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Entry 2017/05/26
Update

カンヌ映画祭2017『光』永瀬正敏の演技と河瀬直美監督への評価

  • Writer :
  • シネマルコヴィッチ

永瀬正敏は河瀬直美監督の前作『あん』に引き続き『光』でも主演を果たして、2017年のカンヌ国際映画祭のレッドカーペットを踏みました。

彼は日本人初の3年連続のカンヌ入りをした俳優。また、俳優人生では4度目のカンヌに馳せ参じた永瀬正敏とは、いったいどのよう俳優なのでしょうか。

今回は永瀬正敏の演技の秘密に注目してみましょう。

映画『光』の作品情報

【公開】
2017年(日本・フランス・ドイツ)

【脚本・監督】
河瀬直美

【キャスト】
永瀬正敏、水崎綾女、神野三鈴智子、小市慢太郎、早織、大塚千弘、大西信満、堀内正美、白川和子、藤竜也

【作品概要】
『萌の朱雀』などの河瀬直美監督が、『あん』に主演した永瀬正敏とふたたびタッグを組み、『ユダ』の水崎綾女をヒロインに迎え描いたラブストーリー。

また、1983年の永瀬俳優デビュー作『ションベンライダー』で共演をした藤竜也が脇を固めています。

1.永瀬正敏のプロフィール


(C)2017 “RADIANCE”FILM PARTNERS/KINOSHITA、COMME DES CINEMAS、Kumie

永瀬正敏(ながせまさとし)は、1966年7月15日に生まれの日本の俳優。事務所は有限会社ロケットパンチ所属。

彼は俳優としてテレビドラマではなく、多くは映画作品いう希少な俳優。また、自身でも監督することがあり、写真家としても作品発表しています。

1983年に相米慎二監督の『ションベンライダー』で俳優デビュー。1989年にジム・ジャームッシュ監督『ミステリー・トレイン』や、クララ・ロー監督『アジアン・ビート(香港編)オータム・ムーン』に出演します。

また、1991年に日本アカデミー賞最優秀助演男優賞受賞した、山田洋次監督『息子』にも出演。国内外の100本近くの作品に出演して、数々の映画賞を受賞しています。

2.永瀬正敏の俳優デビュー作『ションベンライダー』

ジョジョ役を演じた永瀬正敏

1983年2月に全国公開された『ションベン・ライダー』は、同時上映は『うる星やつら オンリー・ユー』と併映された作品で、暴力組織の抗争に巻き込まれていく中学生たちの姿を描いた青春映画。

監督は日本映画界きってのロング・テイク(長回し撮影)を好む撮影方法で知られる相米慎二監督。

永瀬正敏のスクリーンデビュー作であり、主人公ヒロイン役のブルースを演じた河合美智子も今作がデビュー作になります。


https://www.amazon.co.jp/東宝-【映画チラシ】ションベン・ライダー-うる星やつら・オンリー・ユー-邦・サ/dp/B004TESBWM

この物語は、毎日のようにガキ大将のデブナガにイジメられているジョジョ、辞書、ブルースの3中学生3人。

ある日、デブナガに仕返しをしようとしていた矢先、彼らの目の前でデブナガが暴力組織の男たちに誘拐されてしまいます。

デブナガの救出しようとブルース、ジョジョ、辞書の3人は、ある男と出会います。

その男は誘拐事件を起こした組員の山と政を、組に連れ戻すように命じられていた中年ヤクザの厳兵でした。

3人は厳兵に一緒にデブナガを救出しようと交渉を持ちかけると、厳兵はしぶしぶ承諾しますが…。

3.永瀬正敏の演技原点回帰

永瀬正敏はスクリーンデビュー作『ションベンライダー』の演出を務めた、亡き相米慎二監督を師匠のようにとても慕っています。

現在でも永瀬正敏は財布の中に相米慎二監督の写真を入れていると言います。

1983年当時、デビューしたばかり永瀬正敏は、相米慎二監督に役柄の演技を教えてほしいと懇願しました。

しかし、相米慎二監督は、「役をやっているのはお前なんだから、お前がこいつのこと一番知っているはずだろうと?」と言って何も役柄についての意見は伝えず、自分で役柄について深く考えることを教わったと理解しているそうです。

そのことが、現在となって河瀬直美監督の『あん』や『光』に出演することに大きく役立ち、また、“人を演じる”という俳優としての原点回帰も想起させたようです。

永瀬正敏は河瀬組の撮影では小手先の演技は通用しないとも語り、

「芝居を30年以上続けると、芝居の赤が心の中にどうしてもたまってしまう。つい(演技らしい演技を)やってしまうんだけど、可愛組では真っ向から否定される。垢をそぎ落としてもらった気がしました(PICT-UP永瀬正敏インタビューから引用)」

と述べています。

河瀬直美監督の新作『光』の撮影現場を終えてから、しばらく経つものの永瀬正敏は、俳優として次回作と向き合うには時間がかかると感じているようです。

永瀬正敏は役柄を演じるというのではなく、視力を失っていくカメラマンの中森雅哉に成り代わっていたということでしょう。

相米慎二監督から叩き込まれた演技に対する原点である”相米イズム”は、30年過ぎても色褪せることはないようです。

また、『ションベンライダー』は永瀬正敏のデビュー作ですが、その際に共演したのが藤竜也

『光』で再び共演を果たすことになりますが、きっと永瀬正敏や藤竜也には感慨なる思いがあったことでしょう。

永瀬正敏はそのことについて、

「普段、監督はほかの役者さんと話をすることも許さないんですが、藤さんとの関係はよく分かっていらっしゃっていて、『話してきなさい』とおっしゃってくれたんです。本当に久しぶりだったのですが、特別な時間を過ごすことができました。それから、(美佐子の母役の)白川和子さんはドラマデビュー作のお母さん役。何も分からない僕に丁寧に教えて頂きました。今回はそういう特別な方と共演できたのは嬉しかったです(映画.comインタビューから引用)」

このような粋な配役をしたプロデューサーの澤田正道と武部由実子は、“映画作りの肝”とも呼ぶべき作品を作り込身を心得ていると感じさせてくれます。

永瀬正敏ファンや映画ファンを納得させる影なる仕掛けに拍手を送りたいですね。

4.河瀬直美監督の『光』撮影現場とは?


(C)2017 “RADIANCE”FILM PARTNERS/KINOSHITA、COMME DES CINEMAS、Kumie

永瀬正敏は河瀬直美監督の撮影現場について、“ありがたい現場”だと語ります。

監督の撮影の掛け声であるスタートもカットもかからず、その役として生きる環境を作ってもらえ、いつ始まりいつ終わるかでもなく、その役として生きることを求められる現場だそうです。

また、極力スタッフが俳優の視界に入らないように配慮するや、俳優名ではなく役柄(雅哉さん)で呼ぶなど、河瀬直美監督は役以外のことを意識させないようにしているそうです。

さらに、出演する俳優同士が空き時間に雑談などをすることも禁止されているようです。徹底したストイックな河瀬直美監督の映画に対する美意識を感じますね。

しかし、先に書きましたが、永瀬デビュー作の共演者の藤竜也との雑談を許可したそうです。

藤竜也は『光』の中で北林という映画監督という役を演じています。

永瀬正敏と藤竜也が『光』の中に残した演技に、これらのいくつかの構造が“心のひだ”として影響しているのでしょう。

河瀬直美監督は作品に関する演出と人の懐が感じられるエピソードではないでしょうか。

永瀬曰く、俳優なら河瀬組を体験した方が良い‼︎


(C)2017 “RADIANCE”FILM PARTNERS/KINOSHITA、COMME DES CINEMAS、Kumie

永瀬正敏は河瀬直美監督の率いる河瀬組について、声を大にして言いたいと、

「役者という職業をしている人は、1度は河瀬組を経験したらいいと思います。はたと気づくことがいっぱいあるから。お芝居自体がウソなので、さらにウソを1個、2個、3個と重ねちゃうと、それは許されないウソになることを改めて経験できるのです(PICT-UP永瀬正敏インタビューから引用)」

と述べています。

河瀬監督とタッグを組んだ前作『あん』の撮影現場で、ある感情的な場面を撮影した際に、永瀬正敏はラストショットを効果的に観客に見せるためにも、涙を流してはならない撮影だと頭では理解していたそうです。

しかし、共演をした樹木希林の演じるライ病患者の徳江を前にした時に、どうしても涙腺が緩んでしまったそうです。

シナリオにも永瀬正敏の演じる役に泣くというト書きは書いてはいなかったといい、河瀬直美監督が役柄に成りきれるように配慮された現場では、それが演じるウソで流した涙ではなく、本物の行為(本人になりきった)ことで流した涙なのでしょう。

永瀬正敏の俳優として実力は世界も認めるところですが、同じ良いに河瀬直美監督の作品や演出の評価も世界から賞賛を受けることがわかるエピソードではないでしょうか。

5.まとめ

永瀬正敏はカンヌ国際映画祭に河瀬直美監督に連れて来てもらえたと感謝をしているようです。

カンヌで上映された『光』のエンディングロールでは、多くの観客から拍手喝采を浴びたようです。きっと、作品を観た観客の心に“光”の温もりを与えたのでしょう。

上映終了後に館内のライトアップがされても、永瀬正敏はカンヌの観客の作品に対して送られた温かさに感無量に成り、なかなか席を立ち上がれなかったようです。

『光』という作品は、永瀬正敏の約30年の俳優人生の原点回帰させつつ、代表作になったのは間違いないでしょう。

しかもそれが、世界的な映画監督である河瀨直美監督とっても同じく代表作であり、ひとつの集大成的作品。

映画『光』の公開は2017年5月27日から東京の新宿バルト9ほか、全国順次公開。

ぜひ、お見逃しなく!

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