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Entry 2019/03/16
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映画『アサンディミッタ』あらすじと感想レビュー。スリランカの鬼才監督アソカ・ハンダガマとは|OAFF大阪アジアン映画祭2019見聞録9

  • Writer :
  • 加賀谷健

連載コラム『大阪アジアン映画祭2019見聞録』第9回

今年で14回目の開催となる大阪アジアン映画祭。2019年3月08日(金)から3月17日(日)までの10日間、アジア圏から集まった全51作品が上映されます。

今回は3月13日にシネ・リーブル梅田で上映された「コンペティション部門」選出作品のスリランカ映画『アサンディミッタ』を取りあげます。

【連載コラム】『大阪アジアン映画祭2019見聞録』記事一覧はこちら

映画『アサンディミッタ』の作品情報


【公開】
2018年(スリランカ)

【監督】
アソカ・ハンダガマ

【キャスト】
ニミニ・シゲラ、ダルマプリヤ・ダイアス、W・ジャシリ、シヤム・フェルナンド、ヤショーダ・ウィマラルダ

【作品概要】
スリランカの鬼才アソカ・ハンダガマ監督の作品。

復員兵の孤独を描いた前作『兵士、その後』(2012)が第25回東京国際映画祭で上映されて以来の日本上映となります。

スリランカの美しい風景とサスペンスフルな緊張感が一体となった珠玉の作品です。

映画『アサンディミッタ』のあらすじ

ある夜、スリランカで有名な映画プロデューサーの元に電話がかかってきます。

相手は同級生のアサンディミッタだと名乗ります。

初めは雑談を楽しむ2人でしたが、女性を3人殺したという突然の告白にプロデューサーは動揺を隠せません。

怪しい声はさらに続けます。

自分の物語を映画にしてほしいと言うのです。

これはただ事ではないと直感した彼は翌日、アサンディミッタと会う約束をします。

現れたのは、体重130キロの巨漢の女性。2回の離婚を経験し、今は38歳だといいます。

バスの車内。アサンディミッタは隣の席に座ってきたヴィッキーという男を家に誘い入れます。

そこから2人の奇妙な同棲生活が始まるのですが……。

スリランカの鬼才アソカ・ハンダガマ監督とは

第25回東京国際映画祭で上映されたアソカ・ハンダガマ監督作品『兵士、その後』

これまで東京国際映画祭では何度か上映の機会があり、その名はすでに日本に紹介されています。

スリランカで30年に及んだ政府軍と反政府武装組織「タミル・イーラム解放の虎」との間で起きた内戦から帰還した兵士の孤独を描いた『兵士、その後』の深遠な雰囲気に多くの観客が唸りました。

作風としては、スリランカの厳しい現実を鋭く抉る緊張感のある映像が特徴的です。

また、スリランカ中央銀行の副総裁を務めるという異色の経歴の持ち主です。

その傍ら、旺盛な映画製作を続け、現在までで10本の監督作品があります。

アソカ・ハンダガマ監督プロフィール

1962年スリランカ生まれ。

本国での存在感は極めて大きく、現代社会の厳しい現実に立ち向かう舞台劇や、映画制作で高く評価を受ける一方、激しい非難も受けてもいます。

2000年の監督第3作となる『マイ・ムーン』以降、海外の映画祭で認められるようになりました。

2012年の第25回東京国際映画祭「アジアの風」部門で上映された映画『兵士、その後』は長編7作目の作品。

また第15回東京国際映画祭で上映された『この翼で飛べたら』ではアジア賞を獲得。そのほか、コロンボ国際映画祭(スリランカ初の国際映画祭)では実行委員長を務めました。

視点の曖昧なカメラとサスペンス

深夜に電話をかけてきたアサンディミッタがカメラの前に初登場する場面には独特の緊張感があります。

バスに乗る間際、彼女は一瞬カメラ目線になって、車内へカメラを誘います。

そのままPOV形式で語られていくのかと思いきや、視点はゆるやかに3人称に切り替わり、通常のドラマが始まるのです。

この奇妙な視点の切り替えには違和感がありますが、『アサンディミッタ』の人称が定かではない視点には。映画を宿していく求心力があるでしょう。

その後物語は確かに、アサンディミッタの夢か現かわからない状態で進んでいくのです。

ハンダガマ監督は、カメラの視点を意図的に曖昧にすることで、絶妙なサスペンスを醸し出すことに成功しています。

さらにアサンディミッタの同棲相手であるヴィッキーが老女の首を絞めて殺害するサスペンスフルな場面は、アルフレッド・ヒッチコックの『サイコ』(1960)へのちょっとした目配せとしてみることも出来るでしょう。

舞台挨拶リポート


©︎ Cinemarche

3月13日の上映後には舞台挨拶があり、アサンディミッタ役のニミニ・シゲラさんが登壇。

普段は学校で教鞭をとっていて、ドラマ女優としての出演歴はあるものの、映画は初主演だというシゲラさん。

「なぜこの映画に出られたかというと、わたしのこの体のおかげです」と会場に笑いを誘います。

出演の意図について「スリランカの社会問題として、このような差別される人がいる状況をどうにかしていかなければなりません」と続けます。

これは、亡霊の映画なのか、それとも悪魔の映画なのかという質問に対しては、「ある女性の精神状態の現れです。人生すべてが夢であり、誰にでもストーリーがあるのです」と答えました。

さらに原作には2人の男性は登場しておらず、これは監督独自の解釈だと言います。

まとめ

日本でスリランカ映画をみる機会はあまりありませんが、今後インド映画のように注目されていくのではないでしょうか。

社会の現実を巧みに切り取る作品は、いつの時代も野心的な試みに満ちています。

スリランカ社会の実体を暴きつつ、原作の雰囲気そのままに脚色していくハンダガマ監督の演出に映画的イマジネーションを感じずにはいられません。

『アサンディミッタ』は映画祭最終日の3月17日12:20からシネ・リーブル梅田で上映があります。

【連載コラム】『大阪アジアン映画祭2019見聞録』記事一覧はこちら

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