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映画『サブスタンス』あらすじ感想と評価考察。デミ・ムーアが若さと美を求めた女優の暴走を恐怖とユーモアで描く

  • Writer :
  • 松平光冬

若さと美に執着した元人気スターが禁断の薬品に手を染める

第75回アカデミー賞でメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞した映画『サブスタンス』が、2025年5月16日(金)より全国ロードショーされます。

『ゴースト ニューヨークの幻』(1990)のデミ・ムーア演じる元人気スターがたどる、阿鼻叫喚で茫然自失な体験の見どころをご紹介します。

映画『サブスタンス』の作品情報


(C)The Match Factory

【日本公開】
2025年(イギリス・フランス合作映画)

【原題】
The Substance

【製作・監督・脚本・編集】
コラリー・ファルジャ

【共同製作】
ティム・ビーバン、エリック・フェルナー

【製作総指揮】
ニコラ・ロワイエ、アレクサンドラ・ロウイ

【撮影】
ベンジャミン・クラカン

【編集】
ジェローム・エルタベ、バランタン・フェロン

【キャスト】
デミ・ムーア、マーガレット・クアリー、デニス・クエイド

【作品概要】
バイオレンスアクション『REVENGE リベンジ』(2017)が注目されたフランスの女性監督コラリー・ファルジャと、『ゴースト ニューヨークの幻』、『G.I.ジェーン』(1997)のデミ・ムーア主演によるホラー。

2024年の第77回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で脚本賞を、第75回アカデミー賞ではメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞。

ムーアはゴールデングローブ賞主演女優賞(ミュージカル/コメディ部門)を受賞し、アカデミー賞でも主演女優賞に初ノミネートされました。

共演は『哀れなるものたち』(2023)、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)などの話題作で活躍するマーガレット・クアリー、『ウイング・アンド・プレイヤー』(2023)のデニス・クエイド。

映画『サブスタンス』のあらすじ


(C)The Match Factory

50歳の誕生日を迎えた元人気女優のエリザベスは、容姿の衰えによって仕事が減っていくことを気に病んでいました。

そんなある日、自動車事故を起こして病院に担ぎ込まれたエリザベスは、そこで若さと美しさと完璧な自分が得られるという、「サブスタンス」という違法薬品を勧められます。

悩んだ末、薬品を入手し注射したエリザベス。するとその直後に彼女の背が破け、「スー」という若い自分が現れます。

若さと美貌に加え、これまでのエリザベスの経験を持ち合わせたことで、たちまちスターダムを駆け上がっていくスー。

ところが、「1週間ごとにエリザベスとスーが入れ替わらなければならない」という絶対的なルールを、スーが次第に破りはじめてしまい……。

映画『サブスタンス』の感想と評価


(C)The Match Factory

年齢を重ねていくにつれ居場所が無くなるというのは、仕事面や生活面における深刻な問題といえますが、もしかするとそれが顕著なのは、ショービズ界に身を置く女性なのかもしれません。

本作『サブスタンス』でデミ・ムーア扮するエリザベス・スパークルは、かつてはオスカー像を獲得し、ハリウッド・ウォーク・オブ・フェームに名が刻まれるなど映画界のトップスターに君臨。しかし年齢を重ねるごとに人気も容姿も衰え、目ぼしい仕事はテレビのエクササイズ番組のみとなっていました。

そんな矢先、プロデューサーのハーヴェイから50歳という年齢を理由に番組降板を告げられ、自分の存在価値を見失い、自動車事故に遭ってしまいます。

ところが担ぎ込まれた病院で、謎の医師から若さと美しさとが得られるという再生医療薬品「サブスタンス」を入手したエリザベスは、迷った末に投与。すると背中から、若くて美しい肉体のスーが誕生するのでした。

登場人物の身体が予期せぬ形で変容していくボディホラーに相当する本作。

監督と脚本を兼任した女性監督コラリー・ファルジャは、ホラーやアクションといったジャンル映画好きを公言しており、デビュー作『REVENGE リベンジ』では、レイプされ殺されかけた女性が加害者の男たちに復讐していく様を鮮烈なバイオレンスで活写しました。

しかし、『REVENGE リベンジ』発表時に40歳を過ぎていたことで、「私にはもう活躍する場がないのでは」という周囲からのプレッシャーや、加齢する不安に対する違和感が本作の着想になったと、語ります。

そして、エリザベスを演じたムーアもまた、1990年代にトップスターとしてハリウッドで活躍するも、キャリアを重ねるにつれ主演作が減少

プライベートでも16歳年下の俳優アシュトン・カッチャーと再婚した際(2013年に離婚)に、年齢差を揶揄されたりどのような整形手術を受けたのかといった、マスメディアからのエイジズムを受けてきました。

エリザベスが置かれた状況は、現実にファルジャ監督とムーアに向けられた、ショービズ界に身を置く女性に向けられる抑圧なのです。

(C)The Match Factory

エリザベスの経験を持ったスーは瞬く間に注目を集め、エリザベスが出演していたエクササイズ番組を継ぎ、スターダムを駆け上がっていきます。

しかし、羨望の眼差しを浴び続けたいという欲から、「1週間ごとに身体を入れ替わらなければならない」というルールを破ってしまいます。

「私の内に存在する『モンスター』を解き放ちたいと考えた」とのファルジャ監督のコメントどおり、ルールを破り続ける代償として徐々に“怪物化”していくエリザベスは、若さと美に囚われる女性を極度に具現化したもの。

その一方で、ハーヴェイ(数多くの女優への性暴力容疑で服役した映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインが名の由来)を筆頭とする男性登場人物たちが総じて低俗で、なおかつ過剰なクローズアップやカット割りの多用も相まって、観ていて思わず笑ってしまいそうになることでしょう。

まとめ


(C)The Match Factory

ルールを破り続けていくスーの暴走、そしてその煽りを受けていくエリザベスに待ち受ける結末とは?

「ホラーというジャンルのファンにとって、桁違いに強烈な体験になると思う」と主演のムーアが語るように、阿鼻叫喚かつ茫然自失の映画体験が味わえることをお約束しましょう。

映画『サブスタンス』は、2025年5月16日(金)より全国ロードショー

松平光冬プロフィール

テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。

ウェブニュースのライターとしても活動し、『fumufumu news(フムニュー)』等で執筆。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219

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