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Entry 2019/03/16
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映画『運び屋』ネタバレ感想と評価解説。クリント・イーストウッドが実在の“伝説の運び屋”に挑む|サスペンスの神様の鼓動14

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

こんにちは、映画ライターの金田まこちゃです。

このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。

今回取り上げる作品は、実在した“伝説の運び屋”をモデルに、クリント・イーストウッドが10年ぶりに監督・主演で映画化したサスペンス『運び屋』です。

【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら

映画『運び屋』のあらすじとネタバレ



(C)2018 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

農園を営み、デイリリーという高級ユリの栽培を手掛けるアール・ストーン。

彼は品評会でも高い評価を受けていますが、デイリリーの栽培に集中するあまり、アールは家族の事を考えず生きて来ました。

アールは品評会を優先させ、娘のアイリスの結婚式にも姿を見せず、家族は心底愛想を尽かせていました。

数年後。時代の波はインターネットでの販売に変わり、時代の変化に対応できなかったアールは、自身の農園を廃業する事になりました。

農園を廃業したアールは、孫娘のブランチパーティーに出席します。

ですが、家族からは良い顔をされない為、居心地の悪を感じたアールは、パーティー会場から抜け出します。

そこへ、アールの様子を見ていた1人の男性が声をかけて来ました。

アールは仕事で、アメリカのほとんどの州を車で渡っており、無事故、無違反という優良なドライバーでした。

男は「あんたにピッタリの仕事がある」と、あるタイヤ工場の連絡先をアールに渡します。

当初は男の話を警戒していたアールですが、孤独で行く場所も無く、寂しい気持ちを紛らわせる為、指定されたタイヤ工場を訪れます。

タイヤ工場には、メキシコ人の男性が数名おり、アールは指定された荷物をモーテルへ運ぶ事を指示されます。

条件は1つだけ「中の荷物は覗かない事」。

アールは、言われた通りにモーテルへ荷物を運び、報酬として大金を手に入れました。

麻薬捜査官のコリン・ベイツは、新たに配属された部署で、主任特別捜査官から結果を出すように言われます。

コリンは相棒のトレビノと共に、麻薬組織の捜査を開始します。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『運び屋』ネタバレ・結末の記載がございます。『運び屋』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
運び屋の仕事は、たった1度だけと誓っていたアールですが、廃業し押収された自身の農園を取り戻す為に、2回目の運び屋の仕事を開始します。

条件は前回と同じで、同じモーテルへ荷物を運ぶ事でした。

2回目の仕事を成功させたアールは、自身の農園を取り戻します。

ある日アールは、馴染みの軍人レストランが、火事で廃業しなければならなくなった事を知ります。

馴染みの場所が無くなる事を嘆くアールですが、資金を用意できれば、廃業をしないで済む事を知ります。

アールは、運び屋として3回目の仕事に挑みます。

運ぶ荷物の中身は確認しない事が条件でしたが、荷物を不審に感じたアールは、荷物の中身を空けます。

そこにあったのは、大量の麻薬でした。

中身を確認しながらも、運び屋の仕事を完遂させたアールは、これまでとは桁違いの報酬を得ます。

麻薬捜査を進めるコリンは、麻薬組織の構成員を捕まえ、証人保護プログラムを条件に、自分たちへ情報を流す事を約束させます。

コリンは、組織が行う麻薬取引の仕組みの情報を得て、そこには運び屋が存在する事を知ります。

運び屋の仕事を何度も成功させるようになったアールは、麻薬組織のボスであるラトンに気に入られ、邸宅に招待されるようになっていました。

ですが、ラトンは部下に裏切られ射殺されてしまいます。

麻薬組織の新たなボスは、締め付けが厳しく、これまで自由にやっていたアールも、自身の支配下に置こうと脅しをかけます。

アールは組織に脅され、強制的に、これまでとは比べ物にならない量の麻薬を運ぶことになります。

逆らう事は死を意味していました。

一方、麻薬組織の情報を得ながらも、決定打を得られないコリンは焦りを感じていました。

コリンは、取引が行われるモーテルの情報を得ますが、運び屋が老人だと考えておらず、現れるはずの運び屋を逮捕する事ができませんでした。

麻薬を運んでいたアール、そこへ妻のメアリーが危篤状態であると、電話を受けます。

メアリーの様態を気にしながらも、運び屋の仕事を中断する訳にはいかないアールでしたが、迷った末にメアリーの元へ駆け付けます。

自宅で療養しているメアリーを見舞い、これまで、家族の事を考えなかった自分の行動をアイリスに詫びるアール。

アイリスは、アールの気持ちを受け入れ、親子の絆が再生します。

ですが、運び屋の仕事を途中で放棄した事で、アールは麻薬組織から追われる立場になります。

メアリーが亡くなり葬儀を終えたアールは、組織の追っ手に捕まります。

アールは組織に命じられ、再び運び屋として車を走らせる事になります。

しかし、アールの車が走る先は、運び屋の詳細な情報を得たコリンにより封鎖されていました。

アールはコリンの手により、逮捕されます。

アールは逮捕後の裁判で、自身の罪を認め刑務所に収容されます。

刑務所の中でアールは、再びデイリリーを育て始めました。

サスペンスを構築する要素①「闇の社会に足を踏み入れるアール」



(C)2018 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

『運び屋』の主人公アールは、90歳で麻薬の運び屋という「闇の社会」へ足を踏み入れます。

途中から、自身が運んでいる荷物が麻薬である事を知っても、アールは運び屋の仕事を続けます。

これまで「闇の社会」に無縁だったアールが、何故、危険な仕事と知りながら、運び屋を続けたのでしょうか?

長年、家族の事を考えずに生きてきたアールですが、自身が心血を注いできた農園を廃業しなければならず、行く場所を無くしていました。

そこで、寂しさを紛らわすように、運び屋の仕事を始めます。

ここで印象的なのは、麻薬組織のメンバーが、全員アールを受け入れ、優しく接してくれている事。

アールは、自分を必要としてくれる、麻薬組織に居場所を見つけ、次第に運び屋の仕事を続けていくようになります。

家族にも見放された老人を、受け入れてくれたのが麻薬組織でした。

本作は社会での役目を終えた老人の、その後の孤独を、皮肉と恐怖を交えて描いています。

サスペンスを構築する要素②「迫りくる警察の捜査」



(C)2018 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

運び屋の仕事に自身の居場所を見つけたアールは、次第に組織でも認められるようになり、その姿は、運び屋の仕事に喜びを感じているようにも見えます。

そこへ麻薬捜査官のコリンが登場し、少しづつ、しかし確実にアールを追い詰めて行きます。

アールとコリンの距離が、じわじわと縮まるにつれて、映画全体に緊迫感が生まれていきます。

そして、緊迫感が最高潮に達した時に、コリンは運び屋としてのアールと、顔を会わせる事になるのです。

コリンを演じているのは、2018年に『アリー/スター誕生』を監督した事でも話題の俳優、ブラッドリー・クーパー。

コリンを人間臭く魅力的に演じており、アールを演じたクリント・イーストウッドとの共演シーンは少ないですが、どれも見逃せない場面となっています。

サスペンスを構築する要素③「逃れられない運命」



(C)2018 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

本作の後半では、アールを取り巻く環境が大きく変わります。

麻薬組織のボスが変わり、運び屋の仕事を強制されるようになった事に加え、アールの妻メアリーも亡くなります。

2つの変化により、アールはこれまで逃げてきた事や、目を背けてきた事に向き合わなければならなくなります。

そして、自身の居場所を求めて続けていた、運び屋の仕事が間違いである事、これまで家族を悲しませていた事を認める事になります。

最終的に、アールは全ての罪を認めます。

これは麻薬を運んでいた罪だけでなく、これまでの自身の人生の過ちを、全て認めたように見えます。

映画のラスト、再びデイリリーを育て始めたアールの姿は、これまで自身の運命から逃げ続けていた事への、罪滅ぼしのようにも見えます。

『運び屋』は、家族や周囲の人間の中で生きる事の意味。

そして社会における、自分の居場所と必要性について問いかける、人間ドラマであると言えるでしょう。

映画『運び屋』まとめ



(C)2018 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

本作は、「The New York Times Magazine」に掲載された記事から、着想を得て作られた作品です。

1人で大量の麻薬を運んでいた、87歳の逮捕歴も無い老人、レオ・シャープが2011年に麻薬取締局に確保されたという事件です。

映画のモデルにする為、クリント・イーストウッドはレオ・シャープの事を知る人間を探しましたが、誰も見つかりませんでした。

分かっている事は、記事に書かれた情報のみで、レオ・シャープがデイリリーを育てていたのは事実です。

クリント・イーストウッドは、レオ・シャープの不明な部分は、全て想像力を働かせて作り上げました。

本作の主人公、アールは老若男女問わず、気さくに話しかけ、誰からも好かれるキャラクターになっています。

その姿は、理想の老人像とも言えるでしょう。

ただし、家族には嫌われており、アール自身もその現実から逃れるように仕事へ夢中になります。

「仕事に夢中になるあまり、家族の事を考えない男」という部分が、今回の作品でクリント・イーストウッドが掘り下げたかったテーマである事を、インタビューで語っています。

過去には、家族のイベントより仕事を優先させてきた事も語っており、この作品は、作中のアールのように、クリント・イーストウッド自身の、家族への罪滅ぼしの意味が込められた作品なのかもしれません。

アールの娘、アイリスを演じたのは、実際にクリント・イーストウッドの娘である、アリソン・イーストウッドでした。

キャスティング案は、キャスティングディレクターから出されたそうですが、クリント・イーストウッドが、このキャスティングを受け入れたのも『運び屋』が家族の映画である事を象徴していますね。

クリント・イーストウッドは、前作『15時17分 パリ行き』では、犯人を取り押さえた本人達を起用し、事実を忠実に再現していましたが、『運び屋』では、ほとんどのエピソードを創作しています。

同じ実話をベースにした作品でも、違うアプローチを見せており、次回作は何をテーマに、どんな作品にするのか?楽しみですね。

次回のサスペンスの神様の鼓動は…


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有名心霊スポットとして知られる廃病院に、足を踏み入れた若者たちが遭遇する恐怖を描いた韓国ホラー映画『コンジアム』を、サスペンス的な演出に注目して、ご紹介します。

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