第89回(2017)アカデミー賞で見事オスカーに輝くなど今乗りに乗っている俳優ケイシー・アフレック。
彼のその高い演技力を如何なく発揮した『キラー・インサイド・ミー』をご紹介します。
映画『キラー・インサイド・ミー』の作品情報
【公開】
2010年(アメリカ)
【原題】
The Killer Inside Me
【監督】
マイケル・ウィンターボトム
【キャスト】
ケイシー・アフレック、ケイト・ハドソン、ジェシカ・アルバ、ビル・プルマン、ネッド・ビーティ、イライアス・コティーズ、トム・バウアー、サイモン・ベイカー、ブレント・ブリスコー、マシュー・マー、リアム・エイケン、ジェイ・R・ファーガソン
【作品概要】
伝説的な作家ジム・トンプスンの原作『おれの中の殺し屋』(1952)を『ひかりのまち』や『イン・ディス・ワールド』でおなじみのマイケル・ウィンターボトムが映像化した作品。
第89回(2017)アカデミー主演男優賞を受賞したケイシーアフレックを主演に迎え、ケイト・ハドソン、ジェシカ・アルバなどを起用。
映画『キラー・インサイド・ミー』のあらすじとネタバレ
1950年代、テキサスの田舎町セントラルシティ。
ルー・フォードはこの町で保安官助手を務める男。誰からも好かれ、信頼されている男です。
保安官のボブ・メイプルズはそんな彼にある任務を任せました。それは、町の外れに住む娼婦ジョイス・レイクランドに対する市民からの苦情を処理するため、隠密にこの町から追い出そうというもの。
ジョイスの下を訪れたルーは、努めて冷静かつ事務的にこの町から出て行くように伝えました。
しかし、ルーの思惑通りにはいかず、ジョイスの態度は反抗的。散々彼を罵り、挙句の果てに平手打ちを喰らわせてきたのです。
その一撃は、ルーの中で眠っていた“何か”を目覚めさせるものとなってしまいました。
殴り返したルーは、彼女の顔を滅多打ちにした末、尻をむき出しにさせ何度も何度もベルトで鞭打ちます。
その後ハッと我に返ったルー。必死になって謝罪すると、ジョイスは受け入れてくれたようでした。彼女はルーのその暴力的な嗜好に惹かれてしまったのです。
その一方でルーには教師のエイミー・スタントンという恋人がいました。彼女との交際は周囲も認めるもので、ゆくゆくは結婚するのだと誰もが思っていた2人。
にもかかわらず、その翌日からジョイスの下へ通い詰めるようになっていたルーは、建設労働組合の長であるジョー・ロスマンから呼び出されます。
ジョーの下へと向かったルーが聞かされたのは、ルーの義理の兄を殺したのがこの町の有力者チェスター・コンウェイである可能性についてでした。
チェスター・コンウェイはこの町を牛耳る建設界の大物で、彼の息子エルマーとは同級生という間柄。そしてエルマーはジョイスとも関係を持っていたのです。
ある日、チェスターから呼び出しを受けたルー。チェスターにとっては、有力者の息子であるエルマーが娼婦と逢引を重ねていることは非常に体裁が悪いと感じていました。
だから、ルーの力で何とか2人を別れさせられないものかと持ち掛けたのです。二度と息子とジョイスが会うことのないよう、手切れ金の1万ドルをルーに託そうとします。
しかし、ルーは応じません。法の執行者に脅迫させようというのかと突っぱねたのです。
その言葉に納得したチェスターは、エルマーをルーの下へと遣るからせめて話だけでもしてくれと彼に頼みました。
その後エルマーと会ったルーは、彼が手切れ金の1万ドルと共にジョイスと駆け落ちするつもりだと知らされます。
そんなエルマーに、手を貸そうとルーが申し出ました。うすのろのエルマーはすっかり彼のことを信用しているようで、「なぜこんなに良くしてくれるんだ?」と尋ねます。
ルーは金のためだろうなと軽く答えると、ポケットにあったクシャクシャの紙幣寄越してきたエルマー。せめてこれくらいでも受け取ってくれとせがみます。
その金を受け取ったルーは、エルマーに今夜ジョイスの家で落ち合うことを約束して別れました。
その夜、待ち合わせ時間よりも早めにジョイスの家へと車を走らせていたルーは、近くで一旦車を止め、タイヤをパンクさせてから歩いて彼女の家へと向かいました。
ジョイスにはエルマーとは全く違った筋書きを説明していたルー。まだ時間はあるからとセックスをした後、突然彼女を殴り倒し、顔の区別が付かなくなるほど滅多打ちにします。
そこへ入って来たエルマーをジョイスが所持していた銃で撃ち殺し、彼女が撃ったかのように見せかけました。
急いで車へと戻ったルーがパンクの修理をしている(フリ)をしていると、様子を見ようと駆け付けていたチェスターと出くわし、彼の車で再びジョイスの家へと戻ります。
現場に到着すると、思いもよらなかった光景に絶句するチェスター。しかし、ルーにとっては一つ大きな計算違いが起っていました。
殴り殺したと思っていたジョイスに僅かながら息があったのです。
署へと戻ったルーは、保安官と郡検事ハワード・ヘンドリックスに事情を説明し、その日は解放されました。
帰り道、なじみのガソリンスタンドへ寄ったルー。普段から目を掛けている少年ジョニー・パパスがここで働いており、時折様子を見に来ていたのです。
その後、恋人のエイミーの下へと向かい、今回の惨劇について他人事のように話したルー。ベッドに入り、彼女を抱こうとすると突然エイミーが拒みます。
ジョイスと寝たんでしょ?と詰め寄って来たのです。真面目で一途な性格のエイミーはジョイスのようなふしだらな女が許せません。憤るエイミーに、結婚をチラつかせながら何とか宥めたルー。
翌日、どうも郡検事のヘンドリックスがルーのことを疑っているようで、保安官と共に再び呼び出されたルーは、パンクした現場でのその時の状況を子細に説明します。
長年ルーと共に過ごしている保安官にとっては、彼のような人間がこんなことをやってのけるはずがないと考えていましたが、ヘンドリックスの方はどうも何かが引っ掛かっているようでした。
一応ルーの説明に納得したヘンドリックスは、医療設備の整ったフォートワースにジョイス(意識不明の状態)を移送させるために、ルーと保安官を同行させることにします。
ジョイスの仕業だと思っているチェスターが、彼女の意識をどうしても回復させたいがために全て手配したのです。
映画『キラー・インサイド・ミー』の感想と評価
ノワールの帝王とも称される伝説的な作家ジム・トンプスンの小説『おれの中の殺し屋』(1952)を基にした作品『キラー・インサイド・ミー』。
原作と比べてもかなり忠実に作られており、50年代のアメリカの片田舎の雰囲気を完璧に再現していますね。
しかし、何といっても主演のケイシー・アフレックの存在なくしてこの映画は成立しえなかったはず。
2017年2月26日開催の第89回アカデミー賞において見事主演男優賞(『マンチェスター・バイ・ザ・シー』)に輝くなど、今でこそその実力は折り紙付きですが、10代のころからこの世界に身を置いている彼にとっては、そこまでの道のりはかなりのものだったに違いありません。
例えば、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1997)や『200本のたばこ』(1999)、『オーシャンズ』シリーズなど、数々の有名作品にも出演してはいるものの、あまりパッとした印象は残せず、爪痕を残すまでには至りませんでした。
そんな彼の転機は間違いなく『ジェシー・ジェームズの暗殺』(2007)でしょう。
実在した伝説的な無法者ジェシー・ジェームズ(ブラッド・ピット)を暗殺することになる男ロバート・フォード(こちらも史実通り)を演じ、史実同様ブラッド・ピットを完全に喰ってしまうほどの演技(兄役のサム・ロックウェル共々)を見せつけてくれました。
そしてその後、兄のベン・アフレックが監督を務めた『ゴーン・ベイビー・ゴーン』(2007)を挟んで本作『キラー・インサイド・ミー』へと至る訳ですが、その狂気っぷりといったら本当にもう素晴らしいの一言ですね。
ルー・フォードという男は、町のみんなから信頼を集めている人好きのする優しい若者として認知されていました。しかしその表に見えている姿というのは、その内面にあるドス黒い部分を覆い隠すものに過ぎないのです。
良くある二重人格で豹変するといったものとは異なり、彼の目の奥には常にそのドス黒い感情が蠢いているのですが、ケイシー・アフレックはあの独特の表情(特に目)としゃべり方(どちらかというとか細い)で見事に表現してみせました。
あまりのなりきりっぷりにケイシー・アフレックという人間に少し恐怖を覚えるほどの怪演でしたが、この作品では彼だけではなく他のキャストたちも非常に素晴らしい仕事を見せてくれています。
ジョイスを演じたジェシカアルバは敬虔なカトリック教徒(セックスシーンやヌードはご法度)であるにも関わらず、SM的な表現を体当たりで演じてくれました(何故かラジー賞を獲ってしまっているのですが…)。
原作においてもセックスシーンはもちろんあるものの、時代的にあからさまな表現が出来なかったため、(下着姿ではあったものの結局脱がなかった)ジェシカ・アルバの起用というのはむしろ時代性を表現していてプラスに働いたのではないかと思います。(これが監督の思惑なのか偶然なのかは不明)
他にもビル・プルマンやネッド・ビーティなどのベテラン勢が脇を固める中、非常に目立っていたイライアス・コティーズの演技ももっと評価されるべきですね。
年齢を重ねる度に増していくその渋さが魅力のイライアス・コティーズですが、かなりのキャリアを誇るベテラン俳優であるにも関わらず、ほとんどスポットが当たることがありません。(特に日本での知名度は低そう…)
しかし、こういった名脇役(この呼び方を本人が望むかどうかは別として)たちにこそもっともっと注目していくべきで、彼らのような存在なくして良質な映画は決して生まれません。
せひその辺りにも注目してご覧いただくと、さらに映画をお楽しみいただけると思います!
まとめ
ベルリン国際映画祭(2003)で金熊賞を受賞した『イン・ディス・ワールド』が有名な監督のマイケル・ウィンターボトム。
この作品でも彼の手腕が如何なく発揮しています。原作ファンとしてはあの雰囲気を見事に再現してくれたことが非常に喜ばしいところでしょう。
ただし、ラストシーンが少々惜しかったなという思いがどうしても残ってしまいますね。(凄まじい爆発は原作以上だったものの…)
しかし、あのラストのカタルシスを味わうのは活字でしか不可能なのかもしれません。興味を持たれた方は原作『おれの中の殺し屋』(扶桑社ミステリー)を読んでみるとよりこの世界観が味わえるでしょう。
さて、最後にお知らせを一つ。ケイシー・アフレックがオスカーを獲得した作品『マンチェスター・バイ・ザ・シー』ですが、日本での公開は2017年5月13日(土)より全国ロードショーということですでに決定済です。
公開前からかなりの話題をさらっていますので、ケイシー・アフレックの魅力を味わいたい方はぜひ劇場に足を運んでみてください!