映画『洗骨』は、2019年1月18日(金)より沖縄先行公開、その後、2月9日(土)から丸の内TOEIほか全国公開!
お笑い芸人「ガレッジセール」のゴリとして活躍する、照屋年之監督が制作した映画『洗骨』。
笑いながらも、祖先や家族について考えさせられる、ヒューマンドラマ『洗骨』の魅力をご紹介します。
映画『洗骨』の作品情報
【公開】
2019年2月9日(日本映画)
【監督・脚本】
照屋年之
【キャスト】
奥田瑛二、筒井道隆、水崎綾女、大島蓉子、坂本あきら、山城智二、前原エリ、内間敢大、外間心絢、城間祐司、普久原明、福田加奈子、古謝美佐子、鈴木Q太郎、筒井真理子
【作品概要】
お笑い芸人として活躍しながら、これまで9本の短編と1本の長編を製作している照屋年之監督。2016年に製作した自身の短編を、奥田瑛二や筒井道隆などの実力派俳優を迎えて長編映画化。
ニューヨークで開催された、北米最大の映画祭「第12回JAPAN CUTS」にて、観客賞を受賞するなど高い評価を得ています。
映画『洗骨』あらすじ
沖縄の離島、粟国島。
ここに暮らす新城信綱は、妻の恵美子を亡くし無気力になっていました。
恵美子の葬儀が執り行われ、東京の大企業で働く息子の剛と、名古屋で美容師として働く娘の優子が粟国島へ帰って来ます。
信綱の姉、高安信子の支えで葬儀は終了しますが、黙ったまま座っているだけの信綱に、剛は愛想を尽かせていました。
粟国島では昔から伝わる風習で、親族が死者の骨を洗い流す儀式「洗骨」が現在も続いています。
恵美子の葬儀から4年後、「洗骨」を行う為に、新城家の家族が再び集まります。
信綱は相変わらず無気力に生きており、周囲に断酒を約束したはずが、逃げるようにお酒を飲むようになっていました。
優子は、名古屋で働いている美容室の店長と関係を持ち、子供を妊娠した状態で帰って来ました。
そして剛は、一緒に帰って来るはずだった、妻と子供は東京に置いて、1人で戻って来ます。
子供を産んでシングルマザーとして生きる事を決意した優子と、一方的に全てを決める優子に腹を立てた剛が激突し、喧嘩を始めますが、信綱には止める事が出来ません。
信子が間に入り、喧嘩の仲裁をしようとしていた所に、1人の男が現れます。
突然、新城家を訪れたその男は、優子が勤める美容室の店長で、子供の父親、神山亮司でした。
一方的に結婚を決める亮司と優子。
うろたえるだけの信綱に、剛の怒りが爆発し、結婚にも反対し信綱を罵倒します。
また、剛も東京での生活に疲弊していました。
生活する場所だけでなく、心もバラバラになってしまった新城家は、「洗骨」を前に、再び家族として、まとまる事が出来るのでるのか…。
今も残る風習「洗骨」を描いた作品
本作で描かれている「洗骨」という風習は、かつては沖縄諸島全域で行われていたと言われていますが、今では一部の離島に残されているのみとなっています。
沖縄では「洗骨されない死者は穢れたままで、神仏の前に出られない」という信仰によるものとされていますが、諸説あるようです。
本作は、2016年に照屋監督が製作した短編映画『born、bone、墓音。』が原案となっています。
照屋監督は、当初は粟国島での不倫騒動を描いたコメディを考えていましたが、プロデューサーから「洗骨」の話を聞いた事で興味を持ちます。
愛する人の死と、変わり果てた姿に直面するという「2度の悲しみ」を乗り越え、感謝を込めて手で洗い流すという「洗骨」を調べる内に、照屋監督は「命とは何か?」を考えるキッカケとなり、無我夢中で脚本を書き上げました。
本作は、「洗骨」という風習を通して、家族それぞれが自身と向き合う、再生の物語になっています。
家族という共同体の有り難さと厄介さ
本作の物語の主軸は、新城家の確執。
信綱を演じている奥田瑛二さんは、これまで多かったカッコいい役柄とは正反対の、情けない無気力な信綱を見事に演じています。
特に信綱が最初に登場するシーンで、空のコップを握ったまま力なく俯いている、その表情と姿だけで、信綱がどういう人間かが伝わってきます。
そして、その信綱を冷たい表情で睨みつける剛。
このシーンだけで、2人の関係性を理解し、作品にすんなり入って行く事ができ、その後は2人の確執を中心にした物語に引っ張られて行きます。
作品では多く語られていませんが、2人の確執が強くなったのは恵美子の死がキッカケでしょう。
剛は恵美子を「頼りない信綱のせいで苦労した母親」と捉えており、信綱もその事に関して負い目を感じています。
修復不可能と思われる父子の確執ですが、この2人を心配しているのが、剛の妹である優子と、信綱の姉である信子。
優子は妹として娘として家族に寄り添い、信子は実質的に新城家を仕切りながら、一家の長である信綱を立てます。
信綱と剛は、優子と信子の存在が無ければ家族関係は崩壊していたでしょう。
それでもギリギリの線で繋がる事になったのは、切っても切れない、家族という共同体の有難さです。
ですが、優子の子供の父親である亮司の出現で、家族のバランスが崩れそうになります。
剛が優子の結婚に反対したのも、ギリギリの線で繋がっている家族関係の崩壊を感じたからかもしれません。
家族という共同体の、有難さと厄介さを描いたのも、本作の面白さとなっています。
緊張と緩和が絶妙な作品
愛する人の死と、それによる家族の確執を物語の主軸としている本作は、全体的に暗い印象の映画になりがちですが、そこはお笑い芸人をバックボーンにしている照屋監督。
恵美子の葬儀に参列した、厚かましい慰問客や、家族の中で一番強くて偉い信子と、振り回される周囲の人々とのやりとりなど、ユーモラスなシーンを巧みに入れており、作品全体を重くなりすぎないバランスに仕上げています。
1つ間違えると、コントのようなやりとりになりかねない台詞回しなど、会話の中に巧みに織り交ぜており、日常的で自然な演出となっています。
特に亮司役の鈴木Q太郎さんは、奇妙な髭を蓄えて、いい意味で空気が読めない亮司を好演しています。
また、作品後半で「洗骨」を終えた後に、突如巻き起こるドタバタの展開は、それまで流れていた静かなムードを壊し、コメディ色が強くなっていきます。
コメディ色が強くなりながらも、作品全体のテーマは、そこに込められており、笑いながらも考えさせられる展開となります。
緊張と緩和を巧みに織り交ぜた、照屋監督のエンターティナーとしての手腕、お見事です。
まとめ
本作で照屋監督が表現したのは「祖先からの命のリレー」です。
誰もが祖先を持ち、そして新たな命を授かれば、後に自分が祖先になっていきます。
祖先からの連続である「縦軸」と、現在、生活している社会や仲間の存在という「横軸」。
この2つが合わさり、今の自分を形成しています。
忙しい毎日の中で、祖先からの連続である「縦軸」は忘れそうになりますが、その事を再び実感する風習が「洗骨」とも言えるでしょう。
剛は多忙な東京での暮らしの中で、自身のルーツを忘れてしまい疲れ切っていましたが、「洗骨」を通して、再度自分を見つめ直すキッカケを掴みます。
今の生活に疲れてしまった時に、もっと大きく視野を広げて、心を開放する事も必要かもしれませんね。
笑いながらも、先祖や自分のルーツについて考えさせられる映画『洗骨』。
映画『洗骨』は、沖縄では2019年1月18日(金)より先行上映、全国公開は2019年2月9日(土)から丸の内TOEIほか全国公開となっています。