骨太な世界観を基調に現代の歪みを作品で問いかける細野辰興監督。
9月1日、2日にミニシアター「シネマハウス大塚」にて、細野作品の『貌斬り KAOKIRI~戯曲「スタニスラフスキー探偵団」より~』と『著作者人格権』の2本立て上映会とトークショーが行われました。
今回は9月1日に細野辰興監督をはじめ、俳優の木下ほうかさん、娯楽映画研究家の佐藤利明さんが登壇して行われた、上映会&トークショーの模様をお届けします。
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映画監督の持つ狂気とは
佐藤利明(以下、佐藤):細野監督と映画に登場する(木下ほうか演じる)鬼迫哲監督は表裏一体ですね。
細野辰興(以下、細野):いやいや(笑)。
木下ほうか(以下、木下):映画なのでフィクションですけど、映画作家として、こういう風に監督って狂ってるんですよね。そんなところは似てるなあと思ってます。
佐藤:『貌斬り』と『著作者人格権』で合わせて3時間という長尺でしたが、密度という面に関しては細野監督の作劇の面白さで長さを感じずに観れるんですよね。
細野:鬼迫哲というキャラクターが出来てたから。あれは僕の最初の師匠がモデルで、名前は敢えて伏せますが(笑)。
『著作者人格権』の銀行強盗は師匠とのエピソードがモチーフで、師匠が銀行強盗やるって言って僕もロケハンに連れてかれたんですよ(笑)。
朝、呼び出しされて車で師匠を迎えに行って、東銀座のとある地方銀行の支店まで行ったんですよ。1時間ぐらい経って師匠が銀行から戻ってきて、事務所の人間みんな集めろって。
それで集まったみんなに師匠が「実は銀行強盗やることにした」って言うんですよ(笑)。それから1週間後に「やっぱり中止にする」って(笑)。師匠は調査魔だったんで、調べに調べたんだけど「無理だ」って(笑)。
佐藤:でも実際に強盗やるっていうことよりも、師匠の監督さんが、細野さんはじめ他のスタッフがみんな付いてくるか見てるということもあったでしょうね。
映画の撮影はフィルムかビデオか
木下:『著作者人格権』で時代っぽいなと思ったのは映画女優に対して「テレビに出るんですか」って言いますよね。そういうのって懐かしくて。
あの頃、Vシネマとかあったじゃないですか。みんな言ってたのは、当時フィルム撮影からビデオ撮影に変わる時期で、ビデオになったら俺たちは出ないぞとか言ってて。結局みんな出るんですけど(笑)。
そんなことを思い出しましたね。この映画の背景と似てるなあと思って。ビデオで撮って、これって映画って呼んで良いのかなんて議論がありましたよね。
佐藤:僕らも映画評を書いたりする時に「撮影はビデオですか、フィルムですか」なんて聞いたりしてましたね。
細野:映画監督は拘っちゃうんですよ、何故かフィルムに。未だにそうですけどね。ただ、今は最初からフィルムは無いっていう前提に低予算映画をつくるっていうことはありますね。
細野作品の魅力とは
細野:今日は『貌斬り』に引き続き『著作者人格権』を観てもらいましたが、鬼迫哲特集としては先に『著作者人格権』を観てもらって、銀行強盗をやろうとした奴が今度は『貌斬り』で顔を切れって言う方が面白いんじゃないかという気はしてたんですけど。
佐藤:その点は特に気にならなかったのでは。この二本はシリーズものですが全く別のアプローチでつくっているものですから。
『著作者人格権』は学生たちと製作した映画、『貌斬り』は演劇を映画にしていくというメタフィクションの映画。
その中で、細野監督のよりどころとして鬼迫哲が居るということですよね。
細野:そうですね。木下ほうかに『貌斬り』を作る前にキャスティングの相談をしたんですよ。
別に『著作者人格権』の後に、鬼迫哲を使ってスピンオフで儲けようとか思った訳ではなくて、『貌斬り』に出てくる癖のある演出家の役を、木下ほうかがやることになった、じゃあこの役は鬼迫哲にしようかなと思ったんです。
顔を切る、切らせる、ということをやらせるにはアクの強さみたいなものが必要だということもありましたね。
木下:『貌斬り』は初めに舞台がありきでつくったんですよね。
細野:舞台は2010年に初演していて、今回の映画製作のために2015年1月に再演したんです。
佐藤:細野監督の映画は観ていて、映画のリアリティにぐいぐい引き込まれていく。それは“フィクション”の魅力です。
ふとラーメン屋で読んだ劇画漫画が面白いというような、食い付きの良い面白さ、なにかこう構えてないという。
凄く分かり易いキャラクターが強烈に映画の世界を引っ張ってくれる。
そういう意味でアイコンとしての木下ほうかさんの存在は大きいですね。
細野:実は鬼迫哲シリーズで3本目も企画中でして。
木下:今、はじめて聞きましたよ(笑)。
佐藤:鬼迫哲が年を重ねていく姿を是非とも観ていきたいです。
映画『貌斬り KAOKIRI~戯曲「スタニスラフスキー探偵団」より~』の作品情報
【公開】
2016年12月(日本映画)
【監督】
細野辰興
【原作・脚本】
細野辰興
【キャスト】
草野康太、山田キヌヲ、和田光沙、金子鈴幸、向山智成、森谷勇太、森川千有、南久松真奈、日里麻美、嶋崎靖、佐藤みゆき、畑中葉子、木下ほうか
【作品概要】
『シャブ極道』『竜二Forever』に引続き日本映画史上最大のスキャンダルをモチーフに製作され監督作品10作目となる本作。
実際にあった美男俳優・長谷川一夫の「顔切り事件」に着想を得て、同事件をモチーフにした映画を作ろうと集まった監督や脚本家、役者らが織りなす人間模様を、実際の舞台と映画を混在させながら描いた意欲作。
2015年1月に高円寺・明石スタジオで上演された「スタニスラフスキー探偵団」の舞台公演中に、舞台上に撮影カメラを入れ映画撮影を並行させました。
【あらすじ】
大入り満員で迎えた「スタニスラフスキー探偵団」の舞台千秋楽。
出演するはずの役者が来ない、当日になって主演女優が突然「演じるのが怖い」と降板を申し出たりと、ふた役の欠番に現場は混乱します。
ひと役は演出助手が代役を務めることとなり、主演女優の役は、ダブルキャストの一方が演じることで事なきを得ます。
降板した主演女優は、舞台上で相手役の顔を剃刀で斬りつけるというシーンがあり、その事に恐れ慄いている様子です。
そんな中、舞台の作・演出家である鬼迫哲は、数名の出演者を呼び出し「本当に斬りたい気持ちなったら斬っていいぞ」と伝えます。
困惑する役者たちをよそに、いよいよ千秋楽の幕が上がり…。
映画『著作権人格権』の作品情報
【公開】
2003年(日本映画)
【原案】
細野辰興
【監督】
細野辰興
【脚本】
星貴則
【キャスト】
木下ほうか、澤井隆輔、大谷志保、ほか
【作品概要】
日本映画学校(現・日本映画大学)俳優科16期生が2003年に製作した映画。木下ほうかの怪演と日本映画学校の若き俳優陣とのコラボレーション。
骨太な世界観で現代の歪みを撃ち続ける細野ワールドが光ります。
【あらすじ】
監督・鬼迫哲率いる小さな映画製作会社では新作映画の製作費5000万円を、あるスタッフが持ち逃げする事件が起きました。
映画製作は既にはじまっていて、資金提供を受けたプロデューサー陣に鬼迫は責め立てられます。
鬼迫と助監督は資金調達のため銀行に融資を依頼しますが、銀行側は取りつく島もありません。
窮地に陥った鬼迫は銀行強盗を計画します。
それを知った助監督はじめスタッフの面々は戸惑いを隠せません。
監督の命令は絶対。しかし本当に銀行強盗をしなくてはならないのか…。
まとめ
満員の会場は3人の話に一喜一憂し、熱が冷めやらない濃密な時間はあっという間に過ぎ、最後は盛大な拍手のもと終幕。
無骨な世界観で描かれ、そこに置かれた状況や思考に揺れる人間たちが刹那的に生きる様を映画化した細野辰興監督による鬼迫シリーズ。
細野監督作品の重圧な存在感は観客を釘付けにし、佐藤さんのコメントにあったように、まさに劇画タッチの骨太な映画を堪能しました。
『貌斬り KAOKIRI~戯曲「スタニスラフスキー探偵団」より~』は、今回はじめて観たという方も数多く見受けられました。
また、今回は都合が合わず観れなくて残念だという声も多数あるようです。次回の上映が待ち遠しくて仕方がありません!
この上映会イベントは、朗読家の定行恭子さんが個人で作り上げたイベントで配給マコトヤ、日本映画大学の協力のもと実現した企画です。
シネマハウス大塚のオーナーである後藤和夫さんも終演後に「このような場をもっと作っていきたい」と仰っていました。
映画を身近なものとして、そこに集った人たちが映画を肴に対話する。これこそ映画鑑賞の醍醐味のひとつでしょう。
『貌斬り KAOKIRI~戯曲「スタニスラフスキー探偵団」より~』の次回上映の際にはぜひ劇場でご覧ください!
緊急告知!!
映画監督・細野辰興による書き下ろし小説が10月下旬よりスタート!
小説のタイトルは「戯作評伝『スタニスラフスキー探偵団 日本俠客伝・外伝』」です。
映画『貌斬り KAOKIRI~戯曲「スタニスラフスキー探偵団」より~』の劇中舞台でもあった、『スタニスラフスキー探偵団』が再び登場します。
戦後、日本映画の過度期を舞台とした「架空の演劇」を評伝することにより、戦後70余年間の日本の世相を細野辰興監督がブった斬ります!
Cinemarcheにて独占配信です。お楽しみに!