映画『永遠に僕のもの』は、1971年にアルゼンチンで起きた連続殺人事件を題材にした作品。
監督・脚本を兼務したのは、『La Caja Negra (原題)』(2002/日本未公開)でスイスのフリブール国際映画祭のドン・キホーテ賞を受賞したアルゼンチン出身のルイス・オルテガ。
主人公のキャラクターや音楽等オルテガ独自のセンスとアイデアで制作されたクライム・ドラマ作品です。
オーディションで1000人の候補から主役に選ばれたロレンソ・フェロは、本作が俳優デビュー。
映画『永遠に僕のもの』の作品情報
【公開】
2018年(アルゼンチン・スペイン合作映画)
【原題】
El Angel
【監督】
ルイス・オルテガ
【キャスト】
ロレンソ・フェロ、チノ・ダリン、ダニエル・ファネゴ、セシリア・ロス
【作品概要】
本作は伝記ではなく、ルイス・オルテガ個人の解釈に基づいた物語で、影響を受けたのはジャン・ジュネだと明かしています。
公開後は南米に留まらず欧米でも脚光を浴びており、カンヌ映画祭やスペインのサン・セバスティアン映画祭等数々の映画祭でノミネートを果たしています。
演技初挑戦となったカルロス・プッチ役のロレンソ・フェロもシアトル国際映画祭で主演男優賞にノミネートされました。
映画『永遠に僕のもの』のあらすじとネタバレ
1971年、ブエノルアイレス。カルロスは民家に忍び込みネックレスとオートバイを盗んで帰宅。母・オーロラからオートバイのことを訊かれたカルロスは、学校の友達が貸してくれたと嘘をつきます。
「たくさんの人がいろいろな物を貸してくれるのね」と言う母に、「僕は信頼されているんだ」とカルロスは平然と答えます。
父・ヘクターは人から借りた物は自分の物ではないので、家に持ち帰らないよう促し、新学校で再出発が出来る機会を大切にするよう息子に忠告。欲しい物は働いて自分で手に入れるよう教えました。
カルロスはガールフレンドに盗んだネックレスを渡し、母が幼い時に使った物だと話します。
登校したカルロスは、関心を持っていた年上で一匹狼のラモンにちょっかいを出して殴られます。
しかし、翌日盗んだコレクションの中からジッポライターやレコードをラモンにプレゼント。カルロスの風変わりな性格を気に入ったラモンは自宅へ招き両親を紹介。
ラモンの父・ホゼは拳銃の手入れをしており、カルロスに撃ってみたいかと尋ねます。家族が住む家で安心だと言われ、カルロスはそのまま壁に向かって引き金を引きます。
銃を撃つ感触に興奮したカルロスは、思わず自分がテラスからジーンズを盗んだ時に見つかって発砲された時のことに触れ、窃盗は自分の性に合っていると話します。
カルロスは、自分と異なり父のヘクターは真っ当だと言うと、ホゼは自分も真っ当だと返します。それを聞いていたラモンが吹き出し、腹を立てたホゼが息子を平手打ち。父子で叩き合う所へ母のアナが真中に座って仲裁します。
もう一度銃を撃ちたいと頼んだカルロスは、弾が高いと聞いて銃器店へ盗みに入ろうと提案します。
ラモンを連れて銃器店へ来たカルロスは外でラモンを見張りに立たせ、自分は2階から店へ侵入。ホゼは車の中で待機します。バッグに詰められるだけ銃と弾を詰めたカルロスは、店のシャッターを開けて出てきます。
前科を持つホゼは、カルロスの恐れを知らない大胆さを見て特異な才能を見出し、カルロスを鍛えれば儲けになるとラモンに耳打ちし姑息な表情を浮かべます。
ラモンは、今後カルロス・ブラウンと名乗るよう偽造した身分証明書をカルロスに渡し、ロベルト・サンチェスと言う名で偽造した自分のIDを見せます。
そして、盗んだ銃を売った儲けからカルロスの分け前を手渡し、次は独り身の高齢男性の家を狙う計画を説明。外出しない男性が在宅しているかもしれないとラモンは話します。
身軽なカルロスが窓を割って男性の家に侵入。玄関の外で待つラモンを中へ入れようとした時、家に居た男性がリビングの電気を点けます。
焦ったカルロスは振り向きざまに持参していた拳銃で男性を撃ってしまいます。ショックで呆然と歩いて行く男性を無視した2人はたくさんの絵画を盗み出します。
閉店後の宝石店を襲いラモンが急いでバッグへ品物を入れて行くのを見たカルロスは、「焦らずにもっと人生を楽しめ」とラモンにアドバイス。
カルロスは奥の事務室にある金庫を開けようと言いますが、ラモンは一刻も早く逃げようと考えています。
カルロスは腹の虫がおさまらず、宙に向けて銃を発砲。
麻薬中毒のホゼは自宅に盗んだ絵画を置いておくことに神経質になります。カルロスとラモンは、クラブに居合わせた有名な芸美術品収集家・フェデリカに近づき、絵を購入して欲しいと声を掛けます。
同性愛者のフェデリカはラモンを気に入り、2人を家に招待。フェデリカと性行為の相手をした後、ラモンは目に着いた品を盗み、絵を置いてカルロスと宿泊しているホテルへ戻りました。
そんな中、ホゼの仕事を手伝うと言って家を空けているカルロスを心配したオーロラがラモンの家を訪問。アナとホゼはカルロスを褒め、給料をはずんでいると嘘をつきます。
オーロラは、まだ子供のカルロスは自分で自分を守れないと胸を痛めていました。
一方、カルロスとラモンは路上駐車している車の窓ガラスを割って車内から物を盗み出し、ラモンが運転する隣でカルロスは気に入らない物を窓から捨てて行きます。
しかし、検問で停められたラモンは偽造IDを持参して居らず、カルロスも警察署へ一緒に連行されます。
映画『永遠に僕のもの』の感想と評価
本作の主人公の基になったカルロス・プッチが世間を騒がせた理由はただ1つ、その美しい容姿です。
犯した罪の内容は常軌を逸し極めて残忍。見知らぬ夫婦の家に押し入り、夫を射殺した後に妻も銃撃し、ベビーベッドで泣きだした赤ん坊にまで発砲。1年間で実に11人もの人を殺害しています。
しかし、監督・脚本を務めたルイス・オルテガは、このカルロス・プッチの伝記を描くつもりは毛頭無く、自分の思い出を取り入れながら制作しました。
マイアミで幼少時代を過ごしたオルテガは、フランシス・フォード・コッポラの『アウトサイダー』(1983)や『ランブルフィッシュ』(1984)を観て育ち、同じような方向性の映画を作りたかったと話しており、実際の事件はかなり昔で詳細は分からないと述べています。
また、オルテガがマイアミで親しくなった友人の家族がホゼとアナのモデルです。
「煙草も吸わず声も荒げない自分の両親とは異なり、彼の家族は家の中で射撃をしていたことに子供だった僕は興奮した」とオルテガは語っています。
彼が描く殺人者は自分の人生を楽しむ延長線上に犯罪をおかします。
そして、警察に掴まり一度は逃走できても、全てを失ったことに気づいて涙する未熟さや母親に電話して迎えに来て欲しいと頼む幼稚さは、この連続殺人犯もまた人間であるとオルテガは表現しています。
更に、オルテガは自分の映画を観た人に暴力的衝動を誘引したく無かった為、作品を通してカルロス・プッチを観客に理解させようとはしていません。
劇中にある通り、カルロス・プッチ本人は持参した拳銃で寝ている被害者を射殺。裁判官になぜ眠っている人を襲ったのか尋ねられたプッチは、「起こして殺せばよかったの?」と訊きかえしたそうです。
40年以上終身刑で服役している上で、反省も無く、自分をロビン・フッドだと呼ぶプッチを「クレイジー」と一蹴するオルテガは、連続殺人犯の特異なロジックと捉えています。
結果として、オルテガは犯罪の場面をドラマチックに描写しておらず、不可解さと不気味さが逆に増幅。オルテガの意図した狂人が見事に浮かび上がらせることに成功しています。
まとめ
アルゼンチン史上前代未聞の事件を基にした『永遠に僕のもの』は、美しいティーンエイジャー・カルロスが凶悪な殺人者へ変わって行く様子を描いています。
自分を思う両親と何不自由ない生活には興味がなく、格好良いラモンと盗みをはたらくことが彼にとって人生を楽しむことでした。
1960年代ニューヨークを拠点に音楽活動をしていた「6番街のヴァイキング」の異名を持つ盲目のミュージシャン「ムーン・ドック」を背景音楽に使い、ルイス・オルテガは軽快なリズムに乗せて淡々と犯罪を繰り返す主人公を追い、究極のエゴイストを描き出しています。