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Entry 2019/09/06
Update

アニメ映画『ハローワールド』あらすじネタバレと感想。伊藤智彦が描く『君の名は。』以降の新たなる世界観

  • Writer :
  • 村松健太郎

映画『HELLO WORLD』は9月20日(金)より全国ロードショー公開!

伊藤智彦。『君の名は。』以降の日本アニメーション業界を新たな境地へと牽引し得る作り手のひとりであり、今もっとも長編アニメーション映画の発表を期待されている監督です。

そんな伊藤監督が“令和”という新時代に満を持して放つのが、2019年9月20日に劇場公開を迎える映画『HELLO WORLD』です。

果たして、伊藤監督は新たなる時代を迎えた世界をアニメーションによってどう捉え、どう描いたのか、注目すべき長編アニメーション作品です。

映画『HELLO WORLD』の作品情報


(C)2019「HELLO WORLD」製作委員会

【公開】
2019年(日本映画)

【脚本】
野﨑まど

【監督】
伊藤智彦

【音楽】
2027Sound

【キャスト】
北村匠海、松坂桃李、浜辺美波、福原遥、寿美菜子、釘宮理恵、子安武人

【作品概要】
近未来の京都を舞台に、“未来の自分”を名乗る存在と出会った主人公が奔走の果てに自らの運命と世界の秘密へとたどり着くSF青春ラブストーリー。細田守監督の『時をかける少女』『サマーウォーズ』にて助監督を務め、初の長編監督作『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』は日本国内で大ヒットを記録した伊藤智彦監督の最新作です。

主人公・直実役は、俳優活動はもちろんダンスロックバンド「DISH//」としても活躍する北村匠海。そしてヒロイン・瑠璃役は、北村とは実写版映画『君の膵臓を食べたい』(2017)以来の共演となる浜辺美波です。さらに直実の元に“未来の自分”として現れた謎の青年・ナオミ役に松坂桃李、アイドル的存在である直実たちの同級生・三鈴役に福原遥と豪華キャストが集結しました。

映画『HELLO WORLD』のあらすじとネタバレ


(C)2019「HELLO WORLD」製作委員会

京都在住の高校生・堅書直実(かたがきなおみ)は、高校入学を機に決断力のある生活を目指そうと意気込みますが、実際にはうまくいかず、ただ読書好きというだけで図書委員の仕事を押し付けられてしまいました。

ですが、図書委員の仕事を務める中で、直実は二人の魅力的な女子生徒に出会います。

一人は、アイドルタイプの勘解由小路三鈴(かでのこうじみすず)。そしてもう一人は、孤高の存在感を決して崩さない一行瑠璃(いちぎょうるり)です。

直実が図書委員として日常の日々を送っていたある日、空に赤いオーロラのような光が現れます。そしてその光の中から一羽のカラスが現れ、直実を伏見稲荷へと導いてゆきます。

伏見稲荷に迷い込んでしまった直実。そんな彼の前に、光の渦から白いフードを被った一人の青年が現れます。


(C)2019「HELLO WORLD」製作委員会

青年は直美に対し、自分は10年後の世界を生きる直実自身だと明かします。そして、高校生として暮らしている現在の直実は、無限の記憶領域を持つ量子記録装置「ALLTALE(アルタラ)」に記録されている「堅書直実」の過去の記録に過ぎないと語ります。

物理情報に加え、時間の概念すらも全て記録できるアルタラ。その存在によって、実際の現実と記録された現実は文字通り“イコール”で結べるほどに限りなく同一のものになったというのです。

にわかには信じられない直実ですが、10年後のナオミはアバターでしかなく自分以外の人間にはその声すら届いていないことを知ると、次第にその複雑な状況を受け入れていきます。

やがて、直実が「10年後のナオミがなぜ過去の記録の中にやってきて、直実に接触してきたのか?」と尋ねると、ナオミは「それは三か月後に恋人となる一行瑠璃との思い出を作るため」と答えました。

ナオミは現実世界で瑠璃と付き合い始めましたが、初デートの日に落雷を受け、彼女はそのまま亡くなってしまったというのです。

「せめて記録の中だけでも、瑠璃との幸せな時間を残したい」というナオミの願いを聞き入れた直実は、記録世界を書き換えることができる手袋に似た装置「神の手(グッドデザイン)」とナオミ直伝の恋愛最強マニュアルを手に、徐々に瑠璃との距離を近づけていきます。

不器用ながらも、なんとか交際へとたどり着けた二人。「先生」として助言をしてきたナオミもまた安堵します。

そして、瑠璃が落雷事故によって命を落としてしまった花火大会の日には、わざと瑠璃を誘わず、彼女の自宅へと直接向かうことにします。そうすることで、記録世界の中の瑠璃は無事で済むはずでした。


(C)2019「HELLO WORLD」製作委員会

ですが、直実たちの前に狐の面をつけたガードマンのような者たちが出現します。それは「花火大会へ行く」という記録に反する行動をとった直美と瑠璃に記録通りの行動をさせようとする、アルタラ内の「自動修復システム」でした。

直実とナオミはシステムを抵抗したものの、次々と出現するシステムに瑠璃を奪われ、そのまま花火大会の会場へと連行されてしまいます。

直実はグッドデザインによってブラックホールを作り出し、修正システムたちを一気に排除。そして瑠璃に落ちるはずだった雷すらもともに飲み込んでしまいます。

瑠璃を救うことができたと直実が歓喜したその瞬間、ナオミの態度が一変します。

以下、『HELLO WORLD』ネタバレ・結末の記載がございます。『HELLO WORLD』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2019「HELLO WORLD」製作委員会

ナオミの真の目的は、記録世界を生きる瑠璃の直実への想いを極限まで高めることでした。

ナオミが生きる世界の瑠璃が落雷事故に遭ったのは事実でしたが、そのまま亡くなったわけではなく、脳死状態に陥りながらも瑠璃は生き永らえていたのです。

現実と限りなくイコールになったアルタラ内の記録世界で生きる瑠璃の想いを高め、その想いを脳死状態である現実世界の瑠璃に同期させることで、彼女を蘇生させようと試みたのです。

ナオミの計画通り、10年間眠りについていた現実世界の瑠璃は目を覚まします。その一方で、アルタラ内の直実は喪失感と絶望感に襲われていました。

さらに、ナオミがアルタラ内の記録世界に干渉したことで自動修復システムが大量発生。直実が生きる記録世界の京都を消去してゆきます。何としてでも瑠璃を取り戻したいと願う直実の手に、一度は自身の元を離れていったグッドデザインが蘇ります。

その頃、瑠璃との再会を喜ぶナオミ。そして、自身の干渉によって混乱を招いてしまったアルタラの「リカバリー」に挑みます。

ところが、目覚めた瑠璃はナオミに違和感を感じ、「あなたは堅書ではない」と言い放ちます。そして思わぬ言葉をぶつけられたナオミの前に、より一層異形と化した自動修復システムが大量に出現します。

ナオミが「現実世界」と捉えていた世界もまた、アルタラ内の記録世界に過ぎなかったのです。

そこに、グッドデザインを装着した直実が現れます。世界の真実を受け入れたナオミは、直実の世界に瑠璃を戻すために命を賭けます。

ナオミの決死の行動により、直美と瑠璃は自分たちが生きていた元の世界へと戻ることができました。二人は抱き合い、口づけを交わします。

その時、何処からともなく「器と中身の同調が必要だったのです」という声が響きます。


(C)2019「HELLO WORLD」製作委員会

目を覚ますナオミ。落雷で脳死状態になっていたのは、現実世界の瑠璃ではなくナオミ=現実世界の直実だったのです。

現実世界の瑠璃は、脳死状態に陥った直実の「器」=肉体に、2重3重の入れ子構造によって増幅させた彼の瑠璃への想い=「中身」を同期させました。愛する人を救おうと全力を尽くしていたのは、直実とナオミが救おうと全力を尽くしていた瑠璃その人だったのです。

ついに現実世界で目を覚ました直実と彼を救うため研究者にまでなっていた瑠璃は、涙を流しながらも互いの体を抱きしめるのでした。

映画『HELLO WORLD』の感想と評価


(C)2019「HELLO WORLD」製作委員会

ポスト『君の名は。』に相応しい作品。それが本作に対する率直な感想です。

北村匠海、浜辺美波、松坂桃李、福原遥といった実写作品でもその繊細な演技力を発揮する俳優陣を声優としてキャスティングしている点はもちろん、映画『HELLO WORLD』を完成させるためだけに「OKAMOTO’S」「Official髭男dism」など気鋭のアーティスト陣で結成されたドリームチーム・プロジェクト「2027Sound」による音楽など、『君の名は。』を意識しながらもさらに一歩踏み込んだスタイルによって本作は制作されています。

本作の物語は2027年という近未来を描いていますが、その舞台は京都という「歴史」=悠久の過去に根差した土地であり、物語の一側面であるSF要素と交わることで、ある種の映像的な調和が生まれています

また、観客たちが生きる現在の延長線上としての近未来=“過去と未来がリンクし調和する世界”という世界観に基づく本作の前半部で展開されるのは、古典的なボーイミーツガール。

読書が趣味の内向的な少年・直実と周りに迎合しない孤高にして寡黙な少女・瑠璃の不器用な恋愛は、近未来であっても大きく変わることのない“青春”という時間を提示しているとも捉えられます。


(C)2019「HELLO WORLD」製作委員会

やがて中盤からは一転してSF要素が強まってゆき、本作におけるまさに“コペルニクス的転回”が生じます。しかしその転回によってもたらされた認識もまた、“新たな”コペルニクス的転回が生じる誤った認識でしかなかったことに、直実やナオミとともに幾重にも重なる現実を旅していた観客は驚かされるでしょう。

そして本作の結末については、ハッピーエンドと見るか否かで意見が分かれるかもしれません。ですがそのような解釈をもたらす結末のあり方も、『君の名は。』『天気の子』の新海誠監督、伊藤監督が助監督として制作を支えた細田守監督の作品が描く幸福観と通底するものを感じさせます。

映画終盤において、個人の決断が世界全体に大きな影響を与える点も見逃せない共通項です。

グローバル化・ソーシャル化が飽和しつつある現代において、膨大な情報によって構成される世界と個人はダイレクトに接続されます。その先に見えつつある“現代に似通った新時代”という世界観を描いた作品が今後も登場するのかもしれません。

まとめ


(C)2019「HELLO WORLD」製作委員会

本作は、脚本を担当した野崎まどが手がけた読み応えある小説版がすでに発売されていますが、中盤以降のダイナミックなSF的展開はやはり映像、特にアニメーションだからこそ映えるものだと、小説版と映画版をともに鑑賞した方の多くが感じるでしょう。

“レイヤーとして二重三重に重ねられてゆく現実”という世界観や、そこで繰り広げられるアクション/チェイスシーンは、アニメーションだからこそ全容を描き切れると言えます。

物語のキーアイテムとなるグッドデザインの機能、アバターとして存在しているために主人公の直実にしか見えないナオミへの違和感なども、具体的にビジュアル化されることでより明確となり、観客へも伝わりやすくなります。

2000年代前半ごろから数多くのアニメ作品に関わってきた伊藤監督にとって、長編アニメーション映画『HELLO WORLD』は初のオリジナル作品です。

宮崎駿の引退およびスタジオジブリの休止・縮小宣言により、東宝は細田守、新海誠、米林宏昌といったヒットメイカーや湯浅政明、そして本作の伊藤智彦監督など新たな鉱脈となる人材の発掘・育成にさらに力を入れています。だからこそ、伊藤監督が本作をはじめ今後もどのような形で活躍してゆくのか、今から楽しみで仕方がありません。





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