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Entry 2019/04/10
Update

キュアロン映画『ローマROMA』レビューと評価。作品タイトルに隠された2つの秘密

  • Writer :
  • もりのちこ

美しくも心さみしいモノクロの世界。
幸せとはどんな色なのでしょうか。

アルフォンソ・キュアロン監督が、脚本・製作も手掛け、自身の幼少期の記憶を蘇らせた自叙伝的映画『ROMA ローマ』。

1970年のメキシコシティ、コロニア・ローマ地区で暮らす中産階級の家族と、そこに住込みで働く家政婦の日常を描いています。

家政婦クレオの目線で綴られた日々の記憶は、当時のメキシコの情勢や格差社会の現状までも映し出しています。そして、強くならざるを得ない女性たちの物語でもありました。

ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞、第91回アカデミー賞では10部門にノミネートのすえ、外国語映画賞、監督賞、撮影賞を受賞した話題作『ROMA ローマ』を紹介します。

映画『ROMA ローマ』の作品情報

【日本公開】
2019年(メキシコ・アメリカ映画)

【監督・脚本・撮影】
アルフォンソ・キュアロン

【キャスト】
ヤリッツァ・アパリシオ、マリーナ・デ・タビラ、マルコ・グラフ、ダニエラ・デメサ、カルロス・ペラルタ、ナンシー・ガルシア、ディエゴ・コルティナ・アウトレイ

【作品概要】
『ゼロ・グラビティ』のアルフォンソ・キュアロン監督が、自ら脚本・撮影も手掛け、自身の幼少期過ごしたメキシコでの記憶を映像化した自叙伝的映画『ROMA ローマ』。

リアリティの追求のため出演者は無名の俳優を起用。エキストラにも、実際にその職業で働いている人々を起用する徹底ぶりです。

主役のクレオを演じたヤリャッツァ・アパリシオは、これまで演技の経験もなく、保育士の勉強をしていた一般女性、本作がデビュー作となりました。

映画『ROMA ローマ』のあらすじとネタバレ


Netflixオリジナル映画「ROMA ローマ」
タイルの敷かれた床に、水が流れます。ゴシゴシ、ブラシを擦る音。何度も流される水は、泡交じりとなっていきます。

泡を含んだ水たまりが鏡のように、空を飛ぶ飛行機を映しています。

ここは、1970年メキシコシティ、コロニア・ローマ地区。この地区には中産階級の邸宅が並んでいます。

クレオは、アントニオ医師家族が暮らす邸宅で住込みの家政婦として働いています。彼女ともう一人の家政婦アデラは先住民であり、この地区では人種差別のもと先住民の家政婦はめずらしくありません。

タイルの敷かれた通路では、犬のボラスがフンをし放題です。それを洗い流すのも仕事。掃除、洗濯、食事の他にも子供たちの世話に追われる毎日です。

アントニオの家族は、妻のソフィアに子供4人、ソフィアの母親テレサの7人家族です。子供たちはそれぞれ、長男のトーニョ、次男のパコ、三男のペペ、長女のソフィ。

子供たちはクレオにとても懐いています。家族のように接する子供たち。それでも立場はわきまえています。クレオはこの家で良き家政婦でした。

クレオが屋上で洗濯をしていると、まわりで兄弟は喧嘩を始めます。これも日常です。ペペの死体ごっこに付き合うクレオ。「死ぬのも悪くないね」。と一緒に寝そべります。

父親のアントニオは運転が下手。なのに、キャデラックに乗ったアントニオは毎回、家のパティオに車を入れるのに一苦労。それでもパパの帰りを喜んで待つ子ども達。家族は一見幸せそうに見えます。

しかし、アントニオは浮気をしていました。子供たちには出張と嘘をつき家を出ます。妻のソフィアは引き留めることも、怒ることも出来ませんでした。

クレオは、同じ家政婦のアデルの紹介でフェルミンという男と付き合っていました。

ある日、クレオはアデルとダブルデートに出かけます。嬉しさを隠しきれず、街の中を駆け出すクレオとアデル。彼女たちのつかの間の休息です。

フェルミンと会ったクレオは、アデルたちと別れ、ホテルの部屋へ。フェルミンは、自分のことを語ります。スラム街の出身で母親と2人暮らし。これまで悪事をやってきたが、武術に出会い心を入れ替えたと。

その武術の素晴らしさを伝えるため、全裸で棒を振り回してみせるフェルミン。若い2人は燃え上がる情熱を持て余しているかのようです。

そしてシャワーを浴びるといつもの朝がやってきます。子供たちを起こし、朝食の準備、皆を送り出して、犬のフン掃除、洗濯。

そんなクレオの日常に変化が訪れます。

今日もフェルミンとデートです。映画館に行く2人は、映画そっちのけで2人の世界です。クレオはフェルミンに告白します。「生理がこないの」。返事がこないフェルミンにもう一度伝えるクレオ。

「それは良いことだろ」。フェルミンも喜んでくれているのでしょうか。

しかし、映画の途中でトイレに立ったフェルミンは、その後戻ってきませんでした。氷が降る天気の日でした。

クレオは、奥様のソフィアに妊娠のことを打ち明けることにします。なかなか言い出せないクレオでしたが、ソフィアは事情を聞くと優しく抱きしめ病院へ連れて行きます。

ソフィアは旦那に負けず劣らず運転が下手でした。病院までの間でキャデラックはボロボロです。

無事、病院で診断を受けたクレオは、やはり妊娠していました。ソフィアの提案でクレオは新生児室を覗きに行くも、そこで突然大きな地震が起こります。

激しい揺れが落ち着き、部屋の向こうの保育器を見ると、上には瓦礫が落ちていました。

十字架が並ぶ墓では風で布が揺れています。どうしても拭えない不吉さが漂います。

その年のクリスマス。家族は帰って来ない父親を置いて、親戚の家族たちと過ごすことに。お腹が目立ってきたクレオも同行します。

親戚が集まった邸宅では、クリスマスから年末年始にかけて盛大なパーティーが行われます。酒を飲み、大人たちは拳銃の試し打ち、夜は子供たちも夜更かしし、ゲームにダンスパーティに好き勝手過ごします。

それぞれの家族の使用人たちも地下で別のパーティーを開いていました。クレオも誘われ参加します。乾杯をするも人にぶつかられコップを割ってしまうクレオ。

外では森が火事になっていました。親戚たちは総勢で火消しに当たるも燃え上がるばかり。それもまた運命の流れには逆らえない虚しさなのでしょうか。

次の朝、あたり一面焼け焦げになるも火事は収まります。山岳地帯を散歩する子供たち。田畑には砂埃が舞い、羊たちが群れ、遠くに山裾が広がります。クレオは、その景色に自分の故郷を思い出します。

時代はうごめいていました。そのうねりは、ソフィアの家族やクレオにも押し寄せます。

以下、『ROMA ローマ』ネタバレ・結末の記載がございます。『ROMA ローマ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
映画を見たいと言う子ども達に付き添い、映画館に向かう祖母のテレサとクレオ。

先に駆け出すトーニョとその友達を追ってクレオは、映画館の前まで走ります。そこで、目にしたのは他の女性と楽し気に映画館から出てくるアントニオでした。

「あれトーニョのお父さんじゃない?」と聞く友達に「まさか」と答えるトーニョ。クレオはそのことを秘密にします。

クレオはもう一度フェルミンに会うことにしました。お腹はだいぶ大きくなっています。

フェルミンの通う道場では、レオタード姿の怪しげな人物が指導に当たっています。武術の指導者ソベック先生です。

ソベックは、精神と身体が整って出来るポーズをやってみなさいと指導します。目を閉じ、両手を頭の上にあげ人差し指を合わせ、片足を上げます。

馬鹿にしたようなポーズでもほとんどの人が出来ません。クレオだけはすんなりポーズを決めていました。まさに心身一体。

道場の修行が終わりクレオはフェルミンに声を掛けます。「妊娠しているの」と言うクレオにフェルミンは「お前も子供も殴られたくなかったら二度と来るな。この召使め」と脅します。

フェルミンは、武術で何を学んでいたのでしょうか。得意げに全裸で武術を披露していた姿が滑稽にすら思えます。

一方、ソフィアは夫のアントニオが帰って来ないことでイライラしていました。

電話を盗み聞きした息子のことを叩いてしまいます。なぜ聞かせたのと、クレオにも当たり散らします。

母親のイライラが伝染するかのように子供たちの喧嘩もエスカレート。投げたボールがガラスを割ります。いつか大きな事件が起こってしまいそうな不穏な流れです。

クレオの出産予定日が近づいてきました。祖母のテレサはクレオを連れて、赤ちゃんのためにベビーベッドを買いに出かけます。

街中では反政府デモが激しさを増していました。銃声と逃げ惑う悲鳴が、クレオたちのいる家具屋にも聞こえてきます。

突然、拳銃を持った青年たちが家具屋になだれ込んで来ます。追われていた人物は撃ち殺されてしまいます。

その過激なデモの一団の中にフェルミンの姿がありました。フェルミンは拳銃をクレオに向けています。お互い、驚きの表情のまま時間が過ぎます。

フェルミンが立ち去った後、クレオは破水します。テレサに付き添われ病院を目指すも、このデモで車も渋滞、病院もパニックになっていました。

ソフィアの計らいで緊急オペに取り掛かるクレオ。しかし、お腹の中の赤ちゃんの心音が聞こえません。

クレオは赤ちゃんを産み出すも間に合いませんでした。蘇生を試みる医師たち。それを泣きながら見守るクレオ。赤ちゃんが息を吹き返すことはありませんでした。

「死産です。女の子でした。抱きますか?」。

動かぬ我が子を抱きしめ泣き続けるクレオ。その姿は痛々しくもマリア様のようでした。

退院しても口数少なく、力がでないクレオ。

一家の不運を取り払うかのように、ある日ソフィアが新しい車を買ってきます。

夫の所有車キャデラックを手放すことにしたソフィアは、最後に皆で旅行へ行こうと提案します。

首を横に振るクレオ。しかし、子供たちのお願いもあり一緒に行くことにします。

旅行先は美しい海の見える場所でした。海に入って遊ぶソフィアたち家族を、泳げないクレオは浜辺で見守ります。前よりも無口になったクレオを子供たちは心配しています。

一家だんらんの夕食時。ソフィアは子供たちに、もうパパは帰って来ないと報告します。「でもこれからも皆は一緒。これは冒険よ」。ソフィアの言葉に長男のトーニョだけ涙が止まりません。

ホテルでは反比例のごとく幸せな結婚パーティーが開かれていました。

旅行の最終日。一家は海に出ていました。車のメンテナンスをしに席を外すソフィア。子供たちに海に入らないように注意して出かけます。

任されたクレオは、言うことを聞かない子供たちに手を焼いていました。

目を離した隙に、パコとソフィの2人が沖に流されていきます。

急に荒くなる高波の中、泳げないクレオは必死に2人を助けに海に入っていきます。容赦なくぶつかってくる波。飲まれそうになりながらも懸命に救出するクレオ。

どうにか無事に砂浜にたどり着きます。ソフィはむせ、パコも震えています。

他の子供たちも駆け寄ります。そこに戻ってきたソフィアも状況を把握し崩れるように抱きしめ合います。

命をかけて子供たちを守ってくれたクレオ。しかし、クレオは堰を切ったように懺悔します。「子供に生まれて欲しくなかった。小さいのに可哀そう」。

止まらない懺悔にソフィアは、家族共々クレオを抱きしめ「それでもクレオを好きよ」と言い続けます。

この家族の悲しみをすべて洗い流すような時間でした。

帰りの車のなか、クレオに寄り添う子供たちは「クレオが好きよ」とつぶやきます。

キャデラックでの最後の旅行も終わりました。帰宅した家の中は、みごとに夫が持ち去った本棚だけなくなっていました。子供たちの部屋替えもあり心機一転です。

帰ってきたのもつかの間、クレオは各部屋の洗濯物を集め、屋上への階段を上がっていきます。空には飛行機が飛んでいます。

クレオはどこまでも立場をわきまえた、良き家政婦でした。

映画『ROMA ローマ』の感想と評価


Netflixオリジナル映画「ROMA ローマ」
映画『ROMA ローマ』はモノクロ映画です。

モノクロの世界は、アルフォンソ・キュアロン監督の幼少期の記憶に、まるで自分も入り込んでしまったような感覚に陥ります。

家政婦クレオの目線で綴られた日々の記憶は、当時のメキシコの情勢や格差社会の現状までも映しています。それは子供の目線のままでは描けなかったからではないでしょうか。

しかし、横ロールで流れるような映像は、街を走り抜けたり、パーティーで踊る大人たちのおしりが見えたり、飛行機が横切る空、そして横からやってくる激しい波など、子供の目線も感じられます。

そして、モノクロの中にも数々のシーンに色が付いて見えてきます。空の色や、料理の色、火事の燃え盛る色、海の色、悲しみの色。

これは自分が経験し記憶してきた色が勝手に映り込んだ結果なのでしょう。自分の幼い頃の記憶の回想と繋がるのです。

記憶とは可笑しな部分だけやけに鮮明に残っていたりします。その切り取られたシーンは、何かの暗示のようにも感じられるし、意味のないものでもあったりします。

その記憶という曖昧な面影をそのままに、印象に残っているシーンを繋ぎ合わせ、しかも自分の目線ではなく、家政婦の目線で描いたところが興味深いです。

終わりに「リボへ」というメッセージがあります。これはクレオのモデルとなったアルフォンソ・キュアロン監督が幼少期にお世話になった家政婦で乳母のリボのことです。

アルフォンソ・キュアロン監督のリボへの愛が込められた作品でした。

また映画『ROMAローマ』ではBGMがありません。日常の音がまるで近くで聞こえてくるような立体的な演出です。

水の流れる音、洗濯の音、車の音、犬の鳴き声、子供の笑い声、テレビから聞こえる流行の音楽、軍楽隊のパレード、電話の鳴る音、街の雑踏、デモの音、波の音。

音にも、悲しい音、幸せな音、恐怖の音と色が着いているものだと改めて感じます。

映画『ROMA ローマ』は、メキシコの歴史やスピリッツが分からない日本人には難しいと感じる映画かもしれません。

しかし、この物語は強く生きる女性たちの物語でもあります。そこには共感するものがあります。

クレオは寡黙で真面目な女性です。身分をわきまえつつも、愛情をもって子供たちに接します。なぜ彼女が、苦しまなければならなかったのか。

時代のせい、環境のせい、無知のせい、ダメ男のせい。それだけが原因ではない人生の不運に憤りを感じます。

動かぬ我が子を抱きしめ泣き続けるクレオ。その後、後悔の念を告白するクレオ。彼女も普通の女性なのです。

また子供たちの母親でもあるソフィアも主人公のひとりと言っても過言ではありません。

夫の浮気と離婚、そこから自分だけで子供たちを育てていこうと決意する母親の姿。クレオとは別の強さが彼女にも見えます。

苛立ちを見せながらも、日々片付けていかなければならない事柄に奮闘し、一家の主として家族を守ろう変わっていく姿。本当は幸せな妻として、華やかに暮らしたいのに。

彼女たちの悲しみは、黒い大きな波となって家族を襲ってきます。家族が抱き合い、悲しみと安堵の交じり合う海辺のシーンは、まるで神に祈りを捧げているかのような美しい光景です。

その波を乗り切った彼女たちの今後の人生には、色のついた幸せな人生があったと願いたいです。

ラストシーンは、横ロールだったカメラワークが、屋上への階段を昇って行くクレオを捉える縦ロールへと変わります。空には飛行機が飛んでいました。

空へと向かう、天国へと向かう視線。そこには悲しみもあるけれど一歩づつ成長していく前向きな姿がありました。

まとめ


Netflixオリジナル映画「ROMA ローマ」
アルフォンソ・キュアロン監督が、脚本・製作も手掛け、自身の幼少期の記憶を蘇らせた自叙伝的モノクロ映画『ROMA ローマ』を紹介しました。

格差・人種問題と政治的混乱に揺れる1970年代初期のメキシコ。そこで暮らす中産階級の家族と、そこに住込みで働く家政婦の関係を描いた作品です。

タイトルの『ROMA ローマ』には2つの意味が込められていると言われています。ひとつは、舞台となったメキシコのローマ地区の意味。

そしてもうひとつの意味。『ROMA』を逆にすると『AMOR』、スペイン語で「愛」という意味になるということです。

時代の波には逆らえず、悲しみから逃れられなくても、「愛」を持って生きることが何より美しいと気付かされます。

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