韓国映画『V.I.P.修羅の獣たち』は、6月16日(土)より、シネマート新宿ほか全国ロードショー。
『新しき世界』などで知られる韓国ノワールの逸材パク・フンジョン監督のクライム・アクション、いよいよ公開!
韓国とアメリカの双方の企てにより、北朝鮮から亡命した青年が連続殺人事件の容疑者として浮上。韓国警察チェ・イドが呪念の追跡するなか、なぜか国家情報院のジェヒョクは青年を保護し、捜査網を潜り抜けていくが…。
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映画『V.I.P.修羅の獣たち』の作品情報
©2017 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
【公開】
2018年(韓国映画)
【原題】
V.I.P.
【監督】
パク・フンジョン
【キャスト】
チャン・ドンゴン、キム・ミョンミン、イ・ジョンソク、パク・ヒスン、ピーター・ストーメア
【作品概要】
『新しき世界』で知られたポク・フンジョン監督が、『マイウェイ 12,000キロの真実』や『泣く男』の主演作を持つチャン・ドンゴンを主人公ジェヒョク役で描くクライム・アクション。
また、『エンドレス 繰り返される悪夢』のキム・ミョンミン、『密偵』のパク・ヒスン、『僕らの青春白書』のイ・ジョンソク、『ジョン・ウィック チャプター2』のピーター・ストーメアの豪華共演作です。
映画『V.I.P.修羅の獣たち』のあらすじ
©2017 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
北朝鮮のエリート高官の息子キム・グァンイルは、連れの部下たちと、他人を同じ人間だと思わぬ行為で、快楽殺人を楽しむ連続殺人犯でした。
その一家惨殺の事件を捜査を担当していた保安省のリ・デボムでしたが、上司から高官の息子の事件は捜査の打ち切りだと言われ、デボムは職務を解かれ、上司から厄介者として左遷を言い渡されます。
それから、殺人鬼グァンイルはそのことを隠して、ことの事実を知らない韓国国家情報院と、全く別の企てを抱いたアメリカCIAにより、北朝鮮から亡命させられた韓国への“企画亡命者”となります。
やがて、韓国でも7件にもおよぶ、未解決の連続殺人が発生。その殺人事件の犯人に、キム・グァンイルが有力な容疑者として捜査線に浮上します。
警察署長は連続殺人だけは、マスコミに騒がれると警視のチェ・イドに、どのような手を使ってもいいから事件を解決しろと指示を与えます。
その後、事件を捜査したチェ・イドは、部下たちを厳しく引き締め、執念深いギリギリの捜査をします。
すると、当初は発見できなかった被害者の遺体の体内にあった異物からグァンイルのDNA痕跡を見つけ、彼が真犯人であることに確信を得た警視のチェ・イドは、グァンイルの行方を追い掛けます。
しかし、国家情報院の要員パク・ジェヒョクの保護により、グァンイルは捜査網を潜ってしまいます。
国家情報院と対立をする警察。チェ・イドは目の前にいる真犯人グァンイルを逮捕することができず、苛立ちを募らせます。
そんな矢先、保安省所属の工作員リ・デボムまでチェ・イドを訪ねて来て、事態は予想もしない真相へと向かっていくが…。
映画『V.I.P.修羅の獣たち』の感想と評価
パク・フンジョン監督の作品傾向
2010年公開の『生き残るための3つの取引』、同じく同年公開の『悪魔を見た』の脚本を担当し、2012年公開の『新しき世界』の演出するまでに至ったパク・フンジョン監督。
観客に息つく間も与えずに広がり続けるストーリー性と、欲望を持つ強いキャラクターを巧みに描き、韓国の演出の語り部として名ストーリーテラーと言えます。
特に『新しき世界』は多数の海外映画祭で評価され、約460万の観客を動員し、評論家と観客から高い評価を得て、犯罪映画の秀作と呼ばれています。
フンジョン監督の『V.I.P. 修羅の獣たち』は、キャラクターの関係性と個人の欲望を絡め合せて緊張関係を執拗に描き出す、フィンジョン監督の得意分野の物語であり、映画監督としての真偽を見せる作品に仕上がっています。
国家間の利害と個人の欲望
『生き残るための3つの取引』と『新しき世界』が、警察、検察そして犯罪集団などの個別組織を絡めた利害関係を描きましたが、本作『V.I.P. 修羅の獣たち』では、俗にいう犯罪映画に登場するやくざは登場しません。
しかし、さらに内容的にスケール感を広げ、国家間の利害関係を扱い、そこに揺れる“激しいまでの個人の欲望”を描いた内容になっています。
パク・フンジョン監督は、「既存の犯罪映画ジャンルに限定されない複合的な構図の映画を作りたかった」と語っています。
それは南北分断という韓国の現実社会の中から、作品のテーマを模索したようです。
国家も法も統制不可能な北朝鮮からのVIPと、その彼を確保しようとする国家情報院と警察、そして北朝鮮の保安省、さらにはアメリカCIAの次々に自体が変わる対立が繰り広げられ、最後まで先行きから目の離せない物語性に緊張感とスリルを醸し出させています。
フンジョン監督特有の執拗で巧みな展開とパワーある演出は、『V.I.P. 修羅の獣たち』のは、新しい感覚の映画に欲するファンを満足させる作品です。
仕掛けのあるチャプター構成
本作『V.I.P. 修羅の獣たち』の特徴は5つのチャプター分けされた物語構成の演出を用いています。
高官の息子キム・グァンイルという、連続殺人事件の容疑者を中心に「国家情報院の隠蔽しようとするパク・ジェヒョク」、「警察の捕らえようとするチェ・イド」、「工作員の復讐しようとするリ・ボデム」といった三つ巴の目的を持つそれぞれの男たちのストーリーとなっています。
そこに、アメリカCIAをポール・グレイを入れれば四つ巴のそれぞれの個人の思惑が入り混じります。
そのことが難解なストーリーにならないように、『V.I.P. 修羅の獣たち』はチャプター分けがされています。
しかも、それはそれぞれの登場人物の過去も入り混じっていますが、キャラクターの説明と対立をチャプターで見せたことで、複雑な物語を一貫してある復讐に向かって、丁寧に見せることに成功しています。
映画の冒頭、チャン・ドンゴン演じるパク・ジェヒョクが、仕事先に向かう飛行機の機内で、薬を飲むまでに至る精神状態になったか、登場人物たちと一連の事件を見て、後にわかるような気もします。
そこでジェヒョクが見せた行動で始まり終わるチャプター構成は、何のためだったのか?映画はそのことを深く問いかけていました。
それぞれの男たちが階級社会という状況に身を置き、上の者に対して従うことしかできない、まるで身動きができない閉塞感。
そのことが韓国社会の特有の組織構造としてだけでなく、北朝鮮と韓国の関係。
あるいは、アメリカという国家との見えない階級にも及んでおり、日本人から見ても胸を打つ頷ける鋭い描かれ方をした作品です。
まとめ
本作は韓国と北朝鮮の男たちの関係を描きながらも、首を突っ込んでくる嫌なアメリカ人の男、CIA要員ポール・グレイ役にも注目です。
2005年のテレビドラマ『プリズン・ブレイク』でジョン・アブルッチ役を演じ、映画『ファーゴ』『ジョン・ウィック:チャプター2』などで、強烈な印象を残すスウェーデン出身のピーター・ストーメアが演じています。
また、この作品はパク・フンジョン監督の韓国ノワールとだけあって、警視チェ・イドをはじめ、登場人物が煙草を吸う場面はポイントになっており、高官の息子キム・グァンイル以外は、誰もスタイリッシュにが煙草を吸っているのが印象的。
往年のフランス犯罪映画のノワールや、かつての香港ノワールという、まさしく男根を彷彿させるメタファーは男気のある描写だといえ、“男の美学”を描いた映画として秀でた作品です。
韓国映画『V.I.P.修羅の獣たち』は、6月16日(土)より、シネマート新宿ほか全国ロードショー。
ぜひ、お見逃しなく!