「シッチェス映画祭ファンタステック・セレクション」は2019年10月11日(金)より全国3か所で開催。
スペイン・バルセロナ近郊のリゾート地シッチェスで毎年10月に開催されている映画祭「シッチェス映画祭」。
「シッチェス映画祭」で上映された、選りすぐりの作品を日本で上映する「シッチェス映画祭」公認の映画祭「シッチェス映画祭ファンタステック・セレクション」が、東京と名古屋、大阪で開催されます。
今回は「シッチェス映画祭ファンタステック・セレクション」上映作品となる、西村喜廣監督の『WELCOME TO JAPAN 日の丸ランチボックス』をご紹介します。
CONTENTS
映画『WELCOME TO JAPAN 日の丸ランチボックス』の作品情報
【日本公開】
2019年(日本映画)
【原案・監督・脚本・キャラクターデザイン・プロデューサー】
西村喜廣
【キャスト】
藤田恵名、屋敷紘子、サイボーグかおり、笹野鈴々音、鳥居みゆき
【作品概要】
『シン・ゴジラ』などで特殊造形プロデューサーを務めた、特殊メークアップアーティストで映画監督の西村喜廣が「今一番脱げるシンガーソングライター」として話題の、藤田恵名を主演に迎えたバイオレンス作品。
共演に『RE:BORN』など、数々の作品で本格アクションを披露してきた屋敷紘子、カルト的な人気を誇る女性芸人、鳥居みゆき。
映画『WELCOME TO JAPAN 日の丸ランチボックス』あらすじ
2020年「大東亜世界体育大会」により、世界各国から人が集まる日本。
鎖国により、独自に発展させた日本の文化を守る事を宿命づけられた、女殺し屋のキカは「こけし様」の指令を受け、日本を訪れる不良外国人と日夜戦いを繰り広げていました。
ですが、キカは、あるアイドルとの出会いで、これまで知らなかった世界に触れ、心境に変化が生まれていきます。
同時に「大東亜世界体育大会」を成功させる為に、アメリカに反抗的な人間を排除する女殺し屋が日本に放たれ、キカに狙いを定めるようになり…。
映画『WELCOME TO JAPAN 日の丸ランチボックス』感想と評価
開国したもう1つの日本
本作のオープニングは、鎖国から開国した日本が、これまで歩んできた歴史の説明から始まります。
鎖国していた日本が開国後に歩んだ歴史は、実際の日本の歴史と同じですが、2020年に「大東亜世界体育大会」の開催を控えているという辺りから、突然フィクションの中の日本となっていきます。
「大東亜世界体育大会」を迎え、さまざまな外国人が訪れる国となった日本で、鎖国時代からの日本文化を守る女殺し屋のキカ。
顔に日の丸のペイントを施し、着物をアレンジしたような、ど派手な衣装でギターを背負って、周囲に睨みをきかせながら、大股で街中を歩くキカの初登場シーンからして、藤田恵名の演技が秀逸でインパクト抜群です。
キカは「こけし様」からの抹殺指令を受けて、日本国内を荒らす不良外国人を排除していくのですが、弁当箱を武器に戦うという、ユニークな戦闘スタイルです。
キカを演じた藤田恵名は、運動神経に自信が無かった事から「死に物狂いで、殺そうとしている姿を伝える」事を考えながら演じました。
キカの戦闘シーンは生々しく、独特の世界観と相まって、本作ならではの迫力のあるシーンとなっています。
個性的なキャラクターとなっているキカですが、本作の物語の主軸は、殺し屋として生きる事を宿命づけられてきたキカの、心境の変化となっています。
日本開国後に独自の文化を育み続けたと言っても過言ではない、オタク文化の聖地「秋葉原」。
特に近年発展しているアイドル文化に、キカが触れる事から始まります。
鎖国により発展した日本文化を、守り抜いてきたキカが、近年独自に発展したアイドル文化に触れる事で、化学反応とも言える変化が起こります。
キカは作中、ほとんど喋らないのですが、作品後半で起きた、ある事により、これまで溜めていた感情を爆発させます。
「心の開国」とも呼べる変化を迎えたキカが、迎える結末に注目して下さい。
食文化という最大のカルチャーギャップ
本作は「外国人向けに、日本の事を解説したVTR」のような作風となっています。
特に説明の大半は、日本の食文化に関わる部分となっています。
本作で説明されている食文化の中で、代表的とも言えるのが「ラーメン」でしょう。
「ラーメン」は日本で独自進化を遂げ、今や日本の国民食とも言われています。
ですが近年では、ズルズル音を立てて麺をすする行為が、外国人からは不快とみなされる「ヌードルハラスメント」という言葉が生まれているように、ラーメンを食べるという行為を1つとっても、日本と海外ではギャップがあります。
各国の食文化は、海外からすると理解できない部分も多く、最大のカルチャーギャップと言えます。
ですが、食文化は、各国の積み上げた歴史から生まれた部分もあり、簡単に変えれば良いという事ではありません。
「ヌードルハラスメント」解消の為に「ラーメンは静かに食べよう」と言う意見もありますが、これは日本人自身が、これまで積み重ねてきた自国の日本文化を、否定しているとも感じます。
「日の丸弁当」や「かつ丼」を自分で作り、弁当箱に入れ、日本の文化を守る為に、不良外国人と戦うキカは、日本の食文化を尊重しながら、外国人に対抗しているように見えます。
「日本の食文化」という部分を強調した本作は、カルチャーギャップを、実にユニークな視点で捉えています。
「おもてなし」の心とは?
作中の「大東亜世界体育大会」は「東京五輪」をモデルにしていると思われます。
「東京五輪」と言えば、プレゼンの際に発せられた「おもてなし」がキラーワードになりました。
前述したように、食文化1つ取っても、理解しあう事が難しい外国人を、どう「おもてなし」すれば良いのでしょうか?
それは、本作のラストで「こけし様」から語られます。
いろいろ問題もあるかと思いますが、この「こけし様」の考えこそが、国際大会を開催する際に、日本が必要な考え方ではないでしょうか?
2019年は「ラグビーW杯」が日本で開催され、海外の人達との、文化の違いによるトラブルも報道されていますね。
海外の尊重すべき文化と、自国の守るべき文化。
国際大会も頻繁に開催されるようになった日本は、鎖国からの開国後、これまで以上に海外との距離が縮まっていると感じます。
今後、海外向けに日本が、どのように振る舞うべきか?
2019年というタイミングで、本作を通して考えてみてはいかがでしょうか?
まとめ
本作の舞台となっているのは、「大東亜世界体育大会」控えた架空の世界の、2020年の日本です。
架空の世界なので、日本とアメリカの女殺し屋が激突する、血しぶきが飛び交う独特の日本が展開されます。
しかし、前述したように、描かれているのは、日本のリアルな部分です。
では何故、本作の舞台は、架空の日本になっているのでしょうか?
それは、作品のラストに、とても分かりやすい形で明かされます。
本作は、心から「平和」を願った作品なのです。
『WELCOME TO JAPAN 日の丸ランチボックス』は「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション」にて上映される作品で、10月よりヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田、名古屋のシネマスコーレの3劇場で開催されます。
独特の世界観で放たれる「平和」へのメッセージを、ぜひ感じて下さい。