Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

サスペンス映画

Entry 2018/10/06
Update

映画『スリーピングビューティー』あらすじネタバレ感想とラスト結末の評価。原作小説は川端康成による”眠れる美女”《日本デカダンス文学の傑作》

  • Writer :
  • Cinemarche編集部

今回ご紹介するのは、川端康成の中編『眠れる美女』を原作とした映画『スリーピング ビューティー 禁断の悦び』

原作の耽美な世界観をそのままに、舞台を海外へ移して生まれ変わった本作。

オーストラリア映画『スリーピング ビューティー 禁断の悦び』の魅力をお伝えします。

映画『スリーピング ビューティー 禁断の悦び』の作品情報


(C)2011 Screen Australia, Screen NSW, Spectrum Films Pty Limited, Cardy&Company Pty Ltd, Lindesay Island Pty Ltd and Magic Films Pty Ltd.

【公開】
2011年(オーストラリア映画)

【原題】
Sleeping Beauty

【原作】
川端康成『眠れる美女』

【監督・脚本】
ジュリア・リー

【キャスト】
エミリー・ブラウニング、レイチェル・ブレイク、ユエン・レスリー、ピーター・キャロル、クリス・ヘイウッド

【作品概要】
監督はオーストラリア出身、本作が長編映画デビュー作となるジュリア・リー。

主演は、『エンジェル ウォーズ』(2011)『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』(2014)の女優エミリー・ブラウニングが務め、大胆なヌードも披露。

これまで国内外で何度か映画化されてきた川端康成の中編小説『眠れる美女』をベースにした官能サスペンス。

2011年、第64回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品作品。

映画『スリーピング ビューティー 禁断の悦び』のあらすじとネタバレ


(C)2011 Screen Australia, Screen NSW, Spectrum Films Pty Limited, Cardy&Company Pty Ltd, Lindesay Island Pty Ltd and Magic Films Pty Ltd.

大学生のルーシーは奨学金の返済のため、カフェで働いたり、会社で書類のコピーをしたり、時にはバーで高所得者の男性をひっかけコカインを吸い、売春婦のようなことをする生活を送っています。

彼女は居候させてもらっており、家賃を催促されたり家事を押し付けられたりと、家にも居場所がありません。会社には酒癖の悪い占い師の母親から電話がかかってきて、冷たい目で見られることも。

そんなルーシーの支えは、アルコール中毒で不安定ながらも繊細な心を持つ友人バードマンだけでした。

ある日ルーシーは、普通のアルバイトよりもかなり高額な仕事の広告を見て応募します。

面接にやってきたルーシーを迎えたのは、クララという中年のエレガントな女性。彼女はルーシーに幾つかの質問をします。

ピルは服用しているか。煙草は吸うか。ルーシーを下着姿にしてボディチェックをし、晴れて“合格”となります。

仕事は指定の下着をつけ、シルバーサービスの女給をするというもの。時給は250ドルでした。ルーシーはサラという名前を与えられました。

出勤日になり、厳しいメイクのチェックも終え、裕福な老人たちに下着姿で酒を注いで回るルーシー。

しかしこれは本来の募集されていた仕事ではありませんでした。


(C)2011 Screen Australia, Screen NSW, Spectrum Films Pty Limited, Cardy&Company Pty Ltd, Lindesay Island Pty Ltd and Magic Films Pty Ltd.

以下、『スリーピング ビューティー 禁断の悦び』ネタバレ・結末の記載がございます。『スリーピング ビューティー 禁断の悦び』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
次にルーシーに与えられた仕事は、睡眠薬を飲み、瀟洒な館の広々とした部屋にあるキングサイズのベッドで、服を身につけず眠ること。

実はここは性的倒錯の嗜好を持つ裕福な老人たちを相手にした秘密クラブだったのです。

彼らは眠っている美しい女性たちの裸体に、彼女たちが眠っている間何でもすることができます。眠らされる女性たちは薬の力で、目覚めた時には何も覚えていません。

1人目の客はルーシーの美しさを褒めちぎり、クララに一線を越えてはならないと釘を刺されます。

眠っているルーシーを投げたり、煙草を耳に近づけたり、舐めまわしたり…自分の中の欲望を無抵抗のルーシーにぶつける老男性たち。

働いている途中、ルーシーは住んでいたアパートを追い出され、稼いだお金で高級マンションに引っ越します。

心の拠り所であったバードマンは自死してしまい、ルーシーは一人ぼっちになってしまいました。

彼女は自分が眠っている間に何が起こっているか一度でいいから知りたいと言い、クララに懇願しますが教えてもらえるわけもありません。

好奇心が勝ったルーシーは、小型の監視カメラを部屋に設置してからその日は“仕事”をすることにしました。

クララは翌日、ルーシーの隣で老人が死んでいるのを発見します。目が覚めたルーシーは死体を見つけ、泣き叫びます。

映画『スリーピング ビューティー 禁断の悦び』の感想と評価


(C)2011 Screen Australia, Screen NSW, Spectrum Films Pty Limited, Cardy&Company Pty Ltd, Lindesay Island Pty Ltd and Magic Films Pty Ltd.

原作の川端康成による『眠れる美女』は、本作とはかなり異なるものとなっています。

主人公は1人の老人。彼が“すでに男ではなくなった”有閑老人限定の“秘密くらぶ”の会員となり、眠らされた美女たちと幾夜も過ごします。

亡くなった母、自分の娘、忘れられない過去の恋人、自分の人生に携わってきた女性たちを思いながら若い美女達を思い返す老人。

そして最後の夜、彼は隣で若い女性が死んでいるのを発見します。

彼は眠っている間に自分が殺してしまったのではと震えますが、女主人は動じずに、「気にせず、お休みになってください。隣にもう一人、娘がおりますでしょう」と彼に言いました。

老人の夢と妄想を行き来し、女性たちの美しさを緻密に描いたデカダンス文学の名作です。

映画『スリーピング ビューティー 禁断の悦び』の主人公は、“眠る美女”の側となる女の子、ルーシー。

あどけなさと甘い官能を併せ持つエミリー・ブラウニングの魅力が光り、映像は美しく官能的なだけでなく、緊張感にあふれています。

彼女をじっと観察し続けたロング・ショットや、無音が占める映像は、いつ何が彼女に起こるか分からない不穏さを駆り立てます。

薬によって老人たちの“眠り姫”となるルーシーですが、彼女は全編通して“眠り”についています。

生活と奨学金返済のため、バイトをいくつも掛け持ちしていることを序盤では描かれています。

そんなルーシーはいつも無表情で、観客は彼女の感情を読み取ることができません

男性といきずりの関係を持ち、1人の時は汚いアパートで眠る。彼女は全ての感情に蓋をして、意識を“眠らせて”いるのです。

そんなルーシーが働くことになった館、秘密の部屋では老人たちにとって“死”と眠りについていることとは同じ

彼らは若い女性の裸体を見つめ、いくら自分の欲求をぶつけてみようとも、人形に話しかけているような虚しさが残り、自分たちの老いを実感します。

そして文字通り眠っていたルーシーが物語最後に見たもの、それは“死”。

目の前で起こっていることからいくら意識を背け、“眠り”についていても、物事は止まらずに動いていることを彼女は知るのです。

気づかないうちに“死”さえも自分のそばに存在している、ルーシーはあの館を出た後、今までとは違う“目を開けた”人生を送ることを決めるでしょう。

まとめ


(C)2011 Screen Australia, Screen NSW, Spectrum Films Pty Limited, Cardy&Company Pty Ltd, Lindesay Island Pty Ltd and Magic Films Pty Ltd.

日本のデカダンス文学の傑作が、海外で新たな視点を交え生まれ変わった美しい作品『スリーピング ビューティー 禁断の悦び』。

官能と鋭利な恐ろしさが渦巻く本作を、ぜひお楽しみください。

関連記事

サスペンス映画

THE FORGER天才贋作画家 最後のミッション|ネタバレ感想と結末解説のあらすじ。ジョン・トラボルタ演じる画家が美術館の名画をすり替えミッション!

天才贋作画家が、親子3代で名画の強奪に挑むミステリー・サスペンス! ジョン・トラボルタが主演を務めた、2014年製作のアメリカ映画『THE FORGER 天才贋作画家 最後のミッション』。 ガンを患い …

サスペンス映画

映画『ジャッカルの日』あらすじネタバレ感想とラスト結末の解説評価。巨匠フレッド・ジンネマン監督がレデリック・フォーサイスのベストセラー小説の映画化に挑む!

フレデリック・フォーサイスのベストセラー小説を巨匠フレッド・ジンネマン監督が映画化。 ド・ゴール大統領暗殺を目論む冷酷非情な殺し屋“ジャッカル”。彼を追うフランス司法警察の腕利き刑事ルベル…。 フラン …

サスペンス映画

映画『グロリア(1980)』動画無料視聴。ネタバレ結末感想とラスト考察ラスト結末あらすじと感想考察【レオンの元ネタと呼ばれるジョン・カサヴェテス監督の“NY女性版傑作ハードボイルド”】

ジョン・カサヴェテス監督の1980年にアメリカ公開制作した『グロリア』は、ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞受賞するなど、タフなヒロインの活躍を描いた傑作ハードボイルド。 また、2017年の初冬公開にデジ …

サスペンス映画

『眼の壁』原作小説ネタバレとラスト結末の解説。松本清張の犯罪ミステリーで手形詐欺を扱った真犯人とは⁈

小説『眼の壁』がドラマ化され、2022年6月よりWOWOWにて放送・配信スタート! 推理小説界に“社会派”の新風を生みだし、生涯を通じて旺盛な創作活動を展開した大作家松本清張。 彼の代表作『点と線』や …

サスペンス映画

映画『鵞鳥湖の夜』あらすじと感想レビュー。ディアオイーナン監督が描いたノワール的サスペンス。

『鵞鳥湖の夜』は2020年9月25日(金)より新宿武蔵野館、HTC有楽町&渋谷ほかにて公開。 中国の気鋭監督ディアオ・イーナン監督が『薄氷の殺人』(2014)からの5年ぶりとなる待望の映画『 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学