マイケル・キートンがマクドナルドの創業者レイ・クロックを演じる、実話をもとにしたドラマ『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』が公開されています。
あのマクドナルドの創設にこんなドラマがあったとは!?
CONTENTS
1.映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』作品情報
【公開】
2017年(アメリカ)
【原題】
『The Founder』
【監督】
ジョン・リー・ハンコック
【キャスト】
マイケル・キートン、ニック・オファーマン、ジョン・キャロル・リンチ、リンダ・カーデリニ、パトリック・ウィルソン、B・J・ノヴァク、ローラ・ダーン
【作品概要】
1954年、マルチミキサーのセールスマンとして働いていたレイ・クロックは、ある日、一度に8台も注文してきた店の存在に驚きます。それはマック&ディックのマクドナルド兄弟が経営するカリフォルニア州サンバーナーディーノのバーガーショップ「マクドナルド」でした。レイはすぐさま、現地に向かい、時代のニーズに応じた画期的なシステムをとっているその店に魅了されます。彼は二人を説得して、フランチャイズ化に乗り出しますが、やがて両者の間に大きな亀裂が生まれます。マイケル・キートンがレイ・クロックを熱演しています。
2.映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』あらすじとネタバレ
運命の出逢い
1954年。52歳のレイ・クロックはマルチミキサーのセールスマンとして働いていました。車でアメリカ中西部の街を回り、ダイナーやドライブイン・レストランのオーナーに実物を見せて売り込むのですが、けんもほろろに断られることの多い毎日。
それでも自己啓発の言葉を集めたレコードを聞きながら、自身を奮い立たせます。彼にとって大切なのは「根気」と「信念」です。
仕事の最中に事務所に電話を入れると、カリフォルニア州郊外のサンバーナーディーノにある店から6台も注文が入ったと聞かされます。
あわててその店に電話してみると、さらに2台増やして8台にしてくれとのこと。驚いたレイは地図で場所を調べると、車を走らせ、はるばるカリフォルニまで大陸横断を試みました。
マック&ディク兄弟が自らの名字を店名に掲げたハンバーガー店「マクドナルド」は、これまでの常識を凌駕したものでした。
レイは職業柄、各地で食事を注文してきましたが、大概ひどく待たされ、時には注文と違うものを押し付けられることもありました。しかし、ここでは注文してからわずか30秒で商品がでてくるのです。しかも低価格です。
皿もなければテーブルもない。それでも店の前には大勢の人が列を作り、小さな子どもたちがおいしそうにハンバーガーを頬張っています。
マクドナルド兄弟はレイを調理場に案内し、この画期的なシステムを作り上げた過程を逐一披露しました。
テニスコートに調理場の配置をチョークで描き、何度もシュミレーションを繰り返し、このシステムを考案したのだそうです。
ピクルスは二枚。ケッチャップやマスタードは特性の器具で、均一に提供されます。短時間で手早く、同じ質の商品を提供できるシステムが出来上がっていました。
すっかり魅了されたレイは、咄嗟にフランチャイズ化を思い立ちます。兄弟に全米展開しないか?と持ちかけますが、二人は乗り気ではありませんでした。
広げすぎると、管理が行き届かなくなり、質が落ちるリスクがあると言うのです。
しかし、レイは二人を口説き落とします。これこそアメリカに必要なものだ、アメリカ中の家族にこの味を届けるべきだと。
そうして、ついにフランチャイズ化にむけての契約を結ぶことに成功します。
フランチャイズ展開の日々
レイは、妻のエセルとともに入会した地元のカントリークラブの集まりに出席し、金持ちの会員たちに資本を出させ、また責任を持って、店を切り盛りしてくれるやる気のあるオーナーをスカウトしました。
レイがこだわったのは、マクドナルド兄弟の弟ディックが考案した黄色のアーチ(ゴールデンアーチ)の設営です。どの街にも十字架と国旗とそしてアーチを。まさにその通りの外観をした店舗が各地に出来上がっていきました。
しかし、カントリークラブの会員の資本の店がマニュアルを守らず、勝手にメニューをくわえたり、看板に独自の書き込みを入れたりと、当初、マクドナルド兄弟が危惧していたことが起こり始めました。
また、兄弟と交わした契約ではレイ自身が手にする利益は微々たるもの。妻に内緒で自宅を抵当に入れるはめになってしまいました。
レイはローンの支払いに苦しんでいました。銀行が会社でなく家に連絡してきたせいで、妻にも抵当の件を知られてしまいました。
そんな時、銀行に居合わせた金融のプロ、ハリー・ソナボーンがレイに声をかけてきました。
そもそもやり方が間違っている、これは不動産の問題です、と彼は言います。レイ自身が土地を所有し、それをリースするべきだと。
彼をスタッフに入れたことで、レイのフランチャイズ事業は好転します。しかし、彼は自分で手がけたシカゴ郊外のデスプレーンズ店を「マクドナルド一号店」と呼び、マクドナルド兄弟は彼を警戒し始めます。
衝突
レイの目下の悩みはアイスクリームの冷凍にかかる電気代が膨大なことです。
そんな時、ある高級レストランで、ピアノを弾いていた女性、ジョアン・スミスと知り合います。
レイはジョアンに「黄金の雨」をリクエストし、途中で自分も演奏に加わり、観客から拍手喝采を浴びました。
彼女の夫はマクドナルドの店のオーナーになることに乗り気でした。ジョアンは粉に水を入れるだけでお手軽にシェイクが作れる「インスタミックス」を導入してはどうかと提案します。
しかし、何か変更したいと思っても、マクドナルド兄弟と相談しなくてはいけないという契約になっており、兄弟は決して首を縦に振らないのです。
「インスタミックス」に関しても勿論却下。アイスクリームを使わないシェイクなどありえない! しかし、兄弟は次第にレイのことを脅威に感じるようになっていました。「ニワトリ小屋に狼を入れてしまった」とディックは呟きます。
レイはフランチャイズ・リアリティ社を創立し、社長兼CEOにおさまります。不信に思った兄弟からの問い合わせに関しても「これはチェンジではない。新しい会社を作っただけだ」と説明します。
妻との食事中、レイは突然、離婚を告げました。
3.映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』の感想と評価
フォード社の大量生産技術を応用して、第二次大戦後のアメリカ社会に革命をもたらした実業家といえば、庶民にも手が届く一戸建て家屋を提供したビル・レヴィットなど、多くの名前があがるでしょう。
ハンバーガーのマクドナルドも、この時代に生まれ、レイ・クロックは伝説的な実業家として知られています。
面白いのは、時代のニーズを読んで、外食産業における画期的なアイデア、システムを考えた人物は別の人であることです。
レイは、マック&ディックのマクドナルド兄弟が生み出したものをそのままフランチャイズ化した人物です。
手の届く範囲で求められる物を、品質を下げずに提供することにこだわった兄弟に対して、レイは徹底した拡大路線を貫きます。
物語は、この、自らを「ファウンダー(創業者)」と自負する二者の「思想の違い」
と「確執」をメインに進みます。
映画の中で、レイは「チャンスをつかむことを恐れる人が実に多い」と語っています。勿論、そこにはマクドナルド兄弟も含まれているでしょう。
彼にとっては冒険しない人間は理解しがたいものだったのでしょう。そして、当時のアメリカ社会そのものが、「堅実」ではなく「夢」を望んでいました。まさにアメリカンドリーム。時代が彼を後押しし、彼が時代を作っていったのです。
ほぼ強奪という形で権利を奪う強引さには驚かされますが、映画は、レイに、言い訳や、正当化する言葉を語らせたりはしません。
実際、彼の行ったことは、戦時下での苦労の時代を経て、真っ当な生活をしたいと願ったアメリカ国民に雇用を生み出し、安定を導いたと評価されています。
しかし、映画はその側面を声高に描くことはしません。
また、実際のレイ・クロックは、巨大な富を築いたにもかかわらず、財産の使いみちにはまったく興味がなかったといいます。
しかし、それについても映画は特に言及していません。
代わりに描かれるのは、「欲しい」と思ったものはどんな手を使ってでも手に入れるという彼の「主義」であり、「生き様」です。
映画の終盤、彼に寄り添う女性があの女性であると知って驚いた方が多いのではないでしょうか。
狙ったものはなんでも手に入れる男なのだなと呆気にとられたことでしょう。映画はこうした側面をクローズアップして、一種のピカレスクロマンとして進行していきます。
憎々しげだが、侮れず、誰よりもエネルギッシュ、そんな男をマイケル・キートンが、実に楽しそうに演じています。
ここで、改めて、映画の冒頭を振り返ると、レイのバストショットで始まっていました。彼は製品を勧める理由を述べると、相手に「さてどうします?」と問います。
レイの眼差しは、まっすぐ映画を見ている私たち観客に向けられており(もっとも実際は売り込み相手に対して向き合っているという設定なのですが~次の場面では二人が向き合っているショットに変わります~)、私たちへの問いかけのようにも思えます。
「是非お一ついかがでしょうか」や「ご購入をお考えください」という台詞ではなく、「どうしますか?」と問われた時、人は判断をしなくてはなりません。
必要なのは「決断」であり、先を見通す「力」なのです。あなたはその力があるのか?と問われているのです。
ラスト近く、再びレイのバストショットが現れます。鏡に向かって自分自身を見ているのですが、彼の顔つきは自信に溢れています。こちらをじっと見つめてくる彼の眼差しは、さて、あなたは「どうしましたか?」と問うているかのようでした。
まとめ
マイケル・キートン以外の出演者も、個性派が揃っています。マクドナルド兄弟に扮するのは、ニック・オファーマンと、ジャン・キャロル・リンチ。二人とも出演作品が多く、バラエティに富んだ役柄をこなせる俳優です。
最初は兄弟に見えないと思いましたが、次第に絆の深い兄弟にしか見えなくなります。息のあったところをみせてくれて、ついこの兄弟を応援したくなってしまいます。
また、レイの妻役をローラ・ダーンが演じていますが、このエセルという女性は、ある意味、1950年代の典型的な主婦象をあてがわれているといえるでしょう。
仕事が忙しい夫におきざりにされて、孤独を感じている女性です。車が普及したことで、レイのように、遠出してセールスをする夫が増え、また、住宅が郊外に移ったことで、夫たちは遠距離通勤を強いられ、妻の一人の時間が増えていきます。
主婦は家庭を守るものという概念が定着していくのもこの時代。アメリカの50年代は明るく、豊かな時代であった一方、かくあるべしという堅苦しい既成概念に多くの人がしばられていた時代でもあったのです。
ところで、しばしばハンバーガーの調理風景が出てきますが、それが実においしそうなのです。食品関連をテーマにしている作品として、これはとても重要なことではないでしょうか。
マクドナルドという一企業(でありながらアメリカそのものの代名詞でもある企業)の光と闇を描いているのですが、最後は、やっぱりマクドナルドのハンバーガーが食べたくなってしまうのです。