1930年に、漫画家のチャールズ・アダムスによって生み出された、ホラーな一家アダムス・ファミリー。
その個性的なキャラクターは、1960~1970年代にかけて、アメリカで実写ドラマやアニメシリーズが製作され、長年愛されています。
その幽霊一家が、CGアニメで復活したホラー・コメディ映画『アダムス・ファミリー』。
アダムス・ファミリーが巻き起こすドタバタ劇を通して語られる、現代社会に向けたメッセージについて深掘りしていき、作品の魅力をご紹介します。
映画『アダムス・ファミリー』の作品情報
【公開】
2020年公開(アメリカ映画)
【原題】
The Addams Family
【監督】
コンラッド・バーノン、グレッグ・ティアナン
【脚本】
マット・リーバーマン
【声のキャスト】
オスカー・アイザック、シャーリーズ・セロン、クロエ・グレース・モレッツ、フィン・ウルフハード、ニック・クロール、ベット・ミドラー、アリソン・ジャネイ、スヌープ・ドッグ
【作品概要】
漫画家のチャールズ・アダムスが、1930年に雑誌に掲載した一コマ漫画を原作に、新たなホラー・コメディとして誕生した映画『アダムス・ファミリー』。
アルフレッド・ヒッチコックやティム・バートンなど、さまざまな映画クリエイターに影響を与えたと言われる人気作品の映画化に、豪華キャストが結集しています。
一家の父親、ゴメズの声を「スターウォーズ」新3部作でポー・ダメロンを演じ、一躍世界的なスターになったオスカー・アイザック。
一家の母親、モーティシアを『スキャンダル』(2020)などで、3度のアカデミー主演女優賞にノミネートされた、名女優シャーリーズ・セロン。
その他、不気味な長女のウェンズデーを、「キックアス」シリーズのヒットガール役で大ブレイクしたクロエ・グレース・モレッツ、いたずら好きで危険な長男のパグズリーを、「ストレンジャー・シングス 未知の世界」シリーズでブレイクした、フィン・ウォルフハードが演じています。
映画『アダムス・ファミリー』のあらすじとネタバレ
人里離れた山奥。
ここで、ゴメズとモーティシアの結婚式が行われていました。
ゴメズは、モーティシアに結婚指輪を渡そうとしますが、幽霊の一族であるゴメズとモーティシアの結婚式を、近くの村の人間が不気味に感じています。
その為、結婚式を開催していた幽霊の一族は、人間に襲われます。
人間達から迫害を受け、ゴメズはモーティシアと、幼馴染で手だけの存在であるハンドと一緒に、人間から逃げ出します。
逃げる道中で、大男のラーチを車で轢いてしまったゴメズは、何故かそのままラーチを執事にします。
さらに、丘の上に立つ、廃墟となり怨霊が住み着いている屋敷を気に入ったゴメズは、モーティシアとの新居に選びます。
それから十数年後。
ゴメズとモーティシアの間に、2人の子供が誕生します。
長女のウェンズデーは、いつも暗い表情を浮かべ、常に何か悪だくみをしている不気味な性格です。
長男のパグズリーはいたずら好きで、ゴメズに爆弾を仕掛けて、困らせる事を喜びにしていました。
幸せで不気味な家庭を築いたゴメズでしたが、1つ心配事があります。
それは、幽霊の一族アダムス・ファミリーに伝わる大切な儀式「セイバー・マズルカ」を、パグズリーが披露する日が近付いているという事です。
「セイバー・マズルカ」は、一族を守る一人前の男性になった事を証明する儀式で、ここで失敗すると、一族に食べられてしまうという、恐ろしい結末を迎えます。
練習の日数が残っていない事と、パグズリーに全く剣舞の才能が無い事から、焦ったゴメズは、兄のフェスターや、魔女の母親を呼び、パグズリーに徹底指導を行います。
一方、アダムス・ファミリーが住む屋敷の下に、大勢の人が住む住宅地が建設されていました。
この住宅地をプロデュースした、人気テレビ司会者のマーゴ・ニードラーは、住宅地をカラフルに染め上げ、住んでいる人間が全員「普通」である事を、住宅地のセールスポイントにしていました。
マーゴは、自身のテレビ番組を巧みに利用し、住宅地の完売を目論みますが、住宅地から、丘の上に立つ不気味な屋敷が見える事に気付きます。
「あんな屋敷があっては、住宅地が売れない」と憤慨したマーゴは、アダムス・ファミリーの屋敷を、自分好みにリフォームしようと、番組スタッフと娘のパーカーを連れて乗り込みます。
映画『アダムス・ファミリー』感想と評価
不気味でユーモラスな幽霊一家が巻き起こす騒動を描いた、映画『アダムス・ファミリー』。
原作は1930年代に始まった一コマ漫画で、1991年には実写映画化された作品です。
日本でも大人気となり、自動車のCMキャラクターに起用されていました。
あの指を鳴らす有名なテーマ曲を、皆さん一度は聞いた事があるのではないでしょうか?
何故『アダムス・ファミリー』は、こんなにも長く愛されるキャラクターになったのでしょう。
それは、彼らは幽霊一族ですが、人を襲ったり迷惑をかけたりする事は無い、全く悪意が無いという部分ではないでしょうか?
悪意は無いのですが、幽霊一族なので、拷問器具で遊んだり、客を見送る時に「とっと逃げろー!」と血をばらまいたりと、彼らの日常が一般の人間からするとホラーの為、悪意が無いからこその質が悪い、でもそこがユーモラスになっていくという、本当に不思議な魅力を持つキャラクターです。
では、そんな幽霊一族が、何故2020年に復活したのでしょうか?
2020年版の『アダムス・ファミリー』で、テーマとなっているのは「個性を認める事」です。
住宅街をプロデュースし、アダムス・ファミリーを敵視するマーゴは、「普通」である事に価値を感じ、逆に「普通」でない人には容赦の無いキャラクターです。
皆が「普通」であるかを監視する為、街中にカメラを設置し、監視部屋まで作る異常さです。
ですが、これはSNSが普及した現代社会を反映した設定であり、Twitterで自分の価値観と違う人を、攻撃する人を見かけた事はありませんか?
自分と価値観が違う人を、リツイートして拡散して、更に攻撃の対象にする人もいますね。
最近よく耳にする「マスク警察」や「自粛警察」などの「〇〇警察」も、「常識」という言葉で人を監視して、締め付けている印象を持ちます。
つまり、マーゴはSNSで意にそぐわない人を平気で攻撃する人達のような、自称「常識人」という事です。
そんなマーゴは、アダムス・ファミリーを「普通じゃない」という理由で、街の住人を先導して排除しようとします。
ですが、マーゴはラストで、住人や一般人を馬鹿にしていた発言をし、全ての仕事を失います。
つまり「普通」や「常識」という言葉は、全員にとってのものではなく、誰か1人にとって、都合の良い言葉として使われている可能性があるわけです。
周囲の「普通」や「常識」を疑えという事ですね。
また、ラストでは、アダムス・ファミリーは、地域の住人と和解し、一緒に住居を修復し、マーゴはフェスターと不動産を立ち上げ、地道に物件を販売する仕事を始めます。
ウェンズデーとパーカーが交流し、お互いに影響を与える展開も含め「価値観を共有する事の素晴らしさ」も語られています。
まとめ
2020年版『アダムス・ファミリー』は、「個性を認める事」の素晴らしさをテーマにした作品ですが、「変化の必要性」にも言及している作品です。
それは、パグズリーが挑戦する「セイバー・マズルカ」の儀式のエピソードで語られていますが、「セイバー・マズルカ」は古来から剣での儀式でしたが、ゴメズはパグズリーに爆弾を渡し「セイバー・マズルカ」を成立させようとします。
剣が苦手なパグズリーですが、爆弾の扱いは得意な為、大活躍をします。
元来一族を守る一人前の男性になった事を証明する儀式が「セイバー・マズルカ」なので、その証明が出来るのなら、剣でも爆弾でも構わないわけです。
幽霊一族側も、伝統を重んじるばかりに、時代に取り残されてしまい、生き残るには変化を受け入れる必要があったわけですね。
その扉を開いたのが、ゴメズとパグズリー親子です。
2020年版『アダムス・ファミリー』は、ラストでいい話が展開される為、これまでのダークなコメディー路線を期待していた人からは、批判の声もありました。
ですが、アダムス・ファミリーというキャラクターも「時代に合わせて変化するべき」という事を、作品の内容を通して主張しているように思えます。
実際に2020年版『アダムス・ファミリー』は大ヒットし、すでに続編の製作も発表されている為、新たな時代の幽霊一族は、世の中に受け入れられたと言えます。
作品の内容も、ホラー映画のパロディなどが満載の、ドタバタコメディとなっており、どこの家庭も抱えている「家族の問題」に、アダムス・ファミリーも直面し悩む姿は、非常に人間臭さを感じます。
今の時代に向けた、重要なメッセージが込められた作品ですが、奇妙で愉快なアダムス・ファミリーを、何も考えずに観ているだけで、楽しめる作品となっていますよ。