卒業式シーズンに若い学生たちに贈るアイドル映画『ハルチカ』。
市井昌秀監督は15〜17歳の学生でなく、昔学生だった人たちも楽しめる映画を作ったと、自負するほどの自信作。
ジャニーズの「Sexy Zone」のメンバーである佐藤勝利が映画初出演にして初主演。そして、『セーラー服と機関銃 -卒業-』で初主演を飾ったアイドルグループ「Rev. from DVL」のメンバーの橋本環奈のW主演作!
映画『ハルチカ』の作品情報
【公開】
2017年(日本映画)
【脚本・監督】
市井昌秀
【キャスト】
佐藤勝利、橋本環奈穗、恒松祐里、清水尋也、前田航基、平岡拓真、上白石萌歌、二階堂姫瑠、志賀廣太郎、小出恵介、
【作品概要】
原作は初野晴の人気青春ミステリー小説で、吹奏楽部の部員で幼馴染みの高校生ハルタとチカが、次々に事件を解決していく様子を描いた作品。
テレビアニメ化もされた『ハルチカ』シリーズを映画化。ジャニーズアイドル「Sexy Zone」の佐藤勝利がハルタ役で映画初出演にして初主演。チカ役を『セーラー服と機関銃 卒業』で初主演した橋本環奈が担う W主演作品。
映画『ハルチカ』のあらすじとネタバレ
清水北高校入学式の日。穂村千夏(チカ)は入学式へ向かう通学バスに間一髪乗り込むと、揺れるバスの中で目の前に座っていた上条春太(ハル)に2度もぶつかってしまします。その際には気付かなかったのだが、チカにとって彼は小学校以来の幼馴染のハルタとの再会でした。
チカは高校入学をきっかけに、これまでに経験がない吹奏楽部への入部を希望していました。入学式では「自主性を大切にしなさい」という校長先生の退屈な入学生への挨拶もソコソコに音楽室に向かったチカ。
チカが見た音楽室は誰もおらずスッカラカン…。奥のカーテンの陰にいた上級の3年生ふたりは暇を持て余し熱い抱擁。慌てたふたりは吹奏楽部は廃部。残された資料や機材を片付けている最中だと言います。
吹奏楽部の廃部など諦めきれないチカは、職員室で校長先生に直談判して、もう一度吹奏楽部を立ち上げたいと掛け合います。
認めない校長先生に詰め寄るチカ。それを聞いていた新任したばかりの音楽教師の草壁先生は、「校長、自主性ですよね」すると周囲の教師たちは失笑。校長先生は渋々条件を出します。
4月30日までにの3週間で演奏に必要な最低9名を集めることができたら、廃部を撤回するという約束をします。喜ぶ叫ぶチカは、集まった際には顧問をお願いしたいと草壁先生にも告げます。
その日から、早速、勧誘活動をするチカ。元部員の写った写真を頼りに上級生を訪ねて回り、吹奏楽に戻って欲しいと説得するのですが成果はありません。
無心にビラ配りを続けますが、なかなか上手くいかない勧誘にチカ。部室に戻ると、草壁先生は楽譜の整理をしていました。
ダンボールで持ち込んだ荷物のなかには、かつて、草壁先生が書き下ろした未完成のオリジナル交響曲「春の光」の譜面を、チカは見つけるといっそう士気を高めるのでした。
あくる日、ふたたび通学バスのなかで上条春太にぶつかってしまうはチカは、それが幼馴染のハルタであることを思い出します。
小学生の時に、チビでひ弱だった根性なしであったハルを守り、男勝りのガキ大将のような存在だったチカ。
彼女はハルがホルンを習っていたことを知ると、あの頃の関係のようにハルの腹部を蹴り上げ、有無を言わせずに吹奏楽部のホルン担当で入部を矯正、吹奏楽部1人目に入部が決まります。
2人で吹奏楽部の勧誘することになったが、チカは一生懸命でしたが、自ら声出しの苦手なハルは勧誘の頭も下げることができません。一方で同級生の米沢妙子がチューバの達人とって勧誘のお願いをしますが、病気のために入部を断られてしまいます。
また、野球部の2年生の宮本恭二は、ピッチャーでしたが肩を壊して野球を続けられず、小学生の時にサックスをやっていたと聞きつけ、チカは自身も同じ境遇だと熱心に勧誘。やがて入部を決意してくれます。
宮本も勧誘活動を続けていると、それを見ていた元部員で、しかも部長でトランペット担当の片桐誠治、そしてその彼女のオーボエ担当の野口わかばも部活に戻ってきました。
ハルと片桐部長、わかばの3人は、演奏を聴かせるという華やかな勧誘した甲斐もあり、トロンボーンの中津川恵が入部してくれました。これで清水北高の吹奏楽部6名となりました。
校長先生と約束した9名にまだ足りませんが、人数が増えて部活らしくなった吹奏楽部は、片桐部長の元、各パート練習を始める活動をスタートさせていきます。
先日、一旦は断られた米沢妙子のところへ、チカを中心に吹奏楽部全員がマスク姿で現れ、そのマスクを外すとタラコ唇のような化粧をしていて、お願いをする部員たち。思わず苦笑する妙子。
妙子は練習しすぎた唇が荒れて「タラコ(妙子のもじり)」と呼ばれることが嫌で、吹奏楽部をやめてしまったのです。皆の思いに承諾して7人目には米沢妙子も決まりました。
8人目の吹奏楽部のターゲットになったのは、パーカッション担当で元部長であった檜山界雄。吹奏楽コンクールの直前に、突然、彼は登校拒否になり部活にも姿を見せなくなってしまいました。
その影響は吹奏楽部の出場したコンクールの結果に表れてしまい、部員たちは団結を失い廃部へのきっかけとなりました。
自宅に引き篭もった檜山は、インターネットラジオ番組「はごろも通信」のDJを続けて放送していました。
そのラジオ放送をチカは楽しみにずっと聴いていたリスナーでした。ハルとチカは彼の復帰をもくろみますが、片桐部長は反対の難色を示します。
やがて、吹奏楽部の7人がそろって練習をすると、その演奏を突然打ち消すようにクラリネットの演奏音が聞こえてきました。
それを音の出どころをたどっていくと、音楽家一家に育ったプロの奏者を目指している芹沢直子だとわかりました。さっそく、チカは吹奏楽部に勧誘をします。
チカは「音を楽しむって書いて音楽」などと一緒に吹奏楽部で楽しもうと誘うと、それを全面否定する直子は、「1人でプロを目指す」。チカのような素人に音楽をやって欲しくないと相手にもしません。
その晩、チカとハルタはいつもの港付近で、檜山のラジオ放送「はごろも通信」を聴きます。彼の番組には老人たちが多数参加していました。
廃部決定まで数日と迫った日。諦めきれずチカとハルは芹沢直子の様子を見に行きます。すると、廊下側へ席替えを先生に直訴したとクラスメートから聞き出します。
チカとハルは、実は直子が難聴で悩んでいて、補聴器をなくしてしまったことで席替えを直訴したのではないかと推理。
直子の補聴器を探して見つけてあげれば、吹奏楽部の入部してもらえるかもしれないとチカとハル思い付き、夜中の校舎に忍び込み探すことにします。
すると学校には直子もに探しに来ていました。3人で小さな補聴器を探しますが見つかりませんでした。あきらめた3人が疲れて廊下に寝そべってしまいます。
直子の前に投げ出されたチカの上履きの裏に踏みつけていました。直子は「小さなプライド踏みつけてくれありがとう」と笑って感謝をします。このことをきっかけに3人は仲良くなっていきました。
やがて、チカとハルと吹奏楽部の部員たちは、檜山界雄の実家まで押し掛けて直接談判をします。
久しぶりに再会をした片桐部長を中心に語りかけたり、家の外で吹奏楽の演奏した結果、気持ちの受けとけた檜山は入部してくれることになりました。
最後の1人の部員候補は芹沢直子が紹介してくれました。いつも図書室で寝て起きることがない元部員の手塚耕太を、芹沢自身が勧誘して校長先生に承諾をさせて、9人そろったのは4月30日の午後でした。
もちろん顧問は草壁先生。更に元部員や新たな部員も増えていった吹奏楽部。部活動のなかで体力づくりや息を合わせるためのワークなど様々な練習をこなしていきます。
映画『ハルチカ』の感想と評価
この作品では、3つのポイント「市井昌秀監督の演出」、「小出恵介の存在」、「佐藤勝利のアイドルの自覚」について感想と評価を述べていきます。
市井昌秀監督の演出「触覚」と「疾走」
この作品には主人公のチカとハルの愛に告白やキスシーンなどはありません。しかし、2人の関係は、“友達以上のトクベツ”とあるように、チカとハルの“触れ合う”関係のなかで成長していく姿の物語になっています。
通学バスで何度もぶつかった幼馴染みとの再会、夜の学校に忍び込んで人影に驚き抱きついた瞬間、また、弱ってしまったチカをハルが抱き寄せた場面はそれにあたります。
なかで、多くの観客をキュンとさせてしまったのは、意外にも、部活勧誘するシーンで、消極的なハルの姿にイラっとしたチカが、彼の腹部を蹴り上げたショットではないでしょうか。
ジャニーズアイドル「Sexy Zone」の佐藤勝利が演じるがハル役を、チカ役のアイドルの橋本環奈が、あそこまで思いっきりやるのは、一気に幼馴染であったことを観客に認知させながら、市井映画の世界観に引き込んでいきます。
その一方で、片桐部長とわかばはキスする場面から登場させたり、野球部から吹奏楽部に来た平岡は。ぶっきら棒で暴力的な面を見せるなど、市井昌秀監督は対比やメリハリを効かせた演出を見せています。
また、市井監督作品のお約束の見せ場となった「疾走」のシーンは今回も登場。挫折して泣きながらチカ役の橋本環奈の走りに注目です。
しかも、チカの長い黒髪が風になびくように、走り出しにわざわざ髪を解く仕草は、“疾走の様式美”を見せるファンサービスですね。
市井監督の過去作品2013年の処女作『箱入り息子の恋』は、主人公を演じた星野源がラスト・シーンで疾走。2017年『僕らのごはんは明日で待ってる』では、ジャニーズアイドル「HeySayJUMP」の中島裕翔がカーネル・サンダース像を持ってヒロインの病室へと疾走。
市井監督のファンなら押さえておきたい見どころです。
これらの「触覚」と「疾走」の演出を抑えつつ、また、最も活かされたのが、顔面人間国宝の佐藤勝利と美しすぎる橋本環奈のアップによる眼力にも注目してくださいね。
アイドル映画の王道はファンのみならず、美しい瞳に吸い込まれてしまうはずです!
俳優・小出恵介の演じた現代的な草壁先生の存在とは?
キャスティングされ俳優は、W主演の佐藤勝利と橋本環奈のみだけでなく、吹奏楽部の部員を演じた俳優たちも、それぞれに際立ったキャラクターを見せ場面があり、観客を楽しめる内容でした。
そのなかでも、俳優としての安定感を見せながら“難しい役どころ”を見せた小出恵介は、唯一の高校生以外の人間味を見せてました。
物語には校長先生や行き場を失った老人たちも登場しますが、目立った活躍はありません。そのなかで大人の存在は草壁先生なのです。
通常の青春映画や恋愛映画には、主人公を拒む存在として、ひり会社の大人の存在があります。多少今回も校長先生がそれに当たると指摘される方もいるかもしれませんが、それほどの困難な壁ではありません。
両親が登場して恋愛を邪魔することも、強豪のライバル的存在もないなかで、主人公たち若者が自力で考えながら成長していく物語。それがこの作品の最大の現代性が感じられるポイントです。
小出恵介が演じた部活顧問の草壁先生は、良き理解者ではありましたが、熱く生徒に接したり、サポートしたりはしません。
静かに遠くから付け放して見守ることで、生徒たちのみで問題解決を促していく、教員ではなく、補助員なのです。
市井監督の素晴らしい脚本と演出と言っても良いでしょう。
これらは授業場面ではありませんが、指導すること必要以上に上から目線で諭すこと語らず、生徒の“自主性”に任せ、安に放任主義者でもなく、顧問として指揮者としてタクトを振り、譜面にもそれぞれの生徒にメモも残す。
これは若い世代の学生たちには、一部の進歩的な教師たちが浸透させつつある、「アクティブ・ラーニング」という授業形式に酷似しています。
好き嫌いはあるかもしれませんが、草壁先生の存在は、静かながらに生徒を信じきる愛情を持った先生なのです。
昔のタイプの先生なら、黒板(ホワイトボード)を使って、教員が一方的に生徒に教えていく授業風景こそが学校でした。
しかし、学校の主役は生徒であって、先生ではないのです。そこで、課題を生徒に与えて、生徒たちのなかだけで話し合いを進めさせて学びあう、現在のワークショップ形式授業光景です。
草壁先生は吹奏楽部を立て直しに動き出した“自主性”を持ったチカを、生徒たち中心に据えたのではなく、活性させるための先導者のキーマンにしたのです。
高校生になって初めてフルートを手にした素人のチカに、あえて難しい難易度のあるソロ演奏を与え、草壁未完の曲「春の光、夏の風」の書き上げていなかった、(想像ですが、正確には書き上げることができなかった)これから作曲をする箇所に、難しいソロパートをあえて入れてきたのが草壁先生なのです。
言うまでもなく草壁先生は、チカが廃部寸前の吹奏楽部を復活させた人物だからこそ、難易度の高いソロ演奏ができると信じたのです。
吹奏楽部の部活動の練習では、草壁先生は、チカにフルートが演奏できないことを、全員の前でチカに伝えます。これはチカの個人の問題だと考えることではないと言う表れだと思います。
チカが練習場を後にした後、草壁先生もその場を立ち去ってできた部員たちの時間は、それを生徒のみで考えさせる時間を設けたのでしょう。
草壁先生は言葉にして答えを教えることはありません。安易に団結や無難な解決ではなく、本質として自主性である主体性という、それぞれが全体の1人であり、ソロ演奏の見せ場(あえていうなら個性)だと押し付けずに考えさせるのです。
信頼された生徒たちは、いつのまにか自然なかたちで、チカの試練は全員の試練だと考えるようになります。
それは全員で支え合うというより、信頼して見守る。チカが吹奏楽部の復活を無心で信じたように、今度はチカの再生を信じて待つというのに近いかもしれません。
このことが失敗をしたり、挫折をした生徒たちのなかだけで求め合いながら、お互いの個性を活かす再生の様子を部員や生徒の姿で見せています。
もちろん、音楽家になれなかった草壁自身もありました。ラストシーンのハルの成長の行動は、みんなで失敗を克服するという大団円へとつながっていきます。
この作品で冒頭の校長先生の新入生挨拶の「自主性を重んじる」とは、「主体性は生徒にあるという学び合い」それこそが青春映画であるという方向を示した作品なのかもしれません。
これはもちろん、1つの理想の姿ではあります。しかし、市井監督が若い世代だけではなく、昔学生だった世代にも見てもらいたい作品と自信を述べていた本心はそんなところにあるのかもしれません。
今では若者に指導する立場になった世代に、アイドル映画と敬遠するだけでは得られない、重要な学びを見いだすことができる世代を越えた作品です。
それを可能にした小出恵介が演じたからこそです。
彼の2009年に初主演した映画『風が強く吹いている』のなかでも、駅伝部のプレイングマネージャー役を演じた姿がありました。更なる指導する立場を演じたと感じた人も多いのではないでしょうか。
小出恵介ならではの役柄の魅力は、温かさと厳しさに隠れた信頼を持つ姿だと思います。
まとめ
佐藤勝利はアイドルの自覚g魅力⁉︎
主人公ハルを演じた、ジャニーズアイドル「Sexy Zone」の佐藤勝利。最後は彼の魅力で締めたいと思います。
原作に登場するハルは草壁先生に惹かれていく、チカとはライバル関係の存在。しかし、映画ではそこの部分には触れてはいません。
ちなみに、あの大円団の授業ボイコットのした大円団の演奏は、ハル単独ではじめた行動なのでしょうか。
もちろん吹奏楽部の部員たちとは話し合いをしたうえで決行したのでなければ、吹奏楽部の人間力の成長はあったとは言い切れませんよね。
では、屋上にハルと同じように姿を見せた草壁先生は知っていたのでしょうか、それとも知らなかったのでしょうか。
市井監督は場面をあえて描かない省略法で想像させて見せる演出も好む監督ようですから、ハルの成長として、草壁先生に頭を下げにいったと想像して読むこともできますね。
みなさんはどのように感じられましたか。
そのことを納得させてしまうのが、ジャニーズアイドルである佐藤勝利。彼は初主演したこの作品に強い責任を感じながら演じていたようです。
それは映画は劇場でなければ観ることはできない、誰が演じるかによって映画の注目度が左右される責任感を強く持つ自覚がありました。
また、ジャニーズの先輩たちの背中を追いかけながら実力に圧倒されることも多いそうです。
チャレンジ精神の高いジャニーズという事務所に所属しながら、先輩たちの後方にいる環境に恵まれ、外見ばかりで騒がれるのではなくいたいという高い意識があるのです。
いろいろなことを成し遂げてきた先輩たちとともに身を置き、何か新しいことをやらなくてはいけないと、常に志しを感じているようです。
だから、プレッシャーを感じながらも、アイドルとして自信がないと言わないように心がけをしているそうです。
正に『ハルチカ』に登場した主人公ハルタという役柄そのものようですよね。
佐藤勝利はタイトルにもなったハルタという存在を自覚しながら、また、男勝りのチカをはじめ、音楽才能のある部員や人間力のある部員たち、さらには草壁先生の指導者としての魅力を意識しながら成長をしていきました。
部活の勧誘をする際に、声も出せず、頭も下げられなかったハルタが、声は出せなくとも学年1番の秀才ぶりで、頭を指でくるりと書きながら何をするべきかを自主的に常に考えている姿は観るものを惹きつけます。
外れていったチカに、チカが1番望む姿でホルンの演奏を届けたかったハルタの覚悟は、ジャニーズアイドルという佐藤勝利そのもの、ファンへの使命にも受け取れはしないか。
外見的な魅力でばかり騒がれがちな佐藤勝利ですが、初主演した映画の裏には、彼のアイドルとして自覚やジャニーズとしてのトップをねらう覚悟を見出すこともできる魅力溢れる作品となっています。
ぜひ、アイドルの佐藤勝利の“顔面人間国宝”の外見も楽しみつつ、内面も見られたハルの成長を演じ果たした姿を見るには、映画館ならではの大画面が彼には似合うのではないでしょうか。
ただいま、『ハルチカ』は全国の劇場で公開中!ぜひ、お見逃しなく!