『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』、『心が叫びたがってるんだ。』で知られる脚本家の岡田麿里。
彼女が初監督デビューをしたオリジナル長編アニメーション映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』をご紹介します。
CONTENTS
1.映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』の作品情報
【公開】
2018年(日本映画)
【監督】
岡田麿里
【キャスト(声の出演)】
石見舞菜香、入野自由、茅野愛衣、梶裕貴 、沢城みゆき、細谷佳正、佐藤利奈、日笠陽子、久野美咲、杉田智和、平田広明
【作品概要】
『花咲くいろは』などで岡田麿里とタッグを組んできたP.A.WORKSが制作。
キャラクター原案を吉田明彦が担当するなど、実力派スタッフが結集。数百年の長い命を持つイオルフの娘マキアが母を失った赤ん坊と出逢い、数奇な運命を辿っていく様を、母と子の大きな愛情を中心に描く。
2.映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』のあらすじとネタバレ
縦糸は流れ行く月日、横糸は人のなりわい。長い時を生きるわたしたちは、そうでない人にとってはおとぎ話のようなもの。
イオルフは10代なかばで外見の成長が止まり、数百年の長い命を持つ一族です。
人里を離れ、「ヒビオル」という織物に日々の想いや出来事を織り込み、静かに暮らしています。
イオルフの少女、マキアは物静かで、活発なレイリアとは対称的。レイリアは、高い絶壁からも恐れず海に飛び込むことが出来ます。二人の少女は、クリムという少年とも仲良く、いつも三人で戯れていました。
レイリアとクリムには家族がいますが、マキアはひとりぼっちです。長老のラシーヌは、泣いているマキアに話しかけます。
ここに居る限りお前は一人ではない、「ヒビオル」がいる。
だが、外の世界で出会いに触れたなら誰も愛してはいけない。愛すれば本当の一人になってしまうから。
ある日、マキアは夜中に海辺を歩いて行くクリムの姿をみかけます。彼を追って家を出たマキアは、クリムとレイリアの仲睦まじい様子をみて激しく動揺します。
その時、レナトと呼ばれる古の獣が飛来し、メザーテの戦士たちが、イオルフに攻め入ってきました。
マキアは長老を呼びに走り、長老はヒビオルを守るため、部屋を封鎖します。マキアはそこに閉じ込められてしまいます。
メザーテはレイリアや他の女たちを略奪していきました。
閉じ込められたマキアの下に、レナトが飛び込んできました。マキアはレナトにからんだヒビオルに宙吊りになるかたちで、遠くの森へと運ばれてしまいます。
マキアは森を彷徨ったあげく、断崖絶壁から身を投げようとしますが、赤ん坊の泣き声がして、われに返ります。
テントの中で、赤ん坊が一人泣いていました。母親は賊にやられて死亡していましたが、赤ん坊をしっかり抱きしめていました。
赤ん坊の手にマキアの指を近づけると、赤ん坊はその指をしっかり握りしめました。
テントの隅に、バロウという男がいて、マキアは驚きます。彼はヒビオルを手にいれるため各地を回っている商人で、たまたまここにやってきたようでした。
「連れて行くのか? おもちゃじゃないんだぞ」バロウの言葉に「おもちゃじゃありません。私のヒビオルです」とマキアは応えました。
「一人ぼっちが一人ぼっちと出逢ったか」とバロウは呟くのでした。
マキアは赤ん坊にヤギの乳を飲ませるため、ヘルム農場に忍び込みましたが、すぐに農場主、ミドに見つかってしまいます。
ミドは未亡人で、女手一つで、ラングとデオルという二人の息子を育てていました。彼女はマキアをここに住まわせることにします。
村の雑貨店の店主ダレルは一目見るなり、マキアをイオルフだと見抜きます。
「イオルフの布は高く売れる。秘密は守るさ」
こうしてマキアはミドたちと暮らし始め、エリアルと名付けられた赤ん坊も6歳の元気な男の子に育ちました。
ディタという女の子がお母さんが大好きなんておかしいとエリアルをからかいます。エリアルは「リタなんて嫌いだ」と走っていきました。
メザーテでは古の獣レナトが赤目病にかかり、次々と死んでいました。生きているレナトはたった5頭だけです。
レナトで維持してきた国家なだけにレナトに変わるものを手に入れなければと国王は考えていました。
マキアは、ダレルに織り上げたヒビオルを納品した際、「見てくれないか、ヒビオルを持ち込んだ者がいるんだ」と言われます。
そこには、メザーテに連れさられたレイリアがメザーテの王子と結婚させられようとしていると記されていました。
その日、ミドの家の老犬オノラが長寿をまっとうして亡くなりました。
大好きだったオノラが死んで悲しむエリアルに、「みんないつかこの日が来るんだ」とラングが言うと、マキアはいたたまれなくなって走り出しました。
「みんな死んじゃうの? 母さんも?」
夜遅くマキアが戻ると、ドアの前でエリアルが眠っていました。「待っていてくれたの? 泣かないね。私。エリアルのお母さんだから」。
翌朝、ディタがエリアルに謝るため、やって来ますが、もうエリアルはいないと告げられます。
マキアはエリアルを連れて、レイリアを救い出すために出発したのでした。
メザーテを目指す船の中で、マキアはクリムと再会します。「明日の朝、パレードが開かれる」。彼はレイリアを奪い返す計画をマキアに告げました。
花火があがり、楽隊が行進し、賑やかにパレードが行われていました。国王の演説を前に広場には大勢の人々が集まっていました。
「ヨルフの血を招き入れる。新たなる伝説がメザーテに生まれるのだ」国王は高らかに宣言するのでした。
クリムはパレードの最後尾で行進している一頭のレナトの足を剣で刺して騒ぎを起こし、その間にマキアがレイリアを連れ出すことに成功します。
しかし、クリムが来ていると聞いてレイリアは後ずさりします。「もうクリムには会えない」。
彼女はマキアの手をつかんで、自分のお腹にあてるのでした。彼女は王子の子を宿していました。
作戦は失敗に終わりました。「僕たちはここに残ってレイリアを助け出す。子どものいる君は足手まといだ」
クリムにそう言われ、マキアは新たな場所へと旅立ちました。
子どもを連れていてはなかなか仕事も決まらず、わがままを言うエリアルについあたってしまうマキア。「どうして困らせるの!」
そして思わず「私、母さんじゃない。母親の自覚なんてないよ!」と怒鳴ってしまいます。
「誰も愛してはいけない。愛したら本当の一人になってしまう」あの言葉が頭の中で渦巻いていました。
エリアルは家を飛び出し、我に返ったマキアは彼を追って、雨の中を飛び出していきました。
マキアはエリアルを見つけ、堅く抱きしめました。「このまま大きくならなきゃいいのに」と呟くと、「大きくならなきゃ、母さんを守れない。俺が母さんのことを守るよ」とエリアルは言うのでした。
それからまた何年かが過ぎ、工業都市ドレイルの食堂でマキアは働いていました。エリアルは青年になり、周りには二人は姉弟であると言ってありました。
そんな折、食堂に見知った顔がやってきました。ラングです。彼はメザーテの兵士になっていました。
マキアは彼を家に招きます。エリアルは無愛想な態度で夜勤に出かけていきました。
「5年くらい前から母さんとは呼んでくれなくなったのよ」とマキアはこぼしました。思春期真っ只中のエリアルは母親との関係に以前のように素直になることができないのです。
「私のせいで一つの場所に居られないし」。
その頃、メザーテではレナトがまた一頭死に、ついに生きているレナトは一頭だけになっていました。
王子とレイリアの間に生まれた女の子メドメルは、いたって普通の人間で、イオルフらしいところは一つもありません。
次の子どもは生まれず、王子もレイリアから気持ちが離れてしまっていると聞かされ、王は頭を抱えます。
レイリアは娘にも合わせてもらえず幽閉されていました。「メドメルに会えないならマキアを連れてきて! 一人ぼっちはいやだ!」
彼女の監視役であるイゾルはマキアを探し始めます。
ラングからメザーテが自分を探していると聞いたマキアは、この町にももういられないと呟きます。
「農場に戻らないか?」とラングは誘ってくれますが、彼の家族を巻き込むわけにはいきません。
「迷惑をかけたくない」という彼女に「迷惑をかけてほしい。考えてほしいんだ。これからのことも。俺のことも」とラングは告げます。
「無理だと思う。エリアルのことだけ考えてきたから、答えがみつかりそうにないわ。エリアルのことだけを考えていたくて…」
ラングはうなずき、次に暮らす場所や仕事のことは自分にも手伝わせてくれと申し出るのでした。
エリアルは仲間たちに酒を飲まされ、酔って家に戻ってきました。「お帰りのキスは?」と悪態をついたエリアルは、壁にかけてあったヒビオルを落としてふんづけてしまいます。
「踏んじゃだめ!これエリアルが織ってくれたんじゃない」というマキアにエリアルは「いつまでもガキ扱いして」と怒鳴り自分の部屋に篭ってしまいます。
ドア越しに「引っ越ししなければならなくなったの」と言うと、「俺はあなたのこと母親と思ってないから」という言葉が返ってきました。
エリアルはラングにメザーテの兵士として雇ってもらえるよう口をきいてもらえないかと頼みます。
母親のことを聞かれ「母親と思ってませんから」と答えると、ラングは彼を叱りました。
「どうしてあの人が俺をこんなに大切にしてくれるのかわからないんです。今の俺じゃ、あの人を守れない」エリアルは悲痛な声を出して言いました。
旅立つエリアルをいつものように笑顔で見送ったマキア。
エリアルの嘘つき! 私を守るって言ったのに…。泣きそうになりますがぐっと堪えるマキア。「泣かない! 約束だもの」
その時、窓が割られ、何者かが彼女の前に現れます。
3.映画『さよならの朝に約束の花をかざろう』の感想と評価
人の出逢いと別れ、生と死を壮大なスケールで描いたファンタジー巨編です。
桃源郷のような美しさのイオルフの里、静かに衰退しつつある大国メザーテ、煙がもくもくとあがるすすけた鉄鋼の街・ドレイルなど、舞台となる地はいずれも想像力に満ちた作画と、光と影の織りなす映像により、魅力的に立ち上ります。
中世を思わせる設定、空飛ぶ古の獣レナトが三頭、飛翔し、メザーテの兵士たちと共にイオルフの里を襲撃する場面を見て、アメリカHBO制作の人気ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の世界観に影響を受けているのではと思いましたが、どうでしょうか。
尤も、物語自体は母と子の愛を中心に、実に泣ける作品となっています。母の子に対する愛、子が母を慕う姿に、多くの人が心打たれることでしょう。
幼い頃の子育ての難しさは勿論のこと、思春期を迎え、大人への階段を登る息子の姿もリアルに描かれています。
母親が、見た目が変わらず、周りには親子と言えなくなり、姉弟だと偽っているという設定は映画的に実に魅力的ですが、だからこそ尚更、エリアルの心情は複雑になっていきます。
同じく、母となりながら我が子に会わせてもらえないレイリアの姿は悲劇としかいいようがありませんが、彼女は作品の中で最も自由で壮大な動きを許された人物でもあります。
「私は飛べる!」と言う台詞が伏線となって、ラストのクライマックスにつながっていく構成に脱帽です。丁寧に緻密に物語が紡がれているのです。
愛する人の死を受け止めるという大きな試練を迎え、人間として強く、成長していくヒロイン。ラスト近くになると涙がとまらなくなってしまいました。
そしてエンドロール後に現れるショットの暖かさに、作り手の誠実さをひしひしと感じました(ですので、エンドロールの途中で退出することなく、最後まで観ることをお薦めします)。
4.まとめ
『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』、『心が叫びたがってるんだ。』など多くのヒット作品を発表している脚本家・岡田麿里が、脚本とともに初監督を務めた本作は、意外にもファンタジー作品でした。
キャラクター原案・吉田明彦、副監督・篠原俊哉、キャラクターデザイン、総作画監督・石井百合子、美術監督・東地和生、音楽・川井憲次など実力派スタッフが結集し、岡田監督をサポート。
広場に人々が埋め尽くされているシーンなどに見られる丁寧でリアルな仕事ぶり、戦闘シーンの迫力、感情表現の豊かさ、ファンタジックで美しい背景と、アニメならではの表現力豊かな作品に仕上がりました。
マキアの声を担当する石見舞菜香は初々しく、複雑な感情を抱く青年期のエリアル役の入野自由の仕事ぶりは流石とうならせられます。
そして、母と子の愛情、互いの成長を描くテーマの普遍性は、観るものの心をがっちり捕えて離しません。
人生の、長くも短い歳月を描き、幅広い世代に訴える作品となっています。