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Entry 2020/08/04
Update

映画『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』感想と考察解説。村上春樹が愛するアメリカ短編文学がアニメ長編作品として登場

  • Writer :
  • 松平光冬

一組の元夫婦の過去・現在・未来の物語を詩的に描くアニメ映画

世界各国の映画祭で高い評価を受けたカナダ製長編アニメ映画『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』が、2020年9月12日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラム他にて全国順次公開されます。

1995年のカナダ・ケベック州独立運動を背景に、とある元夫婦の過去・現在・未来の物語を、全編が墨絵によって描かれた、映像美あふれる長編アニメーションの見どころを紹介します。

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映画『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』の作品情報

(c)L’unité centrale

【日本公開】
2020年(カナダ・フランス合作映画)

【原題】
Ville Neuve(英題:New Town)

【監督・脚本】
フェリックス・デュフール=ラペリエール

【原作】
レイモンド・カーヴァー著「シェフの家」

【ボイスキャスト】
ロバート・ラロンド、ジョアンヌ=マリー・トランブレ、テオドール・ペルラン、ポール・アーマラニ

【作品概要】
日本では村上春樹の翻訳で知られる短編の名手レイモンド・カーヴァーの「シェフの家」をベースに、1995年にカナダ・ケベック州で起こった独立運動を背景にした、元夫婦の過去と現在、そして未来の物語としてアニメーション化された映画『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』。全編が墨絵による手描きのビジュアルにして、かつ随所に詩の朗読が挟まれる構成となっているのが特徴です。

本作が初の長編アニメーション作品となるフェリックス・デュフール=ラペリエール監督が、脚本と作画も兼任し、6年の歳月をかけて完成させました。

主な声の出演を、ドゥニ・ヴィルヌーブ監督の『静かなる叫び』(2017)の女優ジョアンヌ=マリー・トランブレが務めます。

ベネチア映画祭の「ヴェニス・デイズ」部門でのプレミア上映のほか、アヌシー、ザグレブなど世界的なアニメーション映画祭で上映され、高く評価されました。

映画『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』のあらすじ


(c)L’unité centrale

カナダのケベック州に暮らすアル中の詩人ジョゼフは、思い出の地「ヴィル・ヌーヴ(新しい街)」で、友人所有の別荘を借ります。

彼はそこに別れた妻エマを呼び出し、もう一度やり直そうと考えたのです。

突然の誘いに戸惑い、同居する息子のことが気にかかるも、エマはアルコールを絶って再起を図ろうとする元夫ジョゼフのもとへと向かいます。

最初こそ昔のような関係を取り戻せるに思えた2人でしたが、ケベック州全体に起こっていた独立運動の高まりとともに、その関係に新たな波乱が巻き起こることとなります…。

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映画『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』の感想と評価


(c)L’unité centrale

短編小説の隠れた傑作、レイモンド・カーヴァーの「シェフの家」

本作『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』は、短編小説家にして詩人でもあるアメリカの作家レイモンド・カーヴァー(1939~88)が、1981年に執筆した「シェフの家」を原作としています。

日本では、翻訳家としても活躍する小説家の村上春樹がいち早くカーヴァーに着目し、ほとんどの作品を自ら翻訳したことで広く知られるように。

カーヴァー作品にインスパイアされた映画もあり、彼の数作をベースにしたロバート・アルトマン監督の『ショート・カッツ』(1993)は、その代表的な作品といえましょう。

記憶に新しいところだと、アカデミー作品賞に輝いた『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2014)は、落ちぶれた俳優が、カーヴァーの「愛について語るときに我々の語ること」の舞台劇で再起を図ろうとする様が描かれます。

挫折や孤独に苛まれる中年男性を主人公にした作品が多いカーヴァーですが、その大半は自身の実体験に基づいており、「シェフの家」も、アルコール依存症に苦しんだ自身を反映した、作家として成熟期に書かれた一作といわれています。

挫折を経て再びやり直そうと動き出す一組の元夫婦を待ち受ける、哀しく切ない顛末が描かれます。

参考:『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2014)

大胆な脚色かつ斬新な画法でアニメーション化


(c)L’unité centrale

そんな、和訳本にしてもわずか10ページ程度の原作に感銘を受けたのが、短編アニメーションやドキュメンタリー映画を作ってきた、フェリックス・デュフール゠ラペリエール監督です。

彼は物語の舞台を、アメリカから自身が暮らすカナダ・ケベック州に置き換え、街で刻まれてきた歴史をたどるという大胆な脚色を施しました。

元々フランス領だったケベックは、その名残から、カナダ国内で唯一フランス語を公用語に定めています。

ケベック州では過去に独立運動の波が何度も高まっており、1980年と95年には独立を問う住民投票が実施されるも、いずれも否決に終わっています。

本作は、その住民投票が実施された95年を舞台に、離別した中年夫婦の再会と、カナダからの独立を願う市民たちの喧騒が並行して描かれます。

(c)L’unité centrale

そして、何と言っても特筆すべきは、独特なその画法です。

ポストカードよりも少し大きいくらいの原画紙に、ラペリエール監督が一人で墨で描いていったという絵は、カラーで描かれるよりも、観る者に想像力を喚起させる効果を発揮。

加えて、ジョゼフとエマの元夫婦の心情や、変革を求めるケベック市民たちの咆哮を、アニメーションならではな抽象的に描写することで、カーヴァー作品に含まれるポエティック表現も効果的に抑えています。

まとめ


(c)L’unité centrale

辛い「過去」からの脱却・再生を図ろうとする、「現在」の夫婦と市井の人々。それぞれの思いは、思わぬ形で融合していきます。

村上春樹は原作「シェフの家」について、こう解説しています。

誰もが誰をも傷つけたくないと思いながらも、結局はそうせざるを得ない立場に追い込まれてしまうという、ギリシャ悲劇を思わせるような淡々とした暗い宿命感が、この作品の底に流れている。
――中央公論新社『大聖堂(村上春樹翻訳ライブラリー)』より

しかしながら、本作『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』では、そんな避けられようもない宿命を引き受けつつも、主人公ジョゼフは、建設的な「未来」に向かおうとします。

カーヴァー作品のエッセンスを十二分に活かしつつ、アニメーションの新たな表現方法を提示することに成功した本作に、ご期待ください。

映画『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』は、2020年9月12日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラム他にて全国順次公開

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