猫1匹をめぐる練りに練ったプロットと骨太なアクションに驚嘆
1匹の白猫をめぐる4人の男女の絡みあう運命を描いたノワールアクション作品。
『いざなぎ暮れた。』(2020)の笠木望が見事な構成の脚本を書き上げ、自身が監督を務めた秀作です。
空手家として知られるドラマ『ワカコ酒』で人気の武田梨奈、同じく空手経験のある芋生悠、新人女優でスケボーとパルクールで魅せる黒田百音、名バイプレーヤーとして知られる実力派、映画『名前』(2018)の津田寛治が共演。
ノンストップアクション『吾輩は猫である!』の魅力についてたっぷりご紹介します。
CONTENTS
映画『吾輩は猫である!』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【監督・脚本・編集】
笠木望
【出演】
武田梨奈、黒田百音、芋生悠、津田寛治、松林慎司、大塩ゴウ、バンダリ亜砂也
【作品概要】
『いざなぎ暮れた。』(2020)の笠木望監督が夏目漱石の「吾輩は猫である」から着想を得て脚本を書き上げました。
漱石作品と同じく「名前はまだない」白猫が借金のカタにとられたことから、4人の男女の運命がカタルシスへと暴走していくさまを緻密なプロットで描き出します。
記憶喪失の女性格闘家・美那を黒帯二段を有する空手家の女優・武田梨奈が演じるほか、幼い頃から習った空手に磨きをかけた『ひらいて』(2021)の芋生悠、スケートボードを得意とする新人・黒田百音が出演。
『シン・ゴジラ』(2016)『名前』(2018)などで知られる、名優・津田寛治が作品の背骨の役割を果たしています。
映画『吾輩は猫である!』のあらすじとネタバレ
対戦相手を半殺しにして留置所に入れられた女格闘家の間宮美那が、なぜか記憶喪失になって出所しました。彼女が段ボールに入れられた捨て猫をなでていると、待ち構えていたライバルのアンナが襲いかかります。
地下格闘技の試合に出すために美那を迎えに来ていたカツオたちが、慌ててふたりを車に乗せて走り出します。前回の試合で相手の腕を折った後、中指を立てた美那にアンナは怒っていました。
控室に新人バイトのナメカタたちが白猫を連れて入ってきます。
シャワー室でふたりきりになってからアンナは美那にキスしました。アンナは美那を愛していました。それでも何も反応しない美那を見て、本当に記憶喪失になっていることに気づいたアンナは驚きます。
借金とりに押しかけられた笹原は、借金のかたに両目の色が違う珍しいオッドアイの白猫を奪われてしまいます。それは娘が大事にしている猫でした。その後、借金取りたちにバイトのナメカタが合流します。
しかし、借金取りの若者は、冷酷なボスから猫を殺して笹原のところに持って行きすぐに金を回収してくるよう命令されます。
猫を殺そうとしたまさにその時、突然物音がしました。謎の人物が飛び出し、大勢が追いかけて行きます。
ボスとふたり残されたナメカタは猫を渡され、先ほどの若者に代わって殺すように命じられました。
笹原の娘のすずはスケボーがとてもうまい少女でした。帰宅途中に、自分の猫が車で連れ去られたのを見た彼女は、止めようとする父を振り切って家を飛び出します。
猫につけたGPSを追って闘技場にたどり着いた彼女は、パルクールで軽々と塀に飛び乗って部屋に忍び込み、男たちに連れて行かれる猫を発見しました。
そういうわけで、先ほど猫が殺されそうになった瞬間に音を立てて飛び出して逃げたのはすずでした。
一方、アンナは「計画を決行しよう」と美那に話していました。カツオには美那が逃げたと嘘をついて探しに行かせ、その隙にふたりは金庫室へと向かいます。
映画『吾輩は猫である!』の感想と評価
1匹の白猫をめぐり過去と現在を反復する緻密なプロット
猫を守るために命がけで戦う者たちを熱く描いた息もつかせぬノンストップ・ノワールアクション『吾輩は猫である!』。観はじめたらあまりの面白さに目が離せなくなる秀作です!
場面は主要人物ごとに切り替わり、現在と過去を自在に行き来します。その緻密なプロットにはただ唸らされるばかりです。
武田梨奈演じる美那は女格闘家で、地下闘技場で相手を半殺しにしたことから留置所に入れられていましたが、なぜか記憶喪失になって帰ってきます。
彼女を迎えたのは芋生悠演じる格闘家のアンナ。実は彼女に恋愛感情を持っていますが、周囲に悟られないために気に入らないと言って美那に殴りかかります。
ふたりの前に現れたのが、津田寛治演じる経営する工場が傾いたために闇バイトに来たナメカタでした。彼は狂った冷酷なボスに殺されそうになった白猫を抱えて逃げ出します。
黒田百音演じる猫を奪われた少女・すずは脅威の身体能力の持ち主です。得意のスケボーでGPSを頼りに猫を探しあて、パルクールで忍者のように壁を乗り越え敵のアジトに入り込みます。
この4人、そして猫の視点で、場面描写がなんどもくるくると切り替えられながらストーリーが進行します。
「あのシーンはこうなってたんだ」「全員が猫に固執していたのはこんな理由があったんだ」など、何度も感心して頷きながら観てしまいます。
あの冷酷なボスはもしかしたら猫にトラウマでもあったのだろうか、などと自分でも伏線を想像しながら観ても面白いかもしれません。
CGなしの骨太なアクションと、超人・すずのスケボー&パルクールは圧巻!
今作のみどころは緻密な伏線に加え、もうひとつあります。それは骨太な本格アクションシーンです!全編CGなしで撮影されたリアルな殺陣はみごたえたっぷり。
黒帯を持つ空手家で、香港の新聞「サウスチャイナ・モーニングポスト」で「活躍中のアジアのアクションスター10人」に唯一の女優として選ばれた武田梨奈が見事な蹴り技を披露しています。記憶喪失の上、ひとことも話さない美那という難役を好演しています。
ライバルのアンナ役の芋生悠もまた空手経験者で、美那とともに屈強な男たちとの戦いに臆せず立ち向かいます。
津田寛治はケンカがめっぽう強い過去にワケありの男になりきって、ヤクザ戦法で戦うナメカタ役を熱演。彼の存在がバックボーンとなり、作品をしっかりと支えています。
そして注目はなんといっても、少女・すずの見せる桁外れに優れた身体能力です!スケボーが得意な黒田百音が初出演を果たしました。パルクールはスタントだったそうですが、演じてみたらスタント以上にうまく演じ、笑顔が出てしまってNGとなったのだとか。
すずがスケボーを駆使して単身山奥までたどりつき、壁を忍者のようにひょひょっと軽々と登ってビルに潜り込む姿に唖然とすること間違いなしです!
まとめ
緻密に張り巡らされた伏線にしっかりと組まれたプロット、そしてずっと見ていたくなるほど見事なアクションシーンなど、観る者の目をくぎ付けにする仕掛けがたっぷりの秀作『吾輩は猫である!』。
若い女優3人の切れのある動きと、ベテラン名優・津田寛治がみせる気骨ある演技の調和も素晴らしい、極上のエンターテインメント作品となっています。
「猫の命を守る」というミッションをとおして、登場人物それぞれが心の傷を抱えながら、己の正義のためにただ戦い続ける姿に心打たれます。
彼らが猫に出会ったことは幸せなことだったのでしょうか。それとも…いずれにせよ、運命には誰も逆うことができないということがひしひしと伝わってくる一作です。