第24回KAWASAKIしんゆり映画祭2018にて上映される映画『ラストラブレター』。
本作の監督である森田博之さんは、日本映画大学の前身である日本映画学校の卒業生。しんゆり映画祭が開催される新百合ヶ丘で彼が学んできた映画とは?
2018年10月28日(日)・10月30日(火) ~11月4日(日)に川崎市アートセンターで開催される「しんゆり映画祭」に先立ち、日本映画大学のご協力を得て新百合ケ丘キャンパスにて、森田監督へのインタビューを行いました。
日本映画学校時代の思い出や、映画『ラストラブレター』についてお話を伺いました。
CONTENTS
今村学校と呼ばれた日本映画学校(現・日本映画大学)での学び
-日本映画学校での思い出は?
森田博之監督(以下、森田):入学して始めの1年間は地下の教室だったんです。
地下の湿った狭い部屋に20人くらい入れられて、脚本家や映画監督の担任の先生に、いきなり映画とはなんぞやみたいなことを言われて、最初にコテンパにされました(笑)。
僕の担任の先生が脚本家の丸内敏治さんだったんですが、「月刊シナリオ」のバックナンバーを教室にたくさん持って来てくれて、みんな暇になると読んだりしていましたね。
当時は「ゼミ飲み」があって、みんなお金もないですし、そんなにバイトも出来ないので、飲み屋さんに行かずにゼミ室で紙コップでお酒を呑んで、映画の話を良くしていました。
-同級生はどういった方たちでしたか?
森田:年齢もバラバラな人たちが全国から集まっていて、僕は19歳で入りましたが、社会人経験のある20代後半の人もいて凄く新鮮で、いろんな想いを持った人たちがいましたね。
今回の映画『ラストラブレター』のスタッフでもいるのですが、監督志望で入ったけど、撮影照明が面白くなってそっちにはまっていったりと、はじめの1年は自分のやりたい事を見つけていくような時間でした。
-日本映画学校に通うようになって映画の観方は変わりましたか?
森田:ガラリと変わりましたね。
自分の住んでいた地域だと映画館はシネコンしかなくて、そういう所に来る映画はハリウッドとかのメジャー作品しか来ないんで、そういうのばっかり観ていたんですが、映画学校に入った時に先生から「森田は映画観てねぇな」って言われて、自分なりに結構観てるんだよなと思ってただけに、そう言われて凄く打ちのめされました。
同級生たちも、何を観ているかっていうと、当時新しいと言われていた日本映画で、なんだかよく分からないけどATG(日本アート・シアター・ギルド)とかみんな言いたがるんですよ(笑)。
当時は、僕たちのスター監督、山下敦弘監督の『どんてん生活』とかが出始めの頃で、山下さんという監督がいるっていうのも、同級生に教えてもらって、こういう映画があるんだと知りました。
『ラストラブレター』というSF映画
-日本映画学校を経て、どういった映画を作りたいですか?
森田:エンターテイメント作品を物凄くやりたくって、みんなで観られる作品「金曜ロードSHOW!」で放送されるような映画を作りたいと考えています。
『ラストラブレター』もエンタメではないですけど、エンタメとして作りたいという気持ちを持って作りました。
『ラストラブレター』の頃は小津安二郎監督に傾倒していた時期だったので小津監督へのオマージュという要素が強く出ていますが、基本的にはSF作品を撮りたいという想いでつくりました。
-本作でもSF的な要素として、ヒューマノイド、所謂ロボットが登場していますね。
森田:もともと子供の頃からロボットが好きで、昔からロボットをモチーフにシナリオも書いてましたし、学生時代から興味を持っていたんです。
ロボットというモチーフは異様で、非現実的な、仲間はずれな存在というような、変わり者の象徴として捉えています。
しかしロボットを出すとSFになり過ぎてしまって、ドラマとして入って行きづらいというジレンマをずっと抱えていました。
『ラストラブレター』は自分が30歳を迎えてはじめて撮った作品なんですけど、そこで自分と向き合って脚本を書いているうちに、主題がもはやロボットではなく人間になっちゃったんですね。
ヒューマノイドという設定はロボットなんですが、見た目は人間なんです。
この変化は自分が歳を重ねたこともあるでしょうし、10年前に父親を亡くしているというのも影響していると思います。
-本作で特に気を使ったことはありますか?
森田:SF的なアイテムは絶対出さないことは心掛けました。例えばヒューマノイドのスイッチのオン・オフをする時もリモコンとかでは無くて指輪を使う。そういった日常にあるもので全部やるという意識はありました。
-映画ではひと昔前の電化製品が頻繁に出てきましたが?
森田:単純に昔の物が凄く好きだという事がありますが、身の回りに置いているもので人物が見えてくるし、時代設定もぼかせるんじゃないかと考えました。
今の物を、例えばパソコンにしても2018年の物を置くと2018年になってしまうので、それで20年くらい前の物をポンと置いたとしたら、「今はいつなんだろう?」と見た人にミスリードさせる狙いもありました。
記憶と記録
-写真というモチーフを使った理由は?
森田:記憶というか、写真ってその当時の状態がそのまま残る訳で、それを部屋に飾っちゃう、昔の風景を残しちゃう。過去を置く。その象徴として写真を使いました。
父親が亡くなって、僕の母が父の遺品であるパジャマとか、仕事で使ってたカバンとか、そういったものを時が経って処分しようとするんですけど、ちょっとしたもの、手帳だったり、スケッチブックだったりっていう、父親の文字や絵をずっと残しておくんですね。これって生きた証で捨てられないですよね。
他人からすればただの物なんですけど、家族からすると本当に大切なものです。
例えば劇中でも壊れたカメラをずっと手元に置いておくとか、彼が撮ってくれた写真をとっておくっていうのは、そんな僕の経験があるからなんです。
正直言って父親の記憶なんて時が経てば忘れていくものだし、当時の悲しいとか寂しいという気持ちも、どんどん薄れてくるわけじゃないですか。
こうやって普通に話せるのも、時が経たないとできないことですし。
でも写真という、時間をリアルに切り取ったものは、ずっと残ってるんです。
『ラストラブレター』に込めた想い
-性的表現を意図的に排除している印象を受けましたが。
森田:『ラストラブレター』に関しては、ちょっと肌を露出したりとか、絡みみたいなシーンを入れると、品がなくなるなって思ったんですよね。
夫婦役を演じた影山祐子さんとミネオショウさんは中性的で、影山さんは女性でありながらボーイッシュだし、ミネオさんも男性でありながら女性っぽいところがある。
2人とも背丈が同じくらいで、男性でも撮れるし女性でも撮れる。性的な部分を出来るだけ排除したいというところで、お二人に出演してもらいました。
-その狙いは?
森田:例えば写真を撮りあったり、彼女が作ってくれたものを食べたり、2人で起床を共にしてベッドの中で昔話をするといった、直接的な表現じゃない部分で2人の絆、愛情みたいなものを表現したかったのがいちばんの狙いですね。
家族を亡くした孤独な二人が、支え合って生きて来たのに、片方が亡くなっちゃって、もう1人はこの先どうやって生きていくのか。1人になった彼女はどう歩き出すのかというところがテーマでした。
そこには父を亡くした僕の母が、これからどうやって生きていくのかを息子ながら見ていましたし、応援して支えになってあげたいというメッセージもあります。
女性が1人で生きていくってどういうことなんだろう。配偶者を無くして、1人で仕事もしなきゃいけないだろうし、1人で食事をしなきゃいけない、自分を写真に撮ってくれる人も、もう誰もいない。
そんな時に女性がひとりで、どういうふうに歩みだすかというのを描きたかったんです。
-今後はどのような作品を考えていますか?
森田:現実の中に少し不思議な体験があって、その中で人間が右往左往するというような、少し不思議なSF映画を撮ってみたいです。
今、シナリオを書き始めてるのはパラレルワールドの話です。
パラレルワールドというのは平行世界という、この生きてる世界とは違う次元、違う世界に、全く自分と同じ人たちがいるという考えなんですが、そんなものをモチーフにした映画を考えています。
平成も終わりますし、オリンピックも来て終わってという、時代の変わり目に今差しかかっているんじゃないかと感じてるので、時代が変わっているんだというのをちゃんと捉えているような映画をつくっていきたいです。
映画『ラストラブレター』の作品情報
【公開】
2016年(日本映画)
【監督・脚本・編集】
森田博之
【キャスト】
ミネオショウ、影山祐子、多田亜由美
【作品概要】
ヒューマノイドとして帰って来た死別した妻との2週間を切なく描いたラブストーリー。
何気ない日常をスタンダードサイズの画面で丁寧に描くことで、残された者の悲しみを静かに映し出しています。
第11回田辺・弁慶映画祭で映画.com賞とキネマイスター賞をW受賞。
主演は『私以外の人』『CRYING BITCH』のミネオショウと、染谷将太監督作品『シミラー バット ディファレント』『名前のない女たち~うそつき女~』の影山祐子。唐組出身の多田亜由美がヒューマノイドのセールスマンを演じています。
映画『ラストラブレター』のあらすじ
突然の事故で妻の晶子を失った隆。
2年が過ぎても、写真家だった晶子が撮った作品や趣味で集めたインテリアに囲まれた生活をしていました。
未だに大きい喪失感を抱える隆は、晶子をヒューマノイドとして蘇らせることを決意します。
そしてある夏の日、“彼女”がやってきました。その姿は生前の妻そのものでした。
しかし“彼女”が起動しているのは2週間のみ。蘇った晶子との最後の生活が始まり…。
まとめ
穏やかで朴訥とした話ぶりから、映画への強い信念と熱い情熱が溢れ出す森田博之監督。
映画『ラストラブレター』は、森田監督が日本映画学校で同級生や先生方から予想だにしない刺激を受け続け、学びを深めながら、本来の自分が作りたい映画を更に追求した結果、独特の世界観を持つSF映画として大成しました。
その裏には父親を亡くした経験と、ひとり残された母親を案ずる、息子の姿がありました。
本作は森田監督の個人的な想いを凝縮させ、同時に人間の「生と死」を俯瞰した視点よって普遍的なメッセージが観客それぞれに染み入る映画となっています。
それは、どんな人でも楽しめる、「金曜ロードSHOW!」で観るような映画づくりをしたいという森田監督の想いの表れではないでしょうか。
今後も、森田監督の誠実な眼差しの先にある未来のカタチを、映画の中でどのように描いていくのかとても楽しみです。
映画『ラストラブレター』は第24回KAWASAKIしんゆり映画祭2018にて上映です。
【しんゆり映画祭の上映スケジュール】
●11/2(金)・・・15:30
●11/3(土)・・・18:40 ★トークあり
会場:川崎市アートセンター(小田急線新百合ケ丘駅徒歩3分)
ぜひ映画館でご覧ください!
森田博之監督プロフィール
1984年埼玉県出身。埼玉県立芸術総合高校在学中に映画制作を始めます。日本映画学校卒業後、演出部、制作部として劇場用映画に参加。
これまで監督した自主制作映画は水戸短編映像祭、札幌国際短編映画祭、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭などで上映。
『カラガラ』(2012)が第6回 田辺・弁慶映画祭に入選。新作短編「世界で一番最後の魔法」が第5回岩槻映画祭短編コンペ部門入選。
本作『ラストラブレター』においても第11回田辺・弁慶映画祭で映画.com賞とキネマイスター賞をW受賞を果たすなど活躍めざましい新進気鋭の監督です。
インタビュー/大窪晶
写真/出町光識
協力/日本映画大学(広報部:森田悠介)