ハーモニー・コリン監督による『スプリング・ブレイカーズ』、アカデミー賞作品賞を受賞した『ムーンライト』。
そして、日本ではいよいよ2018年11月17日(土)より、シネクイントほか全国ロードショーが始まる、ケイシー・アフレックとルーニー・マーラ主演『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』。
これらの秀作を送り出したのは、製作&配給会社のご存知「A24」。
今回はA24がアメリカで公開した最新作『Mid90s』をご紹介します。
映画『Mid90s』の作品情報
【公開】
2018年 (アメリカ映画)
【原題】
Mid90s
【監督】
ジョナ・ヒル
【キャスト】
サニー・スリッチ、キャサリン・ウォーターストン、ルーカス・ヘッジズ、ジオ・ガルシア、ネイケル・スミス、オラン・プレナット、ライダー・マクローリン、アレクサ・デミー、ジェロッド・カーマイケル
【作品概要】
本作品『Mid90s』は、『ナイト ミュージアム2』(2009)や『マネーボール』(2011)、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013)など、幅広いジャンルの作品に出演した俳優ジョナ・ヒルの監督デビュー作。
主人公の少年スティーヴィー役を演じるのはヨルゴス・ランティモス監督作品『聖なる鹿殺し』に出演した子役、役と同じ13歳のサニー・スリッチ。
その母役には「ファンタスティック・ビースト」シリーズでお馴染みのキャサリン・ウォーターストン。
またスティーヴィーの兄を演じるのは『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2016)で幾多もの賞にノミネートされ、『レディ・バード』(2017)、『スリー・ビルボード』(2017)、そして2018年公開の注目作『Boy Erased』など大作への出演が続いている若手俳優ルーカス・ヘッジス。
映画『Mid90s』のあらすじとネタバレ
1990年代のロサンゼルス。
母親のダブニーと兄のイアンと住む13歳のスティーヴィーは、音楽、ファッション、“クール”なものに憧れを抱く少年。
兄イアンからは、たびたび暴力を振るわれ、孤独を感じています。
ある日、街を歩いていたスティーヴィーは、街でスケートボードをする少年たちの姿を見かけ、魅了されます。
スケボーショップで店番をしながら談笑しているのは、スティーヴィーよりも少しばかり年上の少年たち。
スティーヴィーは、新しいスケートボードを入手することは叶いませんでしたが、イアンのお古を手に入れ、彼らの仲間に入りたくて翌日もショップに通います。
ルーベンという歳の近い少年に声をかけられ、その店で働くスケーターたちと親交を深めるようになったスティーヴィー。
皆が「あいつは1番クールだ」と語るレイ、常に「ファック、シット!」ということから“ファックシット”とあだ名をつけられているお調子者のファックシット、カメラを手放せない“フォース・グレード”。
スティーヴィーは“サンバーン”と彼らから呼ばれ、仲間入りを果たします。
しかし、最初は好意的だったルーベンは、グループ内での“弟分”の位置がスティーヴィーに脅かされていると感じ、次第に彼に対して敵意を表すようになります。
学校内に忍び込んでのスケート、スケボーパークで他のスケーターたちとの交流。
やっと、自分の居場所を見つけたと感じるスティーヴィーは、目を輝かせます。
そんなある日、スケートの練習をしていたスティーヴィーは、屋根から屋根へ飛び移るという無謀なチャレンジをしたために落下、怪我をしてしまいます。
このままスケートをスティーヴィーに続けさせて大丈夫なのかと、母親ダブニーは不安になります。
それからある日、ファックシットがわざと喧嘩をふっかけた相手は兄のイアン。
スティーヴィーの目の前で口論を始める2人でしたがイアンは弟の存在に気付き、その場をそっと立ち去ります。
映画『Mid90s』の感想と評価
参考映像:『KIDS』(1995)
スケボーキッズ、街で生きる少年たちを描いた作品といえば、1995年公開のラリー・クラーク監督とハーモニー・コリンの脚本による『KIDS』があります。
本作『Mid90s』には、ジョナ・ヒル監督が敬愛するハーモニー・コリンがカメオ出演するという嬉しいサプライズも映画ファンに見せてくれました。
そんな粋な計らいを見せたジョナ・ヒル監督は、本作『Mid90s』を自身の青春にあった思い出を基にして制作しました。
また、サニー・スリッチが演じた主人公スティーヴィーの仲間たちには、役者ではなく本物のスケーターを起用しています。
そのため彼らの他愛もない話やスケーター同士の交流、街をスケボーで駆け抜ける一瞬一瞬が全て自然そのもの。
舞台設定は90年代半ばですが、ロサンゼルスの街並みや彼らのファッションは、時代を超えて通じるものがあり、いつの時代も変わらない1つの青春の様子と成長物語として仕上がっています。
サニーが演じたことで、13歳という歳よりもっと幼く見えるスティーヴィーの成長が微笑ましいのはもちろんのこと。
4人の仲間の個性あふれるキャラクター設定、背景が映像を通して伝わってくるのは大きな魅力です。
1番クールな兄貴分スティーヴィー。やんちゃでお調子者、パーティー好き、酒と薬に溺れる危なっかしい面も持つファックシット。
ルーベンがスケボー仲間にこだわりを持ち、新しくやってきたスティーヴィーに敵意を表すのは彼が家に居場所がないからです。
レイがスティーヴィーに語る前からルーベンが家へ戻らない描写があり、彼が家庭問題を抱えていることが示唆されています。
そして常にカメラを所持し記憶、経験を記録しているのちのジョナ・ヒル監督自身のような存在、フォース・グレード。
主人公と家族を中心に、周りの登場人物たちの設定が繊細であることにより、ファッショナブルでクールなインディペンデント映画の枠にとどまらない、普遍的な要素を物語に昇華させています。
この章の冒頭で紹介した退廃的に切り取られた『KIDS』と、ノスタルジックさが漂う本作『Mid90s』。
どちらもスケートボードに乗り、青春のその時に街を時代を自由に駆け回る少年たちの姿が描かれた美しい作品です。
まとめ
クールなもの、新しい世界への憧れ、仲間や家族との確執。
誰もが通ってきた成長を等身大の台詞と彼らの姿で描いた『MId90s』。
少しだけ大人になり、夕焼けが優しく照らすいつもの街の風景、思い出と経験を呼び起こす映画の美しい力を感じさせる作品でもあります。
ぜひ、ラリー・クラーク作品『KIDS』、またヒース・レジャー出演の『ロード・オブ・ドッグタウン』(2005)などスケートボードカルチャーを描いた映画も合わせて、本作をお楽しみください。