連載コラム「コリアンムービーおすすめ指南」第3回
こんにちは西川ちょりです。韓国映画を取り上げる月に一度の連載も今回で3回目。
今回は10月20日(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋にてロードショーされるのを皮切りに全国順次公開されるマ・ドンソク主演の『ファイティン!』の魅力に迫ります!
貧しさ故に幼い頃にアメリカに養子に出された男をマ・ドンソクが演じ、アームレスリングに人生をかけた姿と、これまで孤独に暮らしていた男が“家族”の暖かさに触れていく様を描いています。
ちなみに、タイトルにある「ファイティン!」というのは、日本の「ファイト!」にあたり、「頑張れ!」という意味です。
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マ・ドンソクの過去の出演は
マ・ドンソクがアームレスラーを演じると聞いて、瞬時に、彼に勝てる人なんているの?と思った人も多いのではないでしょうか。
ここは、ドウェイン・ジョンソンかジェイソン・ステイサムあたりを呼んでこなければ勝負にならないのでは?と。
今年日本でもヒットした『犯罪都市』(2017/カン・ユンソン監督)では、マ・ドンソク扮する刑事が、腕周り50cmの上腕筋のせいで、自らの肘や肩の傷が見えないという姿がユーモラスに描かれていました。あの腕で闘うわけですから、こんな発想をしてしまってもおかしくないでしょう。
参考映像:『犯罪都市』(2017)
『犯罪都市』での刃物をこれでもかと振り回す凶悪犯罪者との空港のトイレでの対決シーンは、『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』と並ぶ秀逸なド迫力“トイレアクション”として記憶されていくことでしょう。
参考映像:『新感染 ファイナルエクスプレス』(2016)
しかしなんといってもマ・ドンソクの圧倒的な強さと存在感を印象づけたのは、『新感染 ファイナルエクスプレス』(2016)のサンファ役です。
先頭にたって次々と襲ってくるゾンビをなぎ倒し、愛するものを守ろうとする姿は、頼れる男として観るものの心を撃ちます。彼がいなければ、あっという間に乗客は全滅していたことでしょう。
圧倒的に強いドンソクの魅力は親しみやすさ
そんなマ・ドンソクですが、韓国ではLovelyをもじった「マブリー」という愛称で親しまれているそうです。
ただの強面でなく、愛されキャラとして人気を博しており、ピンクのエプロン姿でコマーシャルに出演しているのだとか。
確かに上記にあげた作品では、まず超人的な強さが目立ちますが、親しみやすさや、見た目のどこか愛らしい姿も魅力的でした。
『ファイティン!』では、ヤクザな社長に「キュート」と褒められて「キュートだと!?」と怒るシーンがあるのですが、案外、マ・ドンソクが日常的に言われている言葉なのかもしれません。
『ファイティン!』は、そんなマ・ドンソクの強くてLovelyなキャラクターを巧にいかした作品となっています。
強くなければ優しくなれない
マ・ドンソクが演じるマークは、子供の頃に貧しさのため、アメリカに養子に出された男で、アームレスラーとなり頭角を表しますが、人種差別から八百長疑惑をかけられてしまいます。
怒って喧嘩したことで除名され、今はナイトクラブの用心棒や、スーパーの警備員をして暮らしています。
そんな彼に近づいたのが、彼を利用して金儲けしてやろうと考えたジンギという男で、韓国でアームレスリングの大会があるから、と彼を韓国につれてきます。
幼い頃に韓国を離れたマークは韓国料理を食べ慣れておらず、最初は拒否していたのが、次のカットでは何皿も食べているという笑えるシーンもあります。
その食べっぷりにほれぼれする一方、口数の少ない、生真面目なマ・ドンソクの姿が新鮮です。
参考映像:『海にかかる霧』(2014)
マークの“妹”であるスジンに扮するのは、ハン・イェリ。
多数の話題作に出演している女優さんですが、とりわけ、キム・ユンソク等と共演した『海にかかる霧』(2014)では、中国から密入国しようと大勢の仲間とともに船に乗り込んだ女性を演じ、凄惨な展開の中、圧倒的な存在感を示していました。
本作『ファイティン!』では、夫を交通事故で亡くし、一人で商売をしながら二人の子供を養う母親を演じています。
借りたお金が返せず、借金取りに追われる毎日。ぎりぎりの生活を続けている女性です。
そんな彼女の二人の子供は、結構毒舌ですが、礼儀正しくしないといけないときは、ちゃんと出来る愛らしい子たちです。孤独だったマークは、 “家族”の暖かさに初めて触れるのです。
笑いどころも多い人情喜劇という体ですが、その背景には貧困、格差社会、差別主義という深刻な社会問題もきっちり描かれています。
昨今、韓国映画では社会派映画の傑作が数多く作られていますが、本作にもその流れが確実にあると思われます。作り手の骨太な意思を感じさせます。
それにしても、マ・ドンソク出演作品を観ていると、人に優しくあるためには、強くなくてはいけないのだなぁ、とつくづく思い知らされます。
強いからこそ、愛する人を守ることが出来るし、強いからこそ、真に優しくなれるのです。
強さとは優しさの裏返しであり、逆もまたしかりではないでしょうか。そしてそれは誰もが持てるものではありません。
だから、強くて優しいマ・ドンソクは大勢の人々からLovelyなキャラとして、親しまれ愛されるのでしょう。
名作アームレスリング映画へのリスペクト
参考映像:『オーバー・ザ・トップ』(1987)
マ・ドンソクが見事な上腕筋を披露し、シルベスター・スタローン主演の『オーバー・ザ・トップ』(1987/メナハム・ゴーラン監督)以来の本格的アームレスリング映画として話題の本作。
劇中のテレビ番組でマークの紹介をする際に、「シルベスター・スタローンの映画に影響を受け、アームレスリングを始める」という台詞が登場します。
アームレスリングを通して、父と息子の絆の再生を描いた名作『オーバー・ザ・トップ』への目配せをきっちりしているあたりにも好感が持てました。
スタローン演ずるホークが、一世一代の大勝負にのぞむように、マークもまた激戦へと向かいます。彼を突き動かすものは何か?勝負の行方は果たして?!対戦相手も多彩で魅力的です。
次回の『コリアンムービーおすすめ指南』は…
次回は10月、第4回もオススメのコリアンムービーをご紹介します。
お楽しみに!