世界を平和に導く、独立した諜報機関「キングスマン」は何故誕生したのか?
世界平和の為に秘密裏に戦う、政府からは独立した秘密諜報機関「キングスマン」。
この「キングスマン」の戦いを描いた、人気アクションシリーズ最新作『キングスマン:ファースト・エージェント』では、「キングスマン」誕生の秘密が明かされます。
「キングスマン」は、何故秘密組織なのか? 何故テーラーが秘密基地になっているのか? 何故「キングスマン」のエージェントは紳士であることを求められるのか?など、これまで謎だった部分が『キングスマン:ファースト・エージェント』では明かされます。
これまでの「キングスマン」シリーズとは打って変わり、重厚な人間ドラマが中心となった本作の魅力をご紹介します。
CONTENTS
映画『キングスマン:ファースト・エージェント』の作品情報
【日本公開】
2021年公開(アメリカ映画)
【原題】
The King’s Man
【原作】
マーク・ミラー、デイブ・ギボンズ
【監督・脚本・製作】
マシュー・ボーン
【キャスト】
レイフ・ファインズ、ジェマ・アータートン、リス・エバンス、マシュー・グード、トム・ホランダー、ハリス・ディキンソン、ダニエル・ブリュール、ジャイモン・フンスー、チャールズ・ダンス
【作品概要】
2014年に公開され、爆発的なヒットとなったスパイアクション映画『キングスマン』。
その「キングスマン」誕生となる物語が語られる、映画『キングスマン:ファースト・エージェント』。
「キングスマン」を創立するオックスフォード公を「ハリー・ポッター」シリーズのヴォルデモート卿役で知られる、レイフ・ファインズが演じています。
本作の監督、脚本、製作を、これまで「キングスマン」シリーズ全作を手がけてきた、マシュー・ボーンが務めています。
映画『キングスマン:ファースト・エージェント』のあらすじとネタバレ
1902年、オーランド・オックスフォード公爵は、息子のコンラッドと妻のエミリー、執事のショーラと共に、捕虜が収容されたキャンプを訪問していました。
その際、幼いコンラッドは、ショーラに「父親はアーサー王のようで、自分はランスロット、ショーラは最強の魔術師マーリンだ」と話をしていました。
その時、オーランド暗殺を狙った狙撃手が発砲。エミリーがオーランドをかばい、命を落とします。
悲しむオーランドに、エミリーは「コンラッドを、お願いします」と言い残します。
12年後。
コンラッドは、オーランドから飛行機の操縦技術を学び、ショーラに格闘術を叩きこまれ、たくましく成長していました。
時は第一次世界大戦前夜、コンラッドは自ら兵隊に志願し、戦場に出ることを望みますが、過去に戦争で苦しい想いをし「平和主義者」として知られるオーランドは、それを認めません。
オーランドは、コンラッドに「紳士の振る舞い」を教える為、テーラー「キングスマン」に連れて行きます。
そこで、オーランドは、コンラッドにスーツを仕立てさせ「英国紳士と呼ばれる者の先祖は、過去に他人の土地を略奪した無法者だった。同じ人間になってはならない」と語りますが、コンラッドは聞く耳を持ちません。
コンラッドのスーツの仕立てが終わり、帰ろうとしたオーランドに、イギリスの陸軍大臣であるキッチナーと、陸軍の将軍であるモートンが近づきます。
キッチナーは、オーランドにイギリス国王であるジョージ5世の「相談に乗ってほしい」と伝えます。
オーランドがジョージ5世の悩みを聞くと、ジョージ5世はいとこである、ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世、ロシア皇帝ニコライ2世との関係が悪化し、戦争が起きる可能性に頭を痛めていました。
オーランドはジョージ5世に依頼され、コンラッドと共に、オーストリア皇位継承者フェルディナント大公と、その妻であるゾフィーの警護にあたりますが、目の前でセルビア人の青年に暗殺されてしまいます。
オーランドは、捕まったセルビア人の青年が、謎の指輪をはめていたことで、暗躍する組織の存在に気付きます。
さらに、オーランドは、コンラッドのいとこにあたる、ロシアの貴族フェリックスから「ラスプーチンという怪しい僧侶が、ニコライ2世を操っている」という情報を手紙で受け取ります。
その背後には、オーランドの予想通り「羊飼い」と呼ばれる男を中心にした、秘密結社が暗躍していました。
「羊飼い」の目的は、戦争を仕掛けイギリスを壊滅させることで、ラスプーチンも「羊飼い」のメンバーだったのです。
ラスプーチンはニコライ2世を操り、ロシアを戦争から撤退させた後に、強力な軍事力を誇るドイツが、イギリスを壊滅させる戦争を起こすように仕向けていました。
世界に緊張が走る中、オーランドはコンラッドに、ある秘密を打ち明けます。
オーランドの屋敷に仕えるメイド、ポリーを中心に、オーランドは使用人のネットワークを構成し、世界中の情報を集める諜報機関を独自に形成していました。
さらに、ショーラも戦闘要員として参加しており、オーランドは世界平和を目的とした、秘密組織を作り上げていたのです。
オーランドは、イギリスを守る為に、ラスプーチンの暗殺を計画し、ポリー、ショーラそしてコンラッドを加えた4人で、ロシアに向かいます。
映画『キングスマン:ファースト・エージェント』感想と評価
世界平和の為に、秘密裏に悪と戦う諜報部員の活躍を描いた『キングスマン』(2014)。
1作目では、ストリートの不良だったエグジーが「キングスマン」のエージェントになるまでが描かれており、2作目の『キングスマン:ゴールデン・サークル』(2017)では、アメリカの諜報機関「ステイツマン」が登場し、新たな世界が広がりました。
『キングスマン:ゴールデン・サークル』が、横の世界の広がりであるなら、『キングスマン:ファースト・エージェント』は縦の世界の広がり、つまり「キングスマン」誕生の歴史が描かれています。
「キングスマン」シリーズと言えば、悪ノリとも呼べるハイテンションな作風と、過激なアクションが特徴ですが、『キングスマン:ファースト・エージェント』では、オーランドとコンラッドのオックスフォード親子を中心とした、人間ドラマが主体となっています。
舞台も第一次世界大戦直前の1914年で、戦争のキッカケとなった「サラエボ事件」や、陸軍大臣のキッチナーが、ドイツの攻撃で沈没されるなど、史実を取り入れた物語となっています。
その為、過去2作と比べると、真面目で重たく感じるかもしれません。
ですが、バレエのような奇怪な動きを見せる、ラスプーチンとの戦いや、クライマックスで展開される「羊飼い」のアジトでの戦闘などは、実に「キングスマン」らしい、悪ノリ全開の場面となっています。
ネットワークが無い時代に「使用人の情報網を使う」という発想はユニークですし、シリーズではお馴染みの「ナイフを仕込んだ靴」の誕生や、1作目の「パラシュートテスト」を連想させる場面もあり、シリーズのファンならニヤリとしてしまうでしょう。
史実を元にしたエピソードも、かなりスピーディーに展開していくので「第一次世界大戦」の背景を知らないと、少し難しく感じるかもしれませんが、「戦争の裏で暗躍する組織に、戦いを挑むオーランド」ぐらいの認識で、充分楽しめるようになっています。
「キングスマン」に所属するエージェントは、必ずスーツを着こなし、紳士であることが重要視されますが、その理由が『キングスマン:ファースト・エージェント』で判明します。
「英国紳士」と呼ばれる人達の先祖は、略奪により土地を奪って来た、野蛮な人種でした。
オーランドは、そんな先祖たちを恥に思い「平和主義」を貫き「野蛮」ではなく「礼節」を重んじました。
ですが、平和を維持するには、時には戦うことも重要で、大事なのは「その力を如何に正しく使うか?」ということです。
政府から独立し、圧倒的な科学力と情報収集能力を持つ「キングスマン」は、1つ間違えれば危険な組織となりますが、それを縛るのが「礼節」であり「紳士」であることだったのです。
そのことを気付かせてくれたのが、息子のコンラッドの「最後まで戦う姿勢」でした。
「キングスマン」では、それぞれに「アーサー王と円卓の騎士」から取られたコードネームが付けられますが、それは幼い頃にオーランドを「アーサー王」に例えた、コンラッドへの敬意でもあったのです。
『キングスマン:ファースト・エージェント』は、これまでの作品と比べると、真面目な人間ドラマが展開されますが「紳士とは?」というテーマに向き合うには、これぐらいの重厚な物語でないと語れなかったのでしょうね。
また、本作では「羊飼い」という悪のボスが登場しますが、エンドクレジットの映像で「羊飼い」は継承され、暗躍を続けていることが分かります。
1作目の敵であるヴァレンタインは、特殊なSIMカードを使い、人類を凶暴にしました。
2作目の敵であるポピーは、ウィルス入りの麻薬を流し、病原体を広げました。
2人とも、方法は違えど目的は「人類の選別と殲滅」です。
もしかすると、2人の背後には、現代の「羊飼い」が存在しているのかもしれません。
2022年から『キングスマン:ファースト・エージェント』の続編が撮影される予定になっています。
『キングスマン:ファースト・エージェント』で語られた「キングスマン」の歴史が、今後どのような形で絡んでくるのでしょうか?
そういった意味でも『キングスマン:ファースト・エージェント』は、作風はこれまでと違いますが、シリーズが好きな方は必見の作品となっています。
まとめ
『キングスマン』の1作目は、スパイ映画の古典とも言える「007」シリーズに敬意を表しながらも、絶妙に否定するという、新たなスパイ映画でした。
しかし『キングスマン:ファースト・エージェント』は、世界大戦の危機に、秘密機関の諜報部員が挑むという、スパイ映画の王道のような作品です。
「羊飼い」のメンバーは「魔性の女スパイ」と呼ばれたマタ・ハリや、実際にロシア皇帝ニコライ2世を惑わせていたラスプーチンなど、実在したとされる人物も多数登場しています。
「史実の裏に、実はこんな戦いがあった」という展開も、スパイ映画の王道なので、『キングスマン:ファースト・エージェント』は、組織「キングスマン」の原点を描きつつ、意識的に過去2作とは違う、スパイ映画の原点的な面白さを追求した作品であると言えます。