第32回東京国際映画祭・アジアの未来『存在するもの』
2019年にて32回目を迎える東京国際映画祭。令和初となる本映画祭が2019年10月28日(月)に開会され、11月5日(火)までの10日間をかけて開催されました。
「CROSSCUT ASIA」は、アジアの国、監督、テーマなど、さまざまな切り口でアジアの現在(いま)を鋭く切り取った特集上映を行っており、TIFFの一部門として2014年に開催されてから今回で第六回となります。
その一本として、フィリピンのエリック・マッティ監督によるホラー映画『存在するもの』が上映されました。
会場ではレッドカーペットにてエリック監督と、主演を務めたシャロン・クネタが登場しました。
映画『存在するもの』の作品情報
【上映】
2019年(フィリピン映画)
【英題】
The Entity
【監督】
エリック・マッティ
【キャスト】
シャロン・クネタ、ジョン・アルシラ、ケント・ゴンザレス
【作品概要】
一人の男子大学生が実家の妹が急死した知らせを受け帰郷、そこで明らかにされるショッキングな事実の連続を、ホラーテイスト満載で描きます。
本作で監督を務めたエリック・マッティは、犯罪アクションから変身コメディまで幅広い題材をこなすマルチな才能の持ち主ですが、今作では本格ホラーを披露しています。
また、主人公ルイスの母レベッカ役を務めたシャロン・クネタは、フィリピンを代表する人気歌手・女優で、87年に公開された代表作『少女ルーベ』は、日本でも発表されています。
エリック・マッティ監督のプロフィール
1970年生まれ、フィリピン出身。脚本家、映画監督以外にも多彩なキャリアを積み重ねており、俳優や演技指導コーチ、プロデューサーとしても活動しています。
2003年にReality Entertainmentを共同設立し『牢獄処刑人』『汝の父を敬え』『Seclution』などを製作。数多くの国際映画祭で上映されるなど、高い評価を得ています。また、TIFF 05では『スパイダーボーイ ゴキブリンの逆襲』を発表、多くの注目を集めました。
映画『存在するもの』のあらすじ
1985年の夏。実家から離れ大学の寮で暮らす大学生のルイスは、ある朝双子の妹マヌエラと対面します。突然の訪問を不思議に思っていたルイスですが、次の瞬間マヌエラはルイスの目の前から姿を消します。
さらに続けて、実家からの連絡が。さっきまで目の前にいたはずのマヌエラが、死んだという知らせがルイスのもとに届きました。
そして何年振りかの帰郷を果たしますが、マヌエラの死の理由を一向に明かそうとしない父と母にルイスは業を煮やし、自分でその真相を探り始めます。
常に母を蔑む父、その嫌がらせに耐えながら生きている母。そんな不穏な二人の周辺でルイス、マヌエラを取り巻く血塗られた衝撃の過去が、徐々に明らかになっていくのだが…。
映画『存在するもの』の感想と評価
本作では映画冒頭からルイスの妹マヌエラの幽霊とおぼしき存在が現れ、不穏な空気をかき立てていきます。ところがこの作品のショッキングな部分は、謎をはらんでいたルイス自身のエピソードが明らかになっていくところにあります。
そのポイントはどれも「大どんでん返し」。あまりにも突然にそのタイミングが続けてくるため、観る側としては混乱するかもしれません。
マヌエラの登場シーンに見られる怖さの演出や、さまざまに登場する残虐な拷問シーンなどのエンタテインメント性を見せる一方で、その「大どんでん返し」には、例えばフィリピンという国で問題とされる性、人権というテーマが描かれているようでもあります。特筆すべきは、それが家族という構成の中でポイントを描いていることです。
人権、性差別というと、多くは家族以外との関係の中で語られることが多いですが、この作品ではまた違った点での描写ともなっており、国の習慣や性質を表しているようです。
ホラー、スリラー要素がたっぷり楽しめる一方で、作品はフィリピンという国の今の姿に、非常に注目せざるを得なくなる雰囲気を醸しています。
まとめ
本作『存在するもの』は近年の作品と比べると、画質を落とした格好で制作されています。
その雰囲気がまたこの映画のホラー的要素と合致し、不穏な空気を倍増しており、同じく『CROSSCUT ASIA』部門に出品されている「フォークロアシリーズ『TATAMI』」と、共通した雰囲気が感じられます。
また両作品は、過去に置き去りにされた主人公の血塗られた記憶が明らかになっていく、という物語の過程も、大まかには共通しているところがあります。
ディテールを比較すると国の違いやキャラクターのディテール、そのエピソードなどさまざまに違いがありますが、その共通する部分や逆に異なる点など、非常に興味深いポイントを多く感じます。
もちろんホラー、サスペンス作品としての完成度の高さを評価できるものであることは、間違いありません。