こんにちは、野洲川亮です。
今回は“スパイダーマン最大の宿敵”であり、“マーベル史上屈指のヴィラン”と呼ばれるキャラクターの単独映画化作品『ヴェノム』を考察していきます。
あらすじ、作品の魅力に加え、他のオススメ映画も紹介していきます。
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『ヴェノム』のあらすじ(結末のネタバレを含みます)
独善的な正義感にあふれたジャーナリスト、エディ・ブロック(トム・ハーディ)は、宇宙ロケットや先進的なガン治療薬を開発するライフ財団を取材することになります。
財団の活動を疑問視するエディは、恋人の弁護士アン(ミシェル・ウィリアムズ)が持つ財団の情報を盗み見みて、財団の行う人体実験を追求しようとするが、それが元で恋人のアン共々会社をクビになり、彼女との婚約も解消されてしまいます。
半年後、荒んだ生活を送っていたエディですが、人体実験の実態を暴くため財団の博士の手引きにより、施設へ侵入します。
ところがそこで、宇宙外生命体シンビオートに寄生されてしまったエディは、体調の異変と猛烈な空腹に襲われます。
意志と言葉を持つシンビオートは、エディの思考を感じ、身体をコントロール出来ること、「俺たちは一つでヴェノムだ」と告げます。
ヴェノムとして自らが変化していくことに恐怖するエディでしたが、シンビオートを奪い返そうとするライフ財団のリーダー、ドレイク(リズ・アーメッド)の追撃をヴェノムの力を使い必死に逃れていく中で、少しずつその力に魅了されていきます。
そんな中、行方の分からなくなっていた別のシンビオート、ライオットが現れドレイクに寄生してしまいます。
ライオットの目的が、地球人類の捕食のために他のシンビオートを呼び寄せることであることを知ったエディは、ヴェノムにそれぞれの星で“負け犬”であったことに共感され、協力を得てライオットとその宿主ドレイクを阻止するために、戦いを挑みます。
ライオットとドレイクを倒したエディは、何とか生き延びたヴェノムと、捕食していいのは悪人だけと約束させ、再び共生関係を結ぶことになりました。
予想外?の見やすさ、トム・ハーディ&ヴェノムコンビの可愛さ炸裂
映画の印象を決めるのは演技、脚本、演出だけでなく、編集が大きなカギを握っています。
例えば、同じアメコミ映画『ジャスティス・リーグ』(2017)は、公開時120分の上映時間でしたが、直前で降板したザック・スナイダー監督版は、3時間を超える上映時間が予定されていたそうです。
同じ映画でも一時間以上も上映時間が変われば、観客に与える印象は全く変わってきますが、そこには製作サイドの様々な思惑や意図が介在しています。
そこで本作『ヴェノム』はと言うと、“人を喰らう宇宙外生命体”であり、分かりやすく邪悪なビジュアル、何より原作のコミックの設定からも、かなりのグロテスク描写やシリアスな展開を交えたハードな作品にすることは、いくらでも出来るような題材でした。
ところがルーベン・フライシャー監督は、この映画のホラーサスペンス要素を限りなく希釈させ、アクションコメディ要素をより際立たせる編集をしてみせます。
寄生され心身に異変が生じていくトム・ハーディの苦悩を、リアクション芸でもしているかのようなコメディタッチに仕立て(ヒロインに止められながらも水槽に飛び込むシーンは、さながら逆ダチョウ倶楽部状態)、ヴェノムの凶暴さを抑えて、人間を喰らう宇宙外生命体をキュートにさえ思わせるエピソードを重視したシーンの取捨選択をしています。
何より激しいアクションの最中でも、罵り合うエディとヴェノムのしゃべくり漫才のようなやり取りの数々は、悪役であるはずのヴェノムにヒーロー並の好感を与えました。
この巧みな編集により、元々はR15指定になっても全くおかしくない本作の過激な一面を極力抑え、PG12指定でより多くの観客からの共感を勝ち取ることに成功しました。
単に観客に媚びたわけではなく、作品のクオリティー、満足度を高めた上での正しい決断だったことは、公開後にSNS上を駆け巡った好評が証明しています。
エンドロール後、2つのオマケ映像が示唆する未来とは?
本作のエンドロール後には二つのオマケ映像が流れますが、アメコミ原作やシリーズ映画事情に明るくない人には、よく分からなかったかもしれません。
ここでは、二つの映像の意味を解説していきます。
ラストでジャーナリストへ復帰したエディは、ある囚人へのインタビューのため刑務所へと向かいます。
連続殺人鬼クレタス・カサディ(ウディ・ハレルソン)は、エディのインタビュー中「ここを出たらカーネイジ(大虐殺)が起こるだろう」と言い、映像は終わります。
クレタス・カサディことカーネイジは、原作コミックで登場する“もう一人のヴェノム”であり、ヴェノムの宿敵キャラクターとして描かれています。
つまりカーネイジの登場は、そのまま『ヴェノム』続編におけるエディとカサディの対決を示唆しているのです。
そして、もう一つの映像は本作とは別の世界観であることが告げられたアニメーションです。
そこでは、スパイダーマンであるピーター・パーカーの墓があり、スパイダースーツに身を包んだ黒人の少年と、さらにもう一人スパイダースーツを着た男とのやり取りが繰り広げられます。
これは2019年公開予定のアニメ映画『スパイダーマン: スパイダーバース』のワンシーンで、全く新しい世界観のスパイダーマンであることが発表されています。
並行世界にいる複数のスパイダーマンが登場するとのことで、実写映画シリーズとはまた違った魅力が伝わってくる映像になっていました。
アメコミ映画ではお約束のオマケ映像、忘れずにご鑑賞してください。
『ヴェノム』を観た人へのオススメ作品
本作を鑑賞された人の多くが連想したであろう、邦画「寄生獣」2部作は、『ヴェノム』を気に入った人にはオススメです。
寄生獣ミギーと主人公新一の関係は、本作でのヴェノムとエディの関係性を彷彿とさせる、コミカルなやり取りが目を引きます。
また山崎貴監督によるCG戦闘描写は、ハリウッド映画とのバジェットの差を感じさせない迫力があり、CG表現の比較と言う意味でも楽しめます。
そして本作の魅力を語る上で欠かせないのが、主演トム・ハーディの“体当たり成りきり演技”で、本作でハーディに魅入られた人も多いことでしょう。
そんなトム・ハーディ出演作でオススメは『ダークナイト ライジング』(2012)、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)、『ブロンソン』(2008)の3本です。
3本全てが傑作と呼んで差し支えない素晴らしい映画ですが、内容云々の前にトム・ハーディの見た目から驚くことになるでしょう。
トム・ハーディはそれぞれの作品で、本作と同じアメコミヴィラン、世紀末の世界を孤独に生きる元警官、イギリスで最も有名な犯罪者を演じていますが、髪型やメイクは当然として、体型や表情まで全く違う人間になっていて、トム・ハーディの狂気じみた役作りを感じることが出来ます。
中でも『ブロンソン』は、『ドライヴ』などで知られる鬼才ニコラス・ウィンディング・レフン監督の初期作品で、日本では劇場未公開、DVDでのみ観られる隠れた逸品としても知られています。
そして本作の監督、ルーベン・フライシャー作品のオススメは『ゾンビランド』(2008)です。
エンドロールおまけ映像に登場したウッディ・ハレルソンが、ジェシー・アイゼンバーグ(DC作品「マン・オブ・スティール」シリーズで、スーパーマンの宿敵レックス・ルーサーを演じる)とダブル主演を務めるゾンビ映画で、軽快なテンポで誰にでも見てもらえる秀逸なコメディに仕上がっています。
次回の「最強アメコミ番付評」は…
いかがでしたか。
次回の第14回戦では、今回オススメ作品に挙げさせてもらった『ダークナイト ライジング』を考察していきます。
お楽しみに!