第32回東京国際映画祭・特別招待作品『男はつらいよ お帰り 寅さん』
2019年にて32回目を迎える東京国際映画祭。令和初となる本映画祭がついに2019年10月28日(月)に開会され、11月5日(火)までの10日間をかけて開催されます。
そして本映画祭のオープンニング上映を飾ったのが、日本ならず世界においても高い人気と知名度を誇る「男はつらいよ」シリーズの22年ぶりとなる新作『男はつらいよ お帰り 寅さん』です。
本記事では作品情報やあらすじ、映画に対する感想はもちろん、山田洋次監督、倍賞千恵子らキャスト陣が登壇した10月28日・東京国際映画祭レッドカーペットでの様子もご紹介させていただきます。
CONTENTS
映画『男はつらいよ お帰り 寅さん』の作品情報
映画『男はつらいよ お帰り 寅さん』は12月27日(金)より全国ロードショー!
【上映】
2019年(日本映画)
【監督・原作】
山田洋次
【脚本】
山田洋次、朝原雄三
【主題歌】
渥美清『男はつらいよ』
【オープニング】
桑田佳祐
【キャスト】
渥美清、倍賞千恵子、吉岡秀隆、後藤久美子、前田吟、池脇千鶴、夏木マリ、浅丘ルリ子
【作品概要】
ギネスブックにも認定されている超長寿映画シリーズ22年ぶりの新作・50作目にして、シリーズ誕生50周年記念作品。
新規に撮影された登場人物たちの「今」を描く映像と、4Kデジタル技術によって修復された歴代「男はつらいよ」シリーズの映像を融合することで生み出された、新たなる『男はつらいよ』です。
キャストには吉岡秀隆、倍賞千恵子、前田吟といったお馴染みのレギュラー陣に加えて、シリーズ後期に登場した後藤久美子が23年ぶりに女優復帰。また歴代マドンナとして浅丘ルリ子も出演しています。
またオープニングテーマを桑田佳祐が担当しているのも注目です。
映画『男はつらいよ お帰り 寅さん』のあらすじ
車寅次郎の甥、諏訪満男は50歳になっていました。かつてはサラリーマンをしていた満男ですが、今は小説家となっていました。中年になってから作家デビューでしたが、まずまずの評判を取っています。
私生活では6年前に妻を亡くし、今は中学生の娘ユリと二人暮らしをしています。
亡き妻の七回忌のために久しぶりに柴又に帰ってきた満男。両親の博やさくらからは「このまま独り身で行くのか」と聞かれてしまい、満男は少し気が重くなりました。
やがて担当編集者の高野に説得された満男はサイン会を催しますが、そこに思わぬ客が現れます。
それは満男の初恋の相手・イズミでした。彼女は満男と恋人関係になりましたが、両親との折り合いが悪く、ヨーロッパへ留学。そのまま海外で仕事を見つけて結婚し、母親となっていました。
国連難民高等弁務官事務所の職員として来日していたイズミは、思わぬ偶然の再会に喜びを隠せません。
サイン会を終えた満男は神保町のカフェバーにイズミを誘います。その店をマダムとして仕切っていたのは、寅さんの最高のパートナーだった“リリー”でした。
寅さんの旅に満男と共に付合ったこともあるイズミは、その旅の中でリリーとも会っていたため、思わぬ再会の連続に嬉しさを隠せません。
その後、成り行きで柴又にイズミを連れてゆく満男。そのままさくらや博とともに、楽しい宴の夜を過ごします。久々に賑やかな柴又の居間を見た満男は、在りし日の寅次郎がいた賑やかさを思い出すのでした。
この賑やかな宴の後、イズミは柴又に泊まることに。翌日には病気で施設に入っている父親のもとへ、イズミを送ることになりました。
イズミの世話を頼んだ満男は帰り際に、自分が妻を亡くして独身だということは内緒にしておいて欲しいと両親に釘を刺します。
翌日、施設に向かった満男とイズミ。イズミとはすでに関係が破綻している父母との間には気まずい空気が流れてしまいますが…。
映画『男はつらいよ お帰り 寅さん』の感想と評価
まず驚いたのが、この映画が“今の映画”になっていたことです。
もっとノスタルジックな映画なのかと思いきや、いい意味でこちらの気持ちの準備を裏切ってくれた。名匠・山田洋次監督の手腕を改めて堪能することができました。
彼は今年で88歳になる大ベテラン監督ですが、イーストウッドの活躍などにいまだに刺激を受けていると語るほど、現在も若々しさを内に秘めている人だと改めて感じました。
吉岡秀隆演じる満男が脱サラして小説家になっていたのには驚きましたが(吉岡にとっては『ALWAYS 三丁目の夕日』に続く作家役です)、呆れるほどロマンチストである寅さんの甥っ子の職業としてはピッタリといえます。
国連難民高等弁務官事務所の職員となって登場した後藤久美子演じるイズミの姿は、「今の後藤久美子」という女性のキャリアを活かした役どころで、キャスティングの巧みさも感じられます。
回想シーンとして挿入される過去作の映像パートも、映画の中の、そして現実世界の“本物の過去”であるだけに、抜群の説得力があります。
若き日の姿を見せる歴代マドンナの面々も華を添えます。中には2019年10月24日に逝去し、東京国際映画祭初日である10月28日には訃報が届いたばかりであった八千草薫の姿もあって、この映画の持つ歴史の重さ、奥の深さを実感させられました。
映画『男はつらいよ お帰り 寅さん』東京国際映画祭レッドカーペット
2019年10月28日に幕を開いた第32回東京国際映画祭。初日のレッドカーペットには「男はつらいよ」シリーズの生みの親にして本作を手がけた山田洋次監督をはじめ、倍賞千恵子、吉岡秀隆、前田吟、後藤久美子、夏木マリ、浅丘ルリ子という豪華キャスト陣が集結。
レッドカーペットに並び立った錚々たる顔ぶれには、「男はつらいよ」シリーズの50年という歴史を改めて思い知らされました。
また満男の初恋相手であるイズミ(泉)の母・礼子を演じた夏木マリの着物には、寅さんの「寅」の字が。そのさり気ないファンサービスには、思わず感動を覚えてしまいました。
まとめ
改めて、この映画はたとえ過去のシリーズ作品を見ていなくても充分に楽しめる、“今の映画”となっています。
もちろん浅丘ルリ子が演じる寅さんの最高パートナー“リリー”の登場シーンなどはシリーズファンへのプレゼントと言ってもいいですが、現代(新規撮影)パートの中にしっかりと意味がある形で組み込まれていて、突飛な出方という感覚はありません。
元々、2016年頃に山田監督が過去の49作品から吉岡秀隆・満男パートを抜き出して作った“粗編集版満男奮闘編”を作ったことから本作はスタートした言うことですが、この懐かしの映像という材料を基に、それを活かして繋げることのできる現代パート部分を作り出したというのですからお見事の一言です。
また、私が作品を観たときは外国の観客も多い環境で英語字幕付きという形でした。字幕だけでは伝えきれない情報も多くあるなかで、絶妙な間や表情だけで多くの笑いを誘ってみせ、この映画の普遍的な面白さを再認識させてくれる体験でした。