映画『最後のランナー』は、7月14日より全国順次公開中。
人は何処まで、希望を捨てずに尊厳を失わず、生きていくことができるのか。
1924年パリ・オリンピック金メダリストを描いた名作『炎のランナー』の後、再びエリック・リデルが戦時中の収容所で命を懸けて最後のレースに挑みます。
走り終えた先に待つものは、希望なのか…。戦時下にアスリートとして、宣教師として生き抜いた心揺さぶる感動の実話『最後のランナー』をご紹介します。
映画『最後のランナー』の作品情報
【公開】
2018年(中国・香港・アメリカ合作映画)
【原題】
On Wings of Eagles
【脚本・監督】
マイケル・パーカー、スティーヴン・シン
【キャスト】
ジョセフ・ファインズ、ショーン・ドウ、エリザベス・アレンズ、小林成男、浅野長英、リチャード・サンダーソン、ジェシー・コープ
【作品概要】
本作は、アカデミー賞4部門を受賞した『炎のランナー』の伝説の金メダリストの知られざる壮絶なその後の物語です。
主人公のリデルを演じるのは、『恋に落ちたシェークスピア』や『エリザベス』などで、絶賛を博したジョセフ・ファインズ。
また『項羽と劉邦/その愛と興亡』『男たちの絆』のスティーヴン・シンとカナダ人の監督兼プロデューサーのマイケル・パーカーとの共同監督作品です。
映画『最後のランナー』のあらすじとネタバレ
鳥のような凧が大空に舞い上がっており、ショーン・ニウという男の回想が始まります。
1924年のパリ・オリンピック、400メートルで金メダルを獲得したエリック・リデルは、アメリカの企業の誘いを全て断り、宣教師として生まれ故郷の中国で人生を捧げることを決意します。
カナダ人のフローレンスと二人の娘と共に翌年中国の天津に移住し、学校で宣教師活動以外にも科学や英語を貧しい子ども達に教えていました。
ある日一人の少年が教室にいないので、他の子どもに聞くと、「エリック先生のために梨を持ってくる」と言っていたことを知り、みんなで待っていました。
その時、空に多くの日本の戦闘機が見えて、エリックと子どもたちは一瞬にして顔が青ざめます。
「エリック先生!」と少年の声が外から聞こえました。
走っていくエリック。その瞬間走ってくる少年に爆弾が落とされます。
エリックと子どもたちの前で爆発し、リデルの足元に潰れた梨が転がってきて、泣き崩れるエリックと子どもたち。
中国人ショーン・ニウはそんなエリックを慕い、彼の運転手として毎日学校まで送っています。
1937年に日中戦争が勃発し、日本とイギリスとの関係も悪化、天津での取り締まりも強化されていきました。
エリックは急遽妻と娘をカナダに帰国させましたが、その後すぐにエリックの自宅に日本兵が侵入し、自宅を略奪します。
しかしエリックは表情も変えず窓から差し込む光の中で、敵に日本のために祈りを捧げます。
身寄りの無い少年シャオシートウは、いつもエリックに声をかけられ励まされていました。
エリックは、貧しい子どもを大人も声をかけ、一緒に走ります。
エリックは走りながらみんなに語りかけ、「心の平安のために走る」と。
ある日、シャオシートウがエリックの元にカナダの妻フローレンスの手紙を届けてくれます。
娘たちのメッセージの中に、産まれた女の子の写真が入っていました。
エリックは、その写真を見つめていました。
いつものようにショーンがエリックを学校に送る途中、日本の検問に捕まりました。
その日は、いつもと違って検問に緊張感が漲り、前の運転手が逃げて川に落とされました。
検問の日本兵が、なぜここにイギリス人が居てるのかとエリックに詰め寄ります。
エリックは、とっさに先日ショーンからパリ・オリンピックで金メダルを獲った時の新聞記事を手に入れて貰ったものを差し出し、「ここで今教師をしている」と説明すると、何とか通ることができました。
ショーンと安堵して見つめ合うエリック。
1941年真珠湾攻撃が始まると、日米開戦の火蓋が切られ、日本とエリックの母国イギリスも戦争状態になりました。
ある日教会でエリックは宣教師として友人の結婚式を行なっていたところ、日本軍に拘束され、“住民保護”の名の下に、欧米人が日本の収容所に連れて行かれました。
そこはウェイシン収容所『楽道所』と書かれてありました。
映画『最後のランナー』の感想と評価
(C)2017 Goodland Pictures (C)2017 KD Multimedia Limited Innowave Limite
エリック・アデル、彼はなぜ命を懸けて最後のレースに挑んだのか
参考作品:『炎のランナー』(1981)
1981年公開のヒュー・ハドソン監督による、第54回アカデミー賞作品賞受賞作品『炎のランナー』では、アスリートとしての信念そして宗教者としての信仰を強く持ち、安息日である日曜日のレースを辞退します。
しかし今回の最後のレースは、すべてが異なっていました。
劣悪な環境、収容者が次々と死に向かっていくのを目の当たりにしながら、窓から差し込む光に祈りを捧げる日々。
不吉にも鼻血が止まらず、頭痛とめまいに苛まれ、歩くことも覚束ない自分の身体。
最後に決断したのは、収容者の命を救うための取引。
収容所長は、笑みを浮かべて「わかった、日曜日だ」と答えます。
世界の前で拒絶した男が、最後のレースには日曜日、しかも雪の地道に裸足で立ちます。
それは全てを悟り覚悟した表情でした。
(C)2017 Goodland Pictures (C)2017 KD Multimedia Limited Innowave Limite
エリックは全身全霊を込めて、収容者だけでなく日本兵という支配者側にも、そして観ている者にも“希望”を伝えた瞬間です。
まとめ
(C)2017 Goodland Pictures (C)2017 KD Multimedia Limited Innowave Limite
収容所長の命令で電気ショックをオンにしようとする日本兵に、オンにさせないようにする若い二人の日本兵がスイッチを守っている場面があります。
若い二人は、所長の命令に背いて阻止しようとしているので、後で処罰あるいは命を失うこともわかっていて、上司に挑んでいます。
エリックのいう“敵も味方も無く祈る”ということは、このシーンにも凝縮されています。
だからこそ、誰もに希望があると信じることができる、毎日の営みについ流されそうになって生きている自分に、一度立ち止まり、希望があることを与えてくれる映画です。