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Entry 2016/12/24
Update

映画『仕立て屋の恋』あらすじネタバレ感想とラスト結末の考察。大人の恋愛ラブストーリーを名匠パトリス・ルコントが描く

  • Writer :
  • シネマルコヴィッチ

今回ご紹介する映画は、フランス映画らしい恋愛映画『仕立て屋の恋』。

1989年に制作されたのですが、日本公開されたのは1992年。パトリス・ルコント監督の『髪結いの亭主』がヒットしたことで、前作も急遽公開をされました。

孤独な男イール、とても切ない恋愛映画についてのご紹介!

仕立て屋の恋2
(C)1989 – CINE A – France 3 FILMS PRODUCTIONS – HACHETTE PREMIERE & Cie

映画『仕立て屋の恋』の作品情報

【公開】
1992年(フランス)

【脚本・監督】
パトリス・ルコント
【キャスト】
ミシェル・ブラン、サンドリーヌ・ボネール、リュック・テュイリエ

【作品概要】
前科のある仕立て屋の男イール。趣味といえば、向かいのアパートに住むアリスを窃視すること。そんな彼が、ある事件の容疑者として刑事に追われてしまう…。

1933年に書かれた、ジョルジュ・シムノンの小説(原題:Les Fiançailles de Mr Hire)が原作。監督は、『髪結いの亭主』のパトリス・ルコント、音楽は『ピアノ・レッスン』のマイケル・ナイマン。

また、同原作は1946年に、ジュリアン・デュヴィヴィエ監督が制作した『パニック』のリメイク作品です。

映画『仕立て屋の恋』のあらすじとネタバレ

仕立て屋の恋1
(C)1989 – CINE A – France 3 FILMS PRODUCTIONS – HACHETTE PREMIERE & Cie

仕立て屋の中年男のイールは、殺人事件の容疑者として、刑事の捜査対象に浮上する。

几帳面なイールは、過去に性犯罪歴があり、人目を避けるように生活をごしています。

そんなイールにも、唯一の楽しみがありました。

向かいのアパートの一室に暮らす若くて美しいアリスの生活を覗き見ることです。

イールは、アリスに恋をしまいますが、彼女はエミールという恋人がいました。

ある夜のこと、アリスは、イールから部屋を覗いていることに気付きます。

アリスは、初めは窃視症であるイールを気持ちが悪いと感じていました。

しかし、アリスは、何か思惑があるのか、イールの部屋を訪れます。

あの殺人事件があった晩に、エミールが、アリスの部屋に慌てて逃げ込んでいた様子をイールは目撃していたのです。

エミールが殺人犯ではないかと知るイールは、アリスが殺人事件を隠蔽する協力を見られていたのではないかと確かめたかったのです…。

以下、『仕立て屋の恋』ネタバレ・結末の記載がございます。『仕立て屋の恋』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
しかし、イールは、アリスの色仕掛けの裏にある思惑を見抜いていました。

それでもイールは、アリスを愛しているのから、事件に関与した情報は漏らさないと言います。

だんだんと、アリスは、イールの愛に心揺れ、2人の関係は急速に深まります。

やがて、イールは、アリスに自分が全てのことから守ってあげるから、スイスに逃亡しようと列車のチケットを渡します。

ところが、イールは駅で待てども約束の時間にアリスは姿を見せません。

落胆したイールが、自分の部屋に戻ると、そこには刑事とアリスがいました。

アリスは、殺人事件の被害者が持っていた鞄をイールのタンスから見つけた刑事を呼び出し、イールが容疑者だと密告したのです。

自分を裏切ったアリスに、イールは、「君を少しも恨んではいない。ただ死ぬほど切ないだけだ。君は喜びをくれた」と告げます。

すると、刑事が油断した隙を見て、部屋を飛び出し、屋上へと逃げ出します。

覚悟を決めていたイール、それでも足を滑らして転落。

屋根から落下するイールの目と、窓越しのアリスの目が、永遠の時間のように視線を合わせます…。

やがて、事件を解決した刑事は、イールから届いた手紙を読みます。

事件の真相についてイールが残した手紙と、エミールが犯行の際に着ていた血で染まったコートで事件は冤罪出会ったことが明らかになるのです。

その手紙は、アリスと共にイールが、スイスへ国外逃亡したことを前提に投函されたものでした。

そこには、殺人事件の共犯であったアリスを見逃して、自分とアリスの幸せな暮らしを祝福して欲しい願うものでした…。

映画『仕立て屋の恋』の感想と評価

仕立て屋の恋4
(C)1989 – CINE A – France 3 FILMS PRODUCTIONS – HACHETTE PREMIERE & Cie

パトリス・ルコント監督の『仕立て屋の恋』は、『髪結いの亭主』の前年に発表した作品です。

この作品では、原作に書かれた人種差別的な意味よりも、恋愛映画の部分に特化した作品に仕上げたとパトリス監督は、インタビューで述べています。

それでも、イールはロシアからのユダヤ人移民であることを感じさせる要素は、うまい具合に描かれています。

そのことを知っていると、もっと、作品の深さが読めてくるのではないでしょうか。

もう1度、簡単に物語を振り返ってみましょう。

パリに住む主人公イールは、ユダヤ人移民の仕立て屋。過去の犯罪歴のせいか友人もおらず、周囲から差別的な目で見られている。

だが、そんな彼には密かな愉しみがあった。それはブラームスのレコードを聴きながら、向かいの家に住むアリスを窓から覗くことだ。そんなイールは、殺人事件の容疑者の疑いがかけられてしまう。

さて、この映画では、窃視症のイールの他にも「視線」が多く描かれています。

刑事や近隣からの疑いの「視線」は、第二次大戦でフランスでも起きた「ユダヤ人迫害」を想起させたものです。

イールとアリスの関係は、ユダヤ人とフランス人であり、暴力的で殺人犯の恋人エミールは、ドイツ人という比喩の元に描かれているのでしょう。

また、誰の目にも、この作風の全編が、エロスに満ちていることに官能され、同時にタナトスも感じる仕組みになっています。

エロスは、「人間の根本的な生の衝動(性欲)」、タナトスは、「人間が自分を破壊しようとする死の衝動」

フロイトは、正常な人間は同時に、この2つが共存している状態でバランスを保っているとしています。

タナトスを感じさせた描写は、殺人事件の他にも見られます、それは、イールの飼っていた「白鼠」です。

ユダヤ人であるという彼が、大切に飼っている白鼠を、「カゴ(収容所)に何匹も鼠を押し入れている」、「死んだ鼠は白い布で包み埋葬(ユダヤ教の葬儀)」、「鼠を線路のレールの上で殺害(虐殺)」を見せることで、アリスへの愛(エロス)を高揚させてもいます。

つまり、パトリス監督は、恋愛映画に特化したことで、特定の民族を批判するテーマを避けたのではないでしょうか。

むしろ焦点は、誰かを愛するという行為に潜む、エロスとタナトスの2つのバランスが崩れる精神をテーマにしたのだと考えられます。

まとめ

仕立て屋の恋3
(C)1989 – CINE A – France 3 FILMS PRODUCTIONS – HACHETTE PREMIERE & Cie

昨今では、ヨーロッパのみならず、移民が作り上げた国家であるアメリカでも、移民問題が起きています。

『仕立て屋の恋』の中には、周囲から差別的な視線を向けられるイールが、愛のまなざし(視線)でアリスを見つめます。

その際にユダヤ人のイールが、儀式的に掛けていたレコードは、ドイツ人のヨハネス・ブラームスの「ピアノ四重奏曲第1番 ト短調」の第4楽章「ジプシー風ロンド」です。

どんな人種あれ、愛のある美しいものを作り尊敬ができる。そして、美しい人をどこまでも深く愛せるという希望を描いた作品のではないでしょうか。

アリスの目で見た最後のイールに何を見たか?

あなたのまなざし(視点)で、愛について確認してみるのはいかがでしょうか。

フランスらしい恋愛映画の名作!ぜひ、ご覧下さい。印象深い傑作です!

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