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Entry 2018/09/22
Update

映画『ウスケボーイズ』あらすじと感想レビュー。ワイナリーにかけた僕らの夢|銀幕の月光遊戯3

  • Writer :
  • 西川ちょり

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第3回

こんにちは、西川ちょりです。これから公開される新作をいち早くお届けし、その魅力をお伝えする本連載も今回で三回目。

今回取り上げるのは、『第二警備隊』(2018)などの作品で知られる柿崎ゆうじ監督の新作で、10月20日(土)より新宿武蔵野館ほかにて全国順次ロードショーされる『ウスケボーイズ』(2018)です!

第十六回小学館ノンフィクション大賞を授賞した河合香織著『ウスケボーイズ 日本ワインの革命児たち』を原作に、日本ワイン界の巨匠“麻井宇介”の思想を受け継ぎ、日本ワインの常識を覆して、ワイン作りに取り組む若者たちを描いた感動のドラマです。

【連載コラム】『銀幕の月光遊戯』一覧はこちら

映画『ウスケボーイズ』のあらすじ


(C)河合香織・小学館 (C)2018 Kart Entertainment Co., Ltd.

1993年、山梨・甲府。

岡村、城山、上村たちは、「ワイン友の会」を作るほどの大のワイン好きで、しばしば集まっては、ワインを嗜んで、薀蓄を語り合っていました。

新しく大学院にやってきた高山も仲間入りしますが、彼の長野の実家はワイナリーで、フルーツワインの生産をしていました。将来はあとを継ぐつもりです。

やるからには、本格的なワインを作りたいと思っていましたが、会員のみなは、口を揃えて、ヨーロッパ系の品種を日本で扱っても環境が違いすぎてうまくいかない、やっぱりフランス産のワインが一番だと言います。

ためしに日本のワインとフランスのワインを四本ずつ、銘柄を隠して飲み比べてみることにしました。

それぞれが採点したものを集計して、発表を始めます。8位、7位、6位と下位を日本産のワインが占めました。ところが、5位、4位、3位はフランス産。

残る2本のうち、どちらかが日本産です。結果、一位は全員一致のパーフェクトでフランス産のワインとなりましたが、皆の関心は2位になった日本産のワインに向けられました。「桔梗ヶ原(ききょうがはら)メルロー」というワインでした。

「日本でも世界に通用するワインが作れるんだ。勇気が湧いてきました」と高山は笑顔を見せました。

2年後、「ワイン友の会」のメンバーは、それぞれの道に進んでいました。

ある日、彼らは「桔梗ヶ原メルロー」を生んだ麻井宇介を紹介してもらう機会を得ました。麻井は手に日本酒を持って現れました。

「ワインを知るにはワインだけではだめなんですよ」と穏やかな口調で麻井は語ります。

「コピーを作ったところで、オリジナルを作った人からは尊敬されません。でも一流のワインを作った人も日本の酒には敬意を表します。大事なのは日本の土壌にあうものはないか追求し見極めること。この先は人の問題なんです。ワインに何を取り入れ、何を放棄するか、ワインとしてどのようにあらしめたいのか、自然とどう関わるか、哲学と思想が関係してくると思うんです」

麻井との出会いは、彼らの人生を大きく変えることになります。

岡村、城山、上村たちは、桔梗ヶ原に似た土地を探し始めました。自分でぶどうを育て、ワインを作りたいと心の底から思うようになっていました。

しかし城山は有給を全て使い果たしてしまい、土地探しに参加できなくなってしまいます。

岡村はここだ!という土地をみつけますが、その土地の住人でないことがネックとなってしまいます。意を決して会社をやめ、妻とともにその地に引っ越すことにしました。

上村もワイン作りの夢のために会社をやめ、岡村とともに、ぶどう作りに精を出していましたが、彼に従業員扱いされ、ショックで去っていきます。

妻にも去られ、思うようなワイン作りができないことに岡村は悩み始めます。

城山はぶどう農家の娘と結婚。しばらく会社勤めを続けていましたが、自分で育てて自分でワインを作りたいという思いを告白します。妻も義父母もその思いを受け入れてくれました。

実家に戻った高山は、ワイン用のぶどう栽培を祖父母の応援のもと、始めていました。

ワイン用のぶどう栽培は困難だと言われたこの日本の地で、麻井に憧れ、彼の思想に影響され、互いに交流しあいながらワイン作りに没頭していく彼ら。

病害や大雨、雹など、様々な困難に見舞われ、時には挫折しながらも各々のワインを追求していく彼ら。

彼らは果たして日本のワインに革命を起こすことができるのでしょうか?

映画『ウスケボーイズ』の感想と評価

ワイン好きはもちろん、ワインもお酒も飲めませんという方も見て!


(C)河合香織・小学館 (C)2018 Kart Entertainment Co., Ltd.

まず、画面に登場するワインがとても美味しそう! そしてぶどう畑の風景は青々としていて美しく、画面は土の感触さえ伝わってくるような瑞々しい生命力に満ちています。

ワイン好きの若者が、世界に通じる日本のワインと出会い、その製造者である“麻井宇介”と言葉を交わす機会に恵まれたことで、人生ががらっと変わっていくのですが、この実在の人物、麻井宇介を演じた橋爪功が素晴らしいのです。


(C)河合香織・小学館 (C)2018 Kart Entertainment Co., Ltd.

“哲学”や“思想”というとなんだか小難しいイメージがありますが、橋爪功の柔らかい物言い、わかりやすくゆっくりとした口調からは決して押し付けがましさや説教臭さは感じられません。

相当な苦労と努力をされてきた人なのでしょうが、気取らず、奢らず。実際の麻井宇介さんがどのような方だったのかは、わかりませんが、おそらく、こんな感じの方だったのでしょう。もう橋爪功が宇介氏にしか見えません。

「思想ってなんだろう?」と最初は戸惑っていた若者たちも、実際に農業に従事することによって、自分たちの哲学を持ち始めます。「ぶどうは自然そのものだ」といったふうに。その過程も丁寧に描かれています。

宇介氏の「最後は人間に帰ってくる」という言葉、「気候や土壌の問題じゃない。人の問題だから」という台詞にもぐっと来てしまいます。

というのも、これは、ワイン作りに限らず、様々な事柄に当てはまる言葉だからです。クリエイティブなことはもちろん、何をするにも結局のところそれをする人間の生き方がそこに現れてくるのですから。

そんなわけで、ワインに興味がない方にも是非見てほしい作品になっています! 

映画の冒頭、ティスティングをしている若者たちを見て、「気取ってんじゃないよ」と(もしかして)感じた人も、いつの間にか、彼らを応援してしまうはずです。

仲間がいることの素晴らしさ


(C)河合香織・小学館 (C)2018 Kart Entertainment Co., Ltd.

タイトルの“ウスケボーイズ”が複数形になっているのが、この作品を語る上でとても重要です。

そのうちの一人、出合正幸扮する城山に、義父が「仲間がいることが羨ましい、俺の若いときはそうじゃなかった」というシーンがあります。義父は心底羨ましそうでした。

各々、違った環境、場所で、ぶどう、ワイン作りに従事しつつ、互いに刺激しあい、励まし合って、交流を続けている彼ら。だからこそ、どんなに苦しいことが起きても続けることが出来るのでしょう。観ていて城山の義父と同じような気持ちになっていました。

仲間で力を合わせるということも宇介氏の教えでした。彼がどんなふうに語ったかは是非映画を見てご確認ください。

そしてこの仲間たちの作るぶどうが、それぞれ個性が違うのも面白く、それこそ、「最後は人間」の証明でもあり、このあたりにも是非是非注目してご覧になってください。

柿崎ゆうじ監督とは

映画『第二警備隊』


『夢幻』(2013)、『 陽は落ちる』(2014)、『さつまおごじょ』(2016)といった短編作品で、マドリード国際映画祭最優秀作品賞を3年連続で授賞。

2018年6月にロードショーされた『第二警備隊』は、ロンドン国際フィルムメーカー映画祭最優秀編集賞を授賞するなど、国際的に高く評価されている作家です。

本作も物語を流れるようになめらかに作り上げ、自然に観客をその世界に誘います。

カメラはときに、生産者である若者と同じ目線で、ぶどう畑をくぐってみせ、ときに俯瞰で畑とその周辺の美しい風景を捉えてみせます。若者たちに共感し、それを優しく見守る温かい視線を感じました。

まとめ


(C)河合香織・小学館 (C)2018 Kart Entertainment Co., Ltd.

岡村を演じた渡辺大は、モントリオールマドリード国際映画祭2018で、 最優秀外国語映画主演男優賞を授賞。アムステルダム国際フィルムメーカー映画祭2018でも 最優秀主演男優賞を授賞しています。

同じくウスケボーイズの城山役の出合正幸の落ち着いた暖かな雰囲気、高山役の内野謙太の溌剌と活動的な様も忘れがたく、上村役の竹島由夏も少ない出番ながらも印象に残りました。

ソムリエ酒田役の和泉元彌、そして安達祐実の登場も見逃せません。

日本ワインの常識を覆した革命児たちの物語『ウスケボーイズ』は、10月20日(土)より、新宿武蔵野館ほかにて全国順次ロードショーされます!

次回の銀幕の月光遊戯は…

次回の銀幕の月光遊戯は、10月12日(金)より公開のアメリカ映画『バーバラと心の巨人』をご紹介いたします。

お楽しみに。

【連載コラム】『銀幕の月光遊戯』一覧はこちら

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