連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile014
以前のコラムで紹介させていただいた『サマータイムマシン・ブルース』(2005)のように、評判の良い舞台を原作に使い、演出効果に自由のある実写映画として制作するケースは多くあります。
今回のコラムで注目したいのは、イギリスで制作された同名舞台を原作としたホラー映画『ゴースト・ストーリーズ 英国幽霊奇談』(2018)。
「舞台」+「ホラー」という少し珍しい組み合わせの今作は、「舞台」ならではの脚本の工夫を組み合わせた意欲的作品となっていました。
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CONTENTS
映画『ゴースト・ストーリーズ 英国幽霊奇談』のあらすじ
宗教家だった父親への反発心から、霊能力者として人気を集めている人間のトリックを暴き出す番組を制作するグッドマン教授(アンディ・ナイマン)は、超常現象を科学的に解明することで有名だった研究家のキャメロンに呼び出される。
失踪したとされていたキャメロンは人が変わったかのようにやつれ、ある種同業であるグッドマンに自身が解明することの出来なかった3つのケースについての調査を押し付ける……。
恐怖体験の中に浮かび上がる思念の形
ホラー映画の中でもスラッシャーやモンスターパニックと違い、心霊現象にスポットを当てた作品では「後悔」や「怨念」と言った人の内面に迫る心理描写が重要視されます。
概念は様々ですが、個人的には、「幽霊」とは人の思念が「死」などの強烈なエネルギーが発せられる際に定着するものだと考えています。
そのため、現世に強い「思い残し」を持つ人間こそ「幽霊」となりやすく、心霊現象を描いた作品ではその「幽霊」となってしまった人間の生前の「後悔」や「恨み」を紐解いていく事になるのが定番の流れと言えます。
今を生きる人間の「後悔」の物語
しかし、今作では「幽霊」には特に内面的スポットが当たらず、逆に心霊現象を経験した「生きた人間」の内面が深く描かれています。
夜間警備員のマシューズのケースでは、数十年前に妻を亡くし、ただ1人の家族である娘が「閉じ込め症候群」を患ってしまい、意識があるかも定かではなく、そんな娘に会いに病院に行く事すらしなくなったマシューズが夜間警備の仕事中に恐るべき現象に巻き込まれる様子が描かれています。
かつての経験で精神を痛めた男の妄言と断定するグッドマンですが、壮絶な経験のあとマシューズにはある変化が訪れ、心霊体験の真偽はともかく、1人の人間の人生を変えたことを知ります。
このように、3つのケースでそれぞれの心霊体験が1人の人間の「道」を大きく変えたことを聞くグッドマン。
その調査の「道」の果てに、グッドマンの人生最大の「後悔」が浮き彫りになる終盤は、この作品が単なる「ホラー」の一言では片づけられない衝撃のラストを迎えることになり、「人間の内面」を深く描いた作品だと驚愕するほどでした。
舞台ならではの巧みな脚本
近年では舞台でも様々な特殊効果が用いられ、表現の幅は大きく拡大してきましたが、自由にアングルを動かせる撮影と違い、やはり視覚的な表現に限界があるのも事実です。
ですが、逆にそのデメリットを活かした巧みな脚本や、小細工抜きの俳優の演技に驚嘆できる作品が多く、映画やドラマとは違った楽しみ方が味わえることが舞台の大きな魅力であると言えます。
今作は、原作が同名の舞台劇であり、主演・監督・脚本のアンディ・ナイマンが原作の舞台で脚本を務めていただけあり、「舞台」としての面白さが映画でも表現されています。
散りばめられた不可解なキーワードの数々
例えばすべてのケースに共通する「3時45分」と言う心霊現象の発生時間など、挙げるとキリの無いほどの量のワードが作品中盤までに登場するのですが、ラストに全てが1つに繋がります。
後味こそ良いとは言えないラストなのですが、あまりにも巧みな伏線の回収に不思議と気持ちは後ろ暗くなく、どこかすっきりとした感覚さえも覚えます。
あくまでも「ホラー」として「人間の内面」に焦点を当てた巧みな「脚本」の今作を、ぜひ皆さんもご覧になってください。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile015では、格差社会の闇と特異な世界観とビジュアルが人気を集める『パージ』シリーズを「SF」と言う概念から紐解いていこうと思います。
9月19日(水)の掲載をお楽しみに!