SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019エントリー・真田幹也監督作品『ミドリムシの夢』が7月16日に上映
埼玉県・川口市にある映像拠点の一つ、SKIPシティにておこなわれるデジタルシネマの祭典が、2019年も開幕。今年で第16回を迎えました。
そこで上映された作品の一つが、真田幹也監督が手掛けた長編映画『ミドリムシの夢』。
街中の嫌われ者、通称「ミドリムシ」と呼ばれる駐車監視員にスポットを当て、駐車違反取り締まりの現場で起こるさまざまなハプニングを通して見えてくる人間模様を、コメディーテイストたっぷりに描いた作品です。
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映画『ミドリムシの夢』の作品情報
(c)2018「ミドリムシの夢」製作委員会 /(c)2019 SKIP CITY NTERNATIONAL D-Cinema FESTIVAL Committee.All right reserved.
【上映】
2019年(日本映画)
【英題】
Dream of Euglena
【監督】
真田幹也
【キャスト】
富士たくや、ほりかわひろき、今村美乃、吉本菜穂子、佐野和真、歌川椎子、長谷川朝晴、戸田昌宏
【作品概要】
ひたすら駐車違反の取り締まりをおこなう駐車監視員、通称「ミドリムシ」の日常を通して、さまざまに登場する人物それぞれの人間像を描いていくコメディー群像劇。
これまで20本にもおよぶ短編作品を手掛け、高い評価を受けてきた真田幹也監督が作品を手がけました。
仕事に誇りを持つ主人公・マコト役を『サッドティー』『水の声を聞く』に出演した富士たくやが担当。また、だらしないが憎めない相棒シゲ役を、『おっさん☆スケボー』で福岡インディペンデント映画祭2013の主演男優賞を受賞したほりかわひろきが演じます。
さらに佐野和真や長谷川朝晴、戸田昌宏ら実力派の俳優陣が脇を固めています。
真田幹也監督のプロフィール
(c)Cinemarche
演出家・蜷川幸雄氏の元で修行を積み、『バトル・ロワイアル』や『アウトレイジ』などに俳優として出演する一方で、06年文化庁委託事業「若手映画作家育成プロジェクト」に選出され、『Life Cycles』を監督しました。
以降、これまで20本におよぶ短編を手掛『キスナナ the Final』で高砂市観光協会長賞、『オオカミによろしく』でちちぶ映画祭2014グランプリを受賞と、高い評価を受けており、長編としては本作が初の作品となります。
映画『ミドリムシの夢』のあらすじ
(c)2018「ミドリムシの夢」製作委員会 /(c)2019 SKIP CITY NTERNATIONAL D-Cinema FESTIVAL Committee.All right reserved.
世に嫌われながらも、確固たる自分の意思を守るかの如く駐車違反の取り締まりをおこなう駐車監視員、通称「ミドリムシ」。
二人一組で行動する彼ら、その一組であるマコトとシゲの凸凹コンビは、今日も新宿の駐車事情を守るべく、取り締まりに邁進しておりました。
そんな彼らの行動とはよそに、ある日シンガーを夢見て上京した一人の男性が、その夢をあきらめて故郷に帰ることを決意していました。
また一方では、トップアイドルを目指し芸能界に飛び込んだものの、鳴かず飛ばずでヤクザの枕営業に手を染めようとする、一人の女性とマネージャー。
深夜勤務をおこなうこととなったマコトとシゲが、ある取り締まりをおこなったことをきっかけに遭遇、奇想天外な事件に巻き込まれていきます。
さらに意外なことに、アイドル志望の女性とマコトは知り合いであることが判明します。果たして彼らの運命やいかに!?
映画『ミドリムシの夢』の感想と評価
(c)2018「ミドリムシの夢」製作委員会 /(c)2019 SKIP CITY NTERNATIONAL D-Cinema FESTIVAL Committee.All right reserved.
「ミドリムシ」という言葉が、最も興味を引くこの作品。しかもタイトルは『ミドリムシの夢』であります。
街中で、まるで割り切ったような表情で駐車違反を取り締まり続ける駐車監視員の、普段の街中で見かける光景からは、「夢」という概念を想像しにくいのではないでしょうか。
そんなところから、見る側にとっては物語の展開により「彼らの夢とはなんだ」と、そのポイントを探し始めることでしょう。そこにこの映画の策略的な面白さがあります。
駐車監視員の二人がいる、一方ではこんな人も、そしてまた他方ではあんな人も、といった感じでさまざまに登場してくる人たち。
そんな彼らがとある事件をきっかけに遭遇、ハチャメチャな展開が巻き起こり、その結果走り出す。そしてときにはホロリとなるような瞬間を見せつつ、最後には見る人に希望を感じさせる。
結果的に『ミドリムシの夢』は、最後に語られる格好で明確に提示されるのですが、作品が示しているものはその“夢”自体よりも、夢を持つプロセスや夢自体の持ち方に対し提言をおこなっているようでもあります。
出演したキャスト陣はメジャー、インディペンデントとそれぞれフィールドを若干異にしながらも、プロ意識むき出しで真剣な演技を見せていることもうかがえます。
そんなキャスト陣をうまく動かした脚本のプロット、そして印象的なセリフの数々にこの作品の妙があるといえます。
吉本新喜劇を彷彿するようなハチャメチャなコメディーのシーンもあり、見る人は大いに笑わせられます。
しかしあくまで作品は映画であることを前提に作られたことを明確に提示しており、その意味で皆が“走る”シーンは、見ている側も走らされるような、不思議な高揚感を覚えさせてくれます。
また、あくまで笑いによって自身のメッセージを打ちだすことへのこだわりを感じさせる作風でもあり、その意味では明確な制作者自身のスタイルも感じられ、安心して作品を見ることができるでしょう。
雑多な印象とは裏腹に、非常に伝えたいポイントがしっかりと定まっているところに、作品の優れた点があるといえます。
上映後の監督とキャストのQ&A
16日の上演時には真田幹也監督と、マコト役を務めた富士たくやさん、シゲ役を務めたほりかわひろきさんが登壇、舞台挨拶をおこなうとともに、会場に訪れた観衆からのQ&Aに応じました。
(c)Cinemarche
──お三方は、以前からお知り合いだったのですか?
真田幹也監督:(以下、真田監督)僕とほりかわさんが結構前に一緒に舞台に立って、そのときから10年くらい。富士さんとは今回をきっかけに初めて知り合いました。でも一緒になにかをやろうと考えているうちに4年くらいが過ぎまして…
ほりかわひろき:(以下、ほりかわ)僕と富士さんは、真田さんより前に知り合っていて長いんですよ、飲み会で気が合ってね。でもこんな映画を一本一緒にできるなんて、嬉しいです。
(c)Cinemarche
──今回の作品作りはどういう経緯で、着手することになったのでしょうか?
真田監督:この二人と映画を作るということで、どんなことをやろうかと話し合っている中で「駐車禁止をとるおじさんたちがいいんじゃないか」というアイデアが出て、今回の映画ができました。
ほりかわ:いろいろバディものってあると思うんですけどね…警察ものとかあるんじゃないですか?そこを敢えて…(笑)
──演技に際してワークショップ、リハーサルなどはおこなわれたのでしょうか?
真田監督:今回は一切やっていないです。そこに割けるほどの予算もなかったので、演技については皆さんに考えてきてもらって、現場でそれを出してもらうことにしました。
皆さんはプロだということを信じていましたし、それぞれのいいところをちゃんとチョイスできれば、ある程度形にできるかと踏んではいました。
ほりかわ:ここだけの話、ここ(ほりかわと富士)二人はこっそり練習した(笑)。“これは二人で、真田さんには内緒でやらないとね”と言っていまして。
真田監督:まあ、二人はわりとセリフがたくさんあるので、やっていないとできないと思ったところはあって、お任せしていた感じではありました。
富士たくや:(以下、富士)そう、ほりかわさんの家でやりました。でも(ほりかわさんが)全然やりたがらないんですよ。一回台本を読んだくらいで(笑)
(c)Cinemarche
──真田監督のように、俳優をされている人が監督として作品を手掛けたいと思う理由は、どんなところにあるのでしょうか?またそんな監督を役者陣はどのように思いましたか?
真田監督:作品全部に責任感を持ったり、すべての芝居に対して責任を持つというところかと思います。それは本当に監督にならないとできないことだと思いますし。
富士:監督が俳優もやっているという意味では、真田監督の演出はやりやすいほうだったと思います。僕らと同じ立場で見てもらえたところもあるし。
ほりかわ:ただ僕は昔から(真田監督のことを)知っているから、怒られないようにはしようと考えていました(笑)。仲がいい分、“余裕だな”みたいなところを見せて臨んだら、怒られるだろうと思ったし。
真田監督:いや、でも真剣にやると面白くないんですよね(笑)。皆さんはお気づきかどうかわからないんですが、劇中に登場するアイドルのマネージャー役を担当していただいた長谷川(朝晴)さんに、駐禁を切るというシーンがあったんです。
実は彼らはここが撮影のファーストシーンだったんですが、リハーサルのときに、二人は圧倒的に長谷川さんに負けていて(笑)。だから二人を呼んで、最初だけ指導を入れた気がします(笑)。そこからはもう全然いい演技をしていただきましたが。
富士たくや(c)Cinemarche
──群像劇っぽいところがある中で、物語を最後に終焉させていく工夫は、どのようにされたのでしょうか?
真田監督:脚本を担当された太田さんは、普段はモーニング娘。の舞台なんかをやられている方で、わりとセリフで説明していることがものすごくあるんです。
だからそのセリフにマッチする場所を探すというところと、あと見ている人が言葉だけでなく画でも追えるということを考えていくというのが、ものすごく難しかったですね。それをまた最後に大団円に持っていく、というのも難しくて。
なので、大団円のときにどこに持っていくか、どこだったらそれが伝わるか、そしてプラス大人の事情で、それが撮れるか?というところにはかなり注意を払いました。それと撮影許可が下りるか、みたいなところで結構大変なこともありましたし。でもできる限りでのことをした中で、最高のものが撮れたと思っています。
──シーンの中では、新宿の真ん中での撮影や、夜のシーンが多かったりと、かなり撮影には結構苦労されたように思いますが、どんな苦労がありましたね?
富士:新宿であの衣装を着ていると、ものすごくたくさんの人に道を聞かれるんですよね(笑)
ほりかわ:あと撮影現場の時間が決まっているのに押して、大変でしたね、公園とか。撮影現場の管理人に怒られたりして(笑)。
真田監督:10日間の撮影期間に、3日くらいは朝を迎えましたね。
──劇中では、駐車違反取り締まりのトラブルを描いたシーンがいくつかありましたが、取り締まりに関しての取材はどのようにおこなわれたのでしょうか?
真田監督:シーンの細かい部分に関しては、太田さんがそこまでやられたかというのはわからないですが、ある程度お任せしていて、ある程度ネットなどで調べてもらった内容は入れ込んでいます。
ただ、駐禁を切る方々に夜番があるというのは取材で知ったんですが、特例地区だけあんな感じで夜をやっているところはあるみたいなんです。夜中で取り締まりというのはあまり見ないし、夜中に道を歩いているというのもそんなにないと思うので、夜のほうが逆に面白いかなと思いまして。
ほりかわひろき(c)Cinemarche
──大団円、ランニングのシーンで流れている曲はこの映画に向けて作られたものですが、歌詞は脚本の太田さんが書かれたものですね。
真田監督:そうですね。僕が“真田”だけにどうしても“サナダムシ”という言葉を歌詞に入れてほしくて、入れてもらいました。(笑)
でもそうですね、あの歌詞と曲は、最初からあの感じのイメージがほしいと思っていたので、一回目に書いてもらった段階でバッチリだなと思いました。、どうでもいい歌にのせて、役者がすごく頑張っているということをやりたくて。
──新宿のパチンコ屋「グリンピース」(実在のパチンコ屋)の角で落ち合うシーンが、すごくいいと思いました。これは、監督の案ですか?
真田監督:そうなんです、新宿というとあそこが好きで、上から見たあの場所に新宿のイメージを感じていたこともあって、あのロケーションを選びました。
ただ、橋の上から撮っていて、二人をちょっと放っておくと、道を聞かれるという(笑)。でもそれだけ場所に馴染んでたというのはすごいですよね。
ほりかわ:でも、そもそもあの格好をしていたら、誰でも馴染むんじゃない?(笑)
(c)Cinemarche
──真田監督はこれまで短編を20本くらい作られていますが、今回は長編ということで意識の違いや演出の違い、編集のこだわりみたいなものがあったかを教えていただきたいです。また、監督自体は駐禁に対して苦い思い出はありましたか?
真田監督:まあきっかけは、やっぱり僕が駐禁を切られたいう悔しさがあるんですが(笑)。
インターネットの造語で「ミドリムシ」というキーワード、そして日本一嫌われている職業というところでこれをネット上で見つけたんですが、これでなにか話を作るというのは面白いんじゃないかな、というところから、この捜索が始まりました。
あと、いわゆる伏線というものですが、短編だと”このセリフがここの芝居がここで引っかかる”という伏線の構図が15分くらいで済むんですが、今回は90分。ということはやっぱり6倍頭を使わないといけない。
長編を撮って思ったのは、長編は難解なパズルで面白味があるということ。でもその分大変ですけどね。たとえば走るシーンって、皆さんに朝5時に走ってもらっているんですよね(笑)
また長編を撮るチャンスがあれば、次はしっかりお金をちゃんと確保した上で、もっといいものを撮りたいと思います。
今村美乃 (c)Cinemarche
また、2回目の上演となった20日には、ヒロイン役を務めた今村美乃さんも登壇。「真田監督は、現場で何度も“すいません”と言っていました」と語る今村さんを筆頭に、この日は4人それぞれの人柄も存分に披露され、笑いの絶えない舞台挨拶となりました。
まとめ
(c)Cinemarche
俳優から映画監督へと進むというキャリアを通過した映画監督も、現在多くおり、真田監督もその道を通過した人の一人ですが、俳優目線という点での演出に、非常に高い実力を発揮した感が、作品にも表れています。
物腰の低い姿勢を見せながらも、ここは譲れないという信念を感じさせる面もあり、そんな性格が作品にも表れており、テーマ作りと作品で伝えたい内容が明確となっています。
また真田監督ならではのスタイル、作風もはっきりと感じさせてくれる作品であり、オリジナル作品として存在価値を有するものであるといえるでしょう。