『時をかける少女』『サマーウォーズ』に続き、細田守監督の名を世界に知らしめた大ヒット作品
“おおかみおとこ”と恋に落ち、女手ひとつで“おおかみこども”を育てる花と、その子どもたちが自分の生きる道を見つけて自立するまでの13年間という時間をアニメーションで豊かに描き出します。
原作・監督は『時をかける少女』(2006)『サマーウォーズ』の細田守監督。
『時をかける少女』『サマーウォーズ』に続いて脚本を奥寺佐渡子、キャラクターデザインを貞本義行と再びタッグを組みました。
CONTENTS
映画『おおかみこどもの雨と雪』の作品情報
【公開】
2012年(日本映画)
【原作・監督】
細田守
【脚本】
奥寺佐渡子、細田守
【キャラクターデザイン】
貞本義行
【声のキャスト】
宮崎あおい、大沢たかお、黒木華、西井幸人、大野百花、加部亜門、平岡拓真、菅原文太、片岡富枝、大木民夫、中村正、林原めぐみ、麻生久美子、谷村美月、染谷将太
【作品概要】
『時をかける少女』(2006)『サマーウォーズ』(2009)の細田守監督が母と子をテーマに、1人の女性が恋愛・結婚・出産・子育てを通じて成長する姿と、その子どもたちが自分の生きる道を見つけて自立する過程をファンタジックに躍動感ある映像で描きます。
“おおかみこども”の母となる主人公・花を宮﨑あおいが務め、数奇な運命を生きる“おおかみおとこ”を大沢たかおが演じました。また、里の自然の中での農作業を手ほどきする老爺・韮崎を演じる菅原文太をはじめ、アニメ・実写の垣根を越えた豪華なキャスティングが実現。
脚本は『八日目の蟬』で第35回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した奥寺佐渡子。キャラクターデザインに『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズでは作画監督を務めた貞本義行と、『時をかける少女』『サマーウォーズ』に引き続き細田作品常連のメンバーが再集結。
音楽は、今後の細田作品の音楽を担うことになる高木正勝。主題歌には、医師として働きながら音楽活動を続け、2児の母でもあるシンガーソングライターのアン・サリー。
第36回日本アカデミー賞で、最優秀アニメーション映画賞を受賞作です。
映画『おおかみこどもの雨と雪』あらすじとネタバレ
東京の外れにある国立大学の学生だった花は、授業料を奨学金でまかない、生活費はアルバイトを掛け持ちしてひとり暮らしをしていました。
初夏のある日、大学の窓際の席で教科書も持たずにひたすらにノートをとる男の人に目が留まります。周りの学生とはまるで雰囲気が違って見え、引きつけられるように彼に声をかけ、それをきっかけに仲良くなっていきます。
河原の土手道を一緒に帰っていると、彼が花の名前の由来を聞きました。
花が産まれたときに、裏庭に自然に咲いているコスモスを見て、父さんが「辛いときや苦しいときでも花のような笑顔を絶やさない子になってほしい」という願いを込めて名前をつけたこと、「無理やりにでも笑っていたら、大抵のことは乗り越えられる」と言われたことなどを話します。
ある夜道、高台から家々の窓明りが宝石のように灯っています。その風景を眺めながら、彼が「家があったらいいだろうな。ただいまって言う、いいだろうな」と少年のような瞳でつぶやきます。
花はその横顔を見て「じゃあ、私がお帰りって言ってあげるよ」と告白ともとれるような初々しさで応えますが、男は冴えない表情を浮かべました。
季節が移ろいだ、冬。クリスマス前のイルミネーションが街を彩ります。いつも待ち合わせ場所にしているカフェの軒先の下で彼のことを待つ花。
しかし、いくら待っても来なくとうとう日が暮れて、店のシャッターも閉まり、それでもうずくまるようにして待っていると、彼がやっと息を切らし「花、ごめん。悪かった」と駆け寄ってきました。彼を見上げると何も言わずゆっくりと笑顔をみせる花。
彼は「もっと早く言うべきだった。いや、見せるべきだった」とおおかみの姿を花に見せます。実は人間の姿で暮らすも、約100前に絶滅した日本おおかみの末裔だったのです。
その真実を知っても花の気持ちは変わらず、花とおおかみおとこは結ばれ、一緒に住み始めることに。やがて2人の子どもを授かり、雪の日に生まれた姉は雪、雨の日に生まれた弟は雨と名づけられました。
しかし、雨が産まれて生後間もない日のある夜、突然におおかみおとこは亡くなってしまします。
花は打ちひしがれながらも、子どもたちをよろしく頼むよという声が聞こえたかのように、「うん、まかせて。ちゃんと育てる」と心に誓うのでした。
それから、女手ひとつで子どもたちを育てます。姉の雪は活発で四六時中、食べるものをねだり、弟の雨は小食でひ弱。大学は休学しアルバイトも辞めざるを得ず、おおかみおとこが残してくれた僅かな貯金で生活をしていました。
朝晩問わず2時間おきの授乳、ミルクも飲まずに夜泣きが続く雨を、一晩中背中をさすって抱っこをしてあやす時もありました。
雪が誤って乾燥剤を食べてしまい、嘔吐し倒れたときは、おおかみこどもを小児科に診せるべきなのか、獣医さんに診てもらえばいいのかわからなく、困惑します。判断がつかない花は、目の前の公衆電話から小児科救急センターに電話をかけ、子どもの症状を伝えます。幸いにも電話で相談して事なきを得ました。
ある日、アパートに児童相談所の人が訪れます。子どもたちの健診や予防接種をまったく受けていなかったため虐待やネグレクトを疑われ、様子を見にやってきたのでした。
夜が明ける前の人気がない公園で、おおかみの姿で走り回る子どもたちを見つめる花。
花は、子どもたちが人間かおおかみのどちらでも選べるように、都会の人の目を離れて、自然に囲まれた田舎町に移り住むことを決意します。
そこで花が選んだのは、山奥にある築100年のおんぼろ古民家でした。おてんばな雪は自然に囲まれた家が気に入り大喜び。雨は「もう帰ろうよ」と馴染めない様子。
そんな子供たちを見守りながら、花は廃屋のような家の修繕に取り掛かりました。その横では雪と雨が、人間とおおかみの姿を自在に変化させながら駆け回ります。
花の奮闘によって古民家は日に日に輝きを取り戻し、3人の新しい生活の場となっていきました。
一方で、おおかみおとこが残したわずかな貯金が底をつく不安もあり、節約のため花は自給自足の生活を試みようとします。
移動図書館で自家菜園の本を借りて独学で畑を耕しますが、種苗は実を結ばず枯れていくばかり。失敗を繰り返す花のもとに、里に住む韮崎という老爺がやって来て、「土からやり直すんだ」と、ひたすら畑の土起しを日が暮れるまで指導します。
その訪問を機に、花の家には里の人たちが折々に訪ねてくるようになりました。畑の野菜も、韮崎のおかげで順調に育ち始めます。実は面倒をみてやってくれと里のみんなに声をかけたのは、韮崎だったのです。
人目を避けて引っ越してきたはずが、いつの間にか里の人たちにお世話になっていました。そして一方で、おおかみの子ってどうやって大人になっていくんだろう、という誰にも相談できない悩みを抱えてもいました。
映画『おおかみこどもの雨と雪』感想と評価
笑顔を絶やさない主人公の花
主人公の花は、どんな苦難に直面しても無理にでも笑顔をつくり、様々な局面を自分の力で乗り越えていきます。弱音を吐くことも、愚痴も、不平不満を嘆くことも、ほとんどしません。
観ている側は時に、もっと苦しい胸の内をさらけ出せばいいのにと、じれったさを覚え、しなやかに強い精神をうらやんでしまいます。
しかし、その笑顔の裏には父子家庭で育ち、その父を早くに亡くし、孤立無援で大学に通っていた花の生い立ちを考えれば、華奢な容姿からは想像もできない、芯の強さが伺えます。
ほんとうの厳しさや悲しみを知っている花だからこそ、どんなに辛く苦しいときでも、あえて微笑みを絶やさず、前を向こうとする姿に励まされます。
可憐な花の美しさではなく、野に咲く花のごとく凛としながらもしなやかな佇まいに、いつしか歯がゆさなんか払拭されて、魅了されているのです。天涯孤独なおおかみおとこや、里に住むぶっきらぼうな韮崎を魅了したように。
そして、花の行動が決して自己犠牲でも独りよがりでもなく、どんな世界にいても、生き抜いていくんだという決意なのだと感じさせ胸を打ちました。
半分がおおかみの子だというエレメント
半分おおかみという特殊な子どもたちの子育ては、思いもよらない事態が次々と発生していきます。おおかみこども故の苦労がある分に誰もが体験し得ない事柄を乗り越え、その先には奇跡的で美しい瞬間に気づかせてくれます。
都会では感じられなかった自然の恵みや恩恵、厳しさとともにある解放感。里の人たちとの助け合いで暮らす日々の営み。といったあたたかさが余計に身に沁みます。
笑顔で乗り越えた花が手にしたのは、美しく儚げで、振り返るとおとぎ話のような不思議さに満ちていたかけがえのないものでした。
そして、子どもたちと過ごした12年の歳月が経った花がとても清々しく映し出され、日常が鮮やかに圧倒的な存在感を持って胸に迫ってきます。
物語の最後には雪が、母が子どもたちを育てた12年の月日をまるでおとぎ話のように一瞬だったと、とても満足げに笑い。その笑顔がわたしはとても嬉しいのですと締めくくります。その言葉はまさに母子とともに歩んだ歳月のあたたかさを物語っています。
まとめ
子どもたちにどんな時でも微笑みかけ、見守っていく母の花の姿は、当たり前の日常なんてなくて、どう生きていくのかということを教えられているようです。
そして、雪と雨は、人間として生きるのか、おおかみとして生きるのかという岐路に立たされるたびに、それぞれが自分自身と向き合い、悩み、葛藤し、懸命に自分の世界を切り開いていく姿から勇気をもらうことでしょう。