グラミー賞を5度受賞した世界的ミュージシャン、エルトン・ジョンの映画。
『ロケットマン』は、天才歌手エルトン・ジョンの1950年代から1991年初頭迄を描いたミュージカル映画です。
『キングスマン』のタロン・エガートンがエルトン・ジョンを演じ、劇中全曲を歌いダンスも披露。
デクスター・フレッチャーが『ボヘミアン・ラブソディ』(2018)に続き監督を務めました。圧倒的なクオリティで観客を魅了する本作は、2019年度上半期に劇場公開された洋画では最高レベルと言える必見の映画です。
映画『ロケットマン』の作品情報
【公開】
2019年(イギリス・アメリカ合作映画)
【原題】
Rocketman
【監督】
デクスター・フレッチャー
【キャスト】
タロン・エガートン、ジェイミー・ベル、リチャード・マッデン、ブライス・ダラル・ハワード、スティーヴン・マッキントッシュ、ジェマ・ジョーンズ、チャーリー・ロウ、スティーヴン・グレアム、キット・コナー、テイト・ドノヴァン
当初トム・ハーディが主役にキャストされていましたが、エルトンの17才を演じるにはハーディの年齢が高かったこと、そして自分を演じる俳優には歌って欲しいというエルトンの要望がありタロン・エガートンに決定されました。
【作品概要】
エルトン・ジョンは舞台『ビリー・エリオット』で音楽を務めた際リー・ホールと出会い、その能力を買い本作の脚本家として選択。『キングスマン:ゴールデンサークル』でカメオ出演後知り合いとなった監督マシュー・ヴォーンからタロン・エガートンの歌声を聞かされ、エルトンはエガートンをキャストしました。
映画『ロケットマン』のあらすじとネタバレ
オレンジ色の悪魔を模したコスチュームを着たエルトン・ジョンは、依存症の互助会に参加します。
アルコール、コカイン、そして性依存や買物中毒等自分が抱える問題を参加者の前で明かします。
エルトンは、会の進行役からどんな子供時代だったのか訊かれます。
レジナルド・ドワイト(レジー)は、母シーラと軍人の父スタンリー、そして祖母アイヴィと一緒に暮らしていました。
シーラは派手好きで上流階級に憧れる主婦、スタンリーは兵役で家を留守がち。夫婦仲は悪く、幼いレジーに目を掛けてくれたのは唯一アイヴィだけです。
ある日、ラジオから流れるエミール・ワルトトイフェルの『スケーターズ・ワルツ』を聴いたレジーは、楽譜無しでメロディをピアノで弾きはじめました。
それを見ていたアイヴィは孫に特別な才能があることを見抜き、レジーは本格的なピアノの個人レッスンを受けることになります。
音楽に夢中になったレジーは、温もりの無い家庭の雰囲気を避ける為オーケストラを指揮し、ピアノで伴奏する自分を想像します。
父が久しぶりに遠征から帰宅。レジーが「抱きしめてくれないの?」と訊いても、それには答えず自分のレコードに触るなと怒鳴りました。
11才になったレジーは、ピアノの先生から奨学金を得られる十分な才能があるので、王立音楽院のオーディションを受けるよう勧められます。
スタンリーとシーラは面倒くさがり、アイヴィがレジーをオーディションへ送り届けます。
レジーが会場へ入って行くと、試験官がYAMAHAのピアノでモーツァルトの『トルコ行進曲』を弾いていました。試験官はレジーに気づき、オーディションを始めます。
弾いてみるよう促されたレジーは、『トルコ行進曲』を途中まで弾きました。試験官がなぜ弾くのを止めたのか尋ねると、レジーは試験官がそこまでしか弾かなかったのでと答えます。
見事合格したレジーは音楽の英才教育を受けます。
学校からの帰り道、レジーは、路上に駐車した車の中で母と見知らぬ男の情事を目撃します。
夜になると両親は口論。父は家を出て行きました。涙を流す孫をアイヴィが慰めます。
お別れに抱きしめてもくれないと傷つくレジーに、祖母はスタンリーは愛情表現が下手なのだと答えました。
エルヴィス・プレスリーのレコードを手にしたレジーは、ロックに大きな影響を受け、プレスリーの髪形を真似て登校します。
その後、仲間と一緒にバンド・ブルーソロジーを組み小さな店で音楽活動を始めるようになります。
ある日、バンドに声が掛かり、アメリカのミュージシャンが興行に訪れた際のバックバンドとして雇われます。
ショーの終了後、レジーは、どうすれば音楽で成功するのか尋ねます。「やせっぽちで黒人の俺は、場末で10年音楽をやった。なりたい自分になる為には、生まれた自分を捨てることだ」
レジーは、バンドメンバーのエルトン・ディーンに、これからエルトンと名乗ると告げます。
音楽の才能を募る広告を見たエルトンは、音楽出版社を営むディック・ジェームスの事務所を訪ねました。
レイの面接を受けたレジーは、即興でピアノを披露。感心したレイは歌詞を尋ねます。
そこが難しいと答えたレジーに、レイは歌詞を渡して曲を作るように言います。
レジーは名前を訊かれ、写真に飾られていたビートルズを一瞥し、エルトン・ジョンと答えました。
作詞家バーニー・トーピンと落ち合ったエルトンは、バーニーが書いた『Border』が凄く良いと感想を述べます。2人は直ぐに意気投合。
バーニーが詩を書き、エルトンがそれに合せて曲作りを始め、『Honkey Cat』が生まれます。
ディックとレイからジョン・レノンとポール・マッカートニーが一緒に住んで音楽を作っていると半ば強制的に促され、エルトンとバーニーもアパートを借り、曲作りに励みます。
エルトンは大家の女性と付き合うようになりますが、どこか心の中で無理をしていました。
仕事仲間から同性愛者だと言われたエルトン。バーニーは、自分は気にしないとエルトンに話します。
バーニーからピアノ技術や歌声を褒められ、チャンスの国アメリカを目指そうと励まされたエルトンも野心を持ちます。
「バーニーと僕はこの後強固な絆で結ばれるようになった。まるで兄弟のように。この20年間、一度も口喧嘩をしたことがない」エルトンは互助会で明かしました。
彼女に同性愛者であることを打ち明けたエルトンはアパートを追い出され、バーニーを連れて実家に戻ります。シーラは家賃を要求。
そんなある日、いつもの様にバーニーが出来上がった詩をエルトンに渡します。幼少時代に弾いていたピアノでキーを叩きながらメロディを少しずつ組み立てるエルトン。
暫くしてエルトンがバーニーの歌詞で歌い始めます。心に響く曲に惹かれ、バーニーとアイヴィがエルトンの側でじっと『Your Song』を聴き入ります。シーラは1人台所に座ったままでした。
ディックもやっと2人の才能を手放しで認め、アルバムのリリースが決定。
ロサンゼルスでデビューすることになり、エルトンとバーニーは、付き添いのレイと共にイギリスを離れ一路ハリウッドへ飛び立ちます。
映画『ロケットマン』の感想と評価
本作品『ロケットマン』は、数々の名曲を世に送り出して来た天才音楽家が両親の愛に飢えて苦しみ、同性愛者としての自分を受け入れられず紆余曲折した半生を赤裸々に描写しています。
製作会社から観賞規制を避ける為、麻薬と性に関する部分を和らげた表現にするよう要請を受けたエルトンは、自分の人生は子供の観賞に耐え得る様なものでは無いと突っ撥ねました。
また、昨年大きな成功を収めた『ボヘミアン・ラブソディ』と比べられがちですが、本作は伝記ではなくミュージカル映画です。
その為、劇中の曲は誕生した順番とは敢えて異なって使われています。幼少期からエルトン・ジョンの視点で彼の人生を時系列で紐解きながら、その時一番相応しい曲で表現しています。
例えば、2001年にリリースされた『I Want Love』は、親密さが皆無の家庭にフラストレーションを抱えた少年のエルトンと家族で歌わせています。
そして、エンディングでエルトン・ジョン扮するタロン・エガートンが歌う『I’m Still Standing』。1990年に更生施設に入所して以来麻薬とお酒を断ったエルトンを1983年の曲で当時のMVを使い再現しています。
何十年も抱えて来た家族への怒りと苦しみを見つめ、許し、遂に心の平穏を得た場面は、エルトン・ジョンがレジー・ドワイトだった幼い自分を抱きしめることで、ありのままの自分を受け入れた瞬間を描写しています。
リー・ホールの卓越した物語運びであり、シーラとスタンリーが暗い部屋の隅から姿を現すフレッチャーの演出も、エルトン・ジョンが奥底に抑え込んでいた両親への心情を見事に映し出しています。
『ロケットマン』の醍醐味は、エルトン・ジョンの半生がミュージカルというプラットフォームでしか描けなかったと納得する説得力と芸術性を備えていることで、俳優陣が底力を発揮した大変パワフルな作品です。
製作総指揮に名を連ねたエルトン・ジョンは、「勿論全てそのまま本当ではないが、全部真実」と英ガーディアン紙にコメントしています。
エルトンのAIDS/HIV患者への慈善事業について終わりに表記があります。エルトンは、血友病患者だったライアン・ホワイト少年が病気を理由に学校から登校を禁じられたことを知ります。
少年と個人的な交流を重ねたエルトンは、彼が他界した半年後に麻薬とお酒を断ち、後に基金を創設した背景があります。
そして、施設で1年掛けた依存症との闘いを終えた翌年、エルトンとバーニーで生み出した曲が『The One』。
全世界を魅了した海鳥の泣き声が入る名曲は、長いトンネルを抜けた後のラブソングでした。
『ロケットマン』は2019年5月にカンヌ映画祭で初上映。
フレッチャー、エガートン、そしてバーニーを演じたジェイミー・ベルは、一番反応が気になるエルトンとトーピンを上映中に何度も様子を窺ったそうです
2人が初めて出会うカフェや更生施設で再開する場面で、エルトンとバーニーはお互いの膝頭を握り泣きじゃくっていたとエガートンがインタビューで明かしています。
カンヌでの上映終了直後、4分間スタンディングオベーションで迎えられたキャストとクルー。
監督と主要キャスト1人1人をエルトンが抱きしめ耳元で賞賛の言葉を囁きます。エガートンは涙を流し、シーラを演じたブライス・ダラス・ハワードは笑い出しました。
直後の記者会見で内容を訊かれたエガートンは、「これは彼(エルトン)と自分の中に閉まっておく」と答え、ハワードは別のインタビューで「ビッチ!」と言われたことを明かし「良いフィードバック」と答えています。
主演を務めたタロン・エガートン、ジェイミー・ベル、そしてジョン・リード役のリチャード・マッデンは、これまでとは別次元の技量を発揮。今後のキャリアが大きく飛躍するターニングポイントと言えます。
まとめ
短期間に爆発的な勢いでスターダムに駆け上がったエルトン・ジョン。
『ロケットマン』は、今でも敏感になると天才音楽家が語る幼少時代に光を当て、子供に冷たい両親に育てられたことが後の人生に大きく影を落とした真実を物語ります。
神童と呼ばれたレジナルド・ドワイトは、チャンスの国アメリカで大成功しますが、愛を渇望する心はささくれ立つばかり。お酒も麻薬も助けてはくれず堕ちて行く彼を見守っていたのは、唯一彼を家族のように思う盟友バーニー・トーピンでした。
エルトン・ジョンの17才から40代を演じるタロン・エガートンが登場する場面は撮影に3日要しました。『Saturday Night’s Alright For Fighting』で繰り広げられる歌とダンスシーンは圧巻です!