Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

森山未來映画『オルジャスの白い馬』あらすじと感想レビュー。海外初主演作はカザフスタンで描かれる父子の物語|TIFF2019リポート26

  • Writer :
  • 村松健太郎

第32回東京国際映画祭・特別招待作品『オルジャスの白い馬』

2019年にて通算32回目となる東京国際映画祭。

令和初の開催となった本映画祭は、2019年10月28日(月)に無事開会の日を迎え、11月5日(火)までの10日間をかけて国内外の様々な映画が上映されました。

そして本映画祭の特別招待作品の一本として上映されたのが、日本・カザフスタン合作によるヒューマンドラマ『オルジャスの白い馬』です。


(C)Cinemarche

第24回釜山国際映画祭のオープニング作品としてワールドプレミア上映を迎えた本作。

俳優・森山未來の初の海外主演作であり、『アイカ』でカンヌ国際映画祭最優秀主演女優賞を受賞したサマル・エスリャーモバとのW主演を務めました。

【連載コラム】『TIFF2019リポート』記事一覧はこちら

映画『オルジャスノ白い馬』の作品情報

映画『オルジャスの白い馬』は2020年1月18日(土)より、新宿シネマカリテほか全国ロードショー公開!


(C)「オルジャスの白い馬」製作委員会

【上映】
2019年(日本・カザフスタン合作)

【原題】
Horse Thieves

【監督・脚本】
竹葉リサ、エルラン・ヌルムハンベトフ

【出演】
森山未來、サマル・イェスリャーモワ、マディ・メナイダロフ、ドゥリガ・アクモルダ

【作品概要】
森山未來初の海外主演作となった日本・カザフスタン合作映画。

日本人監督の竹葉リサ、カザフスタン人監督のエルラン・ヌルムハンベトフが共同監督を務め、オールカザフスタンロケで制作されました。

また森山とともに主演を務めたのは、『アイカ』2018年にカンヌ国際映画祭最優秀主演女優賞を受賞したサマル・イェスリャーモワです。

キャストのプロフィール


(C)「オルジャスの白い馬」製作委員会

森山未來

映画・舞台において圧倒的な演技力をもって活躍し、同年代を代表する日本人俳優の一人。

2019年には、大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』にレギュラー出演。また本作が上映された第32回東京国際映画祭では、同じく特別招待作品として上映された『“隠れビッチ”やってました』にも出演しています。

さらにコンテンポラリー・ダンサーとしても知られています。

サマル・イェスリャーモワ

カザフスタン出身の女優。

2008年にセルゲイ・ドヴォルツェヴォイ監督作『トルパン』で映画デビュー。同作はカンヌ国際映画祭「ある視点」部門にグランプリを、第21回東京国際映画祭で東京サクラグランプリ・最優秀監督賞の二冠を獲得しました。

2018年には同じくドヴォルツェヴォイ監督の映画『アイカ』に出演。同作での演技が評価され、カンヌ国際映画祭では最優秀女優賞を受賞しました。

映画『オルジャスの白い馬』のあらすじ


(C)「オルジャスの白い馬」製作委員会

カザフスタンに暮らすオルジャス(マディ・メナイダロフ)は絵が得意な少年。カザフスタンの広大な草原の中に立つ小さな家で、家族とともに暮らしていました。

ある日、市場に馬を売り行った馬飼いの父親が悪徳業者に襲われ、馬を奪われただけでなく、父親もまた帰らぬ人となってしまいます。

オルジャスの母・アイグリ(サマル・イェスリャーモワ)は新たな土地へと引っ越し、心機一転を図ろうと試みます。

そんな時、オルジャスたちのもとにカイラート(森山未來)という男が訪ねてきます。

カイラートはアイグリの元恋人で、オルジャスの実の父親でした。

8年前に失踪したカイラートが突然姿を現したことに戸惑うアイグリでしたが、オルジャスに事情を一切話さないことを条件に、引っ越しの旅への同行を許します。

その道中、親子であることを決して明かすことなく、オルジャスと接するカイラート。それでも二人は、互いの絵を通じて自然と心を通わせ合います。

ところが、一行が乗っていた車が故障してしまい、カイラートは十数キロ先にある食堂に電話を借りに向かうことにします。するとオルジャスはカイラートについていきたいと言い出し、アイグリもそれを許します。

食堂にたどり着いた二人は電話で要件を済ませます。その時、店内に入ってきた男を見て、オルジャスの表情が一変します。

その男の腕には、オルジャスの父親と同じ腕時計がありました…。

映画『オルジャスの白い馬』の感想と評価


(C)「オルジャスの白い馬」製作委員会

森山未來初の海外主演作となった映画『オルジャスの白い馬』。彼の独特の存在感は、カザフスタンの大草原が舞台であっても見事に映えます。

2013年の『人類資金』でも国籍不明の人物・石優樹を無理なく演じて見せましたが、本作で演じたカイラートにもまた役どころ自体が異邦人的なキャラクターであるため、やはりその説得力ある演技と存在感は健在でした。

カンヌ映画祭の常連であり、東京国際映画祭にも縁が深い女優であるアイグリ役のサマル・イェスリャーモワも、その静けさをたたえた演技に思わず惹きつけられます。

幼いころは劇中のアイグリのように草原で暮らし、家事や農作業、馬の世話をした経験があるという彼女の佇まいは自然さに溢れています。

なにより、「父子の物語」である本作において重要な少年オルジャス役を演じたマディ・メナイダロフは、びっくりするほど森山未來にそっくり。深く語らずとも、一目で二人は父子だということが理解できます。

どのような経緯をもってキャスティングが決定されたのかは定かでないですが、「よくぞこの少年を見つけたきたものだ」と感心してしまいます。

まとめ

映画全体の作りについては、第32回東京国際映画祭のラインナップ発表時に「西部劇のようだ」という例えが用いられてましたが、確かに『シェーン』など往年の西武劇映画を彷彿とさせる部分があります。

舞台設定自体は「1990年代のカザフスタン」ですが、雄大な自然、馬飼いなど、劇中の背景には「ザ・西部劇」といえる雰囲気に満ちています。そしてクライマックスの馬上での銃撃シーンは、まさに西部劇映画の決闘シーンそのものです。

また釜山国際映画祭のオープニング作品としても上映された本作を機に、俳優・森山未來への国際的に注目されるのではないかと期待してしまいます。

コンテンポラリー・ダンサーとしてはすでに世界的な評価を受けており、身体能力・言語面でも順応できるであろう森山が、世界各地の映画界で活躍する姿が見られるのかもしれないと考えると、楽しみが拡がります。

【連載コラム】『TIFF2019リポート』記事一覧はこちら




関連記事

連載コラム

トリフォー監督代表作『アデルの恋の物語』実話考察。愛は私の宗教と自縄自縛、悲劇の女性の物語|偏愛洋画劇場5

連載コラム「偏愛洋画劇場」第5幕 映画には愛によって身を滅ぼしていく人々がたくさん登場しますが、今回は「愛は私の宗教」とまで言い切ったヒロインが登場する作品をご紹介します。 『大人は判ってくれない』( …

連載コラム

『Cosmetic DNA』キャストの川崎瑠奈さんについて【自主映画監督・大久保健也のニッポン頂上作戦8】

連載コラム『自主映画監督・大久保健也のニッポン頂上作戦』 第7回「『Cosmetic DNA』キャストの川崎瑠奈さんについて」 お世話になっております。『Cosmetic DNA』監督の大久保健也です …

連載コラム

映画『スタントウーマン』ネタバレ感想と考察解説。 ハリウッドの知られざるヒーローたちの“プロフェッショナルとプライド”|だからドキュメンタリー映画は面白い57

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第57回 今回取り上げるのは、2021年01月08日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国順次公開の『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーロ …

連載コラム

映画『怪談新耳袋Gメン 孤島編』心霊現象の怖いスポットをドキュメントした先に待つものは⁈|夏のホラー秘宝まつり:完全絶叫2019④

2019年8月23日(金)より、キネカ大森ほかで開催される「第6回夏のホラー秘宝まつり2019」。 「夏のホラー秘宝まつり」に欠かせない作品といえば、おじさんたちが心霊スポットに殴り込みをかける、ガチ …

連載コラム

【ネタバレ】エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス|あらすじ結末感想と考察評価。アカデミー賞主要部門にノミネートしたジャンルごちゃ混ぜムービー【SF恐怖映画という名の観覧車173】

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile173 『ヘレディタリー/継承』(2018)や『ミッドサマー』(2020)など、異色の映画を世に放ち続ける映画製作会社「A24」。 『エクス・マ …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学