Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2018/09/08
Update

映画『ボルグ/マッケンロー氷の男と炎の男』ネタバレ感想レビュー。ラスト結末も

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

20歳の若さでウィンブルドンで初優勝を果たし、その後4連覇を達成したテニスプレーヤー、ビヨン・ボルグ。

天才的な才能を持ちながら、審判に噛み付く気性の粗さから「悪童」と呼ばれたジョン・マッケンロー。

2人の天才が激突した、伝説の試合を描く映画『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』は2018年8月31日から全国公開中。

壮絶な人間ドラマを描いた、本作をご紹介します。

映画『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』の作品情報


(C)AB Svensk Filmindustri 2017

【公開】
2018年8月31日(スウェーデン・デンマーク・フィンランド合作映画)

【原題】
Borg/McEnroe

【監督】
ヤヌス・メッツ

【脚本】
ロンニ・サンダール

【キャスト】
スベリル・グドナソン、シャイア・ラブーフ、ステラン・スカルスガルド、ツバ・ノボトニー、レオ・ボルグ

【作品概要】
1980年のウィンブルドン決勝戦、5連覇に挑んだビヨン・ボルグと、5連覇を阻止するべく挑んだジョン・マッケンロー。

「氷の男VS悪童」の3時間55分に及ぶ試合を中心に、2人の壮絶な過去を描いた人間ドラマ。

ビヨン・ボルグ役は『ドラゴン・タトゥーの女』シリーズ最新作『蜘蛛の巣を払う女』への出演で注目されているスベリル・グドナソン。

ジョン・マッケンロー役は『トランスフォーマー』シリーズのシャイア・ラブーフ。

映画『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』あらすじ


(C)AB Svensk Filmindustri 2017
1980年、テニス世界ランキング1位のビヨン・ボルグは、24歳にしてテニスの聖地ウィンブルドンで4連覇を果たし、その端正なルックスから、常にファンやマスコミに追いかけられる、落ち着かない毎日を送っていました。

ウィンブルドン5連覇という、歴史的な快挙を前にプレッシャーを感じ、精神的な疲労からスランプに陥っていました。

一方、ボルグのライバルとして注目されている世界ランク2位のジョン・マッケンローは、審判や観客に暴言を吐く事から「アル・カポネ以来の、最悪のアメリカの顔」と呼ばれ、激しいバッシングを受けていました。

テレビに出演したマッケンローは、テニスではなくボルグの事ばかりを質問され、うんざりした様子を見せます。

ウィンブルドンに到着したボルグは、乗り込む車や宿泊するホテル、タオルの枚数に至るまで、全て同じ事にこだわり、就寝前に、ガットを張り直したラケット50本を、全てチェックする事をルーティーンとしている「精密機械」「氷の男」と呼ばれていました。

ボルグの全てを把握しているのはコーチのレナートだけで、ボルグは「皆が僕の負ける姿を期待している」と悲観的になっていました。

ボルグは少年時代、気性の荒い性格をしており「紳士のスポーツ」と呼ばれている、テニスには不向きと判断され、いくつものテニススクールを退会させられていました。

ですが、ボルグの才能に目を付けたスウェーデン代表の監督レナートは、気性の荒いボルグを辛抱強く指導し、現在もボルグと共に歩んでいます。

ウィンブルドン男子シングルス1回戦、調子が上がらないボルグは、ノーシードの選手に苦戦を強いられます。

ボルグの試合をホテルで見ていたマッケンローは、テニス選手で友人のピーターに誘われ食事に行きます。

レストランでは、苦戦しながらも1回戦を突破したボルグのインタビューがテレビで流れており、マッケンローは「何度も彼のようになろうとした」と呟きます。

その直後、マッケンローは友人に誘われピーターを置いてクラブに行きます。

そこで、マッケンローはボルグが「精密機械」と呼ばれる理由を聞かされます。

次の日の2回戦、ボルグはホテルのテレビでマッケンローの試合を見ていました。

試合環境や審判、観客全てに暴言を吐くマッケンローに「彼は、ああやって精神を安定させている」と分析、ボルグにとってマッケンローは、かつての自分を見ているようでした。

2回戦の試合に挑むために、控室で準備をしているボルグの前に、試合を終えたマッケンローが暴言を吐きながら入って来ます。

マッケンローは、ボルグに気づきますが、お互い無言で視線を合わせるだけでした。

ボルグは2回戦を勝ち抜き、3回戦に挑みますが、試合途中で雨が降り試合が中断します。

自身のテンポを狂わされたボルグは苛立ち、試合を中止するように求めます。

ですが、雨が止んだ為、試合の続行が決まり、ボルグは苛立ちを抱えたまま試合に挑みます。

3回戦を勝利し、ホテルに戻る車中でボルグのストレスは爆発し、その場でレナートにクビを宣告、ホテルに戻った後も妻のマリアナと口論になり、マリアナが出て行き1人になった部屋で、ボルグは塞ぎ込みます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』ネタバレ・結末の記載がございます。『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
ボルグの少年時代、気性の荒いボルグにレナートは、アドバイスをします。

「その怒りを1打1打に込めろ」

レナートとの約束を守り、1打1打に思いを込め、コートや私生活では常に冷静になったボルグは、1974年の全英オープンでの優勝を皮切りに、1976年のウィンブルドンでの、史上最年少の優勝など輝かしい実績を築き、端正なルックスから大スターとなったのでした。

しかし、ボルグは「負ければ全てを失う」という恐怖を、常に感じるようになります。

ホテルに戻ったマッケンローは、父からの手紙を受け取ります。

「準決勝は観に行く」と書かれた手紙を見て、マッケンローは自身の過去を思い出します。

弁護士の父親を持ち、厳格な家庭で育ったマッケンローは、常に両親の顔色を伺う、神経質な子供でした。

両親にテニスで認められた事、それがマッケンローにとっての財産だったのです。

そして迎えた準決勝、マッケンローは勝利しますが、試合中に審判や観客に暴言を吐きまくった事を問題にされ、マスコミから攻撃を受けます。

マッケンローは、マスコミに「試合には全てを出し尽くす、それがお前達には分からない」と吐き捨てます。

また、同じく準決勝を勝ち抜いたボルグですが、ストレスが限界に達し、控室で動けなくなります。

そのボルグに手を差し伸べたのはレナートでした。

決勝戦、対峙したボルグとマッケンローは、一進一退の攻防を繰り広げ、タイブレークも挟む接戦を展開します。

「まるで殴り合い」と評される試合内容で、審判の誤審も目立ちますが、マッケンローは一言も文句を言わず試合に集中し、ボルグもマッケンローの想いに応える事で、ストレスから解放されテニスを楽しむようになります。

そして訪れた試合終了の時、勝者はボルグで歴史的な快挙となる5連覇を達成します。

また、紳士的な態度で最後まで試合に挑んだマッケンローにも、観客は惜しみない拍手を送りました。

次の日、モナコへ戻る為に空港を訪れたボルグはマッケンローと再会、マッケンローは「次は勝つ」と宣言して、お互いにハグを交わし別れます。

正反対の人間と思われた2人の間に、友情が芽生えた瞬間でした。

映画『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』感想と評価


(C)AB Svensk Filmindustri 2017
1980年のウィンブルドンで、実際に行われた試合を、ボルグとマッケンローの現在と過去を絡め、重厚な人間ドラマとして描いています。

対照的な2人と思われたボルグとマッケンローですが、少年時代のボルグは感情的で、逆に少年時代のマッケンローは神経質、ただ、ボルグは機械的なルーティーンで「氷の男」を作り上げ、マッケンローは暴言を吐く事で精神を安定させる「悪童」となりました。

「試合に負けると全てを失う」という恐怖を抱きながら、テニスに「氷の男」と「悪童」として試合に挑み続けた2人は、対照的どころか、同じ人間であった事が分かります。

常人では理解できない「孤独」に苦しみ続けた2人は、激しい決勝戦を通して分かり合い、実際にその後は親友になっています。

作品全体を通して、ドキュメンタリー映画のような乾いたタッチで、ドラマチックな演出は無く淡々と進んでいきますが、だからこその緊迫感が生まれ、決勝戦では一瞬も目が離せない展開となります。

ヤヌス・メッツ監督は、臨場感を出す為にハンディカムやステディカムを使用して撮影しました。

この決勝戦のシーンだけでも、この作品の面白さを堪能でき、本当に観賞後に満足できる作品となっています。

まとめ


(C)AB Svensk Filmindustri 2017
この作品の成功は、ボルグ役のスベリル・グドナソンとマッケンロー役のシャイア・ラブーフが行った、徹底的な役作りにあります。

スベリル・グドナソンは当初、ボルグを演じる自信がありませんでしたが、ボルグの内面を徹底的にリサーチし「有名である事に上手く対処できない」という共通点を見つけ、「運が味方すれば上手くいく」と考えました。

また、これまでテニスをやった事が無かったスベリルは、食事制限と毎日2時間のテニス特訓を行い、半年間かけて肉体改造を行いました。

結果的に、見た目もボルグに似せる事を成功させ、高い評価を受けています。

マッケンロー役のシャイア・ラブーフは、海兵隊役を演じた後で、体がガッチリしていた為、野菜食を中心にした減量を行いながら、テニスの猛特訓を受けました。

シャイア・ラブーフは、問題発言や奇怪な行動が多く、お騒がせ報道でマスコミに注目される辺りが、マッケンローとの共通点を感じます。

シャイアはマッケンローを、故意的に暴言を吐いたり暴れたりする事で、場に緊張感を与えていた「戦略家」と考えており、「ずっと誤解されていた」と信じていました。

シャイアは、この作品の脚本を読んだ際に「僕の中にあることを表現してくれる映画」と感じました。

ヤヌス・メッツ監督は、2人を別々にトレーニングさせて顔を合わせないようにし、実際のボルグとマッケンローの距離感を表現しており、この2人の距離感が、作品に緊迫感を与える事に成功しています。

テニス界の伝説の試合を繰り広げた、2人の天才を徹底的な役作りと演出で描いた、見応えのある作品『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』は、2018年8月31日から全国公開中です。

関連記事

ヒューマンドラマ映画

実話映画『グランド・ジャーニー』あらすじと感想レビュー。人間が親鳥となって野鳥と空を飛んだ

野鳥に“渡り”を教えた驚きの実話の映画『グランド・ジャーニー』は2020年7月23日(木・祝) より公開。 フランスで2019年の映画興行収入TOP10入りを記録した映画『グランド・ジャーニー』。 日 …

ヒューマンドラマ映画

小泉今日子映画『食べる女』あらすじネタバレと感想。ラスト結末も

映画『食べる女』は9月21日(金)よりロードショー。 映画『阿修羅のごとく』などの脚本家でもあり映画プロデューサー、作家としての顔も持つ筒井ともみの同名小説の映画化。 筒井自ら企画・脚本・プロデューサ …

ヒューマンドラマ映画

ゴダール映画『女は女である』あらすじネタバレと感想評価。アンナカリーナがヒロインで音楽にはミシェル・ルグランが初参戦

「破廉恥じゃないわ。私はただの女よ」 ミシェル・ルグランの没後1年/生誕88年特別企画「ミシェル・ルグランとヌーヴェルヴァーグの監督たち」が2020年2月21日よりYEBISU GARDEN CINE …

ヒューマンドラマ映画

『FUNNY BUNNY』あらすじ感想と評価解説。映画化キャストの中川大志がダークヒーローを熱演!

世界を救うのは、いつだって想像力だ。 想像の先で、聞けなくなった声を聞こう。 『虹色デイズ』『ステップ』の飯塚健監督によるオリジナル戯曲『FUNNY BUNNY』が、中川大志を主演に迎え映画化となりま …

ヒューマンドラマ映画

映画『サンドラの小さな家』あらすじ感想と評価解説。キャストのクレア・ダンが実話を基に人生の再出発を描く

映画『サンドラの小さな家』は2021年4月2日(金)より公開。 アイルランド出身の女優クレア・ダン。舞台出身の彼女が、家を失った友人の話から着想を得て脚本を書き上げた『サンドラの小さな家』。 その脚本 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学