映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』は2021年6月11日(金)よりロードショー!
『機動戦士ガンダム』の富野由悠季監督が手がけた小説『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』をアニメーション映画化した3部作の第1部がついに劇場へ。
『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』劇中で描かれたシャアの反乱から12年。アムロとシャアの遺志を引き継ぐ男ハサウェイは腐敗した連邦政府に、世界に革新を促すことができるのでしょうか。
富野由悠季による小説が30年の時を経てついにアニメ化! アニメ化するにあたり見られた6つの違いを原作小説と比較、解説していきます。
CONTENTS
映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【監督】
村瀬修功
【キャスト】
小野賢章、上田麗奈、諏訪部順一、斉藤壮馬、古谷徹、津田健次郎、石田由依、落合福嗣、武内駿輔、松岡美里、沢城千春、種崎敦美、山寺宏一、川上洋平、磯部寛之、白井眞輝
【作品概要】
『機動戦士ガンダム』(1979)の生みの親である富野由悠季が執筆した小説を原作に『虐殺器官』(2017)の村瀬修功が監督を、歴代ガンダムシリーズ同様サンライズがアニメーション制作を担当。
人気声優の小野賢章が主人公ハサウェイを演じ、ヒロインのギギ役を上田麗奈が、ライバルとなるレーン役を斉藤壮馬が担当します。
映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』のあらすじとネタバレ
宇宙世紀0105、シャアの反乱から12年が過ぎた地球では「マフティー」と名乗る武装組織が地球連邦政府に対し反旗を翻し、政府高官を暗殺する事件が多発していました。
ある時、宇宙から政府高官を乗せ香港に向かうシャトルが「マフティー」を名乗る集団が襲撃。居合わせた連邦軍大佐ケネス・クレッグ(声:諏訪部順一)が抵抗する間もなく集団はシャトルを占拠します。
その乗客の中には、ハサウェイ・ノア(声:小野賢章)の姿がありました。
たやすく乗客の命を奪う襲撃犯の姿に怒りを覚えるハサウェイ。彼は謎の少女ギギ・アンダルシア(声:上田麗奈)の「やっちゃいなよ!そんな偽物なんか!」という言葉に背を押されるように襲撃犯の隙をつき銃を奪うと、ケネスと共にシャトルを襲撃犯から解放します。
シャトルは目的地の香港ではなく、最寄りの連邦軍基地があるダバオに着陸。ハサウェイはケネスから、武装集団が「マフティー」ではなく「オエンベリ」と呼ばれる集団であり、「マフティー」の名を騙っていたことを知ります。
映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』原作との比較解説・考察
シャトルにとりつくハイジャック犯
物語の冒頭、ハサウェイらが搭乗するシャトルにハイジャック犯が乗り込んできます。この時、シャトルにとりつく際に『機動戦士Zガンダム』に登場した可変MA(モビルアーマー)であるギャプランの飛行形態らしき機体で接近しています。しかし、原作小説ではMS運搬用の支援メカであるベースジャバーで接近、シャトルへ乗り込んできています。
この場面は大気圏を突破してまもなくの高高度での出来事であり、ギャプランの宇宙空間での運用を目的として設計されるも高高度での運用も可能という設定から、『Zガンダム』でも高高度で使用される場面がありました。
また、大気圏内用のブースターを装着したレアな姿であったため、これはファンにとってはうれしいサプライズになったのではないでしょうか。
ギギとハイジャック犯とのやり取り
ハイジャック犯が占拠したシャトルの乗員を確認する中、アニメーション動画を見ながら無邪気に笑うギギが、スーダン語・アラブ語・アイルランド語で構成される「マフティー・ナビーユ・エリン」の名前を揶揄する場面が登場します。
この会話は、原作小説ではケネスとの会話で交わされています。
また本作ではこの会話の直後、乗客の一人をハイジャック犯が射殺しますが、原作小説では射殺の後にギギに確認のため話しかけ、簡単なやり取りしかされていません。
こちらの場面はハイジャック犯がマフティーを騙っていることをギギが早々に感づいていた事を表すと同時に、後にハサウェイの行動を促すきっかけを与え、さらにその後でのハサウェイとギギがマフティーについて話す場面の布石になっているように感じられます。
ハサウェイとケネスのハイジャック犯との戦闘
映画劇中、ギギの叫びをきっかけにハサウェイはハイジャック犯たちを次々と倒し、コクピットに到達。最後の一人を絞め落とそうとしますが、操縦席のハイジャック犯を見落としており、窮地に立たされます。しかし、遅れて駆け付けたケネスに助けられます。
原作小説でのこの場面は、ハサウェイが一人でハイジャック犯を全員無力化してしまい、ケネスは全てが済んでからやってきます。また映画ではマシンガンを手に応援に駆けつけていましたが、原作では腕の拘束を外せないままでハサウェイを追ってきています。
そして「失敗したらどうするつもりだったんだ?」というケネスの問いに「分からない」と応えるハサウェイですが、原作小説では「どうもしない、死ぬだけだ」と応えます。
これらの展開の違いやセリフの変更からは、ハサウェイの衝動的な行動と後に展開していくケネスとの関係性の始まりを強調した演出を感じさせられます。
ハサウェイの問いと思い浮かべるかつての光景
ベットに寝そべるハサウェイが、ギギや街で出会った人々の言葉を反芻し、答えのない問いを虚空につぶやいた時、かつて見た落下するアクシズを押し返そうとするνガンダムから緑色の輝きが瞬く間に広がっていく光景を思い浮かべる場面が登場します。
こちらの場面は、原作小説では一切登場しない本作オリジナルとなっています。
ハサウェイ自身、「マフティー」での活動が現在の社会構造を変革するには仕方がないと想う反面、その行いは決して正しくはないと言う想いがせめぎ合っているのでしょう。かつてシャアの理想を知り、アムロの純真さに触れたハサウェイの心境が表現されている場面に感じられます。
ペーネロペー/レーン・エイムとの邂逅
「マフティー」の襲撃が落ち着き、現場にやってきたケネスに遭遇したハサウェイは、連邦軍の新型MSペーネロペーとレーン・エイムを目にすることとなります。
ケネスはこの時ハサウェイに、ペーネロペーは自分が準備した「ガンダム」であると説明し、ペーネロペーの性能を引き出せていないレーンに発破をかけるため「ハサウェイにペーネロペーを任せるぞ!」と叱咤します。
こちらも原作小説には登場していない場面になります。厳密には、ハサウェイはペーネローペーとレーン・エイムの姿を目にしますが、ケネスは「新型MS」としか説明せず、レーンを叱咤するだけとなっています。
原作小説ではペーネロペーはガンダムタイプのMSではなく、「その影響が見られる高性能MS」として扱われています。ただ小説が発刊されたのちに作られた設定で「オデュッセウスガンダムという機体にフライトユニットを装着した機体」がペーネロペーと説明されたため、映画では「ガンダム」として扱われています。
またケネスがレーンに対し発破をかける場面は、レーンが自信家であることが強調され、クライマックスでのΞガンダムとの対決シーンの布石となっているように感じられます。
アムロ・レイ、クェス・パラヤの存在
映画劇中でのハサウェイは、アムロ・レイとクェス・パラヤの声や姿を幻聴・幻視する場面が多々度々描かれています。
まずシャトルをハイジャックする襲撃犯と相対するハサウェイに、ギギが「やっちゃいないよ!そんな偽物なんか!」と叫ぶ場面では、ハサウェイの脳裏には同じセリフを叫ぶクェス・パラヤ(声:川村万梨阿)の声が響きます。また「マフティー」と連邦軍の戦闘からダパオの街を逃げ回った後、出会ったケネスに向かって走っていくギギの姿に、『逆襲のシャア』劇中にてクェスがシャアの下へ走っていく姿を重ね合わせます。
アムロ・レイについても、ガンダムに搭乗しレーンらの攻撃により一瞬死を意識するハサウェイが「身構えているうちは死神はやってこないものだ」というアムロ・レイ(声:古谷徹)の声とその姿を幻視します。
実は原作小説では、これらの場面は登場していません。唯一アムロが発したセリフが登場するものの、ハサウェイが本作同様、死を意識した自身を落ち着かせるための思考の一部として登場します。
『逆襲のシャア』に続く物語として執筆された原作小説。しかし作品としては後年制作された『機動戦士ガンダムUC』や『機動戦士ガンダムNT』の方が、宇宙世紀の時系列を踏まえると原作小説よりも「以前の時代」の世界を描いた作品として知られています。
そのため上記の『逆襲のシャア』とつながる描写が新たに加えられたのには、「本作の物語と『逆襲のシャア』の物語の結びつきをより強く感じさせるため」という意図があったと思われます。またハサウェイの心中でアムロ、クェスの存在が未だ大きななものであることをより強調して示す演出でもあります。
まとめ
富野由悠季による原作小説が発行されてから、およそ30年の年月を経て満を持してアニメ化された本作『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』。
ハサウェイ、ギギ、ケネスの3人の恋愛・友情・敵対が混ざり合う微妙な関係性を繊細な表現で描いた原作小説を見事に表現している上、迫力の戦闘シーンは紛れもなく本流の「ガンダム」であると感じられてなりません。
全三部作で構成される“閃ハサ”。以降の展開を期待すると共に、原作小説との違いを楽しんでみるのも新たな発見が得られるのかもしれません。