“怪物”が学校にやってきた!いじめられっ子のリンはいじめっ子達の悪事に巻き込まれ、ひょんな事から怪物を捕まえます。
怪物を中心に少しずつ変わっていく彼らの日常。果たしてリンはいじめっ子と和解できるのか!?
グロ・喜劇・ホラー・そして青春…多彩な展開がミラーボールのようにきらめく台湾映画『怪怪怪怪物!』をご紹介します。
映画『怪怪怪怪物!』の作品情報
【公開】
2017年(台湾映画)
【原題】
報告老師!怪怪怪怪物! (Mon Mon Mon Monsters)
【監督】
ギデンズ・コー
【キャスト】
トン・ユィカイ、ケント・ツァイ、ユージェニー・リウ、チェン・ペイチー、ジェームズ・ライ
【作品概要】
日本でリメイク版も製作された大ヒット青春映画『あの頃、君を追いかけた』を手がけた台湾の人気作家、ギデンズ・コー監督のオリジナル脚本による学園ホラー。
主人公のいじめられっ子リン・シューエイがいじめっ子達とともに怪物を捕獲し、怪物を中心に物語が展開していく青春ホラー映画です。
2017年の第30回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門、シッチェス映画祭で上映されました。
第30回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門の Q&A
映画『怪怪怪怪物!』のあらすじとネタバレ
ある廃墟のようなアパートに、仲の良い小さな怪物と大きな怪物が住んでいました。
二人はゾンビのような容姿を持ち、人を食べながらひっそりと暮らしています。
一方、台湾のとある高校。
高校生・リンはボス格であるドアンを筆頭に、クラス中からいじめを受けていました。特にドアンのいじめは苛烈で、リンは何度も命の危機に晒されています。担任教師はいじめを認めずにリンを厄介者扱いです。
ある日、リンは学級費を盗んだ濡れ衣を着せられ、独居老人のアパートでのボランティアを命じられます。盗んだ真犯人はドアンとその取り巻きです。しかし、リンのパートナーとして彼らもボランティアに同行しました。
当然ボランティア先でもドアン達は老人をいじめます。それどころか老人が財産を溜め込んでいないかと、無理矢理リンを連れ夜のアパートに侵入。
しかし、そのアパートは怪物達が住むアパートでした。リン達は突然怪物に襲われ、肝を潰します。
ところが、小さい怪物がドアン達を追ってアパートを出た途端、車に轢き逃げされてしまいました。
気絶した怪物がここで死ねば、窃盗もバレるかもしれない。そう案じたドアンは怪物を学校に運び、廃プールの地下室に閉じ込めました。
その時日光が怪物の弱点と分かり、捕獲は意外と簡単だと判明します。
映画『怪怪怪怪物』の感想と評価
『あの頃、君を追いかけた』との対比
リンが学級費を盗ったとクラス中から弾劾される冒頭の場面。
ギデンズ・コー監督の前作『あの頃、君を追いかけた』を観た方はピンと来るかもしれません。
これは『あの頃』の主人公のクラスで学級費が盗まれ、クラスの仲間達が「友達を疑いたくない」と訴える場面と対になっています。
このシーンを始め、『あの頃』と対比されるような人物描写・展開が『怪怪怪怪物!』では多く見られます。
前作が青春の光なら今作は青春の闇。まるでコインの裏表のようです。
監督はこの二作品を撮る事で、どちらにも転びうる十代の危うさを描いたのではないでしょうか。
かと言ってただ鬱々とした物語が続くのではなく、過去の中国怪奇映画のオマージュから始まり、徐々にリンの心の闇に迫るスピーディな展開は観客を翻弄し続けます。
そして『あの頃』と同様、ラストに置かれたカタルシスとそこに至るまでの構成に監督の手腕が光ります。
『怪怪怪怪物!』は青春ホラーであると同時に、手に汗握るスリリングなエンターテインメントです。
本当の怪物は誰だ
利己的で暴力を振るうドアン。いじめの尻馬に乗るクラスメイト。それを傍観する大人達。
彼らは怪物の姉妹よりも恐ろしい怪物でした。
その怪物性を協調する為か、ペンキを顔に塗って武装するドアン達が終盤に登場します。
まるでゴールディングの『蠅の王』の、化け物に扮し理性を失った少年達のようです。
ではリンは何だったのでしょうか?
ドアン達を「僕はあいつらと違う」と否定し続けたリンは、誰にもなれない男の子でした。
それでも正しくあろうとあがくリンの前に怪物が現れる事で、彼の自意識は少しずつ狂い始めます。
生き延びる為に怪物を盾にし、利用し、最も密に怪物と関わっていたのがリンです。リンは自らの怪物性を、怪物の姉妹に投影していたとも言えます。
怪物のおかげで担任も、いじめっ子達も死に、最後にはその怪物さえも殺して、リンは自分が「何者か」を自覚したのかもしれません。
それはラストでいじめられっ子に向けた「君は僕たちと違う」という言葉からも読み取る事ができます。
話は飛びますが、映画に出る降頭術はアジアではポピュラーであり、近いものに同じく虫を扱う“蠱毒”があります。
蠱毒は小動物や虫を争わせて、唯一生き残った者を呪いに使う有名な呪術。リンを取り巻く環境そのものが蠱毒だった、とは言えないでしょうか。
作中では怪物を死なせない為にリンが血を与える場面がありますが、これも呪術めいた儀式のように見えます。
まさに「人を呪わば穴二つ」。
敵を全て倒し怪物の力を手に入れた時、彼の目に世界はどう映ったのか。
これはぜひ、観て確かめて頂きたいと思います。
まとめ
良い意味で予想を裏切られた作品でした。
タイトルからは想像もできないほど壮絶な展開が繰り広げられる『怪怪怪怪物!』。“怪物”を中心に据え、十代のアンバランスさ、青春時代の息苦しさをポップかつグロテスクに描いています。
『あの頃、君を追いかけた』では「恋愛ものは苦手・・・」と敬遠していた方も、この作品がギデンズ・コー監督の世界観に触れる良い機会になるかもしれません。
「何でもいいからスカッとしたい!」という方、自分の中の怪物性にどっぷり浸りたいという方にお勧めです。
ただし、浸かりすぎて主人公のように溺れないようご注意を・・・。