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Entry 2019/06/10
Update

『劇場版 幼女戦記』感想と評価。音響監督・岩浪美和の極上音響や爆音へのこだわりとは

  • Writer :
  • さくらきょうこ

2017年に放送されたテレビシリーズの続編を描いた『劇場版 幼女戦記』

『劇場版 幼女戦記』は公開一ヶ月で全国的に拡大公開となる快進撃を続け、トークショー付き上映会、応援上映、4DXでの上映拡大と、まさに驚異の大ヒットとなりました。

物語は、他国を圧倒して大国へと成長していく帝国と、それを阻止しようとする列強各国との泥沼の戦いが主人公の幼女ターニャの視線で描かれています。

魔法が使われるファンタジーですが、仕事や人間関係に悩む大人に生き方のヒントを与えてくれる、そんな作品です。

映画『劇場版 幼女戦記』の作品情報


(C)カルロ・ゼン・KADOKAWA刊/幼女戦記製作委員会

【公開】
2019年(日本映画)

【原作】
カルロ・ゼン

【監督】
上村泰

【キャスト】
悠木碧、早見沙織、三木眞一郎、玄田哲章、大塚芳忠、濱野大輝、小林裕介、笠間淳、林大地、土師孝也、小柳良寛、戸松遥、高岡瓶々、飛田展男、稲垣隆史、チョー、森川智之、福島潤、田村睦心

【作品概要】
カルロ・ゼンのWeb小説を原作とする『幼女戦記』は2017年1月期にテレビアニメ化され、その続編としてこの『劇場版 幼女戦記』が製作されました。

現代の東京に生きる合理的な現実主義者のビジネスマンが、世界大戦前夜のヨーロッパを思わせるパラレルワールドに金髪碧眼の幼女として転生させられる『幼女戦記』は、彼(彼女)がいかにして過酷な世界で生き抜いていくかを描いています。

主人公ターニャ・フォン・デグレチャフは少佐として帝国軍第203航空魔導大隊を率い、ライン戦線で敵の主力を撃破、帝国は共和国の首都パリースイィを制圧し勝利の美酒に酔いしれています。

しかしターニャは共和国軍が南方大陸で戦力の立て直しを図っていることを見抜き、参謀本部に攻撃を進言しますが却下され、戦争を終わらせる機会を帝国は失ってしまいます。

劇場版はテレビアニメのその後、統一歴1926年、南方戦線で共和国軍残党を壊滅させ凱旋するところから始まります。

映画『劇場版 幼女戦記』のあらすじとネタバレ


(C)カルロ・ゼン・KADOKAWA刊/幼女戦記製作委員会

統一暦1966年、連合国某所。かつて帝国にあってマッドサイエンティストと呼ばれたシューゲル主任技師。神の啓示を受け聖職者となった彼は、「帝国に対する耐えがたい恐怖…。“感情”が、帝国を破滅へと導いたのです」と言います。

統一暦1926年、南方戦線。
帝国軍第203航空魔導大隊はターニャ・フォン・デグレチャフ少佐指揮のもと、共和国軍の司令本部を簡単に破壊しました。

凱旋休暇を楽しみに本国へ戻った大隊でしたが、出迎えた参謀本部レルゲン大佐の命によりすぐに北方、連邦との国境へと送られてしまいます。連邦はそこに列車砲などの戦力を集め、帝国への攻撃の準備をしていたのです。

「敵が撃つまで決してこちらからは撃つな」という、命令により離れた位置から偵察していた大隊でしたが、連邦が列車砲を放ち帝国へ宣戦を布告した直後、すかさず目標を攻撃し、反撃を想定していなかった連邦軍をあっという間に殲滅しました。

次の攻撃目標を聞かれたターニャは、「連邦の首都をたたく!」と言い、参謀本部からの許可を取り付け、モスコーへ向かいます。

そのころ、連合王国ウィリアム・ドレイク中佐率いる多国籍義勇軍が陸路でモスコー入りしていました。

その中には合衆国義勇兵のメアリー・スー准尉もいます。彼女の父アンソン・スーは協商連合の航空魔導大隊を率いていた大佐で、ターニャの因縁の相手です。

かつて、娘メアリーから贈られた銃をターニャに奪われ瀕死の重傷を負ったアンソンは、ターニャをこの世界に転生させた神(“存在X”)によって命を助けられ、強力な魔力とともにみたびターニャの前に立ちふさがりました。

しかしターニャの副官、ヴィーシャの狙撃によって絶命したのでした。

モスコーに到着した第203航空魔導大隊は、連邦の対空防衛力がお粗末なのをいいことに、主要な建物をことごとく破壊し、帝国国歌を歌いながら帝国国旗を掲げ、その様子を記録映画におさめました。

上空で歌う可憐なターニャの姿に、連邦の秘密警察長官ロリヤは、連邦をバカにされた憤りとともに、幼女好きの変態性癖を刺激され、彼女を渇望するようになるのでした。

一方メアリーは帝国の攻撃を知り、上官ドレイクの静止を無視して出撃してしまいます。我を忘れてターニャに向かっていきますが、地上に落とされ重傷を負ってしまいます。しかしターニャは、メアリーの異常な魔力量に不安を覚えます。

以下、『劇場版 幼女戦記』ネタバレ・結末の記載がございます。『劇場版 幼女戦記』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)カルロ・ゼン・KADOKAWA刊/幼女戦記製作委員会

第203航空魔導大隊は、連邦軍に包囲され孤立しつつあるティゲンホーフ市へ救援に向かいました。

目の前の危機はしのいだものの、連邦は大規模攻勢を仕掛けてきました。実はターニャがここにいることを知ったロリヤが、彼女を手に入れるためにたてた作戦だったのです。

次々押し寄せる歩兵の大群、たくさんの戦闘機に守られた空爆用の爆撃機、さらに多国籍義勇軍の航空魔導大隊。十数時間に及ぶ絶え間ない侵攻に帝国軍は疲弊し絶望感が漂います。

多国籍義勇軍は市街地にある帝国軍本部を狙いますが、先頭を任されたメアリーは父のかたきであるターニャの姿を見つけると、任務を忘れて追いかけていってしまいます。

強大な魔力量で町を破壊しながらターニャを追うメアリー。ターニャも応戦しますが、ついに教会に追い詰められてしまいます。

強い魔力でターニャの攻撃を防ぎ、逆に防御の術式が解けたターニャを何発も殴るメアリー。勝利を確信し聖母像を見上げるメアリーの背中に、ターニャの投げたナイフが突き刺さります。

そして続けざまに銃撃し、メアリーの演算宝珠(魔力を効率的に発動させるための装置)を破壊します。

トドメをさそうとしたそのとき、ステンドグラスを割って突入してきたドレイクによってメアリーは助け出されてしまいました。

戦況はというと、第203航空魔導大隊の活躍により爆撃機は撃墜、残った戦闘機は引き返し、大量の歩兵たちは連邦特有の指揮系統の乱れから敗走していきました。とはいえ帝国軍の損害も多大なものです。

ターニャは、「このままではこの戦争、勝ちきれません」と参謀本部に転属を願い出ます。

安全な後方で戦略を練り直し、人材を育成して適材適所に配置する、それがターニャの狙いでした。

戦務参謀次長のゼートゥーアは二ヶ月の期限付きでそれを承諾し、ターニャはおだやかな日々を満喫していました。第203航空魔導大隊の面々は退屈で死にそうでした。

それから二ヶ月後。ターニャにゼートゥーアから電話がかかってきました。

彼女がまとめた論文のとおり、航空魔導大隊に歩兵隊、砲兵隊、機甲部隊を加えた戦闘団を作ると。そしてその指揮官はターニャだと告げられました。

ターニャは叫びます、「どうしてこうなったぁ~!」。

映画『劇場版 幼女戦記』の感想と評価


(C)カルロ・ゼン・KADOKAWA刊/幼女戦記製作委員会

人間臭いキャラクターの魅力

劇場版 幼女戦記』の面白さは、人間臭い魅力的な登場人物たちにあります。

主人公ターニャ・フォン・デグレチャフは、東京駅のホームから突き落とされてしまったビジネスマンでしたが、現代人の信仰心の無さを嘆く神によって救われてしまいます。

そもそも神を信じていないので彼はそれを“存在X”と呼びますが、その“存在X”は「生きるのに必死にならざるを得ない苛酷な状況下なら神を信じるようになるはず」と、戦争直前の異国へと彼を転生させてしまったのです。

皮肉なのは、彼=ターニャがその世界で生き抜くために豊富な魔力量を与えられていること。

そして演算宝珠という装置で術式(いわゆる魔法)を発動するときには、神を讃える祈りの言葉を唱えずにはいられないということです。

存在X”を呪いながらも、戦場で生き残るために祈りを捧げなければならないターニャ

ジレンマを抱えながら、出世して安全な後方で勤務することを目的として戦っていますが、策を練れば練るほど評価され、最前線へと送り込まれてしまう、そこがなんともおかしくて、ちょっとかわいそうです。

ターニャの他にも、彼女の大胆な作戦に振り回され、いつも胃の痛い思いをしている上司のレルゲン大佐。彼には中間管理職の辛さを感じますし、THE帝国軍人の頑固なルーデルドルフには、自国の状況が見えていない愚かさ

また物静かな切れ者ゼートゥーアには、笑顔で非情な判断を下す恐ろしさを感じてしまいます。

そのほか、百戦錬磨のオジ様たちの中にあって、今回登場したメアリー・スーの子供っぽさが際立っています

父のかたきとはいえ、軍規を無視して行動し、挙げ句自らも獣のように暴力的になってしまう自制心のなさが、今後物語にどう影響していくのか興味深いです。

劇場版ならではの「音響」と音響監督の「岩浪美和」


(C)カルロ・ゼン・KADOKAWA刊/幼女戦記製作委員会

本作のもうひとつの大きな魅力は、音響効果の素晴らしさです。

この映画の音響監督を担当しているのは、「PSYCHO-PASS」シリーズや、『ガールズ&パンツァー 最終章 第2話』などで知られる岩浪美和

岩浪美和は映画を上映する劇場での音質や音量にもこだわり、自ら映画館に出向いて調整することでも有名です。

本作品『劇場版 幼女戦記』では、(首都圏で挙げると)立川シネマシティの【極上音響上映】や【極爆音響上映】、イオンシネマ幕張新都心の【ULTIRA 9.1ch】、川崎チネチッタ【LIVE ZOUND 6.1ch】などで上映され、それぞれトークショーも行われました

ちなみに立川シネマシティで鑑賞した際に、最前列でスピーカーに近かったこともあり、着ている洋服が音で揺れるという初めての経験をしました。

その後、岩浪美和はTwitterで「応援上映やったら来るかな?」というようなことをつぶやかれ、実際に1回限りの応援上映が開催されました。

立川シネマシティの一番大きな「a studio」で、上村泰監督と一緒にたくさんの幼女戦記ファンの観客が声を出して映画を楽しみました。

また、この映画は航空魔導大隊が主役なので、空中での戦闘シーンが多く「ぜひ4DXで観たい!」という声が多かったのか、公開から二ヶ月経って4DXでの上映が行われました。

ティゲンホーフ市上空での空中戦や、ターニャとメアリーの市街地戦など、その疾走感と浮遊感は遊園地のアトラクション以上の興奮をもたらしてくれました

映画は劇場で観るもの」ということを再認識させてくれた、まさに劇場で観るべき映画です。

まとめ


(C)カルロ・ゼン・KADOKAWA刊/幼女戦記製作委員会

幼女と戦争というギャップ、中身はエリートビジネスマンの幼女、神をも恐れぬ戦争屋…。

そんなターニャのキャラクターの魅力と、実際の世界史をトレースしたかのような国々の争い。実在の国や人物をもじった名前にも思わずくすっとさせられる、そんな楽しみ方もできる『幼女戦記』

ターニャの冷静な判断、大胆な作戦による快進撃は痛快で、ゼートゥーアならずとも、彼女を最前線で戦わせたくなってしまいます

しかし、次第に泥沼にはまっていく戦況、そして現れる手強い敵。果たしてターニャはこの世界で安全に生き残ることができるのか?

次回作が劇場版なのかどうかは今の時点では情報がありません。しかし、次なる予定はあるようなので、次の展開を本作の余韻とともに楽しみに待ちましょう。


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