不条理な道に足を踏み入れた男が選んだ、衝撃にして奇妙な結末とは――
イタリアの鬼才、マッテオ・ガローネ監督による映画『ドッグマン』が、2019年8月23日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかで全国ロードショーされます。
ローマで実際に起こった殺人事件をベースに、人間の不条理や社会の闇を鋭く描いた本作は、カンヌ国際映画祭にて主演男優賞を受賞するなど、高く評価されました。
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映画『ドッグマン』の作品情報
【日本公開】
2019年(イタリア映画)
【原題】
Dogman
【監督・脚本】
マッテオ・ガローネ
【キャスト】
マルチェロ・フォンテ、エドアルド・ペッシェ、アリダ・バルダリ・カラブリア、アダモ・ディオニージ
【作品概要】
イタリアの寂れた町で犬のトリマーをしていた男が、一人の友人によって大きく運命を変えられていく様を描きます。『ゴモラ』(2008)、『リアリティー』(2012)で、カンヌ国際映画祭の審査員特別グランプリに2度輝いたマッテオ・ガローネ監督が、1988年にローマで実際に起こったという殺人事件をベースに映画化。
本作で主演に抜擢されたマルチェロ・フォンテが、第71回カンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞したほか、優秀な演技をした犬に贈られる同映画祭のパルム・ドッグ賞も受賞。また、イタリアのアカデミー賞と呼ばれるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞でも、最多の9部門を受賞しています。
映画『ドッグマン』のあらすじとネタバレ
イタリアの寂れた海辺の田舎町で、「ドッグマン」という名のトリミングサロンを経営する男マルチェロは、質素な生活を送りながらも、友人たちとフットサルに興じたり、別れた妻に引き取られた娘のアリダと会う時間を楽しんでいました。
その一方で、マルチェロは粗暴な性格で町中の嫌われ者となっている男シモーネの言いなりとなり、コカインの入手や、住居侵入して窃盗する際の運転手をさせられています。
シモーヌが侵入した家の犬を冷凍庫に放り込んだと聞かされると、ひとり家に入って犬を救出するなど、心優しい性格を持つマルチェロ。
そんな性格からシモーヌとの関係を断ち切れないばかりか、コカインを奪った相手にシモーヌが撃たれても助けたり、一緒にクラブに行って快楽に溺れるのでした。
日々のシモーヌの暴走に手を焼いた、マルチェロの店の隣で質屋を経営するフランコを含む仲間たちが密かに彼を殺害しようと画策していた矢先の夜、シモーヌがマルチェロの前に現れます。
マルチェロの店の壁を破ってフランコの店に侵入し、金を奪おうと企てるシモーヌ。
分け前はやると言われるもマルチェロは必死に拒否しますが、力任せに脅され、店のカギを渡してしまうのでした。
後日の朝、マルチェロが店に向かうとフランコの店は荒されており、周囲には警察が。
犯人はマルチェロの店から侵入したとして、事情聴取として警察に連行されるマルチェロ。
シモーネが真犯人と断定する警察は、マルチェロに全てを白状すれば罪には問わないと告げるも、彼は拒否するのでした。
それから1年後、シモーヌの代わりに服役したマルチェロが出所してきます。
店はすっかり廃れ、フランコたち友人からの信頼も失い、冷たい視線を浴びることとなってしまいます。
それでも、逮捕前と変わらず接してくれる娘アリダのためにも、店舗スペースを活用したドッグホテルを開業し、再起を図ろうとするマルチェロ。
そんな中、マルチェロは町中をバイクで駆けまわるシモーヌを見かけ、1年前に盗んだ金の分け前を貰おうと彼を訪ねます。
ところが、にべもなくシモーヌに拒否され、怒りのあまり、彼のバイクに傷をつけて逃走するのでした。
映画『ドッグマン』の感想と評価
強烈な存在感を放つ主演俳優マルチェロ・フォンテ
参考:マルチェロ・フォンテの公式ツイッター
#Dogman ha vinto agli @EuroFilmAwards 2018 il #PrixCarloDiPalma nelle categorie European Costume Designer e European Hair & Make-Up Artist!
La premiazione avverrà il 15 dicembre.#BuonaDomenica #18novembre pic.twitter.com/3eD9ZNkKAM
— Marcello Fonte (@iosonomarcello) November 18, 2018
本作『ドッグマン』で一番のポイントは、なんと言っても主役を演じたマルチェロ・フォンテの圧倒的存在感です。
『ギャング・オブ・ニューヨーク』(2002)でのエキストラや、『悪霊喰』(2003)での端役など、これまで目立った役がほとんどないフォンテですが、見るからに虚弱体質な彼の風体は、まさに本作で主人公を演じるために俳優になったともいえます。
撮影前に、フォンテはドッグトレーナーとトリマーの修業を積み、撮影開始以降は、観客に心理を悟らせない人物にしようと、マッテオ・ガローネ監督の指示でウィスキーを飲んで演じたとか。
本作の演技でカンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞し、拍手喝さいを浴びたフォンテは、予期せず栄冠に戸惑いつつも、「皆さんの拍手からは、家族のような温かさや居心地の良さを感じます」と感謝の意を述べました。
参考映像:カンヌ国際映画祭で主演男優賞を受賞した際のマルチェロ・フォンテ
自ら撒いた“不条理の”種を刈り取るダビデ
マッテオ・ガローネ監督は、主演のフォンテにサイレント映画の喜劇俳優バスター・キートンを重ねたと語り、フォンテ自身も好きな俳優の一人にキートンを挙げています。
監督の言葉どおり、小柄で大きな目を持つフェンテはどことなくキートンを連想させますし、そもそも小男と大男の関係性を描いた本作も、『デブの舞台裏』(1919)や『キートンの華麗なる一族』(1922)といった、小柄なキートンが大男と対決する作品を思わせます。
ただ、本作の主人公マルチェロが巻き込まれる不幸は、シモーヌの支配に逆らえなかったとはいえ、欲に目がくらんだ結果が招いたもの。
だからこそマルチェロは、自分でまいた“不条理な”種を、自分で刈ろうとします。
旧約聖書「サムエル記」で、ひ弱なダビデが巨人ゴリアテに小石で立ち向かうように、マルチェロはデカい狂犬シモーヌを手なずけようと、知恵とコカインを用います。
道こそ大きく踏み外してしまったかもしれませんが、彼はそこでようやく独り立ちするのです。
まとめ
タイトルの『ドッグマン』には、「主人と犬の主従関係」といった意味合いがあります。
まさに、マルチェロが飼い犬でシモーネが飼い主の関係になるわけですが、そこから生じる選択がどのような結果をもたらすのか。
どんな善良な人間でも、選択によってとんでもない事態に巻き込まれていくという不安や怖さを、本作はいかんなく提示します。
マルチェロが踏み入れる人生の不条理は、実は全ての人に起こり得ること。
人は生まれながらにして、ドッグマンなのです。
『ドッグマン』は、2019年8月23日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかで全国ロードショー!