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Entry 2019/02/13
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映画『マン・オン・ワイヤー』感想と評価。フィリップ・プティが摩天楼の上空を歩く|だからドキュメンタリー映画は面白い7

  • Writer :
  • 松平光冬

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第7回

1974年8月7日、摩天楼ニューヨークの上空を、驚愕の目で見つめる人々がいた――。

『だからドキュメンタリー映画は面白い』第7回は、2009年公開の『マン・オン・ワイヤー』。

1974年当時、完成間もないニューヨークのワールド・トレード・センタービル(以下、WTC)のツインタワー間の綱渡りに挑んだ、フランスの伝説的な大道芸人フィリップ・プティの挑戦を追います。

はたしてそれは、偉業か?無謀か?

【連載コラム】『だからドキュメンタリー映画は面白い』記事一覧はこちら

映画『マン・オン・ワイヤー』の作品情報


©Wall to Wall (Egypt) Ltd/UK Film Council 2007

【公開】
2009年(イギリス・アメリカ合作映画)

【原題】
Man on wire

【監督】
ジェームズ・マーシュ

【キャスト】
フィリップ・プティ、ジャン・ルイ・ブロンデュー、アニー・アリックス

【作品概要】

フランスの大道芸人フィリップ・プティが、1974年8月7日、完成間もないニューヨークのWTCのツインタワー間にワイヤーを張り、地上411メートルで綱渡りを決行。

その挑戦についてプティ自ら綴った著作『雲に届くまで』をベースに映画化されました。

無謀ともいえる、そのあまりの挑戦に至るまでの裏側を、プティ本人や仲間たちのインタビュー、および貴重な映像を元に明らかにしていきます。

本作は2008年度のアカデミー賞において、長編ドキュメンタリー賞を受賞しました。

映画『マン・オン・ワイヤー』のあらすじ


©Wall to Wall (Egypt) Ltd/UK Film Council 2007

1949年に、フランスに生まれたフィリップ・プティ。

彼は、独学で手品とジャグリングをこなせたのを機に大道芸人の道を進み、16歳で初めての綱渡りを行うまでになります。

その後、パリの街角で大道芸人としてのキャリアをスタート。

ヨーロッパ、ロシア、オーストリア、アメリカで芸を披露し、多くの人からの驚嘆と喝采を浴びます。

そんなある日、プティは1973年の完成に向けて建設作業が進む、ニューヨークのWTCのツインタワーの記事を見つけます。

「このツインタワーにロープを張って渡ってみたい」、そう考えたプティは仲間たちと共に数年にわたって周到な準備を進めます。

仲間たちとの幾多の衝突などの困難もあったものの、翌1974年の8月7日、ついにその日が訪れます。

仲間に加えたWTC社員の手筈の元、ビル内に侵入したプティたちは、高さ411m、地上110階という2つのタワー屋上の間に鋼鉄製のワイヤーを渡します。

そして、プティは命綱ナシで綱渡りを敢行。

いつものようにマンハッタンで出勤する人々も、次第に上空で起こっている事態に気づきはじめ、辺り一面は歓喜に沸きます。

しかしながら、プティの綱渡りは違法行為。

屋上に向かった警官たちに逮捕されたプティでしたが、彼の行為を非難する者はなく、むしろ「今世紀最大の犯罪芸術」と称賛するのでした。

フィリップ・プティとは何者?


©Wall to Wall (Egypt) Ltd/UK Film Council 2007

幼い頃より運動神経が優れていたというフィリップ・プティは、大道芸以外にも馬術やフェンシング、スケッチや闘牛などで才能を発揮。

その一方で、周囲になじめずに協調性に欠けるとして、5つもの学校から退学させられています。

それでも大道芸人として大成した彼は、パリのノートルダム寺院やオーストラリアのハーバー・ブリッジ、ニューヨークの聖ヨハネ大聖堂といった名だたる有名建造物の前で、歴史的なパフォーマンスを行ってきました。

本作製作のベースとなった著書『雲に届くまで』は、イギリスで戯曲化された一方で、後に劇映画化(後述)もされています。

なおプティ自身、純粋無垢な少年と人々の交流を描くヒューマンドラマ『モンド』(1997)に、俳優として出演しています。

作戦決行に至るまでを描く“ケイパー・ムービー”


©Wall to Wall (Egypt) Ltd/UK Film Council 2007

本作を観た方は、一つ気になる点があると思います。

それは、実際にプティがWTCで綱渡りをしている映像がないということです。

これは、プティの挑戦がゲリラ的に行われたために、地元マスコミのテレビカメラがタワー屋上に入れなかったからです。

そのため本作は、綱渡りに至るまでを再現ドラマとして描きつつ、プティの仲間たちの証言や、彼らが撮っていた写真や16ミリ映像、プティの綱渡りを目撃した警官の証言などを入れ、当時の心境を回想します。

用意周到に作戦を練り、ついに決行に至る過程を追っていく本作は、一種の「ケイパー(犯罪、悪巧み)・ムービー」でもあるのです。

「理由のない」綱渡りが「理由」を持った


©Wall to Wall (Egypt) Ltd/UK Film Council 2007

プティが綱渡りをした1974年8月7日。

当時のアメリカは、ニクソン大統領がウォーターゲート事件に関与したのではという疑惑に揺れていました(結果として、ニクソンは8月8日夜に辞任を表明)。

それに加えて、経済的にも対外経済収支が赤字に陥れば、ベトナム戦争批判といった問題も抱えるなど、国全体が負の連鎖に見舞われていました。

そんな中でプティが行った45分もの綱渡りは、犯罪行為でありながらアメリカの明るいニュースとして報道されました。

このニュースにより、ビルの大半が空き室だったWTCが、あっという間に満室となったと云われています。

綱渡りを終えた直後に警察に逮捕されたプティは、「なぜあんな事をしたのか」とマスコミに聞かれます。

「理由などない。だから素晴らしいんだよ」と、登山家が「そこに山があるから登る」と語るかのごとく、サラリと答えるプティ。

そのプティが登ったWTCは、2001年9月11日の同時多発テロにより倒壊し、1974年の時以上にアメリカに暗い影を落とします。

しかし、「理由もない行為」だった彼の綱渡りは、確実にWTCが存在していたという、大きな「理由」となったのです。

監督のジェームズ・マーシュが、劇中であえて9.11に触れなかったのも、そうした意図があったのかもしれません。

本作は見事に、第81回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞。

授賞式では、マーシュ監督に檀上から名を呼ばれたプティが小躍りするように駆け寄り、オスカー像を顎に乗せるパフォーマンスを披露しました。

参考映像:アカデミー賞授賞式でのフィリップ・プティ

綱渡り作戦をドラマ化した映画『ザ・ウォーク』も製作

ご存知の方もいるでしょうが、このWTCの綱渡りは、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)シリーズのロバート・ゼメキス監督によって、『ザ・ウォーク』(2016)という映画になっています。

プティを演じたのは、『LOOPER/ルーパー』(2013)や『スノーデン』(2017)のジョセフ・ゴートン=レヴィット。

彼は役作りに際して、プティ本人から綱渡りなどの基本動作を学び、言葉もフランス訛りの英語をマスターして臨んでいます。

『マン・オン・ワイヤー』を観た方なら、プティが陽気でありながら、周囲を振り回す困った性格の持ち主と感じたのでは(そもそも、WTCでの綱渡り自体が困った行為なのですが…)。

そんなプティ役に、好青年のイメージがあるゴートン=レヴィットを配したのも、少しでも観客の共感を得やすくする狙いがあったのかもしれません。

なお、最大の見せ場である綱渡りシーンは、最新鋭のVFXを駆使して再現。

高所恐怖症の人が観たら、思わず目がくらみそうな迫力映像となっています。

参考映像:『ザ・ウォーク』予告

次回の「だからドキュメンタリー映画は面白い」は…


©2002 ICONOLATRY PRODUCTIONS INC. AND VIF BABELSBERGER FILMPRODUKTION GmbH & Co.ZWEITE KG

次回は、アポなし突撃取材でアメリカ社会に鋭く切り込むドキュメンタリー監督のマイケル・ムーアによる、2003年公開の『ボウリング・フォー・コロンバイン』を紹介。

銃犯罪が多発するアメリカの背景を、1999年のコロンバイン高校銃乱射事件犯人の同級生から、元全米ライフル協会会長の俳優チャールトン・ヘストンにまで突撃し、暴いていきます。

【連載コラム】『だからドキュメンタリー映画は面白い』記事一覧はこちら

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