映画『王様になれ』は2019年9月13日(金)より、シネマート新宿ほか全国ロードショー!
ロックバンドthe pillowsのデビュー30周年プロジェクトの一環として製作された、オクイシュージ監督の『王様になれ』。
the pillowsのリーダー・山中さわおさんとの長い付き合いがきっかけで本作を手掛けることになったオクイシュージ監督は、普段は俳優として活躍する傍ら、主に舞台演出を手掛けており、映画監督としては本作が初挑戦となりました。
今回、オクイ監督にインタビューをおこない、映画監督初挑戦となった本作の製作に加わるまでの経緯や、製作への取り組みなどをお聞きしました。
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映画監督への初挑戦
──オクイ監督へのオファーはどのような経緯でおこなわれたのでしょうか?
オクイシュージ監督(以下、オクイ):もともと僕は以前ラジオ番組をやっていたんですが、その番組に(山中)さわおくんがよくゲストに出てくれたんです。そこでウマが合ったんですね。
その付き合いが20年くらい続いているんですが、ある日急にメールで会いたいと連絡をもらいました。で、会ったらいきなり「映画を作りたいんです。監督をやってくれませんか?」って(笑)。
せっかくのオファーだけど、自分にできるのかという自問自答は相当繰り返していました。でも「僕が断ったらこの映画の企画自体がなくなる」という話だとも聞いていたので、最終的には「やらずに死ぬなら、やって死のう」と覚悟を決めました(笑)。
──そうして映画初監督への挑戦に対して覚悟を決められた後、撮影に向けてはどのような準備を始められたのでしょうか?
オクイ:まずさわおくんも僕も映画製作については全く素人だったし、どうにも話が進まなかったので、最初にプロデューサーを立てようとさわおくんにお願いしました。
そこからプロデューサーの三宅(はるえ)さんと出会って、映画作りへの力をもらうことができ、意見をいただきながら話が動いていきました。
でも準備が始まってからも、すごい環境でしたね。一方で映画スタッフが揃い、もう一方ではアーティストのライブを担当する音楽スタッフが揃って、演劇陣は僕一人だけという板ばさみでした(笑)。
またその中では、両方の言っていること、求めていることがよくわからない時もありました。だから最初に「僕は何もわからない。見栄を張ってわかったような顔はしない。だから撮影の話については、全部小学一年生に話すつもりで話して」と伝えたんです(笑)。そして、「それでもその中で、自分のやりたいことはちゃんと話をするから」とも伝えた。撮影に入る前はそういった調子でした。
山中さわおだからこそ描ける世界観
──本作では敢えて山中さんが原案を担当されましたが、それはどのような理由からなのでしょうか?
オクイ:やっぱり本作はthe pillowsの30周年を記念する映画であり、ファンに向けてという趣旨がメインの作品です。だったら、山中さわおがそこを考えるということは外せないだろうと思ったんです。ファンからすれば、いきなり名前も知らないような監督が自分の世界観を見せても、多分それは違うものになるだろうと。
そしてさわおくんが書いたアイデアですが、それ自体は「そうきたか!」と面白く思いましたね。ただ劇中でミュージシャンの方々がライブをすることが事前に決まっていたし、「彼の原案そのものをストーリーにそのまま組み込むのは難しいな」とも思いましたが。
予算や約束事など含め初監督の自分には考えうる限界がありましたし、本当に手探りでしたね。毎日周りに「助けて~!」とか思いながらやっていました(笑)。
──主人公がミュージシャンやバンドマンではなく、カメラマンというのはユニークですね。
オクイ:確かに。普通は主人公がバンドマンを演じる設定を考えるでしょうね。でもこの作品は普通に見せて実は全然普通じゃないので(笑)。
あと、さわおくん自身が「俳優さんに音楽やバンド系の人を演じさせるのイヤだ」と言っていたんです。やっぱり彼自身が音楽のプロ中のプロなので、映画で描こうとすればそこに音楽に対しての嘘が生じるのに抵抗があったのだと思います。
「なんでカメラマンなの?」という話自体をしたことはありませんでしたが、目線もライブハウスに訪れるお客さんへと近づくし、結果的にはよかったと思います。
舞台に立つ者から見た映画
──本作はオクイ監督にとって映画デビュー作となるわけですが、これまで映画監督をやってみたいと思われたことはなかったのでしょうか?
オクイ:ありました。でもそれは本当に漠然とした思いで、本格的に動こうと考えたことは今までありませんでした。
演劇の作品を作っていく中では、映画と同じように何となくカット割りに似たものを考えているんです。例えば。「お客さんは舞台上を俯瞰で見ているけど、実際には舞台の”この画”を見ている」といったことを。
そして、「これを映像にしたら、どういう風に化学変化を起こすんだろうな」という好奇心と興味を常に持っていました。
もちろん似て非なるものだとは感じますが、同じ芝居なのにそれを介するメディアのジャンルが違うというのも面白いなと思っていましたし、「舞台でやっていることを映画に持っていったらどうなるだろう?」という興味もありました。
“痛み”を深く知る人
──オクイ監督から見た山中さわおさんの印象や魅力とはどのようなものでしょうか?
オクイ:お互いに似ているところがあると思うんです。それは自分もずっと思っていて、自身が脚本を書いているときにはさわおくんからも言われたことなんですが。
生きてきた環境、味わってきたもの、人の見方とか、さまざまなことにシンパシーを感じるものがありました。
たださわおくんって、音楽に対しての“信念”と言えるものがブレないんです。それでいて、非常に繊細。歌詞一つをとっても、日常思っていても言葉に出来ない様なことをスッと歌詞で表現してくれる。
そういう人は本当に繊細ですし、いわゆる“痛み”を深く知っている、むしろ痛みを知らないとそんなことはできないと僕は思っているんです。それを踏まえると「さわおくんはこれまでどれだけ傷ついてきたんだろう」とも考えてしまいます。
だからこそ、「絶対に彼のその人間性を作品に投影しなきゃダメだ」と思い、登場人物にもそのイメージを投影していったんです。
──山中さんが劇中に登場する場面で描かれるエピソードについても、それぞれ特徴があるように見受けられました。
オクイ:あのエピソードは、さわおくんが実際に直面したエピソードを基にしているんです。あくまでthe pillowsのファンにしかわからないニュアンスや言葉で表現しているんですが、実はインターネットなんかでちょっと調べてもらうと、すぐ出てくるような話を盛り込んでいるんです。
the pillowsを知らない映画ファンの方が観ても違和感なくこの作品を楽しんでもらえるように注意を払いながら。そういう部分でも、一般のお客さんがこの映画をどこか共感してもらえて、the pillowsというバンドの楽曲にも共感を覚えてもらえたら、ちょっと掘り下げるだけで見えてくる仕掛けなので、そんな楽しみ方もしてもらえれば嬉しいです。
現場との向き合い方
──映画を演出し撮影する上で、特に意識されていたことはありますか?
オクイ:今回はthe pillowsの楽曲を何曲も使うので、楽曲にセリフと同等の説得力を持たせたいと思ったんです。ただそう考えたことで、「セリフですべてを説明するというのはちょっと邪魔だな」とも感じるようになりました。
そのため、多くを言葉として語らなくていい場面、意図的に減らせられる場面はかなりセリフを減らしていきました。
それと「人の表情だけで見せる」ということもあわせて考えていました。(岡山)天音くんや後東(ようこ)さんの表情は伝えることをしっかり伝えられるという確信を持っていましたから。
また天音くん、後東さん、岡田(義徳)くんというメインキャラクターを演じた3人は、もともとthe pillowsが好きで曲を聴いている人たちだったので、「the pillowsが好きだ」という演技ではなく、自身の中から本当に”好きだ”という思いをもって演技を見せてくれたし、そこには信頼を置いていました。
──映画スタッフとは製作や撮影の現場においてどのようにコミュニケーションをとられたのでしょうか?
オクイ:僕は映像用語がすっと出てこないので、やりたいことが頭の中にあっても口頭ではうまく説明できず、どうしてもまどろっこしかったんです。ですから、頭から最後までの全シーンの絵コンテを描き上げ、それをみんなに見せながら全部説明することで理解してもらいました。
普通の監督はどうやっているのかなんて誰も教えてくれないし(笑)。「だったら自分のやり方でやるしかないな」と思ったんです。「自分はそれをしないと前に進めないから」と。
絵コンテを描き上げるのにはめちゃくちゃ時間がかかりましたけど、他のスタッフにとってはそれがかなり大きなガイドになってくれたそうで、やっぱり描いてよかったと感じています。また僕にとっても、絵コンテを全部描くという過程の中で自分のやりたいことも整理できたため、本当によかったです。
映画監督を経験して
──実際に出来上がった作品をご自身でご覧になられた感想はいかがでしょう?
オクイ:実は、さわおくんと「出来上がった作品がどうだったか」といった話は明確にはしていないんです。ただ、絶対に喜んでいるとは思っています。
今回はthe pillowsデビュー30周年を記念する企画であり、「作品は彼らのファンに喜んでもらわなければ」「期待に応えなければ」という思いもありましたが、何よりもまず、“山中さわおが喜ぶものを作る”ということにこだわっていましたから。
──映画監督として初めて一本の作品を作り上げたことについては、現在どのようなご心境でしょうか?
オクイ:一つ、演劇と違う点がわかりました。“映画は集団芸術なんだな”という点です。
わりと演劇を作っているときの僕は、ある意味独裁者であり、そこもまたthe pillowsにおけるさわおくんと似ているかもしれないところです(笑)。そして「自分がやりたいことを100やる」というくらいの勢いで作っているんです。
でも、映画はそうではない。撮影監督やプロデューサーとか、たくさんの人の意見を取り入れながら作っていく。そして僕は、それが作品の作り方の一つとして、とても楽しめました。
今回の作品を通じて、監督として存在し様々な人々とともに一つの作品を作り上げていった。僕はそのことに対し、自分個人としてどこまでやり遂げたとかいうこと以上に大きな満足を感じられたんです。
オクイシュージ監督のプロフィール
1966年生まれ、大阪府出身。
1985年劇団青年座養成所に入り、舞台俳優としてデビュー。
現在は自らの演劇ユニット「国産第1号」で製作・脚本・演出・デザイン・出演も手掛けるなど、マルチな才能を発揮しています。
また昨今は松尾スズキ作品にも数多く出演しており、「猫背シュージ」(オクイシュージ×猫背椿×楠野一郎)によるトークイベントなどもおこなっています。
インタビュー・撮影/桂伸也
映画『王様になれ』の作品情報
【日本公開】
2019年(日本映画)
【監督・脚本】
オクイシュージ
【キャスト】
岡山天音、後東ようこ、岡田義徳、山中さわお、オクイシュージ
【作品概要】
ロックバンド「the pillows」結成30周年のアニバーサリーイヤープロジェクトの一つとして制作された長編作品。彼らの音楽の世界観とカメラマンを目指す青年が成長していく過程を重ね合わせ、物語を描いていきます。
監督を務めたのは、演出家や俳優として活動し、本作の脚本と出演もこなしたオクイシュージ。映画監督としては本作がデビュー作となります。
またキャストには岡山天音、後東ようこ、岡田義徳らを中心に、岩井拳士朗、奥村佳恵、平田敦子、村杉蝉之介らの個性派キャストが花を添えています。
さらにthe pillowsにゆかりのあるミュージシャンも多く出演し、音楽ファンにもしっかりアピールする内容となっています。
映画『王様になれ』のあらすじ
カメラマン志望の祐介は、亡き父の影響で始めた写真にのめり込みプロを目指していましたが、カメラアシスタントとして怒られてばかり。夢は叶えたいものの、現実はあまりにも厳しく、祐介は苛立ちと焦りにさいなまれながら毎日を過ごしていました。
一方で生活費を稼ぐために、叔父の大将のラーメン屋でアルバイトをしていた祐介でしたが、そのラーメン屋である日、かつて大将が所属していた劇団のメンバーであるユカリを見かけた祐介は、一目で彼女に思いを寄せるようになっていました。
そんな中、ユカリがロックバンドthe pillowsに興味があることを知り、自分でもthe pillowsのライブに初めて足を運ぶことに。そこでユカリを見かけ、祐介は話をするきっかけを得ることになりました。
ユカリとの距離が近づくにつれて、the pillowsの魅力にもどっぷりはまっていく祐介。ところがある日、カメラの師匠から突然にアシスタントのクビ宣告を受けることに。
これからどうしようと悩む中、先日足を運んだライブでステージを撮影していたカメラマンのことが頭に浮かんだ祐介。その男性が虻川というカメラマンであることを知り、祐介はこれに最後のチャンスを掛けるべく、弟子入りを直談判し、なんとか仕事のチャンスをつかむことになります。
そして、わずかな可能性に必死に食らいつこうともがく祐介。また一方でそんな彼を応援しつつも、祐介には明かしていない自分の人生に不安を抱えるユカリ。それでも二人は未来に向かって、前に進み出していきます…。
映画『王様になれ』は2019年9月13日(金)より、シネマート新宿ほか全国ロードショー!