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映画『歴史の未来』あらすじネタバレと感想!ラスト結末も

  • Writer :
  • シネマルコヴィッチ

第9回恵比寿映像祭は「マルチプルな未来」と銘打って、東京都写真美術館の会場を中心に、2017年2月10日(金)−2月26日(日)まで開催中。

このイベントはメイン会場だけではなく、日仏会館、ザ・ガーデンルーム、恵比寿ガーデンプレイスセンター広場など、地域の連帯各所に広がりを見せていることでも話題となっています。

開催中のイベントでは、世界的なアーティストで知られるフィオナ・タンの初の劇場公開作品も、ジャパン・プレミアとして数日上映予定されています。

彼女がどのような劇場公開作品を制作したか、今回は『歴史の未来』に注目します!

映画『歴史の未来』の作品情報

【公開】
2017年 恵比寿映像祭ジャパン・プレミア(オランダ)

【脚本・監督】
フィオナ・タン

【キャスト】
マーク・オハロラン、デニス・ラヴァン、アンニー・コンスティニー、クリストス・パサリス、マンディンダー・ヴィルク、リフカ・ロディゼン、ブライアン・グリーソン、ヨハン・ター・ステージ

【作品概要】
世界的なアーティストのフィオナ・タンは、こインスタレーションや映像作品を多く手がけてきたの本格劇映画デビュー作品。
暴漢に襲われて記憶障害になってしまった主人公の彷徨う旅をたどりながら、絶え間なく押し寄せるヨーロッパの危機と混沌を対峙させて描く長編映画。

⭐︎東京都写真美術館1Fホールにて、2/10(金) 15:00〜、2/14(火) 18:30〜(アフタートークあり)、2/24(金) 15:00〜、2/25(土) 11:30〜上映予定。

映画『歴史の未来』のあらすじとネタバレ


History’s Future (2016)

「The End」のクレジット。その後、映画館の劇場内に数名の観客が逆再生の動きで着席をします。

主人公の男がフラッシュバックする夜の街頭での暴力行為。自らは暴行魔によって殴られ、蹴られたのだろうか。

それにより記憶を失ったのか。男は傷だらけの顔で病院のベットで横たわっています。

記憶を失った男の見上げる天井には、画家ヒエロニムス・ボスが描いた「快楽の園」があります。

その後、記憶が不鮮明になってしまった男は、担当医からいくつかの質問を日々繰り返されているようで、やはり、記憶に障害を追っていると診察結果が言い渡されます。

その男の妻は記憶を失った夫と一緒に自宅に帰り、静養しながら生活を送ります。しかし、夫は記憶が曖昧なのか、放浪癖がるのか街を彷徨い続けます。

そのような中、男の記憶なのか、それとも現実のヨーロッパ情勢なのだろうか。さまざまな乱流となる金融危機、暴動、難民、流通などが時間と共に過ぎていきます。

記憶を失った男は、空港を利用しながらヨーロッパ各地へと自由自在に彷徨い続けるのです。

ある日、パリに現れると、昔にパリで付き合っていた彼女らしき女と再会。

また、ある日は、放浪者でありながら運命を知るという宝くじ売りに出会ったりします。

やがて、男が妻と住んでいたはずの自宅も廃墟となっていました。何もかもが、記憶を失った男のみを置き去りに時代だけは終焉に向かっているのかように時は流れていきます。

以下、『歴史の未来』ネタバレ・結末の記載がございます。『歴史の未来』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
再び、空港に着いた記憶喪失の男は、空港ロビーで迎えに来ていたタクシードライバーと待ち合わせをしていたようで、なぜか申し合わせタクシーに乗車します。

タクシードライバーは約束をしていた場所に連れて行くというのです。その場所とは一体どこなのかと、記憶を失った男が尋ねます。

話をごまかすタクシードライバーは、真意を伝えようとしません。

その後、記憶喪失の男の身なりをルームミラーで見たタクシードライバーは、あなたはドンキ・ホーテではなくピノッキオに似ていると伝えます。

記憶を失った男は、全く何を言っても通じない状況に困惑をしてしまうのです。

しばらくすると、タクシーは停車すると、ここが約束の場所と言われた記憶のない男は、一人取り残されて下されてしまいます。

やがて夜になり、記憶を失った男は、記憶喪失となった街頭の現場に舞い戻っていました。しかし、その際に暴力行為の加害者か被害者であるかは不透明なままです。

それは争いという現場でしか過ぎず、何も本質の原因究明にならないからです。

その後、記憶を失った男は、初めの記憶となる劇場にいます。スクリーンには何も映されることなく映画は終わります。

映画『歴史の未来』の感想と評価


History’s Future (2016)

映画考察の前に、東京で以前に開催されたフィオナ・タンの展覧会について触れておきます。

2014年7月19日(土)〜9月23日(火)に同じく東京都写真美術館で開催された、「フィオナ・タン まなざしの詩学」という展覧会が開かれました。

2009年のヴェネチア・ビエンナーレのオランダ館で出品された彼女が制作したの作品、その他にも新旧作や代表作が展示された展示は写真や映像を通じて、フィオナの本質(まなざし)を紹介する企画。

フィオナは「見ること」「まなざし」「何かが見えているという事象」などをキーワードに重きをおいた視覚性に興味があるようです。

彼女自ら、「私は自分自身をイメージ作りをしている人間」だと考えを述べ、視覚的な要素に言葉(単語や文章)を深く関わらせた作品が特徴です。

また、フィオナは「私にとってビデオ作品は正に「動く詩」そのもの」と、思いを込めたアーティスト。彼女自身が作品にアーティストとしての意図は存在するが、解釈には幅をもたせているという告知とも受け取れますね。

その辺りから『歴史の未来』も考察していきたいと思います。

今回のフィオナ作品『歴史の未来』は、初の劇場映画。

“映画”とは、映画の父と呼ばれるリュミエール兄弟が制作をした当初から、「観客に見せる興行を目的にする」という、芸術とは少し違ったカテゴリーに存在をする文化。端的に言えば“見世物の文化”と言えるでしょう。

それが町場にあった一般的な見世物小屋と違っていたのは、“映画は時間を支配(つかさどる)する見世物”ということです。

1986年当時、リュミエール兄弟の初期作品で、すでにそれは確認することができます。

参考作品:リミュエール兄弟初期作品『Demolition of a Wall』(1896)

映像の中盤から「逆再生」によって、壁が生き物のように立ち上がる映像。つまりは、時間を支配(コントロール)して、“破壊と再生”を仮想(バーチャル)に可能にしたものと捉えることができます。

フィオナの最新作『歴史の未来』では、オープニングから「The End」のテロップから始まり、赤いシートの観客席には3名の男女が逆再生によって着席をする様子が描かれます。

フィオナの演出について仮説を立てるなら、「The End」のテロップは“終わりから現実社会”が始まるというアイロニーでしょうか。

また、逆再生で着席する観客は単に奇をてらったものではなく、映画とは“時間”をつかさどる芸術だという認識が冒頭に示されていたのだと思います。

もう1つ大きな映画の特徴に焦点が当てられていて、それは、“映画がメモリーという記録であり記憶”だということです。

物語の主人公は記憶という自己存在を、自ら仕掛けた暴力行為か、他者に襲われた暴力行為の発動であるかは認識はできませんが、そのことをきっかけに記憶を失ってしまいました。

体験したことが初期化されてしまい、「無」の人間となることで成長が止まってしまい自己存在を見失います。

仮説になりますが、フィオナは体験や経験といったことが事態を解決する成長ではないと語っているのかもしれません。

本来的には体験というもの事態だけでは、成長や育成ではないのかもしれません。それは「考えること」、「問い続けている」ことだけが成長ではないかと…。

映画の終盤に、空港に迎えに来たタクシードライバーと記憶喪失の男が、車内で例え話をする場面があります。

記憶を喪失してしまった男の様相について、ドンキ・ホーテではなく、ピノッキオに見えるというのです。

「ピノッキオ」は、1883年にイタリア作家であるカルロ・コッローディによって書かれた『ピノッキオの冒険』の主人公です。

その物語のあらすじは次のようなものです。

大工として働くチェリーは、話をする丸太を見つけます。そこにゼペット爺さんが現れて、その意志を持った丸太を使って木製人形にします。

名前をピノッキオと名付けますが、彼は学ぶことや努力がとても嫌いでした。頭の弱いピノッキオは、うまい話にすぐに騙されてしまいます。

ピノッキオに口うるさいまでに忠告をしたコオロギにも耳を貸さず殺してしまいます。

ピノッキオは人形芝居の親方に膝を焼かれそうになったり、狐と猫にそそのかされ殺されそうになりました。

やがて、大きな鮫に飲み込まれるが鮪に助けてもらってからは、真面目に学ぶことを覚えて働くようになりました。

その後、ピノッキオは夢に現れた妖精の力で人間になります。

このように、ピノッキオは多くの体験をしますが、それだけでは成長はしません。コオロギという善意の心も殺してしまう木偶人形なのです。

最後に夢に現れた妖精とは、“映画”のことでしょうか。とすれば、“映画”を見た観客は、“考えなければ、問い続けなければ”、人間になることはできないのでしょう。

フィオナ・タンは、観客が自分自身に“問い続ける”ことが始まりだと描いた映画が、それが『歴史の未来』なのではないでしょうか。

まとめ


History’s Future (2016)

俳優マーク・オハロランが演じた主人公の記憶を失った男が、病室で目を覚ました時に天井画にあった絵画を見つめた場面がありました。

その作品は「快楽の園(Tuin der lusten)」、または「悦楽の園」と呼ばれるもので、初期フランドル派の画家であった、ヒエロニムス・ボスが描いた三連祭壇画。

ボスによって1490〜1510年に描かれた代表作といわれ、スペインのプラド美術館に所蔵されています。

3つに分けらた構成は、左から「エデンの園」「現世」「地獄」を表していると言われ、美術史家からは誘惑からの危険に対する警告をした作品として解釈されることが多いそうです。

記憶を失った男はどんな誘惑に負けた怠け者のピノッキオなのでしょう。また、彼は記憶を失ったから妻や住む家を廃墟にしてしまったのでしょうか、それとも“自身に問い続けなかった”からなのでしょうか。

さて、監督を務めたアーティストのフィオナ・タンは、冒頭で紹介した「まなざしの詩学」という展覧会で、次のように述べています。

「1つの解釈をみなさんに押し付けたくないという思いがあり、作品の見方をみなさんに指示することは極力避けたいと思っています。だからといって私はここで曖昧模糊として「なんでもありです。好きなように読み解いて下さい。」と無責任に作品を突き出しているわけではありませ ん。とても微妙なところですが、私はとても厳密、入念に考え抜いた上でみなさんに提示しているものはあります。しかし、それを強制したくはないのです。一定の方向性を持った枠組みはありますが、その中でみなさんが自由に作品を体験し、読み解いてもらえればと思っています」

あなたなら、『歴史の未来』をどのように解釈しますか? 

恵比寿映像祭のこの機会に東京都写真美術館にて、フィオナ・タンの『歴史の未来』をぜひご覧ください!

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