連載コラム「邦画特撮大全」第4章
来年2019年(平成31年)4月末、平成が終わりを迎えます。
それにあやかり、今回は平成の前・昭和末期に公開された2つの特撮映画『竹取物語』(1987)と『帝都物語』(1988)について紹介したいと思います。
日本最古の物語×SF『竹取物語』の奇妙な縁
『竹取物語』古活字十行本 慶長年間(1596~1615)
平安初期に成立し日本最古の物語といわれる『竹取物語』を20億円の予算を掛け、市川崑監督の手により映画化したものです。
また本作は東宝の3代目特撮監督・中野昭慶が最後に手掛けた特撮映画であり、数多くの映像作品でVFXを手掛けるポストプロダクション会社・マリンポストが特殊効果として初めて参入した日本映画でもあります。
この作品の最大の特徴は、『竹取物語』をSFとして解釈し映像化した点です。
原作でもかぐや姫(映画では加耶)は月から来たという設定ですが、本作ではよりSF的に解釈されています。
加耶(沢口靖子)が地球に来た理由は宇宙船の墜落事故と設定されました。そのため加耶が入っていた光る竹は脱出ポッドという理由付けがされました。
クライマックスのかぐや姫が月に帰る場面では、ハスの花がモチーフの宇宙船が迎えに来ます。
絵巻物などでは御所車で表現されますが、本作では『未知との遭遇』(1977)のマザーシップ然とした宇宙船で表現されており、本作中最大の特撮の見せ場です。
こうしたSF要素の導入は、脚本に参加したSF評論家・石上三登志によるアイディアです。
本作の製作・田中友幸は数々の東宝特撮映画のプロデューサーを務めた人物で、『竹取物語』は田中にとって念願の企画でした。また田中と長年仕事を共にした特撮監督・円谷英二も、『竹取物語』の映像化を企画していたのです。
実は円谷英二は東宝の前身の1つJ・Oスタジオ時代に人形アニメ映画『かぐや姫』(1935)を撮影しています。
本作の監督・市川崑はJ・Oスタジオ漫画映画部のアニメーター出身で、この作品の撮影現場を覗いていました。
その後、本作と同じく『竹取物語』が原作のアニメーション映画『かぐや姫の物語』(2013)が公開されます。高畑勲監督の遺作となった作品ですが、市川崑と高畑勲は2人とも三重県伊勢市の出身『竹取物語』の映像化作品には、奇妙な縁のようなものを感じてしまいます。
『竹取物語』絵巻
特撮スタッフで観る『帝都物語』
『帝都物語』オープニング映像
本作は荒俣宏のベストセラー小説『帝都物語』の映像化で、監督を『ウルトラマン』『ウルトラセブン』などで知られる実相寺昭雄が担当しました。
平将門の怨霊を使い帝都壊滅を目論む魔人・加藤保憲と、その野望に立ち向かう人々との戦いを描いた作品です。
陰陽道や風水などの神秘的な要素、史実の人物が登場し物語に大きく関与するのが特徴です。
またソニーPCLの協力の下、合成部分ですがハイビジョンが本格的に導入され邦画でもあります。
『帝都物語』を語る上で重要なのは魔人・加藤保憲の配役です。加藤役には沢田研二や坂本龍一、小林薫が候補に挙がったと言われています。
そんななか抜擢されたのは、アングラ劇団「東京グランギニョル」で俳優活動をしていた嶋田久作です。本作は彼の映画デビュー作になりました。
嶋田久作の抜擢、その魅力については多くの方が語っているので、上記ぐらいにとどめておきましょう。今回はやはり特撮、特に参加したスタッフから『帝都物語』を紹介していきます。
本作のスタッフでまず名前を挙げられる人物は、やはりH・R・ギーガーです。
『エイリアン』(1979)のデザインで知られるギーガーは加藤の使い魔・護法童子をデザインしました。
ギーガー自身は映画全体のデザインを希望しましたが、スケジュールの都合で断念せざるを得ませんでした。
加藤が操る式神や終盤に登場するロボット学天則は、特殊美術・池谷仙克のデザイン。
関東大震災の場面をはじめとするミニチュアは大澤哲三が手掛けました。
池谷は『ウルトラセブン』『帰ってきたウルトラマン』などで怪獣・宇宙人のデザインを担当、大澤も『ウルトラマンレオ』で宇宙人をデザインしていました。
登場する数多くのクリーチャーの造形は11人のクリエイターによる競作です。
『大怪獣ガメラ』(1965)や『超人バロム・1』(1972)で造形を手掛けた村瀬継蔵、昨年公開された『BRAVE STORM』の監督で元・円谷プロ副社長の岡部淳也、特殊メイクの第一人者・江川悦子らが参加しています。
クリーチャーはぬいぐるみ、マペット、人形アニメーションなど場面に応じて使い分けがなされました。
式神が全身で動く場面や呪符が式神に変化する場面では、式神と人間のサイズ比の問題から人形アニメーションが採用されています。
人形アニメーションを担当したのが真賀里文子。真賀里は本作の他、風邪薬「コンタック」や「イソジン」のカバの親子、「NTTドコモダケ」などCMアニメーションを数多く手掛けています。
本作のチーフ助監督の服部光則、セカンド・ユニット助監督の北浦嗣巳は、両名とも後に『ウルトラマンティガ』(1996~1997)『ウルトラマンダイナ』(1997~1998)に監督・特技監督で参加。北浦は近年のウルトラシリーズでチーフプロデューサーを担当しています。
画コンテ作画の樋口真嗣、特殊メイクの原口智生と平成ガメラ三部作のメインスタッフも参加しています。両名とも当時は20歳代であることに驚きます。
このようにスタッフを細かく見ていくと、ベテラン・若手の混成であることが判ります。
本作に参加した若手スタッフの多くは、その後の特撮作品で活躍しています。
まとめ
『竹取物語』と『帝都物語』の両作は、バブル期の製作という事もあり巨額の製作費が投じられました。
そのため『竹取物語』では大規模な平安の都のセットが建てられ、『帝都物語』では昭大正時代の銀座を再現したオープンセットが作られました。
特撮は今日観ると拙く見える箇所もありますが、ミニチュアや大規模なセットなどCGではない建造物の魅力を堪能できる映画です。
次回の「邦画特撮大全」は…
次回の邦画特撮大全では、特撮TVドラマ『仮面ライダーフォーゼ』(2011~2012)を取り上げます。
お楽しみに。