中島美嘉の同名曲にインスパイアされた珠玉のラブストーリーが綴られる映画『雪の華』。
余命一ヶ月を宣告された主人公美雪役を、今旬の女優中条あゆみが好演し、高い評価を得ています。
そして「三代目 J Soul Brothers」のボーカル・登坂広臣が相手役の悠輔を熱演し、多くの女性たちの心を鷲掴みにしました。
“パフォーマー”ではない“俳優”としての登坂広臣の魅力を全力で語り尽くしていきます。
映画『雪の華』作品情報
【公開】
2019年(日本映画)
【原作】
中島美嘉「雪の華」(音楽曲)
【監督】
橋本光二郎
【キャスト】
登坂広臣、中条あやみ、高岡早紀、浜野謙太、箭内夢菜、田辺誠一
【音楽】
葉加瀬太郎
【主題歌】
中島美嘉『雪の華』
【作品概要】
中島美嘉のヒット曲『雪の華』を基に、登坂広臣と中条あやみ共演で描くラブストーリー。
綿引悠輔役を登坂広臣が演じ、平井美雪役を中条あやみが務め、その他のキャストには田辺誠一、高岡早紀、浜野謙太らが脇を固めています。
北欧フィンランドでもロケ撮影を行った監督は『orange オレンジ』『羊と鋼の森』の橋本光二郎。
また『いま、会いにゆきます』『8年越しの花嫁 奇跡の実話』の岡田惠和が脚本を担当しています。
日本映画界を席巻するLDHの底力
2002年に「EXILE」のリーダーであったHIROによって立ち上げられた芸能事務所「LDH」。
「L=Love:愛」、「D=Dream:夢」、「H=Happiness:幸福」をモットーにした活動はここ数年でめざましい展開をみせており、そのエンターテインメント事業の飛躍的拡大に目が離せません。
2015年から始まったHIROのプロデュース企画『HIGH&LOW』は、映画作品、テレビドラマ、音楽アルバム、ライブパフォーマンスなど、多様なコンテンツが同一の世界観を共有しながら展開する“総合エンターテインメント・プロジェクト”として現在まで大きな成功を収めています。
それは、マーベル・コミックやDCコミックがそれぞれの世界観の中でこれまで生み出されてきたキャラクターたちを集結・競合させる“ユニバース化”の流れを汲んだものとして位置づけられるでしょう。
日本でいち早くユニバース化のオーガナイズに挑んだHIROの先見の明は確かなものです。
しかし、そうしたLDHの戦略の基盤には人気グループ「EXILE」を筆頭にした一連の音楽パフォーマンスと適材適所のキャラクター配分という“広告的”な発想があるため、映画芸術としての表現力にじゃ疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
おそらくHIROはこのような事態も念頭に置いて、映画やドラマを見据えた“演技”に特化した「劇団EXILE」を早くも2007年に組織していました。
「劇団EXILE」は他のグループに比べると遅れをとった印象がありましたが、現在では町田啓太、鈴木伸之や佐藤寛太などの人気実力派イケメン俳優を輩出しています。
さらに2010年に結成された「三代目 J Soul Brothers」は、迫力ある音楽パフォーマンスに加えて、メンバーそれぞれの個性を活かしたソロ活動としての“俳優業”にも当初から力を入れています。
中でもパフォーマー担当の岩田剛典と山下健二郎の演技力の高さは特筆すべきものです。
本作『雪の華』で主演を務めた登坂広臣もこのグループのメンバーで、ヴォーカルを担当しています。もう一人のヴォーカル、今市隆二も最近、俳優活動を発表したばかりで、「三代目 J Soul Brothers」はLDHグループ全体でみても、粒ぞろいの“演技派グループ”と言ってよいでしょう。
画面に映える俳優・登坂広臣の魅力
すでに演技力に定評のある岩田と山下は、「ここしかない!」という瞬間に画面にピタリと収まることが出来る俳優です。
彼らは本能的な“フレーム感覚”を持っています。それはおそらくダンス・パフォーマーとしての反射神経が桁外れで、ステージ上でステップを踏むように、映画の画面上でもイン・アウトを繰り返しているからだと思います。
だからこそ彼らの演技は自然とビートを刻んでいくのです。
それに対してヴォーカを担当の登坂の芝居をみると、フレームを意識しているという感じではありません。
彼の演技の持ち味は、物語の空気感を瞬時に摑み取り、撮影現場でその都度調整していく“即興性”にあるとわたしは考えています。
彼が演じる人物からは登坂自身の“呼吸”が生々しく伝わってくるのです。
参考映像:『ホットロード』(2014)
映画初主演作である『ホットロード』(2014)で三木孝浩監督は登坂の特徴を活かして、忘れがたく印象的なシーンの数々を演出しています。
本作の橋本光二郎監督は加えて、自ずと画面に映える登坂の顔にも注目しています。
たとえば、弟と妹と暮らすアパートのベランダからふと外を眺める表情ひとつとってみても、ここしかないというキャメラのアングル、フレームのサイズ感、照明の調節具合というふうに三拍子揃った瞬間の“キメ顔”に思わずドキッとさせられます。
それをいかにも自然にやってのけてしまうのが登坂広臣という俳優の凄いところです。
さらに蛇足ですが付け加えると、登坂はハンバーガーを頬張る姿がとにかく似合う男としても記憶されるはずです。
いずれにしてもその存在感に観客は圧倒される他ありません。
自分が“俳優”だとは…
『ホットロード』以来、5年ぶりの映画主演となった登坂ですが、映画作品への出演オファーにはどうやら消極的であったようです。その理由を次のように答えています。
実は今回のオファーをいただいたとき、すぐに引き受けることができなかったんです。少なからず映画の世界を経験して、芝居の難しさを知ったからこそ慎重になりました。撮影が終わったいまも、自分が役者だとは到底思えません。
そう赤裸裸に語る登坂はおそらく撮影現場でも相当悩んでいたはずです。
その葛藤が如実に現れている場面があります。それは物語のクライマックス、美雪について思わぬ事実を知らされた悠輔が病院を飛び出して、愛する人の元へひた走るところです。
この大きな見せ場で登坂は何を思って演技をしていたのでしょう。
演技者としての登坂の苦悩というのは、演じることと今自分が実際に走っているという現場でのリアルな感覚(呼吸)とのせめぎ合いとしてあったはずです。
演技の本質に関わる葛藤として演者自身が、根気よく調整を繰り返したからこそ、観客はこの場面で、慣れない雪道に足を取られながらも懸命に走り続ける悠輔とそ役を演じる登坂自身とを二重写しにしてみることが出来たのです。
「撮影が終わったいまも、自分が役者だとは到底思え」ないという謙虚さは、俳優という職業の奥深さを思わず吐露している素直な心境として受け止めるべきでしょう。
映画の“推進力”となる躍動の軌跡
登坂の場合、自分を“俳優”とした時、演技上の迷いや葛藤を誰よりも敏感に感じていたことが、演技の本質を自ずとあぶり出していたわけですが、本作の脚本は実際、登坂の人柄を意識して執筆が進められたそうです。
このクライマックスではすべての要素が彼に味方し、大きな感動を生み出すことに成功しています。
画面上ではとにかく走って走って走り抜く。その運動がさらに運動を駆り立て、気づけば日本から恋人のいるフィンランドに再び飛んでいました。
二人で行った旅行の時には移動する場面も楽しみの一つとして描写されていましたが、ここでは省略され、ショットが切り替われば時間も場所も一瞬のうちに変わっています。
これは映画表現の約束事としては当たり前のことですし、物語上も当然の流れとして追っていけるものなのですが、そういった見方では到底説明のつかない感動がこの画に漲っているのは、悠輔というキャラクターを演じる登坂の疾走が時空を超えていくからなのです。
言わば、登坂の走りがこの映画の大きな“推進力”となって視覚的なレべルで距離を踏破してしまっているのです。
まとめ
三代目 J Soul Brothersとしてのヴォーカリストのほか、ソロ活動も本格化してきている登坂広臣。
今後、映画作品への出演オファーはますます受けにくい仕事になっていくのではないでしょうか。
しかしだからこそ、数少ない主演作のひとつひとつが、“登坂広臣にとっての貴重な姿を残すドキュメンタリー(記録)”となり、画面上の躍動の数々が、観客の心に確かな“記憶”として焼き付けられていくのです。