世界的な歌姫として名高いレディー・ガガが体当たりの演技を見せ、観るものを感動の渦に巻き込む『アリー/スター誕生』をご紹介します。
ブラッドリー・クーパーが主演と監督を務め、余すところのない才能を見せつけています。
映画『アリー/スター誕生』の作品情報
【公開】
2018年(アメリカ映画)
【原題】
A Star Is Born
【監督】
ブラッドリー・クーパー
【キャスト】
レディー・ガガ、ブラッドリー・クーパー、アンドリュー・ダイス・クレイ、デイブ・チャペル、サム・エリオット、アンソニー・ラモス、ラフィ・ガブロン、ルーカス・ネルソン、グレッグ・グランバーグ、ロン・リフキン、バリー・シャバカ・ヘンリー、マイケル・D・ロバーツ、マイケル・ハーネイ
【作品概要】
1937年のウィリアム・A・ウェルマン監督作品『スタァ誕生』を皮切りに過去3回も映画化されている物語を、レディー・ガガ主演で描く。
ガガは映画初主演で体当たりの演技を見せ、ブラッドリー・クーパーは、当初監督をする予定だったクリント・イーストウッドからバトンを受け、主演と監督の二役をこなした。
ゴールデングローブ賞主要5部門、全米俳優組合賞でも最多4部門にノミネートされるなど旋風を巻き起こしている。
映画『アリー/スター誕生』のあらすじとネタバレ
ライブを終えたロックスターのジャクソン・メインは、酒を目当てに一軒のバーに入りました。
そこで、彼は、一人の女性が「ラヴィアンローズ(La Vie en rose)」を歌うのを目の当たりにします。
彼女の名はアリー。ドラァグクイーン・バーの仲間のはからいで、毎週金曜日に、ここで唄わせてもらっているのでした。
ジャクソンは彼女を別のバーに誘いました。二人で飲んでいると、男がジャクソンと写真を撮らせてくれと近づいてきました。
アリーが写真を撮るわと申し出ると男は突然「娼婦は黙っていろ!」と怒声を浴びせてきました。アリーは彼にパンチをお見舞いします。
ジャクソンは彼女を深夜営業のスーパーにつれていき、冷凍豆の袋とテープを買って、彼女のこぶしを冷やしてやりました。
ジャクソンがアリゾナの故郷の話をすると、アリーは即興で歌を作りました。ジャクソンは彼女には才能があると確信します。
しかし、アリーは、自分に自信がないのだと告白します。これまで何度も売り込みをしたけれど、おえらいさんたちは皆、私の鼻が大きすぎるだとか、曲はいいけど、顔がね、って言うのよ、と。
彼女は、夢が叶うことはないのだ、と諦めている様子でした。
「この前、書き始めた曲よ」とアリーが歌いだした歌にジャクソンは耳を傾けました。。
彼はコンサートに来るように誘いますが、飲食店のアルバイトに行かないといけないからと断られてしまいます。
ところが、翌日、彼女が仕事にでかけようとしていた時、ジャクソンからの迎えがやってきます。
仕事があるからと一旦はバイト先にやってきたアリーですが、いつものように店長が頭ごなしに怒鳴りつけてきたので、即座にバイトをやめ、ジャクソンの元へと飛びました。
ステージの後ろからジャクソンのパフォーマンスを感激の面持ちで観ていたアリーでしたが、ジャクソンがやってきて、一緒に歌おうと彼女を誘います。
とても無理だわと首を振るアリーにかまわず、ジャクソンは演奏を始め、歌いだしました。意を決してステージに向かうアリー。
二人で歌った「shallow」に大きな拍手と声援が送られました。
二人はホテルに戻り、同じ部屋に入りますが、ジャクソンはすぐに眠りこんでしまいました。
彼の兄のボビーが彼をベッドに運んでいました。ボビーは「女性をステージに上げたのは君がはじめてだ」と言うのでした。
明け方、起き出したジャクソンは、眠っているアリーの元へ近寄るとキスをし、こうして二人は恋人同士になりました。
二人の歌う姿は動画サイトにあげられて、大きな反響を呼びます。
ジャクソンは、ツアーにアリーを帯同させ、アンコールに応えて彼女をステージに上げました。
彼女が歌い終わると、会場から怒涛のような“アリーコール”が起きました。
ステージを降りたアリーのもとに、レズ・カヴランというレコード会社の男が近づいてきました。
君は才能がある、今のままで終わってはいけない。必ず売れる、と彼はアリーに告げました。
インタースコープ社との契約が決まったアリーの顔に、ジャクソンはケーキを塗りたくって祝福すると、「何故とか、いつまでなどと考えずに君は歌い続ければいい」と励ますのでした。
アレック・ボールドウィンが司会の「SNL」の出演が決まり、ダンサブルなステージを見せたかと思えば、シングルも好成績を残し、ついにはアルバムの制作も決まり、アリーはまたたく間にスターダムを駆け上がっていきます。
一方で、ジャクソンは酒の量が増えていき、ステージに上がっても消耗しきっていることが増えていきました。
もともと片耳が難聴だった上に、もう片方の耳も次第に聴力を失ってきており、補聴器をつけるようにという医師のアドバイスも、自分の声以外が聞こえなくなると彼は拒否していました。
ある日、友人宅でくつろいでいた時、ジャクソンはギターの弦を切って作った指輪をアリーにプレゼントします。
友人たちは、彼らに結婚式を挙げることをすすめ、教会に案内してくれました。誓いの言葉を交わした二人は夫婦となりました。
犬を飼い、幸せな結婚生活が始まりましたが、ジャクソンの耳はほとんど聞こえなくなっており、酒量は増え続け、ついには大麻にも手を出すようになります。
映画『アリー/スター誕生』の感想と評価
なんとエモーショナルな映画なのでしょうか。
ブラッドリー・クーパー扮するジャクソンが “Black Eyes”を歌う、冒頭のコンサートシーンからずっと心を掴まれっぱなしでした。
レディー・ガガのアリーとふたりで歌う“Shallow”を始め、全ての楽曲が心に響いてきます。
レディー・ガガといえば、ミュージックシーンの頂点を極めた、誰もが認める世界的歌姫です。
そんな彼女がチャンスを掴んでスターダムを駆け上がる新人歌手を演じているのが新鮮で、また、過去にドラァグクイーン・バーで歌っていたという実際の彼女自身のキャリアが重ねられているストーリーも興味深いものがあります。
一方、ブラッドリー・クーパーってミュージシャンだったの?と問うてみたくなるほどの素晴らしい演奏と歌声にも驚かされます。
そうした楽曲の強さ、彼、彼女の歌声が、まず観客を否応なく物語に引っ張り込みます。
さらに、ブラッドリー・クーパーとレディー・ガガが、もう誰かを演じている役者ではなく、ジャクソンとアリーにしか見えなくなっていくのです。
ブラッドリー・クーパーとレディー・ガガの間に生まれただろう信頼関係が、そのまま、ジャクソンとアリーに継承され、確かな現実味と説得力が画面に漲ります。
異常ともいえる父への崇拝、兄との確執、故郷への愛憎を背負ったジャクソン。
娘の才能を信じながら世の不条理を嘆いてきた父と暮らしてきたアリー。二人のバックボーンも丁寧に描かれていて深みがあり、物語を豊潤なものにしています。
アリーは、ブラッドリーと運命的な出逢いをしたことで、スターダムに駆け上がっていきますが、一方のブラッドリーは、静かに滅びへと向かっていきます。
振り返れば、ジャクソンは、冒頭で、“Black Eyes”を歌っていたときから、もう既にゆっくりと滅び始めていたのです。
途中で、彼はアリーと出逢い、ほんの少しの間、輝きを取り戻すかに見えましたが、下降する人生をもう止めることはできません。
一方、諦めていた夢を掴んだアリーはどんどん駆け上がっていき、二人の人生はかけがえのない愛情として交わりつつ、上へ、下へと逆方向に曲線を描いてすれ違っていきます。
本作はスターが誕生する物語であると同時に、人間がぼろぼろになって堕ちていく物語でもあるのです。
美しい想い出と恋の歓びが、苦しみと哀しみと絶望が、毅然一体となって、まさにエモーショナルに人間の人生を浮かび上がらせます。
まとめ
1937年のウィリアム・A・ウェルマン監督作品『スタア誕生』を皮切りに、過去に三度、映画化されている「スター誕生」。
アリーが「オーバー・ザ・レインボー」を口ずさみ、1954年のジュディー・ガーランド主演版『スタア誕生』(ジョージ・キューカー監督)に、敬意を表していますが、2018年版も、過去の名作に負けない大変熱量のある作品に仕上がっています。
もともとは、クリント・イーストウッドが監督をする予定だったとのことですが、イーストウッドから監督を譲り受けて、ブラッドリー・クーパーが初の監督に挑戦。
この方、どれだけ、才能あるの!?と、初めてとは思えない、その確かな力量にすっかり驚かされます。
音楽面では、カントリー歌手のウイリー・ネルソンの息子、ルーカス・ネルソンが加わり、レディー・ガガとネルソンは意気投合して数々の素晴らしい楽曲を生み出しました。
人を熱狂させる”歌”というものの魅力が全面に溢れ出し、恋愛映画としても音楽映画としても、大変力強い作品となっています。