Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2019/08/16
Update

映画『ドッグマン』結末までのネタバレあらすじと考察。暴力に支配された男が選ぶ奇妙な末路

  • Writer :
  • 松平光冬

不条理な道に足を踏み入れた男が選んだ、衝撃にして奇妙な結末とは――

イタリアの鬼才、マッテオ・ガローネ監督による映画『ドッグマン』が、2019年8月23日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかで全国ロードショーされます。

ローマで実際に起こった殺人事件をベースに、人間の不条理や社会の闇を鋭く描いた本作は、カンヌ国際映画祭にて主演男優賞を受賞するなど、高く評価されました。

映画『ドッグマン』の作品情報


(C) 2018 Archimede srl – Le Pacte sas

【日本公開】
2019年(イタリア映画)

【原題】
Dogman

【監督・脚本】
マッテオ・ガローネ

【キャスト】
マルチェロ・フォンテ、エドアルド・ペッシェ、アリダ・バルダリ・カラブリア、アダモ・ディオニージ

【作品概要】
イタリアの寂れた町で犬のトリマーをしていた男が、一人の友人によって大きく運命を変えられていく様を描きます。『ゴモラ』(2008)、『リアリティー』(2012)で、カンヌ国際映画祭の審査員特別グランプリに2度輝いたマッテオ・ガローネ監督が、1988年にローマで実際に起こったという殺人事件をベースに映画化。

本作で主演に抜擢されたマルチェロ・フォンテが、第71回カンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞したほか、優秀な演技をした犬に贈られる同映画祭のパルム・ドッグ賞も受賞。また、イタリアのアカデミー賞と呼ばれるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞でも、最多の9部門を受賞しています。

映画『ドッグマン』のあらすじとネタバレ

(C) 2018 Archimede srl – Le Pacte sas

イタリアの寂れた海辺の田舎町で、「ドッグマン」という名のトリミングサロンを経営する男マルチェロは、質素な生活を送りながらも、友人たちとフットサルに興じたり、別れた妻に引き取られた娘のアリダと会う時間を楽しんでいました。

その一方で、マルチェロは粗暴な性格で町中の嫌われ者となっている男シモーネの言いなりとなり、コカインの入手や、住居侵入して窃盗する際の運転手をさせられています。

シモーヌが侵入した家の犬を冷凍庫に放り込んだと聞かされると、ひとり家に入って犬を救出するなど、心優しい性格を持つマルチェロ。

そんな性格からシモーヌとの関係を断ち切れないばかりか、コカインを奪った相手にシモーヌが撃たれても助けたり、一緒にクラブに行って快楽に溺れるのでした。

日々のシモーヌの暴走に手を焼いた、マルチェロの店の隣で質屋を経営するフランコを含む仲間たちが密かに彼を殺害しようと画策していた矢先の夜、シモーヌがマルチェロの前に現れます。

マルチェロの店の壁を破ってフランコの店に侵入し、金を奪おうと企てるシモーヌ。

分け前はやると言われるもマルチェロは必死に拒否しますが、力任せに脅され、店のカギを渡してしまうのでした。

後日の朝、マルチェロが店に向かうとフランコの店は荒されており、周囲には警察が。

犯人はマルチェロの店から侵入したとして、事情聴取として警察に連行されるマルチェロ。

シモーネが真犯人と断定する警察は、マルチェロに全てを白状すれば罪には問わないと告げるも、彼は拒否するのでした。

(C) 2018 Archimede srl – Le Pacte sas

それから1年後、シモーヌの代わりに服役したマルチェロが出所してきます。

店はすっかり廃れ、フランコたち友人からの信頼も失い、冷たい視線を浴びることとなってしまいます。

それでも、逮捕前と変わらず接してくれる娘アリダのためにも、店舗スペースを活用したドッグホテルを開業し、再起を図ろうとするマルチェロ。

そんな中、マルチェロは町中をバイクで駆けまわるシモーヌを見かけ、1年前に盗んだ金の分け前を貰おうと彼を訪ねます。

ところが、にべもなくシモーヌに拒否され、怒りのあまり、彼のバイクに傷をつけて逃走するのでした。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『ドッグマン』ネタバレ・結末の記載がございます。本作をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

翌日、当然のようにシモーヌに半殺しの目に遭うマルチェロ。

顔が傷だらけになりながらも、アリダとスキューバダイビングを楽しんだマルチェロの目には、期するものがありました。

夜、シモーヌの元を訪れたマルチェロは、お詫びとして純度の高いコカインを差し出し、ご機嫌を取ります。

さらに、「これから自分の店でコカインの取引をするから、その相手を襲えばタダで手に入る」と告げ、揃って店へと向かいます。

マルチェロは、シモーヌに犬の檻に身を潜めてもらい、取引相手を背後から襲えばいいと、彼を半ば強引に檻の中に入れカギをかけます。

「これまでしてきたことを謝れば檻から出す」とマルチェロは言いますが、檻を破壊する勢いで暴れるシモーヌに怯え、衝動的に工具で殴って気絶させます。

それでも意識を取り戻し、手足を縛られながらもマルチェロを捕えて絞め殺そうとするシモーヌ。

マルチェロは苦しみながらも、犬を拘束する鎖を使って、逆にシモーヌを窒息死させます。

夜が明け、シモーヌの死体を草むらまで運び火をつけたマルチェロは、近くでフットサルをしている友人たちの声を聞き、その場に向かいます。

そして、「みんな、ついに厄介者のシモーヌをやっつけたぞ!」と絶叫しますが、誰もその声に気づきません。

そこでマルチェロは死体のある場に戻って火を消し、剥き出し状態のシモーヌを抱えて友人たちの元に向かいますが、彼らの姿はありません。

マルチェロが見たのは幻だったのか?

広場まで死体を運び、虚空を見つめながら茫然と立ちつくすマルチェロ。

傍らには、ペットの犬が片時も離れることなく佇んでいました――

映画『ドッグマン』の感想と評価

強烈な存在感を放つ主演俳優マルチェロ・フォンテ

参考:マルチェロ・フォンテの公式ツイッター

本作『ドッグマン』で一番のポイントは、なんと言っても主役を演じたマルチェロ・フォンテの圧倒的存在感です。

『ギャング・オブ・ニューヨーク』(2002)でのエキストラや、『悪霊喰』(2003)での端役など、これまで目立った役がほとんどないフォンテですが、見るからに虚弱体質な彼の風体は、まさに本作で主人公を演じるために俳優になったともいえます。

撮影前に、フォンテはドッグトレーナーとトリマーの修業を積み、撮影開始以降は、観客に心理を悟らせない人物にしようと、マッテオ・ガローネ監督の指示でウィスキーを飲んで演じたとか。

本作の演技でカンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞し、拍手喝さいを浴びたフォンテは、予期せず栄冠に戸惑いつつも、「皆さんの拍手からは、家族のような温かさや居心地の良さを感じます」と感謝の意を述べました。

参考映像:カンヌ国際映画祭で主演男優賞を受賞した際のマルチェロ・フォンテ

自ら撒いた“不条理の”種を刈り取るダビデ

(C) 2018 Archimede srl – Le Pacte sas

マッテオ・ガローネ監督は、主演のフォンテにサイレント映画の喜劇俳優バスター・キートンを重ねたと語り、フォンテ自身も好きな俳優の一人にキートンを挙げています。

監督の言葉どおり、小柄で大きな目を持つフェンテはどことなくキートンを連想させますし、そもそも小男と大男の関係性を描いた本作も、『デブの舞台裏』(1919)や『キートンの華麗なる一族』(1922)といった、小柄なキートンが大男と対決する作品を思わせます。

ただ、本作の主人公マルチェロが巻き込まれる不幸は、シモーヌの支配に逆らえなかったとはいえ、欲に目がくらんだ結果が招いたもの。

だからこそマルチェロは、自分でまいた“不条理な”種を、自分で刈ろうとします。

旧約聖書「サムエル記」で、ひ弱なダビデが巨人ゴリアテに小石で立ち向かうように、マルチェロはデカい狂犬シモーヌを手なずけようと、知恵とコカインを用います。

道こそ大きく踏み外してしまったかもしれませんが、彼はそこでようやく独り立ちするのです。

まとめ

(C) 2018 Archimede srl – Le Pacte sas

タイトルの『ドッグマン』には、「主人と犬の主従関係」といった意味合いがあります。

まさに、マルチェロが飼い犬でシモーネが飼い主の関係になるわけですが、そこから生じる選択がどのような結果をもたらすのか。

どんな善良な人間でも、選択によってとんでもない事態に巻き込まれていくという不安や怖さを、本作はいかんなく提示します。

マルチェロが踏み入れる人生の不条理は、実は全ての人に起こり得ること。

人は生まれながらにして、ドッグマンなのです。

『ドッグマン』は、2019年8月23日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかで全国ロードショー!

関連記事

ヒューマンドラマ映画

映画『ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうた』あらすじネタバレと感想評価。音楽と感動のドラマが勇気を与える

素敵な音楽と感動のドラマ。 人生に悩む時、音楽は生まれる。 元ミュージシャンの父と母親の才能を受け継ぐ娘が、音楽活動を通してお互いの人生を考え、前に進んで行くストーリー。 将来への希望と不安、愛する人 …

ヒューマンドラマ映画

映画『十二単衣を着た悪魔』ネタバレあらすじ感想と結末の評価解説。弘徽殿女御は黒木瞳という宝塚女優から結婚・出産までトップレディだから描けた

内館牧子の小説「十二単衣を着た悪魔 源氏物語異聞」を映画化。黒木瞳監督の第2作目『十二単衣を着た悪魔』公開! 『源氏物語』の世界に迷い込んだ主人公が弘徽殿女御に出会い、翻弄されながらも自分を見出してい …

ヒューマンドラマ映画

映画『神さまの轍』あらすじと主題歌はフレデリック。上映館の紹介も

映画『神さまの轍‐Checkpoint of the life-』は、2月24日(土)より京都神戸先行公開(イオンシネマ久御山・イオンシネマ高の原・OSシネマズ神戸ハーバーランド)。 3月17日(土) …

ヒューマンドラマ映画

ニューヨーク・オールド・アパートメント|あらすじ感想と評価解説。アメリカンドリームを夢見る移民母子を襲った悲劇を温かに描く

『ニューヨーク・オールド・アパートメント』は2024年1月12日(金)より新宿シネマカリテほかで全国ロードショー 大都会ニューヨークの片隅で懸命に生きる移民家族に訪れた悲劇を優しいまなざしで描いたヒュ …

ヒューマンドラマ映画

映画『孤狼の血』ネタバレ感想と結末解説の評価。タイトルの意味から刑事と暴力団の歪な関係を解く

白石和彌監督×作家柚月裕子 役所広司・松坂桃李で描く映画『孤狼の血』 映画『孤狼の血』は、広島を舞台に「警察小説×『仁義なき戦い』」と評された柚月裕子の同名小説を描いたものです。監督は『凶悪』(201 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学