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Entry 2019/04/26
Update

映画『マルリナの明日』あらすじと感想。女性監督モーリー・スリヤが西部劇的な作風で描くフェミニズム

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『マルリナの明日』2019年5月18日(土)ユーロスペースでロードショー!

ならず者たちの不条理な行為に抗った一人の未亡人が、自身の思いを貫く旅に出る姿を描いたインドネシア・フランス・マレーシア・タイ合作『マルリナの明日』は、インドネシアの僻村を西部劇の舞台と見立てた設定の中で、女性のフェミニズムを改めて考えさせられるようなストーリーです。

長編デビュー作の『フィクション。』がインドネシア映画祭で最優秀作品賞をはじめ4つの賞に輝いたモーリー・スリヤ監督。

本作はその3作目の作品で、『ザ・レイド GOKUDO』に出演したマーシャ・ティモシーが主演の未亡人をクールに演じています。

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映画『マルリナの明日』の作品情報


(C)2017 CINESURYA – KANINGA PICTURES – SHASHA & CO PRODUCTION – ASTROSHAW ALL RIGHTS RESERVED

【日本公開】
2019年(インドネシア・マレーシア・フランス・タイ合作映画)

【原題】
Marlina the Murderer in Four Acts

【脚本・監督】
モーリー・スリヤ

【キャスト】
マーシャ・ティモシー、パネンドラ・ララサティ、エギ・フェドリー、ヨガ・プラタマ

【作品概要】
田舎の村に暮らす女性の復讐劇を若手の女性監督モーリー・スリヤが描き、インドネシア映画祭2018で作品賞などを受賞。2017年の第18回東京フィルメックスのコンペティションで『殺人者マルリナ』のタイトルで上映し、最優秀作品賞を獲得しました。

映画『マルリナの明日』のあらすじ


(C)2017 CINESURYA – KANINGA PICTURES – SHASHA & CO PRODUCTION – ASTROSHAW ALL RIGHTS RESERVED

インドネシアの僻村で、ミイラと化した夫とともに一人暮らしをしている未亡人、マルリナ。ある日その彼女の家に、バイクに乗った一人の男が訪れます。

男はマルリナを虐げるように言いました。「あと30分で仲間が来て、お前の金と家畜をいただく。それから(俺たち)7人全員でお前を抱く。今夜は祭りだな」男はこうして静かに暮らしていたマルリナの生活に絶望をもたらします。

やがてやってきた、ならず者の4人の男たち。最初に訪れた男が、男たちに料理を作るようマルリナに命令します。

絶望に暮れるマルリナですが、ふと頭に沸いた一つの思いから、決意を固めた表情に変えていきます。

マルリナは毒の実を混ぜた鶏のスープを男たちに振る舞い、疑いもなくそれを食した4人は次々と倒れていきます。

そんな中でマルリナは隣の部屋で寝ていた、最初に訪れた男にもスープを勧めます。男はそれを拒否しマルリナに襲い掛かります。

その動きに抗うマルリナは、脇にあった剣ナタを振りかざし、男の首を一刀で切り落としてしまいます。

一夜が明け、マルリナはならず者と対峙すべく、警察に自首することを決断。切り落とした男の首を片手に、警察に向かうべくバスを待ちます。そこでマルリナは、友人で臨月を迎えた女性・ノヴィと出会います。

おぞましい生首の表情に、自身の表情を硬くしながらもマルリナの話を聞いて、自首に反対するノヴィ。また訪れたバスの運転手からも乗車を拒否されます。

しかしマルリナは、手にした剣ナタで運転手を脅し、決意を曲げようとしません。そしていよいよ彼女は旅立ちます。

そのころ、マルリナの家に遅れて到着した、ならず者の残りの2人であるニコとフランツ。彼らは家に転がっていた4人の死体と、一人の首なし死体を見つけて愕然。

彼らは嘔吐しながら強く地団駄を踏み、復讐を果たすべくマルリナたちが乗ったバスを追いかけます。

彼らがバスに追いついた時、ちょうどマルリナは用を足していたため捕まえることができませんでした。しかし彼らはバスをジャック。逃げ延びたマルリナは、道端にいた馬に乗り、再び警察に向かう旅に出ます。

やがてたどり着いた警察署。マルリナは署に出向く前に、息子と同じ名前の少女・トパンに出会います。マルリナは彼女に首を一時預かってもらい、いよいよ警察署で事情を訴えます。

しかし警察は「暴行罪で裁くには証拠が必要で、証拠を取るにはお前を検査することが必要。その器具が届くのは来月になる」と、まともに取り合ってもらえません。

果たしてマルリナは、ならず者たちの襲撃にどう立ち向かうのか?

一方で人質として取られながら、いよいよ子どもが生まれそうになるノヴィ。その結末やいかに…?

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映画『マルリナの明日』の感想と評価


(C)2017 CINESURYA – KANINGA PICTURES – SHASHA & CO PRODUCTION – ASTROSHAW ALL RIGHTS RESERVED

西部劇調の作品に込められたカラー

キャッチコピーには「インドネシアの荒野から放つ 超痛快“ナシゴレン・ウェスタン”!」といった文章がありますが、作品から受ける退廃的な印象、人々の目に見える緊張感からは、確かに西部劇を彷彿する箇所が多く確認できます。

実際にモーリー・スリヤ監督は、アイデアとしてロケ地であるインドネシアのスンバ島の自然に西部劇をイメージし、演出的な部分にこれを反映することを当初より考えられたそうです。

また音楽制作のリクエストとしても、西部劇を反映してほしいというマターが存在したといいます。

オリジナルの西部劇からすれば、本作のストーリーから得るイメージは、“西部劇風”という部分にとどまっているという印象は否めないかもしれません。

しかし劇中の舞台となるビジュアルのインドネシア・スンバ島の少しすさんだような風景、その中に住む人たちの表情には、そのイメージを超える荒廃感、緊張感のようなものも見えてきます

スンバ島はインドネシアでも最も貧しい地区の一つであり、映画の設定のように人々が武器としてサーベルを持ち歩き、田舎では強盗のグループが家を襲うことがいまだにあるといいます。

他方でスンバ島には美しい自然があり、ここは何世紀にもわたって形成された文化と信仰を持つ場所でもあります。

近年では東南アジアの観光拠点の一つとしても知られるインドネシアに、このような風景があるというのは、ちょっとしたカルチャーショックもあることでしょう。

そんな土地柄の事情には、何か“開拓時代にならず者たちが幅を利かせ、信念を持ったものがそれに立ち向かう”という西部劇に近い関係図が見えます。

逆に西部劇の真のイメージとは、こういったものであるということを改めて考えさせてくれるようにも感じられます。

また、マルリナの家にある夫のミイラ、はねられた生首、首なしの死体などショッキングな場面首を落とすバイオレンスな描写なども織り交ぜ、インドネシアの“西部劇”=「ナシゴレン・ウェスタン」のイメージをうまく表現しているようにも見えます。

女性の権利と立場を考えさせられる


(C)2017 CINESURYA – KANINGA PICTURES – SHASHA & CO PRODUCTION – ASTROSHAW ALL RIGHTS RESERVED

一方で映画のストーリーには、娯楽的な要素だけではなく、女性の思いを代弁してくれるようなポリシーも感じられます。

設定として興味深いのは、西部劇の構図の中で存在する主人公、信念を持ってならず者と台頭する役を、マルリナという一人の女性に置き換えたところにあります。

改めて考えてみると、西部劇というのは男社会の構図がメインとなります。

対照的にこの作品では、主人公を中心として女性同士の関係をうまく表現した展開が演出として取り込まれています。

男たちに虐げられるマルリナ、その友人のノヴィもまた、臨月という大変な時を迎えながら、亭主に全く大事にされず虐げられる妻のイメージです。

そしてその2人、さらにバスの中で出会う老女、途中で出会う、息子と同じ名前を持った女の子トパンと、様々な女性同士の会話の中で、マルリナがこの窮地に置かれた状況での思いを推し量ることができます。

逆にその思い以外のこと、特に会話に出てくる女性たちの言葉に、まるで男性の会話に出てくる下ネタのようなあからさまな表現などは、男性視線からすると、かなり衝撃的かもしれません。

しかし深く考えてみれば、そういった認識がされないからこそ、女性は女性としての存在意義を認められなかったのではないかと考えることもできるでしょう。

この女性同士のシーンは、映画のシリアスなイメージに反して、少し滑稽に見えるかもしれません

しかし、だからこそ逆にこの“女性の権利”という面を見せる点で、大きな印象を抱かせるようになっているとも見えます。

そう考えると、冒頭の一幕でマルリナが決意を表情に表すところ、そして彼女がならず者たちに立ち向かう姿には、重要な意義が込められているようでもあります。

現代ではインドネシアも都会の女性は自立する傾向にあるといいますが、一方でスンバ島のような地方では、いまだに台所だけが女性に与えられた居場所、という状況が残っているともいわれています

その意味でこの映画には、さらに強く女性のフェミニズムを表している印象があります。

インドネシアの映画事情への期待


(C)2017 CINESURYA – KANINGA PICTURES – SHASHA & CO PRODUCTION – ASTROSHAW ALL RIGHTS RESERVED

様々な社会事情から、映画という文化では未熟さもあるインドネシアでありますが、近年注目作が多く登場する東南アジアの一国でもあります。それだけに、作品への関心も集まるところではあります。

近年では2011年に格闘アクション映画『ザ・レイド』がヒット、2013年にはその続編であり、松田龍平や北村一輝、遠藤憲一なども出演を果たした『ザ・レイド GOKUDO』が登場、大きな話題にもなりました

国内のシーンでは、まだヒットという面ではコメディやホラー、ラブストーリーといった、娯楽を前面に出した分かりやすいジャンルが大きく幅を利かせているところであります。

一方でこの『マルリナの明日』は、単なる娯楽映画という印象にとどまらないという意味では、そういった状況に一石を投じる印象もあります。

主演のマーシャ・ティモシーは、『ザ・レイド GOKUDO』に出演の経験もあるなど、大きな舞台で演じる力量も十分。

このストーリーでは大きな心情の変化を見せない微妙な演技を、非常にナチュラルに見せています。また共演陣も彼女の雰囲気に合わせたレベルの高い演技を披露しています。

全般的に長回しが多いカットの中でも、みな息切れしていない伸び伸びした演技を見せており、作品の完成度としても高さを感じさせています

まとめ


(C)2017 CINESURYA – KANINGA PICTURES – SHASHA & CO PRODUCTION – ASTROSHAW ALL RIGHTS RESERVED

映画のクライマックスは意外にもあっけなく感じるでしょう。しかし同時に様々な思いを感じさせるよう、余韻を長く感じさせストーリーを終焉に導きます。

主演を務めたマーシャ・ティモシーは2006年から女優としてのキャリアをスタート、対してノヴィ役を務めたデア・パネンドラは、映画出演は今回が初という新人。

劇中ではそういった年齢のギャップも、作品の印象をより深いものにしているようでもあります。

監督・脚本を務めたモーリー・スリヤは、2008年に公開された長編デビュー作『フィクション』がインドネシア映画祭で最優秀作品賞をはじめ、4つの賞に輝きました。

また2作目となる2013年の『愛を語る時に、語らないこと』ではインドネシア映画として初めてサンダンス映画祭に出品され話題になりました。

そして3作目となった本作は、第70回カンヌ映画祭監督週間で上映、第18回東京フィルメックス最優秀賞をはじめ、国内外で数々の賞を受賞、世界中の注目を集めています

そんな点から考えると、本作はインドネシア発の作品をより世界の目に向ける要因となる作品となったともいえるでしょう。

映画『マルリナの明日』は、2019年5月18日(土)より、ユーロスペースで公開!

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