限りある自然と子供の未来を守るため女は立ち上がる!
とぼけたユーモアと人生の苦味、音楽と自然に彩られた、強さと優しさの物語。彼女はアイスランドから世界を救う。
アイスランドとフランス、ウクライナ合作の映画『たちあがる女』は、世界中で多くの賞を受賞。2019年アカデミー賞では、アイスランド代表作品に選ばれています。
そして本作に魅了された、ジョディ・ホスターにより、ハリウッドでのリメイクが決定しています。
壮大なアイスランドの自然を舞台に、信念を貫く強い女性の奮闘に勇気をもらえる映画『たちあがる女』を紹介します。
映画『たちあがる女』の作品情報
【日本公開】
2019年(日本)
【監督】
ベネディクト・エルリングソン
【キャスト】
ハルドラ・ゲイルハルズデッティル、ヨハン・シグルズアルソン、ヨルンドゥル・ラグナルソン、マルガリータ・ヒルスカ、ビヨルン・トールズ、ヨン・グナール
【作品概要】
2018年カンヌ国際映画祭の批評家週間で劇作家作曲家協会賞受賞をはじめ、数々の賞に輝いた作品。
監督は、映画『馬々と人間たち』で一躍注目を集めたベネディクト・エルリングソン監督。自ら脚本も手掛けています。
主役のハットラを演じたのは、アイスランドの女優ハルドラ・ゲイルハルズデッティル。ミュージシャン、舞台演出家としても成功を収めています。本作では圧倒的な存在感で正義の女を演じるほかに、二役にも挑戦しています。
映画『たちあがる女』のあらすじとネタバレ
その女はアーチェリーを背中に背負い、颯爽と草原を駆け抜けます。ワイヤーが取り付けられた矢は、鉄塔めがけて放たれました。
送電線は火花を散らしショートします。近隣にあるアルミニウム工場では、停電が起き作業が中断されました。
鉄柱の立ち並ぶ草原に、犯人を捜すヘリコプターが飛んできます。女は、岩場に身を隠し、地形の割れ目に潜り込み、追ってから逃れます。その姿はまさに女戦士。
危機一髪、たどり着いたのは一軒の牧場でした。
「かくまって欲しい」とお願いする女に、牧場主のズヴェインビヨルンは、彼女が何を行ったのか知っているようでした。呆れながらもかくまってくれます。
近頃、アイスランドの田舎町では、アルミニウム工場が建てられたことで自然環境問題を訴える、工場への嫌がらせが問題になっていました。
この少し過激な環境活動家の正体は、ハットラという女性でした。
ハットラは、普段はセミプロ合唱団講師という顔と、環境活動家「山女」としての二つの顔を持っていました。
マハトマ・ガンディーとネルソン・マンデラを崇拝し、歌と自然を愛する女性です。
そしてハットラには、夢がありました。養子をもらい、母親になることです。
工場停止まであと一押ししたいハットラの元に、養子縁組の申請が受け入れられたと連絡が入ります。
自然環境を守り戦いたい思いと、母親になりたい思いが、ハットラを悩ませます。
養子にやってくる女の子はニーカといいました。ウクライナ出身の女の子で、紛争で両親を亡くし、育ててくれていた祖母も亡くなり、ひとりぼっちです。
ニーカの生い立ちを聞いたハットラは、彼女の母親になる決意をします。
ハットラは双子の姉アウサに相談に行きます。母親になるという長年の夢が叶うことを自分のことのように喜ぶアウサ。
「私に何かあったら子供をお願い」と、アウサに保証人をお願いするハットラ。
アウサはハットラの「山女」としての一面は知りません。ヨガを極めるアウサは、インドに行くから無理といったん断りますが、「あなたなら大丈夫」とハットラの背中を押してくれます。
子供の未来のためにも、アルミニウム工場との最後の戦いに挑むハットラ。念入りに準備を重ねます。
映画『たちあがる女』の感想と評価
自然豊かなアイスランドを舞台に、環境活動家と合唱団講師の二つの顔を持つ女性の奮闘を描いた映画『たちあがる女』。
主人公ハットラは、環境汚染の問題のあるアルミニウム工場を退かせるために「山女」を名乗り、あらゆる手を使い戦います。
彼女の行動は、公にせずこっそり行うことでテロ扱いされてしまいますが、環境汚染、自然保護は現在の地球で目を逸らしてはいけない問題です。
映画の中では、彼女の孤独の戦いを理解する者もいれば、権力に怯える者もいます。それは今の人間社会の縮図が反映されているのではないでしょうか。
自然との付き合い方は人間の永遠のテーマであり、それを抜いては生きていけない問題です。
自然とは、ある時は生きる恵みを与えてくれ、ある時は災害という試練をあたえます。
主人公のハットラは、自然を愛していますが、自然は彼女に常に良いことばかりを与えてくれるとは限りません。
ラストシーンで、水没する道を子供を抱え歩いていくハットラの姿が、それを物語っています。命をかけて守った自然が、行く手を阻むものになります。
それでもハットラは自然の恵みに感謝し、自然とともに力強く生きる選択をします。それは、これからの地球を担う子供たちへのメッセージでもありました。
結婚をせず子供もいないハットラは養子をもらい母親になろうとしました。この選択がとても素敵で、世界は繋がっている実感を与えてくれます。
そして映画『たちあがる女』の面白さのひとつに、本来スクリーンには姿を現さない劇伴奏者たちが画面に登場することが挙げられます。
舞台演出家でもあるベネディクト・エルリングソン監督のユニークな手法です。
ブラスバンドとウクライナの合唱隊が、主人公のハットラの心情に合わせて登場します。寂しく不安な時には、伴奏者もひとり。奮闘し盛り上がる場面ではフルメンバー。
ハットラは彼らに話しかけたり、彼らもまた表情豊かにハットラを見守ります。音楽が運命共同体であり、自然と一緒で人生を豊かにしてくれる存在なのだと改めて感じます。
まとめ
現代社会の問題を人情とユーモア、そして少しの皮肉を交え浮かび上がらせる映画『たちあがる女』を紹介しました。
アイスランドの壮大で美しい自然と抒情的な音楽に彩られた『たちあがる女』は、自分の悩みがいかに自分勝手で小さなものか思い知らされる映画でした。
ジョディ・フォスター監督、主演でリメイクされるハリウッド版『たちあがる女』も楽しみです。