重いテーマながら、観賞後は前へ進むための勇気と希望を与えてくれるそんな感動作です。

大切な人を失うということは想像を絶する苦しみですが、それでも前へ進まなければならないと、手を差し伸べてくれます。本作を鑑賞することで、少しでも多くの人が未来へと前向きに歩むためのきっかけになって欲しいと思わせてくれる作品でした。

韓国映画『君の誕生日』は2020年11月27日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほかにて全国順次ロードショーされます。

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