Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2018/08/06
Update

『ベティ・ブルー 』は恋愛映画なのか?『ファイト・クラブ』的な類似とは|偏愛洋画劇場2

  • Writer :
  • Cinemarche編集部

連載コラム「偏愛洋画劇場」第2幕

何度も何度も観てしまう、自分の個人的な感情の奥深くに突き刺さる大切な映画をお持ちの方はたくさんいらっしゃると思います。

初めて観た時とは全く異なる印象を受けた時、今までそんなことはなかったのに思わず涙してしまった時、映画の存在は何も変わっていないのに、観る時の感情、状況、タイミングによって感じ方は変わるものですよね。

私にとってそんな映画の存在はジャン=ジャック・ベネックス監督によるフランス映画『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』(1986)です。

【連載コラム】『偏愛洋画劇場』記事一覧はこちら

『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』とは


(C)Cargo Films / Gaumont All Rights Reserved.

物語は海辺のコテージで1人暮らしをする男性ゾルグの元に、若く美しい女性ベティが訪ねてくるところから始まります。

自由奔放なベティと優しいゾルグは激しく惹かれ合い、一緒に暮らすことに。家主から言いつけられる雑用で生計を立てていたゾルグでしたが、実は小説家になるという密かな夢を抱いていました。

それを知ったベティは彼の代わりに小説をタイピングし出版社に送るのですが、その結果は辛辣なもので…。


(C)Cargo Films / Gaumont All Rights Reserved.

情熱的に愛し合うカップルの姿とその壮絶で悲しい結末はあまりに衝撃的で、公開時はロングラン大ヒット。今も根強い人気を誇る名作です。

ずっと私はこれをゾルグとベティ、2人の人間による愛の物語としてだけ考えていました。

しかし1度友達におすすめしたところ、その友達から返ってきた答えは「これは『ファイト・クラブ』のような作品だと思う」ということ。

今回の連載ではなぜ『ベティ・ブルー』がデヴィッド・フィンチャー監督作品『ファイト・クラブ』的な作品なのか、友人の考えと私の考えをシェアさせて頂きたいと思います。

『ファイト・クラブ』のような作品なのか?

友人が言うに奔放でセクシーなベティは、ゾルグの分身のような存在。

彼女はゾルグの“小説家として生きていきたい、自分らしくありたい”という自我の化身というわけです。『ファイト・クラブ』では僕にとっての“タイラー・ダーデン”のような存在。

「まずベティがどこからやってきたのか、どんな存在なのかも詳しくは描かれていない。当初雑用をこなしているだけのゾルグは彼の部屋にかかっているモナリザの絵のように(モナリザは何の表情をしているか読みよることができないから)自分自身のことをよく分かっていない。彼がどんな小説を書いているか友人と会話をするシーンがあるけれど、『コメディか?推理小説か?』だなんて、彼も自分がどんな小説を書きたいかよく分かっていないんだ」

「ベティはゾルグにとって、自分が本当に望んでいることを行動してくれる存在。やりたくない仕事を辞めさせ、自分の作品を出版社に送った。彼女はエキセントリックな人物だけれど、ゾルグの代わりに行動している」

「異なるお酒を叩きつけてシェイクするシーンがある。これは2つの全く異なる存在、ベティとゾルグが統合されるということなのではないか。最終的にゾルグは自分が小説家として生きると決意することが出来る。彼はベティを必要としなくなるから、彼女を“殺す”。」

徐々に精神の均衡を崩してゆくベティは物語中盤、ゾルグの子供を妊娠したかもしれないという希望を持ちます。

結果それは誤解で、ベティは何もかも不安定になってしまいます。

ゾルグは最後寝たきりになったベティを自らの手で葬るのですが、ベティはゾルグの“自分が心から望むものを生むことができない”という恐れや不安を代わりに引き受け、ゾルグにその“自分”を殺すことによって、彼を本来の姿で生きていくよう導いたのかもしれません。

彼らの愛は激しく刹那的で、2人の男女の恋愛物語として観るとあまりにも切ないものですが、『ファイト・クラブ』的な作品として考えると美しいハッピーエンドなのではないでしょうか。

芸術家とミューズの存在


(C)Cargo Films / Gaumont All Rights Reserved.

小説家、映画監督、画家、詩人、彫刻家。彼・彼女ら芸術家と“ミューズ”の存在。

ゾルグにとってベティは自分に小説家としての自我を呼び起こさせ、作品へ取り組む活力を与えてくれるミューズでした。

搾取や犠牲の上に成り立つ作品ではなく、愛から生まれる芸術。1人の人を骨の髄から愛し、自ら望んで心身を削って恋人に捧げ、互いを必要としたゾルグとベティの恋愛。

もしベティがゾルグの中に潜行する彼の自我だったとしても、彼女が実在していたとしても、ゾルグが最後静かに書き綴る小説はきっと彼が傾ける愛から生まれたものでしょう。

嵐が過ぎ去った後の静けさに満ちた深いブルーの空の美しさはそれを表しているかのようです。


(C)Cargo Films / Gaumont All Rights Reserved.

『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』を監督したジャン=ジャック・ベネックスは、リュック・ベッソン監督、レオス・カラックス監督と共に“恐るべき子供たち”と呼ばれフランス映画にヌーヴェルバーグ以来の新しい風をもたらした存在。

監督作品は少ないもの、また彼の映画を観たいと待ち望んでいるファンの方はたくさんいらっしゃるはず(私もその1人です)。

夏の蒸し暑い日、夜明けの美しい空に思いを馳せながら『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』、また1度ご覧になってみてはいかがでしょうか。

次回の『偏愛洋画劇場』は…

次回の第3幕は、1971年公開のハル・アシュビー監督作品『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』をご紹介します。

お楽しみに!

【連載コラム】『偏愛洋画劇場』記事一覧はこちら

関連記事

連載コラム

『マローボーン家の掟』感想と解説。ラストまでホラー映画と青春ファンタジーが融合した秘密とは⁈|サスペンスの神様の鼓動16

サスペンスの神様の鼓動16 こんにちは、映画ライターの金田まこちゃです。 このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。 今回取り上げる作品は、201 …

連載コラム

映画『くれなずめ』ストーリー内容と感想評価。タイトルの意味から成田凌とウルフルズの音楽の関連性を解く|映画という星空を知るひとよ60

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第60回 『アズミ・ハルコは行方不明』『君が君で君だ』など、独創性の高い作品を次々と生み出してきた松居大悟監督が、自身の体験を基に描いたオリジナルの舞台劇を映画 …

連載コラム

SFホラー映画2020年おすすめ6選!話題と人気の劇場公開作の注目点を解説【糸魚川悟セレクション】|SF恐怖映画という名の観覧車83

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile083 新年あけましておめでとうございます。 遂に東京オリンピックの開催の年となり、そわそわとしてる方も多くいらっしゃることでしょう。 しかし、 …

連載コラム

Netflix『全裸監督』第3話あらすじネタバレと感想。駅弁とデビュー作撮影の裏側|パンツ一丁でナイスですね〜!3

連載コラム『パンツ一丁でナイスですね〜!』三丁目 Netflixオリジナルシリーズ『全裸監督』が2019年8月8日より配信中です。 伝説のAV監督村西とおるを描いた本シリーズ。 全話ラストで警察の手か …

連載コラム

NETFLIXおすすめ映画『ユピテルとイオ』ネタバレ感想と結末までのあらすじ|SF恐怖映画という名の観覧車53

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile053 映画技術の発展と、異常気象や温暖化など漠然とした自然環境に対する危機意識の増大によってか、終末世界を描いた映画が多く製作される近年。 莫 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学