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Entry 2019/01/15
Update

映画『マチルド、翼を広げ』あらすじネタバレと感想。ノエミ・ルヴォウスキー監督が自身の母親役を演じた自伝的作品

  • Writer :
  • 吉田竜朗

映画『マチルド、翼を広げ』は、2019年1月12日(土)より、新宿シネマカリテほか全国順次公開

マチルドと母のもとにやって来た小さなフクロウがふたりを未来へと繋ぐ…。

「コミカルなフレンチ映画?」または「フクロウと話せるファンタジー映画?」

それとも「超前向きになれる映画?」 残念ながらそうではありません。

ひとりのフランス人女性監督が描いた、幻想的でちょっぴり重い現実に立ち向かおうとする家族の物語です。

今回はノエミ・ルヴォウスキー監督の自伝的ヒューマンドラマ映画『マチルド、翼を広げ』のあらすじと感想をご紹介します。

『マチルド、翼を広げ』の作品情報


(C)2017 F Comme Film / Gaumont / France 2 Cinema

【公開】
2019年(フランス映画)

【原題】
Demain et tous les autres jours

【監督】
ノエル・ルヴォウスキー

【キャスト】
ノエル・ルヴォウスキー、リュス・ロドリゲス、マチュー・アマルリック、アナイス・ドゥムースティエ、ミシャ・レスコー

【作品概要】
監督は前作の『カミーユ、恋はふたたび』でセンセーショナルな人気を博したノエミ・ルヴォウスキー。女優でも名を馳せたフランス人女性監督が本作で挑んだのは”我が幼少時代の記憶を振り返ること”。大好きだったけど、周りと違う母ザッシンガー夫人役を監督自らが演じ、複雑な過去を肯定的に描き出した作品になっています。

主人公マチルド役は本作が女優デビュー作となるリュス・ロドリゲス。マチルドの父親役を『007 慰めの報酬』のマチュー・アマルリックが演じています。

映画『マチルド、翼を広げ』のあらすじとネタバレ


(C)2017 F Comme Film / Gaumont / France 2 Cinema

学校で孤独な日々を送る9歳の女の子マチルド。そんな彼女を心配した先生は、母のザッシンガー夫人を呼んで三者面談を開きました。

しかし、マチルドの母は支離滅裂な話をし、会話が続きません。

それをマチルドが必死にフォローするも、母は同じことを繰り返して言うばかり。ついには、窓ガラスにいる鳥の巣を指して、マチルドを机の上に登らせてしまう。

精神的に不安定な母は、最後に「私は良い母ではありません」と言って面談を終わらせてしまいます。

マチルドはそんな母の手をしっかりと握って家路に着きました。

マチルドは母との二人暮らし。ある時、彼女は小さなベットに入って父とのテレビ電話を楽しみます。

冗談を言い合う、仲の良い父と娘ですが、仕事が忙しく別居中の父とはどことなく距離がありました。

父は母の様子を尋ねますが、その時ザッシンガーは家にはいませんでした。


(C)2017 F Comme Film / Gaumont / France 2 Cinema

彼女は夜のパリを、昼間に買ったウエディングドレスを着て練り歩いていたのです。

裾がグチャグチャになった姿のまま家に帰った母でしたが、マチルドは既に夕食を済ませていました。

「明日から新たな一歩を踏み出すわ」と、疲れ切った表情をして言いました。

ある日、母は何やら生き物が入っているカゴを用意してマチルドの帰りを待っていました。

学校から帰宅したマチルドが早速中身をのぞいてみると、子供の手サイズほどの小さなフクロウが入っていました。

母曰く、そのフクロウは勝手にアパルトマンに入ってきたといいます。

喜んだ彼女は早速フクロウを手なずけ、自分の部屋で飼うことにしました。

夜、フクロウにおやすみを言ってカゴに布をかけると「お休み」とどこからか声がします。

最初は父がいると思ったマチルドは、声を出したのがフクロウと知った途端、恐怖を感じ、母を呼びにいきます。

しかし母にはその声がフクロウの鳴き声にしか聞こえません。

するとフクロウは「この声は君にしか聞こえないよ」と言いました。


(C)2017 F Comme Film / Gaumont / France 2 Cinema

以下、『マチルド、翼を広げ』ネタバレ・結末の記載がございます。『マチルド、翼を広げ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2017 F Comme Film / Gaumont / France 2 Cinema

意外なことに話の合うフクロウに気を許したマチルドは、相棒同然の仲を築いていきます。

しかし依然学校では孤独の日々は続き、自分が池に沈んだまま這い上がれない悪夢まで見てしまいます。

ある日、理科の授業中、先生が等身大のガイコツを教室に持ってきました。

子供達はそれに興味津々で、先生の言うことを聞かずに、ガイコツにいたずらをします。

これに気を悪くしたのがマチルドでした。彼女は相棒のフクロウに「人間の死体にあんなことするなんて信じられない!」と不満を漏らします。

我慢ならないマチルドは用具室の鍵を盗み、ガイコツを学校から救出。家の倉庫に持ち出します。

フクロウと今後どうすべきかを話あったマチルドは、”死体は埋葬すべき”という答えに辿り着きます。

マチルドは電車に乗って森へ向かいます。彼女は丁度いい場所を見つけ出し、ガイコツの埋葬を始めます。

服を着せ、退屈しのぎのための本やラジオ機を渡し、最後に「肌の色も、髪の色もわからないけどあなたは私の最高の友達です」といって土を被せました。


(C)2017 F Comme Film / Gaumont / France 2 Cinema

時は経ってクリスマス。歌の上手いマチルドは学校の合唱祭でソロを任されることに。

見事な歌唱力を披露する彼女の元に母ザッシンガーが訪れました。

あまりに感動した母はスポットライトに当たりながら歌い続けるマチルドの元へいき、抱きついてしまいます。

保護者や子供達が苦笑する中、なんとか歌い上げた彼女は、母と一緒に外に出るよう、先生にお願いされます。

少し不満げな顔をするマチルドですが、そんな母の手を強く握りながら彼女を家に連れて帰りました。

「頭のイカれた母親だな」と皮肉を飛ばすフクロウでしたが、そんな母のために七面鳥や、クリスマスプレゼントの置物を用意し、一人でクリスマスパーティーの準備をマチルドはしていました。

そんな彼女に一本の電話が入ります。なんと母はパリから遠く離れた町の駅にいました。

食事の準備だけでなく、飾り付けもして音楽まで掛けて待っていたマチルドは流石に怒り心頭。

彼女は皿を割り、七面鳥とプレゼントをベランダから投げて、ついにはカーテンに火をつけてしまいます。


(C)2017 F Comme Film / Gaumont / France 2 Cinema

正気を失ったマチルドに、フクロウは火を消すよう慌てて指示をします。

フクロウの的確なアドバイスでなんとかカーテンの全焼だけで済みましたが、マチルドはすっかり疲れ果ててしまい床に寝込んでしまいます。

明け方に家に帰った母は寝ているマチルドのそばに行き「明日しっかり謝るね」と言って一緒にコートを着たまま横で寝てしまいます。

波乱だったクリスマスも落ち着いたある日、また事件が起こってしまいます。

学校から帰宅したマチルドは、母が必死に荷物をスーツケースと段ボールに入れている姿を見ました。

理由を聞くと「ここに引っ越してくる人がいるから家を移らないといけない」とのことでした。

しかしフクロウは「そんなのデタラメだけど、風に逆らっちゃダメだ」と言って母に付きそうようにアドバイスします。

大きな荷物を持った母についていくとたどり着いたのはパリの別のアパルトマン。

母は「ここに引っ越すことになっているから早くどいてくれない?」とそこに住んでいる家族に無理を言います。

困り、イラついた家族は警察を呼ぶことにします。

断固として居座ろうとする母と横にいたマチルドは警察に連行され、遂に父が呼び出されます。

段ボールで山積みになったリビングに座る父と母。母ザッシンガーはもはや疲弊しきった様子でした。

父が「しばらくここにいるから」と問いかけると「私にはなにも言う権利はない」と答えます。

疲れた母は寝室にいき、マチルドは父と静かに紅茶を飲み始めました。

その夜、父は眠れない夜を過ごしました。

ある日、父が出かけている間に母がまたスーツケースに荷物を積み込み始めました。

流石に驚いたマチルドはフクロウに助言を求めます。

「いますぐケースを全て捨てろ!」そう命令されたマチルドは急いで処分します。

それからというものの、母は横になる時間が長くなり、気力を失い始めてしまいます。

父は遂に母を入院させるという決断を下しました。

父が母を病院に連れて行こうとしたその瞬間、フクロウが家を脱出し、学校にまで来てマチルドにそのことを報告しにいきます。

大好きな母と会えなくなってしまうことを心配したマチルドは学校を飛び出します。

家まで全力で走りますが、そこには父も母もいませんでした。

二人は既に精神病患者が集まる病院に着いていました。

母は父に言います「わたしはここで一生を過ごすの。それはマチルドが生まれる前からわかっていたことなの」。

父は残酷な現実を受け止め、彼女にキスをします。そして「ぼくがなんとしてでもマチルドを守る」と言い二人は別れます。

電車でどこかへ向かうマチルド。窓ガラスに写るのは母ザッシンガーの顔。


(C)2017 F Comme Film / Gaumont / France 2 Cinema

すっかり成長したマチルドはとある田舎駅に着きました。彼女は離れにある病院にたどり着き、母と再会します。

花の手入れをしている母が「手伝ってくれる」と娘に言います。笑顔で作業する二人に大粒の雨がふりしきります。

母は大きく手を挙げ、力強く体を動かしダンスを始めます。マチルドはそれに応えるよう同じく力強く体を動かします。

二人は興奮したように病室に走り込み、お互いの髪を吹き合います。そして、母は録音機を手にし、娘に詩を創作するようお願いします。

母は過去を取り戻そうと様々なことを質問し始めました。

そして場面はあの悪夢へ。マチルドが池の中に全身が浸かっている場面に。

しかし、成長したマチルドは、遂に池から思いっきり体を起き上がらせることができました。

映画『マチルド、翼を広げ』の感想と評価


(C)2017 F Comme Film / Gaumont / France 2 Cinema

自分の母親役を監督自らが演じる

本作『マチルド、翼を広げ』は、ノエミ・ルヴォウスキー監督の幼少期の思い出を基に、時にコミカルに、時に生々しく、厳しいく描かれ、観客の心を強く揺さ振る質の良い作品です。

精神に異常が見られ、社会的に見ると「負」の一面を持ち合わせる実際の母親を、ルヴォウスキー監督自ら演じています。

物語はそんな母の奇行に振り回されながら強く生きていくマチルドにスポットライトが当たり続けます。

一見、映画は彼女の明るく強く成長するさまが押し出されているように見えましたが、観ている者は母の弱さ、そして病的な資質を感じとることができます。

そういった、暗い面が意外にも多く組み込まれていることに驚かされました。

いくつかポイントを挙げていきましょう。


(C)2017 F Comme Film / Gaumont / France 2 Cinema

まず、フクロウが彼女に話かけてくるという設定、これは明らかにマチルドの声が反射したものです。

汚い言葉を吐いたり、自分を奮い立たせてくれる言葉をかけてくれる、これは彼女の押し殺したストレスから発せられる「妄想」のようなものと捉えることができます。

さらに、その妄想は広がり標本のガイコツを埋葬するために、学校から盗み出し服まで着せてしまいます。

確かに、これらは幼い子供の豊かな想像力によってのことと言えるかもしれません。

しかし、彼女は何度もある悪夢を見てしまいます

絵画「オフィーリア」と同調させた悪夢


《オフィーリア》作者:ジョン・エヴァレット・ミレー、制作:1851〜52年、所蔵:テート・ブリテン

それはマチルドが池に沈みそこから這い上がれないというなんとも不安になる悪夢です。

このシーンには明らかに”ある絵画”が象徴されています。

それはジョン・エヴァレット・ミレー作の《オフィーリア》です。

この作品はシェイクスピアの戯曲「ハムレット」を参考に描かれたもので、発狂し川に落ち、這い上がる意思を捨て、そのまま死んでしまった悲しい女性を描いたものです。

「発狂」、まさにマチルドが身近に感じるもの。彼女自身もお母さんのように発狂し、死んでしまうという素直な恐怖が夢という形で現れたと言うことができます。

そんな一抹の恐怖を監督はあえて隠さずあらわにしました。

しかし、ノエミ・ルヴォウスキーは、「オフィーリア」をメタファーとして引用しつつも、その結末を覆す最後を用意していました。

その最後こそ、母の奇行とも言えるダンスを一緒に演じきる場面です。

大粒の雨が降りしきる中、力強く体を動かし、母を受け止め自ら受け継ぐその姿勢が全力で描かれています。

そして、エンドロールの直前、彼女が池から這い上がる姿を見ることができます。

運命を拭い去ることはできないとしても、母と生を肯定した瞬間でした。

自分の母を演じるという重い責務を受けたノエミ・ノヴォウスキー監督の「現実から逃れようとしない勇気のある姿勢」には胸に迫るものがありました。

妻と娘を見守り続けた重厚な存在


(C)2017 F Comme Film / Gaumont / France 2 Cinema

本作『マチルド、翼を広げ』には陰ながら大きな存在感を示していた人物がいます。夫役のマチュー・アマルリックです。

マチュー・アマルリックはアルノー・デプレシャン監督作品の『クリスマス・ストーリー』で情緒不安定なダメ息子を演じたり、スパイ映画『007慰めの報酬』で悪役を演じたりと、フランス国内外問わず幅広い活躍を見せています。

現在のフランスを代表する名優ですが、本作では離婚中の精神的に不安定な妻と幼い娘を陰ながら支える父を演じました。

彼は唯一の娘を守るために、残酷で厳しい選択に迫られます。

彼の瞳孔の開いた目は、時に不安を感じながらも、正気を失った母とまだ幼い娘に変わってバランスを取ろうともがいているようでした。

そして、彼は唯一「現実的」に私たちに今を打開する方法を投げかけてきます。

その彼の語らずとも落ち着いて行動してみせる“昭和の男のようなダンディさ”は美しいものでした。

まとめ


(C)2017 F Comme Film / Gaumont / France 2 Cinema

本作品『マチルド、翼を広げ』は、ノエミ・ルヴォウスキー監督の亡き母親、つまりザッシンガー夫人の捧げられたものです。

たくさん苦しみ、自分を愛してくれた母への精一杯の恩返し。

大人の味わいを、ぜひ劇場で。

映画『マチルド、翼を広げ』は、2019年1月12日(土)より、新宿シネマカリテほか全国順次公開です。

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